当方は一時、スポーツ記者として野球場やサッカー場を重いカメラバックを抱え、走り回っていたことがある。当方が20代後半の時代だ。そこで多くの経験や失敗を重ねたが、忘れることができない思い出もある。大相撲の女将さんシリーズだ。
 当方は14日間、相撲部屋を訪ね、そこで親方の女将さんたちを紹介する記事を連載した。30年前以上のことで、記憶は確かでない部分もあるが、楽しい取材だった。
 相撲部屋の中心はもちろん親方だが、その親方を支え、入門したばかりの若い弟子たちの母親代わりになって世話をする存在が親方夫人の女将さんだ。ちなみに、相撲界では親方の女将さんは美人が多い、といわれてきた。
 佐渡ケ嶽部屋(元横綱琴桜)の部屋を取材し、女将さんにインタビューした。部屋の経営の苦労話などを聞いた後、お礼をいって帰ろうとすると、女将さんはお茶と一緒にチーズケーキを運んできた。「私が作りましたのよ」という。女性が家でチーズケーキを作る、ということ自体、当時は非常に希で、かなりハイカラなことだった。
 お相撲さんの鬢付油の匂いが漂う相撲部屋で食べたチーズケーキは当方の記憶に深く刻み込まれたのだろう、女将さんとの会見内容は忘れたが、お皿の上のケーキはいまなお鮮明に思い出すことができる。
 ウィーンは音楽の都だが、日本からも職人さんがケーキを学びにくる洋菓子の本場でもある。当ブログ欄でも「175年目を迎えたザッハートルテ」(2007年4月13日)を紹介したことがある。ザッハートルテはチョコレートケーキだ。ウィーンのコーヒーと甘いザッハートルテは旅行者には欠かせられないウィーン名物だろう。
 ところで、当方がチョコレートケーキよりチーズケーキを好むのは、適度の甘さに、舌の上でチーズの薫りが広がる、ということもあるが、スポーツ記者時代に取材した女将さんの手作りチーズケーキの“衝撃”が余りにも強烈だったからかもしれないと思っている。