当方が北朝鮮最高指導者、金正日労働党総書記ならば、「不満が貯まっている」と思う。そして「不満」がこれ以上貯まると暴発するのではないかと危惧する。
 韓国の10年間の太陽政策のお陰で、北側は甘い汁を満喫できたが、李明博政権の登場でその甘みもカットされてきた。肝心の対米関係もオバマ政権が北の非核化を優先し、北側の提案(平和協定の締結)に乗ってこない。
 昨年11月末の貨幣改革は超インフレをもたらす危険性が次第に現実化してきた。国連の対北制裁のため、国際取引や商談はほぼ停滞し、唯一、対中貿易と経済支援で生きのびている。これが現実だろう。
 金総書記自身はといえば、来月16日で68歳を迎える。一昨年8月に脳卒中に見舞われた。西側医師団の治療のお陰で少しは回復し、昨年は200回余り、現場視察に飛び回ったが、大病前の健康状況からは程遠い。その上、いつ再発するか、といった懸念が付きまとう。爆弾を抱えて生きている日々だろう。
 金総書記は今、焦燥感と不安に苛まれているはずだ。ミサイルを数発打てば、北側の軍事冒険主義を恐れた韓国政府からさまざまなオファーが飛び出した時代は過ぎた。韓国は既に「金総書記後の北朝鮮」(韓国行動計画)を検討、さまざまな対応を考えている。それに対し、北側は「南北首脳会談で合意した6・15共同宣言と10・4宣言の遵守」を繰り返し要求するだけで、対応策に新味がない。
 韓国が「北に核攻撃の動きがあれば、先制攻撃も辞さない」と表明すると、北朝鮮軍総参謀部は24日、慌てて「戦争宣言に等しい」と叫んだが、挙げた拳を下ろす場所に苦心。27日になって、「人民軍部隊の実弾射撃訓練」という名目で南北境界水域で短距離ミサイルを約30発発射したわけだ。
 金総書記の気力は萎えてきたように感じる。気力を振り絞って号令をかけるが、事態好転の見通しはない。国内の経済問題(食糧不足など)を政治的な駆け引き(対米関係の改善など)でしか解決できない金総書記の統治能力は既に限界にきている。
 米韓両国から北が期待した返答が届かない場合、金総書記は軍総参謀部に第3の核実験の実施を指令するかもしれない。
 北朝鮮の軍事冒険を阻止するために、その要求の一部に応じる“ガス抜き”政策を実施するか、独裁政権の自壊から生じる被害を最小限度に抑える自衛政策に専心するか……、米国と韓国は決定しなければならない。それも早急にだ。