北朝鮮とイスラエルの接近が報じられた直後、テルアビブから電話があった。ウィーンを訪問するが、その時に当方と会いたいという。その数日後、電話の主から、ウィーン市内のビジネス・ホテルに宿泊中と連絡が入った。
 ホテルの指定の部屋に行く前に、ホテルの受け付けにその人物について聞いた。定期的にホテルを利用する客で、今回も数日間、ウィーンに滞在する常連客という。
 部屋に入ると、電話の主が当方を歓迎してくれた。名刺をみると、輸出入業の会社経営をしている。ここではN氏と呼ぶ。
 話のテーマは北朝鮮とイスラエル間の外交交渉だった。N氏は政府から北朝鮮との交渉の調停役を命じられているという。
 同氏は「ジュネーブで李哲北朝鮮大使と既に会合した」という。北朝鮮の要人の名前が同氏の口から出てきた。かなり、北朝鮮情勢に熟知しているといった印象を与えた。
 しかし、N氏の会合目的が最後まで読めなかった。イスラエルが北朝鮮との通商に関心がある、ということだけは分かった。当方の身元を調べている、といった感じも受けた。
 シモン・ペレス氏がラビン政権下の外相時代、「北朝鮮との外交関係樹立か近い」といった情報が流れたことがあった。ウィーンを訪問した同外相は当時、当方の質問に答え、「北朝鮮に経済支援をするほどイスラエルは豊かではない」と述べ、北の中東ミサイル輸出停止と引き換えに経済支援を実施するという一部メディアの報道内容をやんわりと否定したものだ。
 イスラエルにとって、イラン、シリアにミサイルを輸出する北朝鮮と外交関係を締結することで、同国の中東ミサイル輸出を止めたいという意向が強い。その上、北朝鮮の豊かな鉱物資源に関心がある。一
 方、アラブ諸国と深い関係がある北朝鮮はイスラエルと関係を結ぶことで、先端科学技術の獲得の道が開かれる上、イスラエルの背後に控える米国に一歩近づくことができるという期待がある。その意味で、両国の外交樹立はそんな遠くない将来に実現するかもしれない。
 ちなみに、当方は、N氏がモサドのメンバーであったと確信している。