国際原子力機関(IAEA)事務局長を12年間務め、2005年度ノーベル平和賞を受賞したエジプト出身のモハメド・エルバラダイ氏(68)の動向が再び注目され出した。
 同氏は25日、訪問先のウィーンで講演したが、オーストリア通信(APA)によると、同氏はチュニジアの政変に言及、「同政変はアフリカやアラブ諸国に民主化の波紋を投じるだろう。チュニジアからのメッセージは‘Yes we can‘だ」と強調したという。
 同じ日、首都カイロやアレキサンドリア、スエズなどエジプト各地で「チュニジア革命」に触発されたと見られる大規模デモがあり、治安当局との衝突で、デモ隊員2人と警官1人の計3人が死亡すると事態が生じている。
 エルバラダイ氏の主張にもう少し耳を傾けてみよう。

 「長い期間、独裁者の支配下で生きてきたアフリカやアラブ諸国の国民にチュネジア人は国民の力を軽視すべきではないこと、平和な手段でシステムを変えることができること、等を示した」

 「チュニジアの生活水準は決して低くはない。だから、政変は決して社会的理由から発生したというより、『人権』への戦いがもたらしたものだ」

 09年11月末にIAEAを退職後、エジプトに帰国したエルバラダイ氏は母国の民主化のために今年9月の大統領選に出馬する意思を度々表明、国内で政治活動を展開しているという。ムバラク独裁政権に不信を募らせてきた多くの国民は前事務局長の出馬に期待を抱いているという。
 ノーベル平和賞受賞者として世界各地で講演すれば生活に困ることもないし、本でも出せばベストセラーは疑いがない。しかし、エルバラダイ氏は母国の民主化のために貢献する道を選ぼうとしている。決して楽な道ではないだろう。
 当方はIAEA事務局長時代の同氏については批判的だったが、母国の民主化のために立ち上がろうとしている政治家エルバラダイ氏には喝采を送りたい。エジプトの民主化を実現するためには、同氏のような国際社会で著名な人材が必要だからだ。
 ただし、問題がないわけではない。アラブ諸国でイスラエルと国交を締結したエジプトは米国の中東政策上、大きな役割を有していること、そのため、ワシントンはエジプトの混乱を願っていないこと、それにムバラク政権の崩壊はムスリム同胞団らイスラム根本主義勢力の台頭を許す危険性があることなど、さまざまな懸念があるからだ。
 そのような状況下でエルバラダイ氏が同国を民主化に導くことができるかどうか、これまた非常に不透明な問題といわざるを得ない。