米国の核専門家ジグフリード・ヘッカー博士(スタンフォード大国際安保協力センター所長)は先月訪朝し、北朝鮮でウラン濃縮施設を視察した。同博士によると、「遠心分離機は近代的な制御室を通じて統制されていた」と驚きをもって報告している。
 北朝鮮がウラン濃縮関連活動を密かに進めていることは米国も知っていたし、北側も以前、「ウラン濃縮関連活動を行っている」と表明したことがある。その意味で、北側が今回、ウラン濃縮活動を認めたとしても驚きに値しないが、問題はその水準だ。
 欧米核学者たちは「北朝鮮は高度な技術を必要とするウラン濃縮活動を実施できるか」という素朴な疑問を感じている。「世界から孤立し、その科学技術の水準も欧米諸国からみたら十分ではない国が先端技術の遠心分離機を操業しながらウランの濃縮活動を実施することは難しい」という判断があるからだ。例えば、音速の2倍近いスピードで回転する遠心分離機の電力を一定にするため高周波変換装置などが不可欠だ。核再処理施設を通じて核兵器用のプルトニウムを生産する工程よりもっと複雑な技術が要求されるから、当然の判断かもしれない。
 北朝鮮が最初の核実験(2006年10月)を行った直後の欧州の科学者の反応を紹介しよう。独物理学者は「北朝鮮の核実験は核実験ではなく、通常TNT爆弾を利用した偽装実験の可能性が高い」と主張する。なぜならば、「あの程度の規模はTNT爆弾でも可能だし、米国が後日測定したという大気中の放射性物質も意図的に放出することができる。北朝鮮の山脈には自然ウランが豊富だ」という。
 北朝鮮で2004年4月、龍川駅構内大爆発事件が起きたが、包括的核実験禁止機関(CTBTO)が公表した爆発規模はマグネチュード3・6だった。北の第1回目の核実験の規模はそれより小規模だったのだ。だから「北朝鮮の核実験は偽装爆発」という推測が出てくるわけだ。その背景には、「貧困と飢餓に直面している国で核実験は難しい。それだけの高度な核技術がないからだ」という考えがあるからだ。
 北朝鮮の核関連技術水準を考える上で、パキスタンのウラン濃縮活動と核実験成功は大きな教訓を与えている。欧米諸国は当時、「パキスタンではウラン濃縮活動を実施できる国力、技術力がない」と即断し、カーン博士がパキスタン当局の要請を受け、欧州からウラン濃縮関連技術や器材を密かに購入している事実を掴まえながらも、パキスタンの核計画を見逃してしまったのだ。「カーン博士と核の国際闇市場」を記述したダグラス・フランツ、キャスリン・コリンズ著の「核のジハード」(作品社)を一読すれば、その辺の状況が良く理解できる。
 北朝鮮がカーン博士からウラン濃縮関連技術を入手したことは知られている。北朝鮮のウラン濃縮関連技術を侮ってはならないだろう。遅かれ早かれ、北はプルトニウム爆弾ではなく、今度はウラン爆弾の核実験を行うだろうと考えられる。
 国際原子力機関(IAEA)の北朝鮮担当査察官が「北の核関連技術は西側で考えられている以上に進んでいる。機材や関連物質の不足を独自の技術で克服している」と語っていたことを思い出す。