北アフリカ・中東諸国の民主改革の先頭を切ったチュニジアから3000人以上の若者たちが今月9日以降、欧州での仕事を求めて地中海のペラージェ諸島にあるイタリアの最南端の島ランべドゥーザ(Lampedusa)に殺到している。
 それに対し、イタリア政府は12日、非常事態を宣言する一方、「一国で解決できる問題ではない」として、北アフリカ難民の対応について他の欧州諸国の連帯を求めている。
 イタリアの海岸にボートで到着した一人のチュニジア人青年は「わが国には仕事がない。家族を養うためには欧州で仕事を見つけたい」と悲壮な表情でイタリアのジャーナリストに語っていた画面がTVのニュースに流れていた。
 アラブ諸国の民主化運動は独裁政権に終止符を打ったが、同時に大量の経済難民も生み出す切っ掛けとなっている。その懸念が既にイタリアでは現実問題となっているわけだ。考えてもみてほしい。人口約5500人のランべドゥーザ島に数千人の北アフリカ難民が殺到しているのだ。
 当方が住むオーストリアも冷戦時代、「難民収容所国家」と呼ばれ、旧ソ連・東欧諸国から200万人余りの難民が殺到してきた。彼らの一部はそのままオーストリアに留まり続けた。当時の難民は多くは政治難民だったが、最近は経済難民が主流となってきた。
 ウィーンの日本レストランにアフガニスタンから来た難民が皿洗いをしている。彼はカブールで裁判官を務めていたインテリだ。だから、職場のレストラン仲間からは「Herr Doktor」と呼ばれているという。元裁判官氏いわく「戦争が続く国で家族を養うことはできないと考え、7年前、ウィーンに逃げてきた」というのだ。
 ところで、難民の発生は決して新しい社会現象ではない。昔から「難民の街々」と呼ばれていた地域があった。現在のヨルダン地域に当たる。神から追放されたカインの末裔が住む地域だ。
 アダムとエバの間に2人の息子がいたが、兄カインが弟アベルを殺害したことが明らかになると、神はカインに「エデンの東に行け」と追放したという話が旧約聖書の創世記に記されている。それ以来、「エデンの東」は神から追われた難民が住む地域となったのだ。
 「エデンの東」といえば、エリア・カザン監督、ジェームズ・ディーン主演の映画(1955年)を思い出す人が多いだろう。米作家ジョン・スタインベックの同名小説を映画化したものだ。カインとアベルの話を現代風に描いたストーリーだ。
 いずれにしても、カインの末裔であるわれわれはチュニジアの青年やアフガニスタンの元裁判官と同様、「エデンの園」に戻ることを夢見る難民なのだ。