欧米メディアはエジプトのムバラク大統領を「独裁者」と呼ぶ。その理由の一つとして、1981年に大統領に就任して以来、30年間、政権を独占してきたことが挙げられる。その間、複数候補者下で大統領選が実施されたが、野党候補者には自由な選挙活動を認めず、民主的選挙からは程遠い名目だけの選挙が繰り返されてきたからだ。
しかし、長期政権だけではムバラク大統領を独裁者と呼ぶにはまだ十分ではない。
当方はエジプトで政権が起きる前からムバラク大統領を「独裁者」と呼んできた。長期政権も理由だが、それだけではない。ムバラク政権下では治安機関の国民への弾圧がアラブ諸国の中でも飛びぬけて厳しいからだ。当方は海外亡命中のエジプト人の知人たちから聞いてきた。
海外居住のエジプト出身コプト派グループは昨年、ウィーンで記者会見を開き、そこで7人のコプト派信者たちが殺害され、多数が重軽傷を負ったナグハマディ射殺事件の責任を追及し、イスラム過激派グループと治安担当関係者を批判したが、ムバラク大統領への批判は最後までなかったことをこのコラム欄でも紹介した(「大統領批判はタブー」2010年1月19日)。
海外に住むエジプト人は治安関係者や政府を批判するが、ムバラク大統領を公の場で批判することを避ける。なぜならば、大統領を批判した場合、さまざまな制裁が待っていること、その制裁や弾圧は本人だけではなく、親族にも及ぶことを熟知しているからだ。
それだけではない。国家の「富の独占支配」だ。チュニジアのベンアリ前大統領のレイア夫人は国外脱出する直前、同国中央銀行から日本円で50億円相当の金塊1・5トンを持ち出した、と報じられたばかりだ。
ムバラク大統領の場合も残念ながら例外ではない。欧米メディアによると、30年間の長期政権で約400億ドル相当の富を所有していることが判明している。世界各地に不動産を抱え、エジプトの主要観光地では大統領親族関係者が独占権を獲得し、観光収入を吸い上げてきたことが明らかになっている。
(1)民主的選挙なく長期政権を維持、(2)国民を治安機関を通じて弾圧、(3)国家の富を「独占支配」してきたこと、以上の3点から、ムバラク大統領は「独裁者」と呼ばれる資格が十分あるはずだ。
ちなみに、米国ABC放送が4年前、フセイン元イラク大統領処刑後、生存する最悪の独裁者5人を選定した専門家のリストを紹介したことがある。それによると、トップはスーダンのバシル大統領、第2位北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記、第3位イランの最高指導者アリ・ホセイン・ハメネイ師、そして第4位に中国の胡錦涛国家主席の名前が挙げられていた。ムバラク大統領の名前は最悪の独裁者リストにはなかった。
最後に、世界の独裁者と呼ばれる人物には共通点もある。彼らは常に「不安」に悩まされていることだ。多くの人間を殺害してきた者にはこの「不安」が付きまとう。ルーマニアのチャウシェスク大統領やイラクのフセイン大統領のような最期を迎えるのではないか、といったあの「不安」だ。そして独裁者は死ぬまでこの「不安」から解放されない。これは「独裁者」と呼ばれてきた人物が払わなければならない代価といえるだろう。
しかし、長期政権だけではムバラク大統領を独裁者と呼ぶにはまだ十分ではない。
当方はエジプトで政権が起きる前からムバラク大統領を「独裁者」と呼んできた。長期政権も理由だが、それだけではない。ムバラク政権下では治安機関の国民への弾圧がアラブ諸国の中でも飛びぬけて厳しいからだ。当方は海外亡命中のエジプト人の知人たちから聞いてきた。
海外居住のエジプト出身コプト派グループは昨年、ウィーンで記者会見を開き、そこで7人のコプト派信者たちが殺害され、多数が重軽傷を負ったナグハマディ射殺事件の責任を追及し、イスラム過激派グループと治安担当関係者を批判したが、ムバラク大統領への批判は最後までなかったことをこのコラム欄でも紹介した(「大統領批判はタブー」2010年1月19日)。
海外に住むエジプト人は治安関係者や政府を批判するが、ムバラク大統領を公の場で批判することを避ける。なぜならば、大統領を批判した場合、さまざまな制裁が待っていること、その制裁や弾圧は本人だけではなく、親族にも及ぶことを熟知しているからだ。
それだけではない。国家の「富の独占支配」だ。チュニジアのベンアリ前大統領のレイア夫人は国外脱出する直前、同国中央銀行から日本円で50億円相当の金塊1・5トンを持ち出した、と報じられたばかりだ。
ムバラク大統領の場合も残念ながら例外ではない。欧米メディアによると、30年間の長期政権で約400億ドル相当の富を所有していることが判明している。世界各地に不動産を抱え、エジプトの主要観光地では大統領親族関係者が独占権を獲得し、観光収入を吸い上げてきたことが明らかになっている。
(1)民主的選挙なく長期政権を維持、(2)国民を治安機関を通じて弾圧、(3)国家の富を「独占支配」してきたこと、以上の3点から、ムバラク大統領は「独裁者」と呼ばれる資格が十分あるはずだ。
ちなみに、米国ABC放送が4年前、フセイン元イラク大統領処刑後、生存する最悪の独裁者5人を選定した専門家のリストを紹介したことがある。それによると、トップはスーダンのバシル大統領、第2位北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記、第3位イランの最高指導者アリ・ホセイン・ハメネイ師、そして第4位に中国の胡錦涛国家主席の名前が挙げられていた。ムバラク大統領の名前は最悪の独裁者リストにはなかった。
最後に、世界の独裁者と呼ばれる人物には共通点もある。彼らは常に「不安」に悩まされていることだ。多くの人間を殺害してきた者にはこの「不安」が付きまとう。ルーマニアのチャウシェスク大統領やイラクのフセイン大統領のような最期を迎えるのではないか、といったあの「不安」だ。そして独裁者は死ぬまでこの「不安」から解放されない。これは「独裁者」と呼ばれてきた人物が払わなければならない代価といえるだろう。