北朝鮮が海外で記者会見を開くことは非常に稀だ。当方は過去20年間で3度、駐オーストリアの北朝鮮大使館主催の記者会見に参加したことがあるだけだ。
 その非常に稀な記者会見がなんと6月21日午前(現地時間)、開催されたのだ。残念だったが、当方が記者会見を知ったのは会見数時間後だった。4度目の参加を逸したわけだが、ロイター通信が流した記事を読んで、どうしても首を傾げざるを得なくなった。「ヒョン参事官は本当にこのように発言したのか」という疑問が湧いてきたのだ。
 国際原子力機関(IAEA)担当のヒョン参事官は「マカオの銀行で凍結が解除され、ロシアの北朝鮮の口座に送金される予定の北朝鮮関連資金2500万ドルが口座にまだ届いていない」と述べ、「われわれはIAEAが予定している訪問を公式に確認する用意はできていない」と付け加えた。ロイター通信は「IAEA実務協議団の訪朝日程を保留」といった見出しを付けて流している。日韓メディアはそのウィーン発ニュースを流している。
 記者会見に参加した記者からヒャン氏が配布したという記者用コミュニケを入手し、読んでみた限りでは、ロイター通信の報道は間違いない。問題は、記者会見が開催された同日、ヒル米国務次官補が平壌入りしている。朝鮮中央通信社はヒル訪朝を即報道し、歓迎ムードが流れていた。その時、ウィーンの北朝鮮大使館で突然記者会見が開かれ、発表された内容は平壌から伝わってくる情報内容とは明らかにズレがあるばかりか、歓迎ムードに水をさしかねないものだった。
 そこで知人の北朝鮮外交官にヒョン参事官の記者会見の背景について、それとはなく聞いてみた。知人は「記者会見の発表内容は既に賞味期限が過ぎた古い情報だ。ヒョン参事官は平壌から送られてきた古い情報を再検討することなく、言われたまま記者会見で公表したのだ」と説明してくれた。普通では考えられないミステークというわけだ。
 ヒョン参事官が記者会見で示唆した「IAEAの訪朝日程の変更」はもちろんなく、予定通りにハイノーネンIAEA事務次長らは6月26に平壌入りした。ヒョン参事官は平壌指導部の杜撰な情報管理の犠牲者に過ぎなかったのだろうか。
 参考までに、駐中国の北朝鮮大使館で26日、記者会見が開かれ、日本人が拉致した北朝鮮人女性の会見が行われた、というニュースは入ってきた。韓国メディアによると、質疑応答の時間を与えず、自称、日本人に拉致された北朝鮮女性の一方的な発言で終始したという。そのため、韓国メディアは「北朝鮮大使館の生半可会見」という見出しをつけ、少々揶揄しているほどだ。
 北朝鮮が積極的に「記者会見」を開くことは大歓迎だが、同国はその前に、「記者会見」のノウハウを学ぶ必要があるのではないだろうか。