以下の話は、オーストリア国営放送が英日刊紙テレグラフの記事として紹介したものだ。

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 スペインのローマ・カトリック教会修道院に35年間、奉仕してきた修道女がこのほと修道院から追放されたという。その理由はフェースブック(Facebook)だ。
 54歳のマリア・イエズス・ガラン修道女は、サント・ドミンゴ・エル・リアル修道院で10年前、コンピューターの使用が許可されて以来、修道院の古文書や関連文書をデジタル化し、会計もオンラインバンク・システムを利用するなど、IT技術を駆使して奉仕してきた。
 その結果、2008年には「シスター・インターネット」とまで呼ばれるようになったが、修道女の名声が修道院を越えて広がっていった結果、同修道女のフェースブックには多数の人々からメールが入り、他の修道女の怒りを買うなど、通常の修道院生活が難しくなってきた。
 そのため、同修道女は修道院から出て行き、現在、実母の家に住んでいるという。しかし、これで話は終わらない。
 同修道女が修道院から追放されたことが伝わると、修道女の人気はさらに沸騰し、同修道女のフェースブックは破裂寸前だというのだ。
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 今年に入ってチュニジア、エジプトを皮切りに北アフリカ・中東諸国で民主化運動が拡大しているが、「フェースブック」などソーシャルネットワークが独裁政権下で弾圧されてきた国民を鼓舞し、運動に動員させているとして、欧米メディアは「フェースブック」の威力を高く評価したばかりだ。
 確かに、IT技術は全ての壁や境界線を乗り越え、未知の人々を繋いでいく力を有していることは間違いない。
 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世も「IT技術を良き目的のために積極的に利用すべきだ」と語ってきた。修道院から追われたスペインの修道女はその模範例だったわけだ。
 しかし、同修道女の場合、社会から隔離された場所で冥想し、神に奉仕する修道院生活にフェースブックが侵入し、閉鎖された空間が破れ、喧騒した外の世界が広がっていったわけだ。
 どのような「宗教」にも一定の閉ざされた世界(空間)がある。ローマ・カトリック教会のサクラメント(秘跡)は聖職者と信者間の信頼の上で成り立つ宗教行事だ。それをIT技術を駆使して能率化することは難しいだろう。
 最近では、米国の一部メディアが「カトリック教会はiPhoneによる告解を認める方針だ」と報じたが、バチカン法王庁のロンバルディ報道官が「iPhoneによる告解は認められない」と即否定する、といった騒動が起きたばかりだ。
 「シスター・インターネット」と呼ばれたスペインの修道女の蹉跌は、「宗教の有する閉鎖性」と「IT技術」の共存の難しさを教えている。