日朝関係正常化作業部会が9月5日からモンゴルの首都ウランバートルで開催されるが、それに先立ち、北朝鮮の宋日昊日朝正常化担当大使は29日、「安倍首相が初めて過去の清算に言及したことを評価する」と述べたばかりだ。同大使の発言は、“安倍憎し”の観が強かった北朝鮮指導部がここにきて初めて柔軟姿勢を示したものとして注目されている。
 ところで、日朝関係正常化作業部会の開催直前に、米朝関係正常化作業部会が9月1日からスイス・ジュネーブで開催されるが、そこでは核無力化の第2段階の措置について協議が交される一方、北朝鮮をテロ支援国リストから削除する問題についても突っ込んだ話し合いが行われると予想される。そのため、拉致問題を抱える日本側も米国の出方に神経を尖らせている。
 それに対し、経済担当の北朝鮮外交筋は当方に対し、「米国がわが国をテロ支援国家リストから削除すれば、米国が掌握する世界銀行など国際金融機関から融資を受ける道が開かれる。その意味で大歓迎だ。しかし、わが国にとってアジア開発銀行(ADB)の金融支援は不可欠だが、そこでは日本が最大の影響力を有している。日本が主導的役割を果たすADBから金融融資を受けるためには日本の同意が必要となる」と説明し、北朝鮮が、国際金融機関との関係正常化のためには対米関係だけではなく、対日関係の正常化が急務と受け取っていることを示唆している。
 北朝鮮外交官と接触してきた当方の経験からみると、北朝鮮外交官の対日観はけっして「日本憎し」で固まっているわけではない。特に、経済分野を担当する外交官、ビジネスマンの多くは「日本との関係改善は重要」と受け取っている。それに対し、政治担当の外交官には激しい反日論者が少なくない。彼らは「日本の植民地時代の蛮行」を挙げて、徹底的に日本を批判する、といった具合だ。
 例えば、駐オーストリアの北朝鮮大使館でも反日論者と対日関係促進派の外交官がいる。どちらが現在、主流かは分からないが、反日の政治レトリックにとらわれ過ぎて、北朝鮮の真意を読み間違ってはならないだろう。