国連安保保障理事会決議にもかかわらず、イランがウラン濃縮関連活動を停止しないため、欧米を中心に安保理で追加制裁の声が高まっている。にもかかわらず、イランのアハマディネジャド大統領は今月2日、「ウラン濃縮用の遠心分離機3000基以上が既に稼働している」と表明したばかりだ。この声明が正しいとすれば、イランは1年間で1個分の核兵器用の濃縮ウランを入手できることになる。ハメネイ師、同大統領ら強硬派指導者たちは「イランの核計画は平和利用を目的としたものであり、主権国家の権利だ」と主張して譲らない。
 そこで知人のイラン外交官に「イラン指導者は本当に国際社会から孤立しても大丈夫と考えているのか」と聞いてみた。外交官は少し考えた後、「指導者たちは大丈夫と考えているようだが、大多数の国民はそうではない。安保理の制裁がこれ以上、拡大すれば、国民の生活は一層、厳しくなるだろう」と述べた後、「国民だけではない。本音をいえば外交官も不安で一杯だ」という。すなわち、追加制裁で外交官の数が制限された場合、「帰国を強いられる外交官が出てくる」といった不安があるという。帰国対象となるのは公使、参事官、書記官といった外交官たちだ。
 知人によれば、駐オーストリアには約60人のイラン外交官が登録されている。ちなみに、イランにとってオーストリアは欧州の中でもドイツ、スイス、英国と共に外交上、「非常に重要な国」に指定されているという。なぜならば、国際原子力機関(IAEA)など国連機関のほかに、石油輸出国機構(OPEC)の本部があるからだ。
 外交官、その家族を入れて約260人の運命が追加制裁の有無にかかっているわけだ。帰国を強いられた場合、「外交官の特権を失う一方、外交官として国内の数倍の給料を受けていたが、その経済的恩恵も同時に無くなる」というわけだ。
 石油輸出国イランは6月27日から国内でのガソリン販売を配給制に切り替えたばかりだ。同国内ではガソリン不足で国民の不満が高まっている。
 ハメネイ師やアハマディネジャド大統領らイラン指導者にとっては、国民ばかりか、海外代表部の自国外交官も将来に不安を抱いていることなど、余り重要なことではないのかもしれない。指導者層と外交官を含む大多数の国民間の亀裂は益々深まってきている。