欧州連合(EU)の域内外の境界線を規定したシェンゲン協定が21日零時から拡大された。24カ国、約4億人が出入国審査を受けずに自由に往来できるようになった。喜ばしいことだ。欧州のメディアでは、今回の出来事を1989年の冷戦時代の“鉄のカーテン”の撤廃と比較する論調が目立つ。すなわち、第2の鉄のカーテンが無くなった日、というわけだろう。
 ところで、第1の“鉄のカーテン”が撤廃された瞬間、当方もその現場にいた。オーストリアは冷戦時代、旧東欧諸国と国境線で対峙してきた。そのオーストリアとハンガリー間の“鉄のカーテン”が撤廃されることになった。当方はオーストリア外務省が準備した取材バスに乗って、両国間の国境まで出かけた。そしてオーストリアのモック外相とハンガリーのホルン外相(いずれも当時)が両国間に張り巡らされていた鉄条網をカッターで切った瞬間の写真を撮影したのだ。
 当方は写真記者ではないので、自慢できる報道写真を撮った思い出が少ない。しかし、当方にも忘れる事ができない2枚の報道写真がある。1枚目は巨人の王貞治選手(当時)が世界記録となるホームランを打った瞬間を一塁ベース側から撮影した写真だ。2枚目は、先の“鉄のカーテン”が撤廃された瞬間の写真だ。プロの写真記者からみたら、角度や光の濃度で完全ではないだろうが、当方にとっては記念すべき報道写真となった。
 王選手の時は、モーター付き連写カメラで撮った。その中の1枚が掲載された。完全ではないが、十分使用可能な写真だったと思っている。当方は通常、会見相手の顔写真以外はロイター通信やAP通信の報道写真任せだったが、鉄のカーテンの場合、何故か自分で現場を撮影したいと思い、普段使用しない重いカメラ・バックを抱えて外務省の取材バスに乗り込んだのだ。
 素晴らしい報道写真は読者に数百行の関連記事よりも大きなインパクトを与える。歴史的瞬間を撮った報道写真を見るたびに、写真記者には脱帽だな、と思わされる。