バチカン放送(独語電子版)によると、ロシア正教会最高指導者キリル総主教は「欧州諸国は無神論国家だった旧ソ連邦と酷似してきた」と述べている。
 同総主教は13日、モスクワを訪問したドイツのウルフ大統領と会見したが、その中で「近代的な欧州諸国でみられる非宗教化、宗教心の解体現象は、その理由は全く異なるが、ソ連邦が犯した過ちを繰り返している」と強調した。
 欧州社会で加速する世俗化現象は新しいことではないが、「共産政権の盟主だった旧ソ連邦の状況と酷似してきた」という指摘は考えさせられる。
 欧州各地で公立学校内や裁判所内の十字架排除や宗教授業の廃止などの動きが見られる。カトリック国家だったポーランドでも今日、教会の役割の制限などが政治議題に上がってきた。
 独カトリック教会司教会議議長のロベルト・ツォリチィ大司教は今年1月31日、アーヘンの日曜日礼拝で「欧州のキリスト教の基盤は危険に晒され、解体や破壊の危機に瀕している」と述べ、大きな反響を呼んだばかりだ。
 大司教は「欧州社会では実用的な不可知論(Agnosticism)と宗教への無関心が次第に広がってきた」と警告を発し、「十字架は学校や公共場所から追放され、人間は一個の細胞とみなされ、金銭的な評価で価値が決定されている。また、欧州の多くの政治家は神を無視して決定している」と批判している。
 具体的には、「日曜日の祝日廃止」から「神はいない運動」(英国から始まった)まで、これまでのキリスト教社会の伝統や慣習が批判に晒されているのだ。
 旧ソ連邦時代はマルクス・レーニン主義の唯物・無神論世界観を国是とし、「宗教はアヘン」と見なし、宗教者は2等国民と扱われてきた。一方、西欧諸国では今日、特定のイデオロギーによるというより、「政治と宗教」分離原則が宗教を否定する方向に歪んで発展してきた、とでもいえるかもしれない(同じ様に「政治と宗教」分離原則を実施する米国社会では宗教は依然、大きな影響力を持っている)。
 価値の相対主義が席巻する世俗社会では、絶対主義的な世界観を標榜する宗教に対し、病的な恐怖感、嫌悪感がみられることは事実だ。これを「宗教フォビア」と社会学者が呼んでいる現象だ。
 欧州は冷戦終焉後、何を失ってきたのだろうか。足を止めてじっくりと考えなければならない時点に遭遇している。その意味で、キリル総主教の警告は看過できない内容を含んでいるわけだ。
 なお、ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世は今月、「キリスト教遺産の救済のために新福音化省を設立する」と表明した。バチカンが新しい省を設置するのは22年ぶりのことだ。