国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は今月末、退陣し、12月1日から日本の天野之弥氏がIAEA事務局長に就任する。メディアではエジプト出身の事務局長の3期12年間をどのように評価するかで、意見が分かれている。
 ノーベル平和賞受賞者エルバラダイ氏の核拡散防止に向けた過去の歩みを高く評価する声がある一方、「国連機関の事務局長でエルバラダイ事務局長ほど多数のインタビューをこなした人物はいない。平和賞の受賞はインタビューによって蓄積された知名度による点が大きい。一方、核拡散防止への努力といっても目に見える成果は乏しい」といった冷静な分析も聞かれる。
 北朝鮮やイランの核問題では、事務局長は過去、ほぼ毎週、CNNやニューヨークタイムなど国際メディアとの会見に応じてきた。ある国連関係者は「エルバラダイ氏は国連事務総長より顔が知られている」と述べ、「エルバラダイ氏の巧みなメディア工作は特筆に値する」と驚いている。
 ところで、事務局長が関ってきた北朝鮮、イラン、シリアなどの核問題は依然、未解決のままだ。新事務局長の天野氏はそれらの難問を引き継ぐわけだ。
 エルバラダイ事務局長時代の12年間でIAEAは核の平和利用を促進する「専門機関」から「政治機関」に変っていった。
 駐IAEAのイラン代表、ソルタニエ大使は「IAEAは本来、核問題の専門機関だ。IAEAの政治化時代は終わるべきだ」と述べている。
 IAEAの政治化は、もちろん、エルバラダイ氏1人の責任ではない。理事国が査察関連情報を政治利用するからだ。IAEAが政治的発言を誘発しやすい機関である事も事実だ。
 ソルタニエ大使は「天野次期事務局長がIAEAの非政治化に成功すれば、素晴らしい事務局長となるだろう」とエールを送り、IAEAのトップに調停役型事務局長を願っている。
 当方の目からみて、エルバラダイ氏の12年間で問題点があったとすれば、事務局長が理事国に代わって主役を演じ続けたことだろう。国連機関では主役は加盟国(理事国)であり、事務局長ではないのだ。