韓国の金大中大統領(当時)が2000年6月、平壌の空港に到着した時、出迎えたのは最高人民会議の金永南常任委員長ではなく、北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記本人だったという話は、金総書記の巧みな人心掌握術を物語る実例として、もはや伝説になっている。
 さて、AP通信社は26日、平壌の空港で国際原子力機関(IAEA)のハイノーネン事務次長(査察局長)を出迎えるシーンを撮った写真を世界に配信した。日本でも朝日新聞が27日付けの国際面の中でその写真を掲載している。
 ところで、AP通信社の写真の絵解きを見て、ビックリした。絵解きが「ハイノーネン事務次長を出迎えた李原子力総局長」となっていたのだ。しかし、写っている人物は李原子力総局長ではなく、同原子力総局で勤務する孫文山氏なのだ。
 報道カメラマンにとって、撮影した人物の名前を間違うということは初歩的なミスといわれてもしょうがない。
 プロトコールからみた場合、ハイノーネン事務次長の会談相手は李済善総局長だ。金総書記と同じように、同総局長自身が空港に出迎えに現れても不思議ではない。そんな判断がどこかにあって、絵解きの際、人物名を間違ったのかもしれない。
 孫氏は数年前まで駐IAEA担当参事官としてオーストリアの同国大使館に勤務をしていた人物だ。本来は外交官ではなく、原子力分野の科学者だ。ハイノーネン事務次長とも面識がある。だから、AP通信カメラマンが親密に挨拶を交わす両者をみて、先述したようなミスを犯したのかもしれない。もちろん、その絵解きでAP通信社の写真を掲載した朝日新聞社などメディア機関は訂正記事が必要だろう。
 孫氏は口数の少ない人物だ。当方は当時、同氏に何度も会見を申し込んだが、いつもやんわりと断れてきた。英語は流暢ではなかったが、常に笑顔を失わない紳士だった。
 AP通信社が配信した写真をみながら、「孫さん、少し瘠せましたね。ウィーンでまた会いたいですね」と呟いていた。