生命保険金目当てで人を殺し、それを「病死」のように見せかける殺人事件は推理小説の中だけではなく、現実社会でも頻繁に起きている。ところが、「自殺」を「他殺」ないしは「自殺以外」の死因によるものと装うケースがあることを最近、知った。
 ウィーンの国連で過去、2年間、1人は国際原子力機関(IAEA)職員、もう1人は包括的核実験禁止機関(CTBTO)の職員が自殺した。当ブログ欄で報告済みだ。オーストリア警察側の調査では2件とも明らかに「自殺」だが、遺族関係者からは「他殺説」ないしは上述したように、少なくとも自殺以外の死因説が流れた。
 自殺した国連職員の家族側は「自殺する理由はない。何かがあったのだ」と他殺の可能性も強く示唆する。
 英国人のCTBTO職員の場合、遺体は司法解剖を受け、「自殺」ということになったが、遺族側が別の民間研究所に遺体の解剖を依頼した。そして「遺体の首の周りに、何か締められたような痕跡が見つかった」という。遺族から情報を入手した英国メディアは一斉に「ウィーンの国連内で殺人」といった見出しで大きく報道した。
 2件の事件を詳細に知る国連警備担当官は当方の取材に応じてくれた。担当官は「残念ながら、2件とも明らかに自殺だ。CTBTO職員の首の周辺の痕跡は落下中、ネクタイで首が締められたからだ。絞殺ではない」と証言する一方、「CTBTO職員もIAEA職員も自殺だったが、遺族側は納得しなかった」という。
 遺族関係者の反応は理解できる。昨日まで元気だった家族が突然、自殺したのだ。当然だ。家族の名誉もある。
 しかし、それだけではない。「生命保険問題が絡んでくるからだ」という。自殺となれば、遺族は保険金を受け取れない。無意識にも自殺以外の原因を捜す方向に追われる羽目となる。
 担当官は深く呼吸してから、「CTBTO職員の場合、イランの核交渉と関連している、といった憶測記事が流れたが、まったく根拠ない。CTBTO職員の自殺の原因は仕事への過度なストレス、IAEA職員の場合、薬の乱用などが自殺の引き金となった」と説明してくれた。
 2件の国連職員の場合、明らかに「自殺」だったが、遺族関係者から「他殺」説が流れ、大衆メディアがそれに乗じてセンセーショナルな記事を発信したことから、「事件の核心」が不透明となったケースといえるかもしれない。