イランの精神的指導者アリ・ホセイン・ハメネイ師(67)の健康状況が優れない。腰などが悪く長期間、立っての演説はもはや出来ない。直ぐ、椅子が必要となる。目も悪く、昔、政敵に襲撃されて右腕を失っている。年齢的には高齢過ぎるとはいえないが、同師の肢体は満身創痍といった状況だ。
 ここにきて、同師の健康問題が表面化してきている。公式行事への出席回数が急減しているからだ。実際、昨年末から公の場にほとんど姿を見せていない。そのため、同師の死亡説が一時期、流れたほどだ。
 ハメネイ師に何かがあった場合、後継者問題が表面化するが、最高指導者を選出する専門家会議では明確な後継者がいない。そのため、最高指導者が空席といった「権力の空白」が生じる危険性もあるわけだ。ちなみに、専門家会議は86人(任期8年)から構成され、全員が聖職者だ。
 イラン革命の祖ホメイニ師が1989年6月亡くなると、専門家会議は大統領だったハメネイ師を素早く後継者に選出できたが、今回ばかりは人材不足というより、飛びぬけた有力候補者がいないのが実情だ。
 ラフサンジャ二師は前大統領の改革派の前大統領ハタミ師を推しているが、反対が強いから、ハタミ師の選出は現実的でない。
 一方、ラフサンジャニ師自身が選出される可能性は完全には排除できない。同師の強みは資金力だ。本人は「私は貧しい聖職者に過ぎない」といっているが、原油輸出などで膨大な資金を持っていることはイラン国民ならば良く知っている。潜在的な有力候補としては、司法府長官のハシェミ・シャハルーディ師の名が挙げられるが、同師の弱点はイラク出身という出生地問題がある。
 イランの政治構造は複雑だ。反イスラエルを声高に叫んでいるアハマディネジャド大統領は議会と共に直接選挙で選出されたが、実質的な政治権力はない。最高指導者ハメネイ師との関係が悪くなれば、大統領の政治生命は終わりに近くなる。現に、アハマディネジャド大統領は国民ばかりか、核問題の対応の失敗で国連制裁を課せられた事に対して、ハメネイ師からも批判を受けている。
 大多数の国民は国連制裁で厳しい生活を余儀なくされ、政治には関心が少ない。その一方、大統領は核問題で強硬政策を実施、愛国心を訴えることで国民の結束を図っているが、国民の支持は久しく大統領から離れている。最高指導者ハメネイ師はどうかといったら、先述したように、健康問題を抱えている、といった具合だ。イランの現状は爆発寸前の火山のような状況だ。
 欧米諸国は、「イスラエルを世界の地図から抹殺すべきだ」といったアハマデイネジャド大統領のメディア受けする発言に関心を集中する余り、イラン国内で静かに進行中の「ハメネイ師後」への対応が遅れているのではないか、と危惧している。