アイルランド国民が欧州連合(EU)の新基本条約「リスボン条約」を拒否したことを受け、EU加盟国はその対応に苦慮し出した。欧州委員会のバローゾ委員長は「加盟国は批准作業を継続すべきだ」と強調し、年末まで批准作業を完了し、来年初めに条約を発効させる計画の続行を強調したが、それに対し「欧州憲法の批准を問う国民投票でフランスとオランダの両国が批准拒否した時(2005年)、ブリュッセルは再考を決定したのに、小国アイルランドの条約否決の場合、それを無視するような発言は容認されない」といった批判の声が聞かれる。
 多くの加盟国は実際、アイルランドの国民投票結果を深刻に受け止めている。なぜならば、国民投票が実施されれば、他の加盟国もアイルランドと同様の結果に直面する可能性が濃厚だからだ。そこでアイルランドの条約否決の背景について、詳細な分析が要求されてきたわけだ。EU国民を無視したブリュッセル主導の官僚主義や政治家の腐敗、それに伴う、国民の政治への嫌悪感の拡大など、さまざまな理由が考えられる。
 オーストリアの法学専門家は、先日実施されたチロル州選挙で2大政党が大幅に得票を失った一方、新党「リスト・フィリッツ・ディンクハウザー」が18%以上の得票率を上げて、第2党に大躍進したことを例に挙げ、「国民はブリュッセル主導ではなく、地域住民の意向を反映する政治を求めている。一種の直接民主主義への羨望だ」と述べている。
 非常に啓蒙的な社説に出会った。オーストリア日刊紙クリアのコタンコ編集主幹は「欧州の伝統的な左翼政党や保守政党は有権者の支持を獲得するために中道路線を掲げ、その結果、政党の基本綱領は死文化してきた。しかし、EU国民は政策の寄せ集め的な中道路線ではなく、明確な世界観に基づいた政治を期待しているのではないか」と主張しているのだ。
 確かに、そうだ。例えば、オーストリアの保守政党「国民党」は今日、同性愛者の婚姻を認める動きがある。キリスト教の世界観を土台とした保守政党・国民党は過去、同性愛者の婚姻は「絶対容認しない」という立場を取ってきたが、その路線は今日、大きく揺れている。
 欧州憲法の論争の際、キリスト教の「神」を憲法内に明記すべきだという声があったが、反対多数で拒否された経緯がある。憲法に「神」を明記することの是非は別として、EU国民は価値観の相対主義的な政治ではなく、明確な世界観に基づいた政治を求めているのかもしれない。そうだとすれば、ブリュッセルは再考を強いられることになる。