当方は1人のギャンブラーを知っている。というより、長年、否応なく顔を突き合わせてきた。国連記者室の当方のデスクから、そのギャンブラーの顔をいつも見てきた。多分、もう暫くは見つめ続けなければならないだろう。
そのギャンブラーの詳細な身元はいえないが、当方と同じように、ジャーナリストだ。冷戦時代にはBBC放送や「ドイチェ・べレ」で結構、いい仕事をしてきた。しかし、当時からギャンブラーだった。口座に入ってくる給料やインタビュー代は直ぐ消えた。もちろん、カジノ通いでだ。
彼は昔、金持ちだった。その時、カジノ通いを覚えてしまった。しかし、数年で全ての持ち金を失った。ウィーンのカジノ・ファンならば、彼の名前を知っている。それほど、彼は伝説的なギャンブラーだった。しかし、ギャンブラーで金を貯める人間は少ない。ほとんどが財産を失っていく。彼もその中の1人だ。彼はオーストリアのカジノでは遊べなくなった。借金が溜まり、裁判で破産宣言を受けたからだ。オーストリアのカジノでは、彼の名前はブラックリストに載っている。
その後、暫くはカジノ通いを止めた。というより、通えなかった。しかし、どうやら、また始まったのだ。今度はオーストリア国境に近いチェコのカジノへ通い出したのだ。車で1時間のところだ。
徹夜でカジノで遊んできた彼は翌日、記者室に現れると当方に「最初は良かったが、最後はスッカラカンになってしまったよ」という。当方は「勝った段階で止めればいいのに。最後までするから、全てを失うんだよ」と、これまた過去、何度もいってきた台詞を繰り返す。効果がないことを知っている。勝っている段階で止めるのならば、破産などしなかったはずだ。
当方は彼に1度聞いたことがある。「なぜ、ギャンブルをするのか」と。彼曰く「お前には分からないだろうが、ギャンブルには膨大なエネルギーと集中力が必要だ。全てを忘れてルーレットを追う。馬鹿かもしれないが、いつも今度こそは当たると確信が沸いてくるのだ。だから、また遊ぶ。1度、このサークルに落ちると、もはや出てこれなくなるのだ」と説明し、「多分、自分は病気だ」と自嘲的に笑った。
「彼は馬鹿ではない。馬鹿だったら、大臣などとインタビューできない。しかし、自分でもいっていたように、彼は病気なのだ」
同業者の姿をデスク越しに見ながら、当方は少々やりきれなくなり、深い溜息をついた。
そのギャンブラーの詳細な身元はいえないが、当方と同じように、ジャーナリストだ。冷戦時代にはBBC放送や「ドイチェ・べレ」で結構、いい仕事をしてきた。しかし、当時からギャンブラーだった。口座に入ってくる給料やインタビュー代は直ぐ消えた。もちろん、カジノ通いでだ。
彼は昔、金持ちだった。その時、カジノ通いを覚えてしまった。しかし、数年で全ての持ち金を失った。ウィーンのカジノ・ファンならば、彼の名前を知っている。それほど、彼は伝説的なギャンブラーだった。しかし、ギャンブラーで金を貯める人間は少ない。ほとんどが財産を失っていく。彼もその中の1人だ。彼はオーストリアのカジノでは遊べなくなった。借金が溜まり、裁判で破産宣言を受けたからだ。オーストリアのカジノでは、彼の名前はブラックリストに載っている。
その後、暫くはカジノ通いを止めた。というより、通えなかった。しかし、どうやら、また始まったのだ。今度はオーストリア国境に近いチェコのカジノへ通い出したのだ。車で1時間のところだ。
徹夜でカジノで遊んできた彼は翌日、記者室に現れると当方に「最初は良かったが、最後はスッカラカンになってしまったよ」という。当方は「勝った段階で止めればいいのに。最後までするから、全てを失うんだよ」と、これまた過去、何度もいってきた台詞を繰り返す。効果がないことを知っている。勝っている段階で止めるのならば、破産などしなかったはずだ。
当方は彼に1度聞いたことがある。「なぜ、ギャンブルをするのか」と。彼曰く「お前には分からないだろうが、ギャンブルには膨大なエネルギーと集中力が必要だ。全てを忘れてルーレットを追う。馬鹿かもしれないが、いつも今度こそは当たると確信が沸いてくるのだ。だから、また遊ぶ。1度、このサークルに落ちると、もはや出てこれなくなるのだ」と説明し、「多分、自分は病気だ」と自嘲的に笑った。
「彼は馬鹿ではない。馬鹿だったら、大臣などとインタビューできない。しかし、自分でもいっていたように、彼は病気なのだ」
同業者の姿をデスク越しに見ながら、当方は少々やりきれなくなり、深い溜息をついた。