年が明け、暫くすると前年度の統計が公表される。「犯罪統計」から「経済統計」まで、各省庁で関連の統計データーが発表されるからだ。
 オーストリアのローマ・カトリック教会でも11日、前年度教会脱会者数の公式統計が明らかになった。昨年教会から去った信者数は8万7393人だった。前年度の脱会者数は5万3269人だから、64%増を記録したことになる。脱会者数から増加率まで、新記録だ。
 同国教会最高指導者シェーンボルン枢機卿が昨年末、「教会脱会者数はナチス時代以来の最悪を記録するだろう」と予告していたから余り驚かないが、その数は、同国の第3都市リンツ市のほぼ半数の市民が昨年、教会から一斉に脱会したことと匹敵する。
 ちなみに、教会脱会者数の過去4年間の動向を振り返ると、2007年度は3万6858人、08年4万0596人、09度は5万3269人、そして昨年度8万7393人だった。
 オーストリアのカトリック信者数は昨年度末現在で約545万人だ(前年度は553万人)。同国教区の中で脱会者数が最も多かった教区はウィーン司教区で、2万5314人。前年度比(1万6527人)で53・2%増だった。グルク・クラーゲンフルト教区は前年度比で約94%増を記録している。
 昨年度教会脱会者数が急増した主因について、「聖職者による未成年者への性的虐待事件の発覚」が先ず挙げられている。1件、2件ではなく、千件に迫る件数だ。もちろん、オーストリア教会だけではない。ベルギー、ドイツ、アイルランドなど欧州各教会で多数の聖職者の性犯罪が昨年、発覚した。
 シェーンボルン枢機卿は11日の記者会見で「聖職者の性犯罪問題だけが脱会理由ではないだろう。もっと深いところで多くの信者たちが教会に失望してきた結果ではないか」と見ている。すなわち、教会脱会までに長いプロセスがあった、というわけだ。
 同時に、「教会への帰属意識が変ってきた。これまで教会所属は伝統と受け取られてきたが、これからは自身が決定した教会といった帰属意識が強まってくるだろう」と述べている。幼児洗礼を受けて以来、ただ漠然と所属してきた伝統的教会といった帰属意識ではなく、自分が主体的に所属を決定したキリスト教会といった意識への変化というわけだ。
 なお、教会脱会者の急増は教会財政を直撃している。各信者は年、平均100ユーロを教会税として払ってきた。約9万人の脱会者ということは、教会はそれだけで年間約900万ユーロ(約9億8000万円)を失ったことになる。