当方は今月、オーストリアの第3都市、リンツ市で十字架論争がエスカレートしてきたことを紹介した。問題は、市立幼稚園と保育所で十字架を掛けるかどうかだった。同市の社会民主党出身の副市長は「幼稚園や保育所にはキリスト信者ではない子供や親がいる」として、十字架の設置を中止した。それに対し、カトリックを背景とする国民党は「州の規約では、多数派がキリスト教の洗礼を受けている場合、そこに十字架をかけてもいいことになっている」と反発した。その後、両党は協議を繰り返し、最終的にはこれまでの通り、十字架をかけることで解決をみた。
 ところが、欧州の十字架論争は今度はスペインに飛び火したのだ。スペインのValladolidの裁判所が公共学校から十字架を外すことを決定したのだ。それに対し、リンツの十字架論争では沈黙していたバチカン法王庁が抗議の声を発した。バチカンの日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノによると、「欧州の基盤ともなってきたキリスト教のシンボルへの尊敬心が欠如している。欧州のキリスト教伝統と価値観を無視するものだ」という内容だ。バチカンとしてはかなり強い口調だ。
 スペインでは「社会労働党」(PSOE)のサバテロ左派政権が発足して以来、「政府と教会」の関係は非常に険悪化してきている。同政権がカトリック教会の特権撤廃に熱心に取り組んできたからだ。例えば、カトリック教会の聖職者は病院で患者の精神ケアに従事してきたが、サパテロ政権は「教会の特権だ」と指摘し、聖職者の病院内の牧会活動停止を要求する一方、学校の宗教授業にも異議を唱え、宗教授業の代わりに「公民学」を導入したばかりだ。
 今回の裁判所の決定もその流れから出てきたものだろう。バチカンの異例と思われる反応は、サバテロ政権に対するバチカン側の憂慮とも受け取ることができる。