国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は19日、シリアの最新査察履行報告書を35カ国の理事国に送付したが、日本の大手新聞社らは報告書内容を伝え、「新たなウランを検出した」と指摘したうえ、「黒鉛が発見された」と報じた。
 当方はシリア報告書をゆっくりと目を凝らして読んだが、「新たなウランが見つかった」は確かに記述されているが、「黒鉛が発見された」という内容は3頁の報告書の中にはない。
 そこで当方は「新たにウランが検出された」という見出しの記事を東京に送信したが、多くのメディアは「黒鉛が見つかった」という点を大きく報じたことはいうまでもない。なぜならば、「シリアが北朝鮮の支援を受けて黒鉛型原子炉を建設中」という西側情報機関の情報を裏付ける重要な証拠となるからだ。
 それではどうしてエルバラダイ事務局長は来月2日から開幕する定例理事会用にまとめた「シリア報告書」で「黒鉛」が発見された事実を記述しなかったか、という問題が出てくる。
 そのように考えていた時、IAEA事務局から「事務局長の報告書ではメディアが報じる『黒鉛が見つかった』といった内容は一切記述されていない。それは一部加盟国の憶測情報だ。事務局長の報告書に基づくかのように報じられているのは遺憾だ」という内容の一種のメモランダムが理事国に送られたという。
 すなわち、IAEA側は現時点では「新たにウランが検出されたが、黒鉛は発見されていない」という立場となる。今回の「黒鉛発見」は「報道側の勇み足」ということになる。