日本を含む欧米諸国の外交官は決して寡黙ではない。知り合いのジャーナリストにも会議の内容を漏らす、といったことは日常茶飯事だ。国際原子力機関(IAEA)の理事会はジャーナリストには非公開だが、翌日、その会議内容が詳細に朝刊紙を飾るのは、外交官がジャーナリストたちに会議の決定事項を語るからだ。日本外交官もその点、例外ではない。理事会で決定したことがあれば、会議場前に待機している日本のジャーナリストを呼んで詳細に報告する。ジャーナリストが会議場前に見当たらない時、知り合いのジャーナリストに携帯で連絡する外交官もいるほどだ。
 ところが、同じ外交官が突然、何も語らなくなることがある。原子力供給国グループ(NSG)の総会が開催される時だ。在ウィーン国際機関日本政府代表部で21日から22日まで米印原子力協力協定問題でNSG特別総会が開催されたが、ジャーナリストたちは直前まで「会議がどこで、いつから開始されるか」を知らされていなかった。知人の外交官に聞いても、「申し訳ないが、いえない」というだけだ。もちろん、プレス向けのブリーフィングもない。
 ある国の大使館専属運転者は「会議の初日、大使からどこに行くようにと言われなかったので、会議は国連内とてっきり思いこんでいたので、国連まで運転したが、直前になって日本大使館だといわれてビックリした」と嘆く。
 問題は、コンフィデンシャルな情報を自らジャーナリストに教える気前のいい外交官が、どうしてNSG総会になると寡黙となるのか、という点だ。知り合いのジャーナリストは笑いながら、「簡単だ。会議内容がビジネスに関る時、外交官は沈黙を強いられるのだ」という。
 NSGは1974年のインドの核実験を契機に設立された機関だ。原子力関連資機材・技術の輸出国が守るべきガイドラインを作成して輸出管理を実施する。米印原子力協力協定が発効すれば、核拡散防止条約(NPT)未加盟国のインドに核関連物質、機材の輸入の道を与えることになる。
 欧米諸国の企業にとってインドは魅力のある巨大な市場だ。中国に対して、欧米諸国がその人権問題には目を閉じてビジネスに走ったように、米印原子力協力協定がNPT体制を崩壊させる内容を含んでいると知っていながら、どの国も余り強く反対しない。グルジア紛争で米国と対立しているロシアは米印原子力協力協定に反対して憂さを晴らしたいところだが、同国がインドに2基の原子炉建設を抱えている手前、反対できない、といった具合だ。
 政治はビック・ビジネスの前には弱い。普段饒舌な外交官が沈黙する時、ビジネスが関与していると考えればいいのかもしれない。