ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁で11日、ローマ法王べネディクト16世を中心にアイルランド教会司教会議議長ショーン・ブラディ枢機卿、バチカン国務長官タルチジオ・ベルトーネ枢機卿らが集まって緊急首脳会合が開かれた。テーマはアイルランド教会聖職者が過去、30年間に渡り、数百人の未成年者へ性犯罪を繰り返してきたという問題だ。
 ダブリン大司教区聖職者の性犯罪を調査してきた政府調査委員会は11月、その調査内容を公表し、大きな衝撃を与えた。同国のダーモット・アハーン法相は「性犯罪に関与した聖職者は刑罰を逃れることはできない」と指摘、調査が進めば、聖職者の中に逮捕者が出ることもあり得ると述べている。調査対象は1975年から2004年の間で生じた聖職者の性犯罪だ。
 ところで、アイルランド教会聖職者の性犯罪問題は、残念ながら決して特殊な例ではない。べネディクト16世の出身国ドイツの教会も米国教会も聖職者の性犯罪は後を絶たない。米国教会では犠牲者への賠償金支払いで教会を売り出すところも出ている。
 聖職者の性犯罪問題は程度の差こそあれその独身制と係わってくるだろう。すなわち、聖職者の独身制の是非を問わざるを得なくなる。
 ベネディクト16世は2006年11月、幹部会会議を開催し、「聖職者の独身制」の堅持を再確認し、「神父に叙階された聖職者はキリストと完全に同じでなければならない。独身制は言い表せないほどの価値ある財産だ」と主張、独身制の意義を強調している。
 キリスト教史を振り返ると、4世紀に聖職者の結婚は禁止されたが、1651年のオスナブリュクの公会議の報告によると、当時の聖職者は特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子女ができて遺産相続問題が生じないために、教会の財産保護という経済的理由が背景にあったといわれる。
 聖職者の独身制を廃止し、家庭を持つことができるようになったとしても、聖職者の性犯罪が完全に無くなるわけではないが、不自然な性衝動に駆られる聖職者は少なくなるだろう。
 ローマ・カトリック教会の神父が結婚などを理由に聖職を断念した数は1964年から2004年の40年間で約7万人という。その中の1人、オーストリアのカトリック教会ウィーン大教区の神父であったマーティン・ダイニンガー氏(45)は14年前にベルギー出身のクリスティーネさんと結婚した。今は子供も出来、幸せな家庭を築いている。
 同氏は「神父時代、神が結婚を願われているとは考えてもいなかった。しかし、神は、われわれが立派な男性と女性となり、調和した家庭を築くことを願われていると知った。私は妻との関係を通じて、神に再び出会った。私は昔、良心を通じて神を感じてきたが、今は妻を通じて神を感じている。その感覚は良心を通じて感じるより以上に激しく、強いものだ。それは驚きであった。私はもはや1人で神の前に出て行くのではなく、妻を通じて神の前に出て行く。結婚を通じて、神は私により近い存在となった」と述べている。
 元神父のこの証をバチカン関係者はどのように受け止めるか、一度聞いてみたいものだ。