北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記は「日本軍の慰安婦問題」を追求することで、「自国の日本人拉致問題」を巧みに埋没させようとしている――そんな疑いがここにきて一層、深まってきた。
 北朝鮮外務省は7月1日、「日本の朝鮮総連弾圧は6カ国協議の障害になっている」と主張し、同月19日には「日本の拉致問題は6カ国協議を危機に陥れる」と警告を発する一方、駐北京の北朝鮮大使館で6月26日、日本に拉致された北朝鮮女性の記者会見が開催されるなど、手を変え品を変えながら、日本憎しのキャンパーンを展開してきた。
 このことは逆にいえば、北朝鮮が日本との関係正常化を「日本以上に願っている」ことを伺わせるものだ。金総書記が日本との関係を正常化し、日本から数億ドルと推定される賠償金を得ようとしていることは周知の事実だ。
 しかし、「拉致問題の解決がなくして、国交の正常化はない」と強調する安倍政権に対して、金総書記も少々、手を焼いている。そこで、日本の慰安婦問題を国際化し、安倍政権の政治基盤を弱体化することで、日本側の拉致追求トーンを弱めていく政策に乗り出してきたわけだ。この策は既に実践段階に入っている。もちろん、6カ国協議のホスト国・中国も金総書記の秘策を支援していることはいうまでもない。
  米国下院は7月30日、日本軍慰安婦に対する謝罪を要求する「慰安婦決議案」を可決。フィリピンの左翼下院議員たちも今月13日、日本政府が約200人のフィリピン女性たちを慰安婦として強制労働させたとして、謝罪要求決議案を下院外交委に再提出するなど、慰安婦問題の国際化は着実に進展してきている。朝鮮中央通信は今月16日、「 日本軍が慰安婦犯罪に直接介入した事実を立証する資料が発掘された」(韓国・中央日報)と報道し、日本に圧力を強めている。安倍首相の与党・自由党が先の参議院選で大敗北をしたことも、金総書記を勢いつかせる理由となっている。
 日本人拉致問題を埋葬するために、金総書記は暫定的に「慰安婦問題」を「拉致問題」と相殺することも辞さないはずだ。北側の戦略に対し、日本は慰安婦問題の歴史的検証を要求する一方、拉致問題を犯罪問題として国際社会に倦むことなくアピールし続けるべきだ。