欧州では禁煙運動が活発だ。アルプスの小国オーストリアでも公共施設の禁煙の方向で準備が進められている。もちろん、たばこ業界ロビイストや愛煙家たちの激しい巻き返しはあるが、欧州の大勢は公共場所の全面禁煙にある。
 アイルランドが2004年4月、欧州で初めて禁煙を決定したのを皮切りに、他の欧州連合(EU)の加盟国も禁煙に乗り出してきた。イタリアとスウェーデンは昨年から実施。フランスでも来年2月から厳しい規制が施行される。第一段階として公共施設での禁煙だ。08年からは喫茶店、レストラン、ディスコでも禁止される。いずれにしても、愛煙家を取り巻く環境は一段と厳しくなってきたわけだ。
 共産政権時代、当方は多くの愛煙家と出会った。彼らは当時、反体制派活動家として活動し、ある者は長い間、刑務所や収容所生活を余儀なくされてきた。
 その1人、チェコスロバキアの反体制運動「憲章77」のリーダー、バツラフ・ハベル氏(元大統領)は愛煙家で有名だ。同氏は5年余り刑務所生活を体験している。同氏は後日、喫煙が原因で肺疾患に悩まされている。当方との会見時にも同氏の口からは紫煙が上がっていた。また、中国の著名な反体制派活動家の魏京生氏は文字通り、ヘビー・スモーカーだ。休みなく紫煙を上げていた。当方がウィーンで同氏とインタビューした時も、煙の隙間から同氏の表情を追ったほどだ。同氏は通算18年間、収容所生活を送っている。
 愛煙家のハベル氏と魏京生氏は、国は異なるが収容生活を体験している。喫煙以外の楽しみがなかった収容生活で、反体制派活動家は紫煙の行方を追って慰めを感じていたのだろうと想像する。
 愛煙家・ハベル氏も魏京生氏も共産政権の反体制派活動家であるが、禁煙攻勢を受ける現在の愛煙家は次第に社会の反体制派と見なされてきた。両氏と違うのは、現代の反体制派愛煙家には喫煙以外の楽しみがあるということだ。