アルプスの小国スイスで、公共施設内の十字架について、その是非で激しい論争が展開されている。
 ヴァレー州(カントン)の学校に勤務する教師が今月、自分の教室内に十字架を掛けることに反対したため、無期限の解雇命令を受けたばかりだ。
 同国のメディアによると、解雇された教師はヴァレー州「自由思想家会」会長だ。スイス連邦裁判所が1990年、公共施設で十字架を掲げることは「信仰と良心の自由」を侵すと判決したが、同教師はそれを理由に学校内の十字架を撤去するように要請。学校側はヴァレー州学校法3条「学校は生徒達をキリスト者として成熟させる責任を持つ」を提示し、十字架排除を拒否してきた経緯がある。
 スイス連邦の「自由思想家会」は24日、「スイス国内のアルプス山頂にある十字架を撤去すべきだ」と主張、「国家を代表する場所では全ての宗教的対象や象徴物を撤去すべきだ」と述べている。同思想会は約1700人の会員を有し、公共病院内の十字架も排除すべきだと主張している。
 一方、ルツェルン州のトリィーンゲン(Triengen)では2人の生徒を通わせている両親が子供の教室から十字架を撤去してほしいと要請。学校当局はその要求を退けてきたが、ルツェルン州当局が公共施設では十字架を違法とした連邦裁の判決を示したため、学校側は生徒の両親の要請に応じたという。
 ちなみに、フランスのストラスブールにある欧州人権裁判所(EGMR)は昨年11月、イタリア人女性の訴えを支持し、彼女の息子が通う公共学校内で十字架をかけてはならないと言い渡し、イタリア政府に「道徳的損傷の賠償として女性に5000ユーロを支払うように」と命じた。
 裁判所判決文によると、学校の教室内で十字架をかけることは両親の養育権と子供の宗教の自由を蹂躪するという。換言すれば、学校内で十字架をかけることは「欧州人権憲章」(EMRK)とは一致せず、国家は公共学校では宗教中立の立場を維持しなければならないというわけだ(ただし、イタリア政府の上訴を受け、EGMRは公共学校での十字架を違法として判決を再審議することになった)。
 なお、スイス司教会議議長のブルナー司教は「公共施設内から十字架を撤去することは、信仰を有する人々の『信仰と良心の自由』を阻害することになる」と強く反論している。