国連内で先日、韓国大使館のP公使参事官に久しぶりに会ったので、最近の北朝鮮情勢について聞いてみた。公使は「僕は金正日労働党総書記の健康問題は分らない。いろいろな情報があるが、僕はそれらをあまり信じていない」という。
 メディアでは北朝鮮情報が溢れている。偽情報から扇動情報まで、出所もさまざまだ。どれが正しいか、判断に苦慮することが多い。それだから、というわけではないと思うが、公使はソクラテスの有名な「無知の知」を思い出させるほど、「知らない」「分らない」を繰り返した。
 月刊朝鮮(最新号)が「韓国政府が今夏、金総書記の脳画像を入手し、それを分析した結果、金総書記は今後5年以上統治することは難しい、という診断が下された」と報道したことについて、その真偽を聞いてみた。公使は笑みをこぼしながら、「分らない。金総書記は現在、66歳だ。北朝鮮の男性平均寿命は70歳台には到達しないから、金総書記が5年以上、統治できないと予測するのは至極当然のことだ」とあっさりと答えた。
 当方が公使の答えに不満足な表情を見せると、公使は「君、脱北者が最近、いろいろな情報をもらしているだろう。韓国政府はそれらを全て信じているとは思わないでほしい。正直に言って、われわれはそれらの情報に対しても懐疑的だよ。誰が金総書記の健康情況を確実に把握できるかね。誰も出来ない。それにもかかわらず、メディアが連日、大きく報道しているだけだ」と説明してくれた。
 公使はそれだけいうと、「これで失敬するよ」といって車に向かった。今年5月にウィーンに着任した公使は終始、「知らないことを知っている韓国のソクラテス」ような雰囲気を漂わせていた。
 公使が「知っている」と答えた時、それは本当に信頼性の高い情報、と受け取っていいわけだ。