ローマ・カトリック教会総本山のバチカン法王庁(正式名「バチカン市国」)には毎年、1900万人を超える信者や旅行者が訪れるが、バチカン市国の犯罪発生率(人口10万人に対する犯罪件数)が異常に高いことが、法王庁がこのほど公表した犯罪統計で明らかになった。
 バチカン市国の人口は492人(多くは聖職者)だが、昨年度犯罪発生総件数は827件で、そのうち486件が刑事訴訟手続き、341件が民事訴訟手続きがそれぞれ行われた。もちろん、犯罪件数の実数はそれよりかはるかに多いことはいうまでもない。
 次に、犯罪の内訳をみると、大多数はスリや置き引きといった軽犯罪だ。検挙率は発表されていないが、低いものと見られる。なぜならば、容疑者の多くが犯罪後、イタリアから出て行くため、同国警察当局も犯罪捜査が容易ではないからだ。
 ところで、人口492人、犯罪件数827件ということは、国民1人当たり、2件弱の犯罪が起きていることになる。この犯罪発生率が異常に高いことを理解するために、犯罪が増加しているドイツを例に挙げてみよう。同国では昨年度639万1715件の犯罪が発生し、人口10万人に対する犯罪発生率は7747件だった。ドイツで犯罪発生率が最も高い都市フランクフルト市でも1万7570件だった。すなわち、バチカン市国の犯罪発生率はそれを大きく上回り、統計上では世界の中でもダントツに高いわけだ。
 バチカン市国のために弁明すれば、人が集まる観光地ではスリや置き引きなどの窃盗犯罪は多発しやすい。バチカンも例外ではない。特に、ローマ・カトリックの総本山を訪れる観光客は「神の宮である法王庁で犯罪などは生じない」といった間違った思い込みが案外強い。その油断が窃盗犯罪を容易にしているともいえるだろうか。
 ちなみに、バチカン側は今日、テロ対策、犯罪対策関連情報の交換がスムーズに運ぶために、シェンゲン協定の加盟を検討しているという。