ブッシュ米政権はここにきて北朝鮮の核問題に対しては強硬姿勢が目立つ一方、ウラン濃縮活動を継続するイランの核問題では妥協を模索する動きすら見せてきている。
 まず、北朝鮮の核問題だ。米国は6カ国協議の合意に基づき、北の核関連施設の無能力化を推進し、北朝鮮に対して人道的、エネルギー支援などを積極的に実施する一方、ニューヨーク・フィルハーモニーの平壌公演を進めるなど、米朝関係の正常化を視野に入れた外交政策を展開させてきた。
 それがここにきて、北朝鮮から受け取ったアルミ管から、濃縮ウランの痕跡が検出されたという情報をメディアに流す一方、日本の拉致問題の解決までテロ支援国リストの削除に消極的な動きすらホワイトハウスから聞こえ出してきた。もちろん、その背後には、北朝鮮が核施設の完全な申告を躊躇していることに対し、ブッシュ政権が圧力を強めているだけで、路線の変更ではない、と受け止めることも可能だ。
 一方、米国はウラン濃縮活動を停止しないイランに対して第3の安保理決議の採決を目指してテヘランに政治的、軍事的圧力を高めてきたが、そこに米国家情報評価(NIE)のイラン報告が公表され、「イランが2003年に核兵器製造計画を断念した」という内容が明らかになった。それを受け、欧米の対イラン安保理決議への熱意は冷える一方、イランのアハマディネジャド大統領は今月5日、NIEの報告を「イランの勝利だ」と豪語したほどだ。自信を深めたイラン側は今日、プシェール原子力発電所への核燃料の供給計画を推進する一方、ウラン濃縮活動の継続を表明している。
 これらの動きを振り返ると、任期をあと1年余りを残すだけのブッシュ政権が対北、対イラン政策で最後の調整に乗り出してきた可能性が考えられるのだ。すなわち、ブッシュ政権が対イラン政策では一方的な強硬政策を緩和する一方、対北政策では以前の強硬路線に復帰する気配が見えてきたのだ。
 そこで考えられることは、イラク情勢が色濃く反映しているのではないか、ということだ。すなわち、ブッシュ米政権はイランとの間でイラクの治安問題で何らかの合意を実現したのではないか、という推測が浮上してくる。その見方が正しいとすれば、ブッシュ米政権は、イラク情勢をイランに人質にされていた時とは異なり、対北政策で本来の強硬路線に復帰できる余裕が出てくるわけだ。