ブリティッシュ・エアウェイズ(British Airways)の女性職員は20日、職場で十字架をつけてはならないと言い渡した2008年11月の判決を不服として上訴した。
 裁判所は当時、「職場で十字架をつけてはいけないという社内規則は宗教差別を意味しない」と判断した。
 女性職員は06年9月、会社の上司から「十字架のネックレスをつけないか、見えないように隠しなさい」と要求された。そのため、職場を離れたが、1年後、航空会社の制服規範が変ったので職場に戻った。ちなみに、57歳の女性職員は13万8000ユーロの所得損失賠償金を会社側に要求している。
 BBC(英国放送協会)によると、女性職員は「イスラム教徒やシーク派教徒がその宗教的な服を着用できる一方、キリスト者はその信仰のシンボルを隠さなければならないということは明らかに差別だ」と不満を表明しているという。
 米国の同時多発テロ事件(01年9月11日)が発生して以来、キリスト教圏の欧米社会でイスラム・フォビア(イスラム嫌悪)が拡大する一方、他宗派を怒らせる事を控えるべきだとして、自身の宗教的言動を過度に抑制する傾向が見られ出した。英国航空会社職員の十字架ネックレス問題でも、「他宗派のゲストを不快にさせるかもしれない」というのが会社側の主張だった。
 イギリスのオックスフォードの町で08年、「今後は公にはクリスマスを挙行しないで、その代わりに『光の祭典』を行う」ことが決定された。その理由は「クリスチャンでない市民がいる。彼らの心情を傷つけてはならない」というものだった(参照2008年11月8日掲載「クリスマスを廃止すべし」)。
 他宗派の信者への配慮は大切だが、それが過剰な気配りとなった場合、滑稽な事態が生じるものだ。欧州キリスト教社会でみられる「クリスチャン・フォビア」と呼ばれる社会現象の中には、そのような例が少なくない。