北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記が認知症に悩んでいる、というニュースが流れたことがあった。昨年10月の韓国・盧武鉉大統領(当時)との南北首脳会談の初日、金総書記が憮然とした表情で笑顔を見せなかったことから、「金総書記は大統領に近づき、『あなたは誰でしたかね』と聞いた」といったジョークが流れたほどだ。また、初日の歓迎式の会場が「祖国統一三大憲章記念塔」から「人民文化宮殿」に急遽変更になったり、首脳会談1日延長案などは、総書記が演出した小さなサプライズではなく、「金総書記は会場先や首脳会議の日程などを“一瞬”忘れていたのではないか」といった半分、冗談のような話が流れたほどだ。
 ところで、認知症は政治家の間で伝染する病気のようだ。認知症は金総書記の専売特許ではなく、ブッシュ米大統領にも伝染している。米国は26日、北朝鮮の核申告書の提出後、テロ支援国リストから北朝鮮を削除すると公表した。ブッシュ大統領は過去、「金総書記は世界最悪の独裁者だ。北朝鮮指導者とは如何なる合意も考えられない」と豪語してきた。その大統領が同日、北朝鮮をテロ支援国リストから削除し、敵国通商法の適用の除外も宣言したのだ。ライス国務長官も「北朝鮮が国際条約を守らない国であることを知っている」と表明していながら、今回は「北朝鮮との合意に基づいて」という理由で「テロ支援国リストから削除した」と述べた。「知能指数が高い」という評判のライス国務長官をして、この有様だ。政治家を襲うアルツハイマーはかなり悪性だ。ブッシュ大統領の言葉を信じてきた日本人政治家などは、アルツハイマーの犠牲者だろう。だから、ブッシュ大統領が「拉致問題を決して忘れない」と述べたとしても、それをもはや信じられない日本人政治家が出てきても不思議ではない。
 認知症は欧州のアルプスの小国オーストリアにも波及してきた気配がある。グーゼンバウアー首相は26日、「欧州連合(EU)の新基本条約(リスボン条約)に改正があった場合、わが国は住民投票を実施してその是非を決定する」と発言したのだ。同首相は数カ月前、議会で「リスボン条約は国民の代表である議会で批准する。国民投票を実施する必要はない」と説明し、批准したばかりだ。
 グーゼンバウアー首相のこの発言に最もショックを受けたのは親EUの政権パートナー国民党だ。「殿!お気を確かに」といったところだろう。国民党議員からは早速、「連立政権の合意違反だ」といった批判が出ている。グーゼンバウアー首相の突然の変心について、同国の日刊紙オーストライヒの社説は「政治的なアルツハイマーか」という見出しをつけているほどだ。いずれにしても、アルツハイマーは政治家の職業病なのかもしれない。