ローマ法王べネディクト16世から補佐司教に任命された後、教会内外で強い抵抗にあって任命を辞退したオーストリア教会リンツ教区のワーグナー神父(54)が、同国の週刊誌プロフィール最新号(4月20日号)の中で、辞退に到った背景について初めて明らかにしている。
 ワーグナー神父は、ハリケーン・カトリーナ(2005年8月)が米国東部のルイジアナ州ニューオリンズ市を襲い、多くの犠牲者を出したことについて、「同市の5カ所の中絶病院とナイトクラブが破壊されたのは偶然ではない」と述べ、「神の天罰が下された」と宣言して憚らない。また、「同性愛者は病人だ」と語り、大きな波紋を投じた聖職者だ。
 同神父が2月初め、べネディクト16世から補佐司教に任命された直後、シュヴァルツ教区司教は歓迎を表明したが、教区内外で神父への批判が高まると、神父を弁護することはなかった。同国教会最高指導者シェーンボルン枢機卿も任命直後、歓迎を表明したが、その数日後、緊急司教会議を招集し、神父への対応を協議している、といった具合だ。
 同神父は2月15日、「教会内外に自分の任命に強い反発がある」として任命の辞退を決定したが、それに先立ち、シェーンボルン枢機卿はべネディクト16世に書簡を送り、ワーグナー神父の補佐司教任命の撤回を強く要請していたという。
 「信者の教会脱会の増加、それに伴う教会収入の減少に直面している教会は教会内のリベラルな勢力やメディアから激しい攻撃に晒されているワーグナー神父に任命辞退を強いた」というのがどうやら事の真相らしい。
 ワーグナー神父は「自分はカトリックの教えを主張しただけだ。自分の発言を撤回させる考えはない」と主張している。
 価値観の相対主義が席巻する社会で、是非は別として、カトリック教会の伝統的な教えを主張することが次第に難しくなってきた。ワーグナー神父の任命辞退劇はそのことを端的に物語っているのだろう。