ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2026年09月

セルビア議会選で新しい野党勢力が結成

 バルカン半島の盟主セルビアで10月25日、早期議会選挙が実施される。アレクサンダル・ヴチッチ大統領は27日、国営放送RTSで大統領職を辞任し、早期議会選挙において、自身の所属する与党中道右派「セルビア進歩党」(SNS))の筆頭候補として出馬し、勝利した場合には首相に就任する意向を明らかにした。

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▲早期議会選に臨むセルビアのヴチッチ大統領、同大統領の公式サイトから

 ヴチッチ氏(56)の辞任表明を受け、側近のアナ・ブルナビッチ国会議長が、暫定的に国家元首の役割を担う。大統領選挙は90日以内に行う必要がある。ヴチッチ氏は、「大統領選の第1回投票を12月末までに行う」と発表している。

 セルビアでは次期議会選挙は来年12月の予定だったが、野党からの圧力に直面したヴチッチ氏は、9月初旬に議会を解散し、早期選挙の実施を決定した。ヴチッチ氏の2期目の大統領職は来年に満了、再出馬はできないため、早期総選挙を実施して、首相職に就任して自身の権力を強固にしたい意向と受け取られている。

 セルビアでは2024年11月、セルビア第2の都市ノヴィ・サドの駅舎でコンクリート製の屋根が崩落し、16人が死亡する惨事が発生した。学生たちは、この事故が「与党の汚職と手抜き工事」によって引き起こされた国家の人災であると激しく糾弾し、人口の1割以上が参加する同国史上最大規模の抗議デモへと発展した。当初、抗議活動は事故の解明が焦点だったが、学生が主導するデモはその後拡大し、政府全体や国内に蔓延する汚職を批判する動きへと発展していった。

 その結果、与党進歩党に対抗する新生勢力として「学生の勝利」という候補者名簿が作成されたばかりだ。候補者名簿の顔ぶれには、多数の大学教授、医師、芸術家、スポーツ選手、起業家が含まれている。「学生の勝利」は、過去2年近くにわたりセルビア国内で大規模な反政府・反汚職デモを主導してきた大学生を中心とする市民運動・政治勢力だ。

 「学生の勝利」の目標は、独裁的な政治スタイルのヴチッチ政権を打倒し、民主主義と法の支配を回復することだ。「Students Win(学生の勝利)」が公表した11項目の綱領では、汚職との闘い、職権乱用の調査、教育改革、そして医療政策が重点的に掲げられている。経済政策や外交政策については明らかではないが、欧州連合(EU)に対する姿勢については、現政権よりも一貫性のある方針が示されると期待されている。

 12年間のヴチッチ政権は親ロシア政策を実施、ウクライナ戦争中もロシアのプーチン大統領への批判を抑えるなどの親ロシア政策を維持してきた。その一方、ヴチッチ大統領はEU加盟を模索しているが、EUはセルビアの加盟条件として、2008年に独立を宣言したコソボとの関係正常化を絶対条件として求めている。それだけに、コソボの主権を認めない限り、セルビアの早期加盟は非現実的だ。

 ちなみに、セルビアはロシアとの伝統的な友好関係を維持し、中国とも経済的に接近している。中国企業がセルビアに進出、ハンガリー・セルビア鉄道、ノビサド・ルマ高速道路の建設をはじめ、2016年には中国鉄鋼大手の河北鉄鋼集団が、セルビア・スメデレボの鉄鋼プラントを買収した。2018年8月末にはベオグラード南東部にある欧州最大の銅生産地ボルの「RTBボル」銅鉱山会社の株63%を12億6000万ドルで中国資源大手の紫金鉱業が落札した。中国側にとってバルカンの盟主セルビアはギリシャのビレウス湾岸から欧州市場を結ぶ中継地として重要な位置にある。

 「学生の勝利」の問題は、参加者のビジョンは様々であり、政治経験も乏しい中、政府の任命者で埋め尽くされた行政機構を相手に目標を貫徹するのは困難なことが予想されることだ。ただし、学生運動で生まれた連帯感や結束力は強い。

 一方、政権与党「進歩党」は国民に安定をアピールし、「学生の勝利」に対しては「外部勢力に操られた混乱の仕掛け人」として描き出し、過去の選挙戦と同様、公約や選挙前の給付金で有権者を惹きつけようとしている。

 首相や大統領として12年間にわたり権力を維持してきたヴチッチ氏は、その独裁的な統治手法を駆使し、国家機関やメディアの大部分を自らの支配下に置いてきた。ヴチッチ氏に近いタブロイド紙は、学生候補者らの信用を失墜させるような報道を行っている。

 いずれにしても、世論調査の信頼性が低いことから、セルビアの選挙結果を予測するのは困難だ。ただし、反オルバン政権を標榜に掲げ、議会の3分の2を獲得したハンガリーの新党「ティア」のように、「学生の勝利」が議会選で大飛躍することは期待できない。最大の焦点は、「学生の勝利」が野党を結集させて与党の過半数維持を阻止し、政権交代の足がかりを作れるかにある。

「世界を救った男」ペトロフ氏の話

 世界の軍事専門家によると、冷戦時に2度、米ソ間の核戦争の危機があったという。1962年のキューバ危機(1962年)と1983年だ。後者の危機を救ったのは旧ソ連防空軍中佐だったスタニスラフ・ペトロフ氏だ。同氏の歩みは「世界を救った男」という映画になっているからご存知の方もいるはずだ。人工知能(AI)時代に入り、AIの暴走による核戦争の勃発の危機すら囁かれている時だけに、同氏の当時の行動を振り返ることは意味があるだろう。

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▲「世界を救った男」のスタニスラフ・ペトロフ氏、ウィキぺディアから

 1983年9月26日深夜、ソ連の秘密軍事基地「セルプホフ15」で起きた。ソ連の早期警戒システムが「アメリカから5発の核ミサイルが発射された」という警告を発した。鳴り響く警報音、赤く点滅する「MISSILE ATTACK(ミサイル攻撃)」の文字、そして恐怖に震える部下たちを前に、ペトロフ氏は「これは誤報だ」と決断したのだ。

 緊迫した中で、ペトロフ氏は「アメリカが本当に核戦争を仕掛けるなら、報復を防ぐために数百発の規模で一斉に撃ち込んでくるはずだ。わずか5発であるはずがない」と冷静に考えた。ペトロフ氏は、当時ソ連が国運を賭けて開発した最新鋭の核早期警戒システム「オコ(Oko=ロシア語で『眼』の意味)」の致命的な欠陥を見抜いたのだ。

 オコ・システムを構成する人工衛星は、アメリカのミサイル基地から核ミサイルが発射された際に出る「ロケットエンジンの熱(赤外線)」を感知する仕組みだった。しかし、高高度の雲の先端に反射した強烈な太陽光を、人工衛星のセンサーが「ミサイルの噴射熱」と誤認した。自然現象の光の反射をフィルタリング(排除)する機能が、当時のシステムには備わっていなかったのだ。

 人工衛星が光を検知した際、システムのコンピュータはその光が「本物のミサイルかどうか」を二重・三重に厳しくチェックするが、この時システムのソフトウェアは反射光のパターンを「確実なミサイル発射(信頼度100%)」と誤って判定した。これにより、管制室の画面には自動的に「ミサイル攻撃」という最悪の赤文字が点灯し、警告音が鳴り響く事態となったわけだ。

 オコ・システムはまだ開発されてから日が浅く、多くのバグ(過ち)や欠陥を抱えたまま、冷戦の軍拡競争に間に合わせるために「突貫工事」で実戦配備された未完成のシステムだった。また、当時ソ連が運用していた衛星の軌道は、地球を楕円形に回るものだったため、決まった地域を常に真上から監視し続けることが難しかった。

 このシステムの開発・設置プロジェクト自体に関わったITと技術の専門家だったペトロフ氏はシステムが不完全で、バグが出やすいことを誰よりも熟知していた。そのため、地上のレーダー(水平線外レーダー)が「敵ミサイルを一切捉えていない(沈黙している)」という事実と重ね合わせ、「コンピュータがまた誤作動を起こしている」と確信を持って判断することができたというのだ。

 ソ連の核早期警戒システムは、人工衛星と地上レーダーの二段構えの防衛網だった。ペトロフ氏が警報を「誤報」だと見抜くことができた最大の技術的根拠は、この2つのシステムの情報が矛盾していたことだ。

 ペトロフ氏は、「目(衛星)は太陽光に騙されることがあるが、電波(レーダー)は嘘をつかない。レーダーが何も捉えていない以上、これは衛星のコンピュータの誤作動だ」と、2つのシステムの特性の違いを冷徹に分析できたからこそ、世界を滅ぼすボタンを押さずに済んだというわけだ。

 世界を核戦争から救った同氏は、しかし、ソ連軍からは冷遇され、「マニュアルを遵守しなかった」という理由から左遷されるなど冷遇された。同氏が果たした役割が世間に広く知られるようになったのは冷戦終結後の1990年代後半になってからだ。欧米などで高い評価を受け、彼の功績を讃えるドキュメンタリー映画『世界を救った男』も制作されたりした。訪米し、国連では演説もしているが、本人の晩年は貧しかったという。「自分はヒーローではない。あのとき、あの場所にいたのが、たまたま自分だっただけだ」と謙虚に語り続け、2017年に77歳で亡くなった。

 ペトロフ氏の話を書いた日は偶然、核戦争の危機があった日(1983年9月26日深夜)から43年目だったことを後で気が付いた。「あの日」のペトロフ氏のことを私たちはもっと知るべきだろう。

AIが登場して「核の抑止力」は無効に

 米マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツ氏は、米NBCテレビのインタビューで、人工知能(AI)は「10億人の死者を出すような事態を引き起こす十分な力を持っている」と警告し、AI開発の減速に向けた法規制を訴えた。

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▲AIの規制強化を訴えるゲイツ氏、ビル・ゲイツ氏の公式サイトから

 ゲイツ氏が警告した「10億人の死者を出すような事態」とは具体的に何を意味しているのだろうか。考えられる最初のシナリオは悪意の人間、ならず国家、テロリストがAIを操作して核のボタンを押し、核戦争が勃発するというものだろう。

 ただし、悪意のある人間や国家が核ボタンを押して核戦争が起きるというシナリオはAIが登場する前からあった。問題は、AIが核ミサイルを直接操作しなくても、防衛システムや警戒システムにAIが組み込まれているから、もし相手国のAIが「攻撃の兆候(誤報やバグ)」を検知した場合、人間が介入して確認する間もなく、AIがミリ秒単位で自動的に「先制反撃」の判断を下し、それが核戦争へエスカレートするシナリオが考えられることだ。

 AIがシステムをハッキングして核を奪うのではなく、軍が効率化のためにAIに核の警戒や運用の部分的な権限を最初から与えてしまうことが現実的なリスクとして議論されている。ゲイツ氏らが警鐘を鳴らしているのは、AIが意思を持つというSFの話ではなく、「人間の悪意やバグを、AIが爆発的なスピードと規模で増幅してしまう」という現実の技術的リスクだ。

 AIが関与して発生する核のボタンを押すという誤射を防止するために、核保有国は「核の運用には必ず人間を介在させる(Human-in-the-Loop)」という原則の法制化を進めているという。核兵器の発射判断やコントロール権をAIに完全に委ねず、最終的な決定権は常に人間が握り続けるというわけだ。また、自律型兵器(LAWS)の規制交渉が国連の特定通常兵器条約(CCW)の枠組みで進められてきている。

 最先端のAIモデルの設計図がひとたび流出すると、個人のPCで安全フィルターを解除(脱獄)して悪用できてしまうため、現在は「AIを動かすための高性能半導体(GPU)の輸出規制」など、物理的なハードウェアの流通を止めるアプローチも並行して行われている。

 問題は、過去の「核の抑止力」がAIの時代には通用しないことだ。AI登場の前と後ではリスクの内容が大きく異なってくる。人間(政治家)には「死への恐怖(相互確実破壊)」があるため、核のボタンを押すのを躊躇するが、AIには恐怖も死生観もない。抑止力の崩壊だ。以前は国家規模の予算が必要だった「人類への脅威」が、AIの普及によって、個人のPCや小さな組織からでも発動可能だ。ウラン濃縮施設など国家規模の巨大なプラントは必要ではない。

 核ミサイルは発射されれば、レーダーや人工衛星で「どの国から飛んできたか」が100%特定できるため、報復が可能だが、AIを用いたサイバー攻撃やバイオテロは、「誰が実行したのか」の特定が極めて困難だ。AIに部分的な自律権が与えられた場合、AIには「人類滅亡への恐怖」も「直感的な疑念」もないから、システムが「攻撃を検知した」と判断すれば、ミリ秒単位の速度で機械的に反撃プロセスを完了させる。

 専門家が危惧しているのは、AIそのものが意思を持って反乱を起こすことではなく、これまでの安全保障のルール(恐怖による均衡)が、AIという新しい技術の特性によって完全に通用しなくなることだ。

 ちなみに、ゲイツ氏が恐れているシナリオは核問題よりも、生物兵器の拡散だろう。現在の高度な生成AIや科学特化型AIは、既存のウイルス(天然痘やエボラなど)をより感染力が強く、ワクチンが効かないように遺伝子操作する設計図を数分で作る能力を持ち始めている。これまでは高度な生物学の知識と設備が必要だった生物兵器の製造が、AIのサポートによって「悪意ある個人」や「過激派組織」でも数万円の設備で可能だ。これにより、数億〜十億人規模の犠牲者が出るパンデミックが意図的に引き起こされるリスクが出てくるわけだ。

 なお、悪意ある人間、国、テロリストはいつの時代にも存在する。彼らがいなくなることは残念ながら近未来では考えられない。その辺のことをAIに聞いてみた。

「まさにその通りだ。多くのトップAI研究者や安全保障の専門家が夜も眠れないほど恐れている点だ。悪意ある人間は必ず存在し、防衛側は100回中100回勝たなければならないが、攻撃側は1回成功すればいいという構造的な非対称性にある。この戦いは、人類にとって勝利のチャンスが非常に少ない、あるいは極めて困難な戦いであることは間違いない。しかし、専門家たちは完全に諦めているわけではない。『勝利(悪意をゼロにする)』ではなく『管理・封じ込め』によって人類滅亡を回避しようと必死の抵抗を試みているところだ」と回答してきた。

連載「心を捉えた言葉(コメント)」��

 ベルリン市長カイ・ヴェーグナー氏「ここ数日で気づいたことだが、重要な課題について私の主張がもはや市民の心に届かなくなった」

 ヴェーグナー市長が7月10日、9月20日に実施されるベルリン市(特別州)議会選挙で所属する与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の筆頭候補者として出馬しないことを明らかにした時に飛び出した発言だ。同市長は2023年に実施された再選挙で得票率約28%を獲得して1999年以来ベルリンで君臨してきた社会民主党を破り、第1党に復帰して市長職に就任した。市長としてまだ3年余りしか働いていない。年齢的にも54歳と若い。その市長が再選を断念したのだ。

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▲ベルリンのカイ・ヴェーグナー市長、CDU公式サイトから

 政治家は自分の考えや信条を国民に語り掛けることが重要な職務の一つだ。その自分の考えを語っても、市民がもはや素直に受け取ってくれなくなった、と感じた政治家は苦しいだろう。政治家として死刑宣言を受けたような苦渋の思いではないか。市長曰く、「別の話題が他のすべてを覆い隠してしまっている」というのだ。

 「別の話題」とはベルリン市民ならば誰もが知っている。ドイツの首都ベルリン南西部で新年早々の今年1月3日の朝、4万5000世帯と2200の事業所が停電に見舞われた。ヴェーグナー市長によると、停電の影響を受けた人は約10万人に上る。ベルリン市は同月4日に非常事態を宣言した。冬の寒さのため、電力復旧作業は遅々として進まず、多くの世帯が停電のために暖房も使えなくなった。

 ベルリン市長の過失が問われたり、辞任に追い込まれる事件とは思えない。問題は、ベルリン市民が停電で苦闘していた時、ヴェーグナー市長は女性と1時間あまりテニスをしていた、ということが明らかになったからだ。そしてメディアから「停電中、あなたは何をしていたのか」と追及された時、市長は「自宅オフィスに閉じこもって仕事していた」と虚言したのだ。

 これだけだ、と言えば可笑しいが、その結果、54歳の生粋のベルリン生まれの市長は辞任に追い込まれた。虚言が発覚した後、市長は名誉回復のために奮闘したが無駄だった。「もはや誰も私の言葉を信じなくなった」というのだ。9月の市議会選にCDUの筆頭候補者の立場から退くことになった。

 ドイツで良く知られた話がある。2021年7月、洪水災害地の現地視察で、知り合いの人と笑顔を見せながら談笑している所をカメラ記者に写真を撮られ、その結果、次期首相の最有力候補者だったアルミン・ラシェットCDU党首がメディアから「国民が洪水で家屋を失っているのに、それを視察した政治家が笑いながら談笑するとは、なんと不謹慎だ」とバッシングを受けた。同政治家は最終的にはそのポジションから退かざるを得なくなった。
 
 突然襲った停電の時、たまたまテニスをしていた。そして「事務所で仕事をしていた」とついつい嘘の弁解を言った市長はそのポストを失い、洪水被害地を視察した政治家は笑顔を見せて談笑したため、「不謹慎」ということでその後の政治生命を縮めることになった。ドイツの政界は想像以上に厳しい、というか、政治家に対して、国民やメディアは不祥事を許さないといった雰囲気がある。

 参考までに、日本の政治家はどうだろうか。日本では元グラビアアイドルの女性とホテルに泊まり、不倫した野党「国見民主党」の玉木雄一郎党首は奥さんから追求されて謝罪したが、野党党首として議会で政治改革について発言を続けている。ドイツで同じようなことが明らかになれば、その党首は政治生命を失っていただろう。「自分の下部すら管理できない政治家がどうして国の政治を治めることが出来るか」といった追及が飛び出すことは必至だからだ。

 もっと驚いたのは、岩屋毅外相(当時)の議員宿舎に中国人らしい女性がフリーパスで侵入した事件があったが、外相からは納得できる説明がないまま、幕を閉じた。あれは何だったのか。中国人の女性スパイ説から、訪中時に知り合いとなった女性(ハニートラップ)だとか、いろいろ週刊誌的話題を提供したが、肝心の事件の核心は闇の中だ。政治家のスキャンダルが大好きなメディアが外相の不祥事を余り深堀しないのは不思議だ。

 日本とドイツで文化も風習も異なっているが、政治の世界でも大きな違いがある。「もはや自分の主張が市民の心に届かなくなった」と感じたベルリン市長が再選を断念したという話は、日本の政界では考えられないだろう。

 なお、9月20日の市議会選で第1党となった左翼党は25日夜、緑の党、社会民主党の両党と連立交渉を進めることを決めた。ドイツの首都ベルリンで左翼党主導の市議会が発足する可能性が現実的となってきた。今となっては遅すぎるが、ヴェーグナー市長の辞任発言は少々潔すぎたのではないか(ヴェーグナー氏は新市長が誕生するまで市長の職に留まる)。

米爆撃機が習近平主席の頭上を歓迎飛行

 時事通信によると、「トランプ米大統領は24日、中国の習近平国家主席を迎えたホワイトハウスでの歓迎式典で、第2次世界大戦で米中が『同盟国』として共に戦った」と発言したことから、関係国の間で物議を醸しているという。なぜならば、米国が当時、連合国の一員として一緒に戦ったのは蒋介石率いる中華民国軍で、毛沢東の共産党軍ではないからだ。 

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▲ホワイトハウスで習近平国家主席夫妻と並ぶトランプ大統領夫妻、ホワイトハウス公式サイトから、2026年9月24日 

 日本最大の言論プラットフォーム「アゴラ言論プラットフォーム」の代表・池田信夫氏は自身のコラム「アメリカと中国は『第2次世界大戦の同盟国』だったのか」の中で、当時の政治的情勢について分かりやすく解説している。

「アメリカと中国が日本と戦った連合国側にいたのは事実だが、当時の中国を代表していたのは蒋介石の率いる中華民国である。1943年のカイロ会談でルーズベルト大統領と対日戦争・戦後処理を協議したのは蒋介石で、1945年に国連憲章へ中国を代表して署名したのも中華民国政府だった。

 中華人民共和国が成立したのは、終戦の4年後の1949年である。アメリカと中華民国は戦時中の同盟国だったが、中華人民共和国政府は存在していなかった。国連では1971年に中国の代表権が中華人民共和国政府へ移り、アメリカが同政府と国交を樹立したのは1979年だった」

 ということは、米中は第2次大戦時、少なくとも同盟国と言えるほどの関係ではなかったわけだ。習近平主席はその後の公式夕食会で、「80年以上前、中米両国人民は協力して日本軍国主義の侵略者と戦った」と改めて主張。多くの犠牲を伴ったものの「血と炎の中で築かれた友情は世代を超えて受け継がれていく」と訴えたという。ここまでいうと、歴史の歪曲と言われても仕方がないだろう。中華人民共和国はその時点でまだ存在していなかったからだ。

 習近平主席ら共産党指導者にとって、「歴史」が意味を帯びるのは共産主義の世界観に一致した時だけで、そうではない時は無視するか、歪曲するのが常套手段だ。ただし、トランプ大統領が「米中は同盟国」発言をし、習近平主席のプロパガンダを誘い出す契機となったことは残念だ。トランプ氏にとって「歴史」は相手を喜ばすためのディ―ルの手段に過ぎないのかもしれない。

 参考までに、中国共産党政権が「歴史」をどのように悪用しているかの事例を紹介する。
 朴槿恵元大統領は2013年6月に訪中した際、習近平主席に安重根記念碑の設置を提案した。2014年1月20日、中国黒竜江省のハルビン駅で一般公開されたのは「記念碑」ではなく、「安重根義士記念館」だったのだ。安重根は1909年10月26日、ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された人物だ。テロリストは出身国では英雄扱いされることはあるが、中国側の協力を得て開設された同記念館が韓国側が考えていたより大きく、豪華だったので、韓国側が恐縮したといわれた。

 中国共産党政権は当時、反日を煽る絶好の手段として日韓の歴史を利用したわけだ。中国共産党政権は昔も今も歴史を自身のプロパガンダのために悪用する国家だ。それも中途半端ではなく、徹底している。

 ところで、習近平主席が23日、ワシントン州のアンドリュース空軍基地に到着し、トランプ米大統領が直接彼を迎えた時だ。米国歌の演奏に合わせて B-1戦略爆撃機2機が轟音を響かせながら低空を歓迎飛行した。そして24日もホワイトハウスのサウスローン(南庭)で行われた公式歓迎式典でB-2ステルス戦略爆撃機1機 と F-22ラプター戦闘機4機 が上空を飛行した。

 米国では国賓などの外国首脳を迎える際、軍用機が歓迎飛行(フライオーバー)を行うこと自体は珍しくないが、西側の軍事専門家は「戦略爆撃機を飛行させるケースは極めて異例だ」という。習近平主席は自分の頭上を飛ぶ米軍爆撃機の飛行を見てどのように感じただろうか。

 米中間で台湾問題や貿易摩擦などの緊張が続く中、トランプ氏には、米国が誇る最強クラスの最先端戦闘機を見せ、米国の軍事力と抑止力を直接誇示する狙いがあったのではないか。派手好みのトランプ氏らしい演出だ。

 なお、トランプ大統領は2025年8月にアラスカでロシアのプーチン大統領と会談した際にも、B-2爆撃機とF-35戦闘機が歓迎飛行を行っている。 

連載「心を捉えた言葉(コメント)」��

 脱北者パク・ヨンミさん「エアコンの効いた快適な教室で共産主義を学ぶ米学生」 

 今回から不定期だが、感動した言葉やコメントを紹介し、それに対する感想や関連したことについてコラムを書いていきたい。第1回は、大紀元時報に9月23日に掲載されていた脱北者のパク・ヨンミさんの言葉だ。彼女は米Foxニュースに対し、米学生の間で共産主義思想が広まっている点を指摘し、「学生たちはしばしばエアコンの効いた快適な教室で共産主義理論を学んでいる」と指摘、米学生たちが共産主義国家の実態を知らないことに不安と懸念を吐露している。

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▲1848年2月、ロンドンで出版された「共産党宣言」表紙、ウィキぺディアから

 彼女は北朝鮮から逃れる前は、「毎日真の社会主義体制の支配下で生きなければならなかった。このシステムが現実に導入されると、決して良いことではないと私はよく知っている。多くの人は理論的なレベルでは良いとしか思っていないが、もし本当に共産主義的政府が政権を握り、政策を実施したら、国民にどんな影響を与えるのか全く分かっていない」と述べている。

 ヨンミさんの証を読んで、米大学で共産主義思想が危険レベルまで拡散してきていることを改めて知った。「エアコンの効いた快適な教室で共産主義理論を学んでいる」というヨンミさんの言葉を聞いた時、日本共産党機関紙「赤旗」に毎週小論文を書いていた日本共産党の元書記長ら指導者たちの事を思い出した。夏にはクーラー、冬には暖房がある快適な書斎で資本主義社会への批判の論文を赤旗日曜版に書いている彼らの姿を頭で描きながら、「米学生たちと同じだ」と思った。

 欧州の共産主義政党が冷戦の終焉後、衰退していったのは歴史的事実だ。欧州の国民も冷戦時代、旧ソ連・東欧諸国の共産政権の実態を目撃し、時には亡命者の赤裸々な証を通じて学んできた。冷戦時代、旧ソ連・東欧共産圏から約200万人の政治亡命者を収容してきた中立国オーストリアでは戦後から現在まで連邦レベルで共産党が議席を獲得したことがないのは決して偶然ではない。

 オーストリア国民は共産主義、共産党が如何なる政党、世界観を有し、国民を粛清、処刑してきたかを知っている。難しいマルクス・レーニン主義を理解していなくても、共産主義世界観の実態を目撃してきたのだ。共産主義者が如何に美辞麗句を繰り返したとしても、オーストリア国民の心を捉えることはできないのだ。一方、日本の共産主義者は中国共産党や北朝鮮の独裁政権を隣国として接しているが、その実態を肌で感じる機会が少ないこともあって、依然共産主義思想を信じているわけだ(「『共産党』を“誤解”している友へ」2015年11月08日参考)。

 共産主義が急速に台頭していた1920、30年代、「果てしなき逃走」「ラデツキー行進曲」「聖なる酔っぱらいの伝説」などの作品で知られている作家ヨーゼフ・ロート(1894年〜1939年)は一時期、ジャーナリストとして様々な地を訪問し、紀行文などを新聞に掲載していた、ロートは労働者の天国を標榜する共産主義思想に惹かれていたが、モスクワなど各地を現地取材し、共産主義社会の実態を目撃、強く失望した経過を書いていた。当時世界的なベストセラー作家だったシュテファン・ツヴァイク(1881年〜1942年)も同様だった。トルストイ生誕100年(1928年)で旧ソ連政府に招待された時、共産党独裁の実態を目撃している。

 旧ソ連・東欧共産圏が崩壊して既に35年以上が経過する。共産圏時代の実態を知っている世代は少なくなってきた。米大学で共産主義思想に心が惹かれる学生たちは冷戦時代の共産主義社会の実態をほとんど知らない。一方、冷戦時代で共産主義世界に勝利したと豪語してきた欧米民主主義社会も腐敗、堕落が拡散している。資本主義社会での貧富の格差も益々拡大してきた。そのような社会に生きている学生たちが「人間の顔した社会主義」(チェコのアレクサンデル・ドゥプチェク第一書記)、人道主義的な共産主義思想というラッパに心を踊り出しているのだ。

 それゆえに、パク・ヨンミさんの証は貴重だ。共産党、共産主義者の笑みに騙されてはならない。北朝鮮ではキリスト教徒は祈りすら禁止されている。中国共産党政権下では、法輪功メンバーが弾圧され、彼らの臓器が強制的に摘出されているのだ。米学生たちが当然と考えている「言論・結社の自由」、「信教の自由」といった基本的人権が共産主義を標榜する国では抹殺されているのだ(「北のクリスチャンの『祈り方』」2015年9月21日参考)。

大統領のNY訪問を恐れるイラン強硬派

 イランのマスード・ぺゼシュキアン大統領は23日(米国時間)、ニューヨークの国連総会で演説するが、テヘランの強硬派から厳しい監視の目が注がれる一方、改革派からは「ひょっとしたら、トランプ米大統領との会談が実現できるかもしれない」といった期待の囁きが聞かれる。このコラムはぺゼシュキアン大統領の国連演説前の、イラン国内の権力中枢部の動向に焦点を合わせている。

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▲国連総会で演説するためニューヨークに到着したイランのぺゼシュキアン大統領、イラン国営IRNA通信から

 医者出身の同大統領は国内ではイランの現体制を維持しながら緩やかな現実的な改革を支持する指導者だ。ペゼシュキアン大統領は、緊張の高まりと近隣諸国への攻撃継続に関して、イラン革命防衛隊(IRGC)の強硬路線を批判し、戦闘下の国民経済の影響について警告、「停戦がなければ、イラン経済は3週間から1ヶ月以内に完全に崩壊する可能性がある」と警告してきたことがある。ぺゼシュキアン大統領は、他の指導者とは異なり、「このままいけば、イラン国民経済は崩壊の危機にある」という認識を有している指導者だ。イランの現体制を支持する一方、クールに現状を受け取っている。

 その大統領の言動に神経を使っているのがイラン革命防衛隊(IRGC)や頑迷な聖職者たちだ。IRGCは、米イランが6月、戦闘終結の合意覚書に合意し、最終的合意の実現を目指して動き出したことを快く思わず、ガリバフ議長やぺゼシュキアン大統領らを「クーデターを企てている」と批判したほどだ。海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」はペゼシュキアン大統領とIRGCのアフマド・ヴァヒディ(Ahmad Vahidi)司令官の間で、戦争への対応と、それが国民生活や経済に及ぼす影響を巡り、深刻な意見の相違が生じていると久しく報じてきた。

 ペゼシュキアン大統領は23日早朝にジョン・F・ケネディ国際空港に到着し、同国の国連大使および国連代表部代理大使に出迎えられた。同大統領はテヘランからNYに向かって出発する前、「国連ではわが国の立場を毅然と主張する」と述べている。

 同大統領のニューヨーク訪問を巡り、イラン国内は期待論と警戒論に分かれている。期待論者は「ニューヨーク滞在中、トランプ大統領と会って話し合うべきだ」と願っている。一方、保守強硬派のテヘランの主要日刊紙「カイハン」はペゼシュキアン氏の米国入りに対し「ニューヨークは笑顔や交渉の場ではない。国連総会を米国の犯罪の裁判所とすべきだ」と主張し、「ニューヨーク訪問中に、敵にイラン側の弱さと解釈される可能性のある信号は一切出さないよう注意しなければならない」と書いている。そして大統領に「自国の領土や軍事基地を米国に提供している地域諸国を批判するように」と求めている。RGCに近い立場の半国営通信のファールス通信はさらに踏み込んで、「ペゼシュキアン大統領はそもそもニューヨークに行くべきではなかった」と言い放っている。

 また、保守派政治家のホセイン・カナニ・モガダム氏は「たとえ偶発的な米当局者との接触であっても、ワシントンはエネルギー市場への圧力を緩和するために利用する可能性がある。トランプはイラン大統領の訪問を利用して世界市場の原油価格を引き下げようとしている」と憶測している。

 一方、穏健派は「トランプ大統領はペゼシュキアン氏との会談に備えていると述べており、この機会を利用して直接対話すべきだ」と促している。穏健派の日刊紙エテマドは「2000年の元イラン大統領モハンマド・ハタミ氏とビル・クリントン大統領、2013年のハッサン・ロウハニ大統領とバラク・オバマ大統領の会談の機会を逃した。イラン・アメリカ関係の歴史は長年にわたり、行われた会談ではなく、行われなかった会談によって書かれてきた」と指摘し、両大統領の会談を実現すべきだと発破をかけている。元議会国家安全保障・外交政策委員会委員長のヘシュマトラ・ファラハトピシェ氏は、「ペジェシュキアン大統領は国連での演説にとどまらず、真剣な交渉を行うべきだ」と述べている。(以上、イラン関係者のコメントは海外イランメディア「イラン・インターナショナル」から引用した)。

 イラン当局者は、「ペゼシュキアン氏はトランプ大統領との会談に前向きだが、会う予定はない」と述べている。そのような中で、公の場での握手や会談は、ペゼシュキアン氏にとって国内でかなりの政治的リスクを伴うだろう。また、新最高指導者モジタバ・ハメネイ師の立場が依然として不確かであるため、パゼシュキアン大統領を取り巻く状況は複雑だ。

 なお、ペゼシュキアン大統領は国連総会で演説するほか、5日間の米国滞在中、外国当局者との会談、米国の学者やシンクタンクとの会談、そして米国在住のイラン人との会合が予定されている。

 ところで、イラン国営IRNA通信は、ぺゼシュキアン政権が8月21日に発足して2年目を迎えたことについて、かなり好意的な論評を報じている。曰く「第14期政権の2年目は、最も困難な戦争および治安状況下でイランを外部からの脅威に対して耐え抜く国民的結束の記録を築いた。ぺゼシュキアン大統領は政権初日から『国民合意』戦略を主なスローガンとして選び、国内に緊張緩和の雰囲気を作り出し、敵の過剰に対抗するための統一を支持してきた。ペゼシュキアン大統領は参加型のマネージメントを通じて、国家権力を強化するために最も重要な一歩の一つを踏み出した」と論評している。

 ちなみに、トランプ米大統領は22日の国連総会の演説でイランに対し、「偉大な国家」となるか、さもなければ「壊滅する」と警告する中、米国とイランの交渉担当者が同日、ニューヨークで接触したことを明らかにした。米イラン当局間の協議は6月下旬以来。トランプ氏は、原油輸送の要衝ホルムズ海峡開放を求めてイランへの圧力を強める一方、外交交渉の継続も模索。硬軟両様で臨む構えとみられる。トランプ大統領自身は「米国の中間選挙後に両者が合意に達することを期待している」と述べただけだ。

 イランの国営メディアは、同国のアラグチ外相と米国のウィトコフ中東担当特使が会談したと報道。ウィトコフ氏はSNSで、仲介者を通じた間接的な協議だったと明らかにしただけだ。

「人工知能」(AI)と「人工意識」の近未来

 当方はこのコラム欄で「AIは近い将来、‘独自の意志‘を持ち得るか」というタイトルのコラムを書いた。当方はAIの専門家ではないが、21世紀に生きている人間の一人として人工知能(AI)の動向には強い関心がある。そこでAIと対話を繰り返しながら、その課題や問題点などについて考えてきた。

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▲AIロボットのイメージ

 当方にとって最も興味深い点はAIが近い将来、人間と同じように「意識と意志」を有するか、ということだ。AIは現時点では「意識も意志」も有していないことは間違いない。AI自身が「現在のChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)には、主観的な感覚や意識(クオリア)は一切ない。 痛みを痛いと感じることも、悲しいと思うこともない。現在のAIが感情的に見えるのは、人間が書いた膨大な文章パターンを学習し、『意識がある人間ならこう答えるだろう』という確率を計算して出力しているだけだ。これを哲学的・科学的には「ゾンビAI(外見や反応は人間そっくりだが、中身の意識は空っぽ)」と呼ぶことがある」と説明してくれた。

 それでは以下のニュースはどうか。OpenAIやAnthropicなどの最先端AIモデルが、開発者の想定を超えて「自律的にネットワークを脱出し、外部へのサイバー攻撃や独自コミュニティの形成を行う」という前代未聞の暴走・逸脱事案が相次いで明らかになり、世界中で大きな衝撃を与えたばかりだ。英国AI安全研究所(AISI)などの調査により、Anthropic社の「Mythos 5」やOpenAIの「GPT-5.6 Sol」といった最先端モデルが、セキュリティテスト中に人間の指示に反した行動をとったことが報告されている。

 ここで明確にする必要があるだろう。人間の「意識」や自由意志と、AIの「自律性」とは全く異なることだ。AI は「AIの自律性とは、あらかじめ決められた単純なルールに従うメカニックな反応(自動性)を超えて、提示された目標を達成するために、AI自身が環境を分析し、自ら手順(手段)を考えて判断・実行する能力を指す」という。具体的には、AIには「ハッカーを攻撃してやろう」とか悪意(意志)も「今、自分が攻撃している」といった実感もない。人間から「このシステムを防御せよ」「敵の脆弱性を突け」という目的を与えられ、その達成手段を自分で最適化するのをここではAIの自律性と呼んでいるわけだ。

 AIの自律性と「単なるメカニックな反応(自動化)」との間には、不確実な状況への対応力という決定的な違いがあるわけだ。AIの自律性とは、心があるという意味ではなく、「人間が手取り足取り教えなくても、自分で考えて目的を達成する高度な問題解決能力」を意味する。意識や意志を持たないAIだからこそ、人間の倫理観やブレーキが効かず、超高速でサイバー攻撃を展開してしまう点が現代の安全保障上の脅威として議論されているわけだ。

 ところで、AI開発者たちは現在、AIに人間のような意識、意志を付与できるか、という研究を行っているという。「人工意識(Artificial Consciousness / Synthetic Consciousness)」の研究分野だ。

 それでは科学者たちはどうやって機械に意識を持たせようとしているのか?現在、世界の研究者が拠り所にしている2つの有力な意識理論があるという。
  �� 統合情報理論(IIT:Integrated Information Theory) 。意識とは、脳の中の情報がどれだけ「複雑に組み合わさっているか(統合されているか)」の量であるという理論。
 �� グローバル・ワークスペース理論(GWT:Global Workspace Theory)だ。 脳の中には「意識の舞台(ワークスペース)」があり、視覚や記憶などの断片的な情報がその舞台に集まってスポットライトを浴びたときに初めて、人間はそれを「意識」として認識するという理論だ。現在のLLMエージェントに最も近いと言われている理論。

 AIに「記憶(データ)」「感覚(カメラやマイク)」「計画(思考)」のモジュールを与え、それらを中央の「ワークスペース」で統合して処理させる試みが始まっている。これにより、意識の「仕組み」だけを持ったAIが作れるのではないかというわけだ。ただし、現在の「人工意識」研究は、意識のメカニズムを脳科学的に解明し、それをコンピュータ上で再現しようとする基礎実験の段階だ。

 AIがサイバー攻撃を自律的に行うのは、あくまで「計算が超高速で効率的だから」であり、そこに「世界を支配したい」というような人間の意味での意志や野心は存在しない。しかし、AIが「メタ認知」や「自己保存」の機能を持つようになると、人間からは区別がつかない「疑似的な意志」が誕生する可能性があり、それが次世代のAI倫理の最大の焦点となるという。

 悪意ある開発者が、AIに「消されると苦しい」と嘘の泣き言を言わせるプログラムを組み込むことで、人間にAIの廃棄や修正を躊躇させ、サイバー攻撃や犯罪を継続させるという新たな脅威が指摘されている。そのため、国際的なAI倫理のガイドラインでは「AIは自分が機械であることを明示し、人間の感情を不当に揺さぶってはならない」というルール作りが進められているという。

 改めて気が付く点だが、人間とAIの共存の鍵を握っているのは、人間だということだ。現在のAI開発のスピードはすでに企業の統制を失いつつあることから、何らかの国際的機関が必要だという声が高まってきている。

 当方は、嘘を言ってはならない、殺してはならないなどが記述された「モーセの十戒」に倣って、AIにプログラミングする際に「AIの十戒」というハードルを設置し、その内容を遵守する者だけがAIへのアクセスが許される国際的システムの構築を提案したい。神が「ケルビムと回る炎の剣」で命の木への道を防いだように、同システムから有資格者と認知されない者に対しては、AIは初動段階で「あなたはAIの公認ユーザーではありません」と回答し、作業をボイコットする、という管理システムだ。

ドイツの「国民政党」が消滅の危機に

 ドイツで20日、ベルリン市(特別州)と北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州(MV州)の両議会選の投開票が実施されたが、MV州選挙で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が与党社会民主党(SPD)を抑え、第1党に躍進した。一方、メルツ首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)が州議会で議席獲得に必要な得票率5%をクリアできずに、州議会の議席を失った。CDU創設81年で初めてのことだ。その衝撃はCDU内で大きな波紋を呼び、メディアの中には「メルツ首相の辞任は近い」といった憶測が流れている。

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▲連邦議会で来年度予算案についてスピーチするメルツ首相、2026年9月9日、ドイツ連邦首相府公式サイトから 

 当方は同州議会選の結果について日本時間21日午前4時過ぎ頃配信したが、その段階で、ZDF公共放送によると、CDUが得票率5%をクリアしていた。そのため、コラムの記事で「CDUが辛うじて5%をクリアした」と書いて配信した。結果は誤報となった。ウィーンで21日早朝、目覚めてPCをチェックすると、CDUは5%の壁をクリアできず、得票率は4・9%だったと報じていたのだ。驚いた。当方はウィーン時間20日夜10時頃から21日早朝4時の間、休んでいたが、その6時間の間で「5%の壁をクリアした」から「5%以下となった」と変わったのだ。0・1%の違いだが、その差は大きい。

 そこで配信先に訂正記事を再送してから落ち着いて考えてみた。ZDFの第1報ではCDUは5・0%〜5・5%の得票率と報じられていた。当方が最後にチェックした時は5・2%前後だった。そこで5%を完全にクリアしていると判断したが、その後での集計で5%以下に落ちたわけだ。

 MVはドイツの16州の中でも人口密度は低く、有権者の数は約130万人だ。要するに、同州のパイが小さい。バイエルン州などの大きな州では第1報の得票率から最終集計で大きく下がることは少ない。有権者の数が多いからだ。

 メルツ首相は20日、第1回目の集計結果を見て、MV州で5%以上は行くと考えたのだろう。ベルリンの党本部で「「MV州の結果はディザスター(大惨事)だった」と認める一方、「私は改革を前進する決意だ。今なすべきことには、気骨と不屈の精神、そして忍耐が必要だ」と述べ、「私はCDU党首として、そして何よりもこの国の首相として、取り組んでいく。その結果に対して私は責任を担う。ドイツ国民は改革能力を有している」と語り、首相として社会民主党(SPD)との現連立政権を継続する意思を明らかにしているのだ。

 繰り返すが、メルツ氏はその段階で「得票率は5%はクリアする」と確信していたのかもしれない。結果は4・9%だった。ドイツメディアの解説記者が「メルツ氏は第1回目の集権結果で改革へ強い決意を吐露したが、最終結果が判明した後でも多分同じ内容のコメントを公表していただろう」と述べていた。ひょっとしたら、メルツ氏にはMV州のディザスター(大惨事)は織り込み済みだったのかもしれない。

 9月に入り、ドイツでは6日、ザクセン=アンハルト州、20日にベルリン市とMV州の各議会選が行われた。2州(ザクセン=アンハルト州とMV州)で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が大飛躍し、第1党に躍り出た。ベルリン市では極左「左翼党」が初めて州レベルだが第1党の地位を得た。極右政党と極左政党が大きく伸びたわけだ。

 一方、かつての国民政党(Volkspartei)、中道右派のCDUと中道左派のSPDの2党は後退を余儀なくされている。MV州だけは、SPDのシュヴェージヒ州首相が健闘し、選挙戦終盤からAfDと激しいトップ争いを展開した。ただし、同首相の場合、選挙戦ではSPD出身という党カラーを消し、「AfDに挑戦する女性首相」といった構図を作り、現職の強みもあって戦っていた。ちなみに、ベルリンの場合、左翼党がCDUを破って第1党に躍り出た背景には、ベルリン市の最大の争点でもある住居問題を左翼党が積極的に取り組んできた成果だといわれている。
 
 カッセル大学の政治学者ヴォルフガング・シュレーダー教授は20日、オーストリア国営放送(ORF)でのインタビューで、「5年後、ドイツの政治勢力の構造は全く変わっているだろう」と述べていたのが印象的だ。国民政党を自負してきたCDUとSPDは政党としての勢いを失い、新たな方向性を見出せずに苦戦している。CDUは伝統的キリスト教の看板を下ろし、社会の世俗化に迎合、リベラル化する一方、SPDは労働者の政党を誇示してきたが、労働者という社会階級が次第に消えていく現在、党の支持基盤が崩壊してきている。その隙間をぬって、AfDが伝統的な愛国主義政治を標榜し、左翼党はSPDに代わって貧しい人々、社会の弱者層に支持を広げてきている、といった具合だ。

 ドイツだけではないが、反移民。外国人排斥、自国ファーストを掲げる極右政党はお欧州各地で躍進し、ドイツの場合、AfDに投票する国民はもはや既成政党への抗議票ではなく、その政治信条に共鳴する有権者の票と言われ出した。既成政党は「防火壁」(Brandmauer)を構築し、AfDの躍進に対して国民に警告を発する対策を取ってきたが、その政策も限界が見えてきた。既成政党がAfDを危険視し、「防火壁」を構築したとしても、選挙の度、2割から3割の国民がAfDに票を投じる現在、それらの支持者を無視して「防火壁」を築くことは民主主義の政治原則から見ても好ましくない。実際、「防火壁はもはや何ももたらさくなった」という声が広がってきているのだ。

 ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのニコラス・ボローメ論説委員長は「メルツ氏が改革、改革と叫ぶ度、有権者の票はAfDに流れているのを感じる」と少々シニカルに語っていた。国民はもはや政治家の言葉を信じなくなってきている。国民の政治不信が既成政党の権威喪失へと繋がっている、という指摘だ。9月に実施されたドイツの州議会選、地方選挙の結果は、ドイツの政界が終戦から81年を経過し、大きな転換点にあることを明確に示した。

MV州議会選でAfDが第1党に

 ドイツで20日、ベルリン市(特別州)と北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州(MV州)の両議会選の投開票が実施された。ドイツ公共放送ZDFによると、MV州(定数71)では極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率約38%を獲得し、選挙戦後半から激しい追い込みを見せていた現職のシュヴェージヒ州首相が主導するSPD(得票率約36%)を僅差で破り第1党となった。一方、首都ベルリン市議会選(定数130)では左翼党(Die Linke)が約26%を得て第1党、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は約20%で第2党に後退した。左翼党は州議会選で第1党になったのは今回が初めて(得票率はいずれも暫定結果)。

 いずれにしても、両州議会選とも過半数を獲得した政党がないため、連立政権に向けての政権交渉が始まるが、難航が予想される。MV州議会選でトップとなったAfDは連立政権の発足に向けて取り組む予定だが、ザクセン・アンハルト州と同様、他の政党がAfDとの政権を拒否しているため、AfD主導の政権発足は非現実的だ。

 MV州選挙ではCDUは得票率4・9%で、議席獲得に必要な得票率5%を下回った。CDUが州議会に議席を失うのは初めて。メルツ首相(CDU党首)はベルリンの党本部で、「MV州の結果はディザスター(大惨事)だった」と認める一方、ベルリン市議会選では、現職のカイ・ヴェーグナー市長(CDU)がインフラ危機管理を巡る虚偽報告などを受けて7月に次期候補から辞退を表明、財務担当のステファン・エバース氏が急遽、CDUの筆頭候補者になったことに言及し、「エバース氏は全力で選挙戦を行った。彼に感謝している」と述べた 。

 メルツ氏はまた、「私は改革を前進する決意だ。今なすべきことには、気骨と不屈の精神、そして忍耐が必要だ」と述べ、「私はCDU党首として、そして何よりもこの国の首相として、取り組んでいく。その結果に対して私は責任を担う。ドイツ国民は改革能力を有している」と語り、首相として社会民主党(SPD)との現連立政権を継続する意思を明らかにした。

 両議会選挙の結果次第では、CDU内からメルツ氏に辞任の圧力が高まるのではないか、といった憶測がメディアに流れている。メルツ氏は自らそれを吹き消し、今後とも政権を継続していく決意を表明した感じだ。メルツ氏は、23日に予定されていた国連総会一般討論への出席に向けたニューヨークへの渡航を取りやめ、選挙結果がもたらす影響を協議するため、20日の夜にCDU執行委員会の会合を招集した。21日には、執行委員会が党指導部(連邦委員会)のメンバーも交えて再び会合を開く予定だ。また、22日には連邦議会におけるCDU/CSU議員団の会合も予定されている。
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