モルドバが1月16日、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准したことで、23カ国の東欧を含む全欧州諸国が批准済みとなった。同国の批准日は文字通り、欧州が核拡散防止条約(NPT)体制で模範地域となったことを内外に宣言する「歴史的な日」でもあったわけだ。
 1996年9月に署名が開始されたCTBTは現在、署名国数177カ国、批准国138カ国、条約発効に署名・批准が不可決の44カ国中、34カ国が完了している。
 署名・批准国数だけを見れば、CTBTは国際条約としては既に普遍的な条約のレベルに到達しているが、署名開始10年が過ぎた今日でも発効できない状況下にある。
 理由は簡単だ。44カ国の中で10カ国が署名・批准を拒否しているからだ。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は未署名国だ。
 公式の核保有国5カ国の中で未批准国は米国と中国の2カ国だけだ。特に、米上院本会議が1999年10月(クリントン政権時代)、批准を否決したことで、ジュネーブ軍縮会議でCTBT創設の原動力となってきた米国が今日、CTBT早期発効への最大の障害となっている。
 米国の出方を注視してきた中国やイランが批准作業を遅滞する原因でもある。民主党が上院の半数を獲得した現在、米国の批准が再び可能となるのではないか、といった憶測が流れているが、「ワシントンからはまだなんのシグナルも届いていない」(CTBTO関係者)という。
 NPT体制から見た場合、北朝鮮、パキスタン、インドを抱えるアジア地域が最も危険ゾーンといえるわけだ。北朝鮮は昨年10月、核実験を実施する一方、核兵器保有国のインドとパキスタン両国間では依然、包括的な和平体制が確立されていない、といった具合だ。
 それとは好対照なのは欧州地域だ。核保有国のロシア、英国、フランスの3国は既にCTBTを批准済みだ。冷戦時代、東西間の紛争を体験してきた欧州が今日、NPT体制では模範地域となっている。その意味で、欧州がイランとの核交渉で米国に代わって主導的役割を果たす事ができるのは決して偶然ではないわけだ。少なくとも、欧州はNPT体制の擁護者として振る舞う事ができるわけだ。それに対し、米国はNPT体制の「支持者」であると共に、「改革者」といった2つの顔を使い分けている。