フランスのストラスブールにある欧州人権裁判所(EGMR)は今月30日、公共学校での十字架を違法とした判決を再審議する。イタリア政府の上訴に基づく。
 EGMRは昨年11月、フィンランド出身のイタリア人女性の訴えを支持し、彼女の息子が通う公共学校内で十字架をかけてはならないと言い渡し、イタリア政府に「道徳的損傷の賠償として女性に5000ユーロを支払うように」と命じた。裁判所判決文によると、学校の教室内で十字架をかけることは両親の養育権と子供の宗教の自由を蹂躪するという。換言すれば、学校内で十字架をかけることは「欧州人権憲章」(EMRK)とは一致せず、国家は公共学校では宗教中立の立場を維持しなければならないというわけだ。
 それに対し、イタリア側は「十字架はイタリア文化と直結しているものだ」と主張し、直ぐに控訴した。イタリア政府の主張に対し、これまで10カ国が支持表明を出し、EGMRに提出している。10カ国は、アルメニア、ブルガリア、キプロス、ギリシャ、リトアニア、マルタ、モナコ、サン・マリノ、ルーマニア、ロシアだ。
 再審は17人の裁判官が大審議場で行う。ここで判決が下されれば、もはや上訴できない。なお、結審は今年末頃と予想されている。
 欧州では現在、各地で十字架論争が起きている。例えば、独ノルトライン・ウェストファーレン州でデュッセルドルフ州裁判所のハイナーブレシング長官が「新しい州裁判所建物内ではもはや十字架をかけない」と決定したことを受け、公共建物内で十字架をかけるか否かで議論が起きている。ドイツでは1995年、独連邦裁判所が公共建物内の磔刑像(十字架)を違憲と判決している。
 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁もストラスブールの十字架違法判決に強い抗議を表明している。バチカンのロンバルディ報道官は「欧州人権裁判所はイタリアの国内問題に干渉する権利はない。裁判所は欧州のアイデンティティ形成でキリスト教が果たした役割を完全に無視している」と不満を吐露。その上で、「十字架は全人類への神の愛、統合、友愛のシンボルだ」と説明している。