元ウィーン市長のヘルムート・ツィルク氏(Helmut Zilk)が旧チェコスロバキア共産党政権時代の秘密警察(StB)の情報提供者だったことを記述したStB文書が明らかになり、オーストリア国民は大きな衝撃を受けている。同国の週刊誌プロフィール最新号(3月23日)は表紙に「スパイのヘルムート・ツィルク」というタイトルを付け、詳細に報じているほどだ。
 ツィルク氏はTVジャーナリスト、教育相などを歴任した後、1984年から10年間、ウィーン市長を務め、国民から絶大の人気があった政治家だ。同氏が昨年10月24日、入院先の病院で心不全のため死去した時、当方は「前ウィーン市長の意外な申し出」(昨年10月29日)という題のコラムで同氏との出会いを紹介したばかりだ。
 StB文書によると、同氏は国営放送の記者だった1965年から68年頃、StBと58回に渡り接触し、オーストリアの政界情報などをチェコ側に流していた。その代償として、金銭や物品を受け取っている。公表された文書の中では、ツィルク氏は「Holec」と呼ばれ、金銭のやり取りも詳細に記述されている。ちなみに、駐オーストリアのチェコ大使だった外交官は「この文書は本物だ」と証言している。
 ツィルク氏の過去問題については10年前、独紙「南ドイツ新聞」が初めて報道したことがあったが、ツィルク氏は当時、スパイ活動を全面否定している。
 ツィルク氏のスパイ説を裏付けるStB文書が公表されると、同氏を知る友人、政治家は異口同音に「信じられない」と驚きを表している。特に、同氏の妻で女優のダグマール・コラー女史(Dagmar Koller)はTV番組の中で、「ヘルムートを静かに眠らせてほしい」と述べ、国民的人気者だった夫の過去が暴露されることに深い憂慮を表明している。
 当方は、ツィルク氏のスパイ説を信頼性の高い情報と受け取っている。公職から退いた後も親中国ロビストとして中国外交官の良きアドバイサーであったことを知っているからだ。もちろん、無償の仕事ではないはずだ。知人のオーストリア内務省関係者が「中国外交官やビジネスマンが事件を起こしてもいつも彼(ツィルク氏)が関与してきて捜査を妨害する」といって悔しがっていたことを知っているからだ。