ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2026年04月

東欧の経済成長はユーロ圏を上回る

 ウィーン国際経済研究所(WIIW)は29日、中・東・南東欧諸国23カ国を対象とした新たな春季経済予測を発表した。それによると、イラン戦争によるエネルギー価格ショックにもかかわらず、経済成長は鈍化しているものの、大半の国で依然として堅調だ。しかし、中東での戦争が長期化し、原油価格の高騰が続く深刻なエネルギー危機に陥れば、東欧はより深刻な打撃を受ける可能性が高いという。以下、WIIWのプレスリリースの概要を紹介する。

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▲訪日したポーランドのドナルド・トゥスク首相と会見する高市早苗首相、2026年4月15日、首相官邸公式サイトから

 WIIW副所長であり、春季経済予測の主執筆者であるリチャード・グリーブソン氏は「今のところ、イラン戦争が東欧のEU加盟国に与える影響は、まだ対処可能な範囲にとどまっている。イラン戦争に端を発したエネルギー危機にもかかわらず、東欧諸国の経済は依然として堅調に推移している。2026年の東欧のEU加盟国の平均経済成長率を2.3%と予測している。これは、ユーロ圏(0.9%)を引き続き上回る成長率となることを意味する」と指摘。

 一方、中・東欧諸国が西側産業企業にとって有利な生産拠点であったモデルは、圧力にさらされている。WIIWによると、これは労働コストの急激な上昇が生産性向上によって相殺されないため、競争力が低下していることが原因だ。インフレの上昇、輸出需要の減少、サプライチェーンの混乱、そして直接投資のさらなる減少は、深刻な影響を及ぼす可能性がある。このことは、1990年代初頭以来初めて、この地域の防衛費がGDPに占める割合が、これまで支配的だった海外直接投資と同等、あるいはそれ以上になったという事実からも明らかであるという。

 WIIWは2026年の東欧のEU加盟国の平均成長率を2.3%と予測しており、これは冬期予測から0.3ポイント下方修正された。2027年の成長率も2.3%と予測されており、冬期予測から0.4ポイント下方修正されている。にもかかわらず、これらの国々は今年と来年ともにユーロ圏の2倍以上の成長率を達成する可能性が高い。ただし、グリーブソン氏は「中東で戦争が長期化する最悪のシナリオでは、この地域の一部の国では成長率が1〜1.5ポイント低下する可能性がある」と警告した。

 国別を見ると、2026年も東欧のEU加盟国の中でポーランドが3.6%の成長率で再び首位に立つと予測されている。しかし、2027年にはエストニア(2.8%)はポーランド(2.6%)をわずかに上回る成長率を記録すると予想されている。

 ハンガリー経済は転換期を迎えている。オルバン氏の16年間の統治により、ハンガリーは近隣諸国のポーランド、チェコ、スロバキアに後れを取っている。近年は経済停滞、地域で最も高いインフレ率、巨額の財政赤字、蔓延する汚職、EUからの資金凍結、そして自動車とバッテリー生産に偏重した不均衡な産業政策が特徴的だった。

 新首相に指名されたペーテル・マジャール氏は、野心的な経済プログラムを発表し、ユーロ導入を目指している。しかし、巨額の財政赤字を抱えるハンガリーにとって、必要な財政余地を確保するのは容易ではない。いずれにせよ、ハンガリーの景気回復には時間がかかる。、WIIWによれば、2026年のハンガリー経済成長率を1.6%、2027年には1.8%と予測されている。これは、冬期予測と比較すると、2026年は0.6ポイント、2027年は0.7ポイントの下方修正となる。イラン戦争が、ハンガリーの脆弱な景気回復を再び脅かしているためだ。

 中東の戦争はウクライナに深刻な打撃を与え、状況をはるかに困難なものにしている。ロシアによるウクライナのエネルギーインフラに対する大規模な空爆作戦は、冬期に広範囲にわたる停電を引き起こし、経済活動は依然として電力不足によって深刻な影響を受けている。さらに、イラン戦争の影響で燃料と肥料の価格が急騰し、インフレ率も上昇している。

 WIIWは、通年の成長率を1%と予測しており、2027年には2.5%まで上昇する可能性がある(ただし、これは依然として非常に不確実である)。これは、冬期の予測と比較すると、2026年の成長率を1.5ポイント、2027年の成長率を1ポイント下方修正したことになる。ロシアの侵略戦争による生産施設への甚大な被害に加え、経済の低迷は、中東戦争の影響とウクライナの深刻な労働力不足も反映している。

 WIIWのウクライナ専門家であるオルガ・ピンデュク氏は「ウクライナは農業部門の生命線である燃料と肥料の輸入に大きく依存しているため、イランでの戦争はウクライナに特に大きな打撃を与えている。近隣諸国がウクライナへの燃料輸出を制限しているのを既に目にしている。この傾向が強まれば、ウクライナは深刻な困難に直面する可能性がある」と主張。同氏によれば、中東での戦争が長期化し、原油価格が高止まりするという最悪のシナリオでは、ウクライナは景気後退に陥る可能性があるという。

 一方、モスクワにとっては、ホルムズ海峡の封鎖によって、原油・天然ガス価格の高騰による予想外の追加収入がもたらされた。ロシアの視点からすれば、これは財政難を緩和する上でまさに好都合なタイミングだった。昨年の財政赤字はGDP比3.9%と、ロシアの基準からするとかなり高い水準だった。イランとの戦争が始まるまでは、今年の財政赤字は制御不能に陥る恐れがあり、政府は軍事費と社会保障費を除くあらゆる支出を10%削減することを検討していた。

 WIIWのロシア専門家、ワシリー・アストロフ氏は「イランとの戦争はロシアの財政安定化に貢献している。戦争が長引けば長引くほど、そして原油価格が高止まり、あるいはさらに上昇すればするほど、ロシアにとってプラスの効果は大きくなるだろう。原油価格が1ドル上昇するごとに、ロシアの国庫には58セントが流入する」と予測する。しかし、この追加収入は支出の増加には回されず、政府の借入金削減とエネルギー企業の負債返済に充てられるため、ロシアの経済生産への恩恵はごくわずかだろうという。

 WIIWは、2026年のロシアのGDP成長率をわずか0.9%と予測しており、2027年には1.5%に加速すると見込んでいる。実際、今年最初の2か月間、ロシア経済は1月に前年同月比2.1%、2月に1.5%のマイナス成長を記録した。アストロフ氏は「ロシアの低成長の主な原因は、依然として15%という高水準の政策金利、新規生産能力への投資不足、そして労働力不足にある。イラン戦争によるエネルギー価格の高騰も、こうした状況を大きく変えることはないだろう」と述べている。

 ロシアにとって最良のシナリオ、つまり中東での長期にわたる戦争と原油価格の高止まりが続く場合、経済成長率は2026年にさらに0.3パーセントポイント上昇し、1.2パーセントになる可能性がある。アストロフ氏は「イラン戦争はプーチン大統領にさらなる収入とより大きな政治的自由度を与えているため、ウクライナに対する侵略戦争を継続するのに役立っていることは間違いない」と説明する。

イラン、欧州でテロ計画を画策か

 英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授によると、「イラン当局は米イスラエル軍の攻撃の報復として、親イラン系ネットワーク「HAYI」(Harakat Ashab al-Yamin al-Islamiya)を通じて欧州でテロを実行するように指令を出している兆候が複数見られる」という。同教授がドイツ大手の地方紙「ラインニッシェ・ポスト」紙(4月28日付)に語った。

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▲悔い改めた亡命者に帰国を呼び掛けるイランのゴラムホセイン・モフセニ・エジェイ司法長官、2026年4月28日、Tasnim通信

 「HAYI」は、2026年に入って欧州で活動が確認された、親イラン派の代理組織(プロキシ)を標榜するネットワーク。イラン政府が欧州でのテロ攻撃に関与するため、あるいはその責任を偽装するために作り出した偽組織の疑いが持たれている。欧州の治安関係者は、HAYIは実際には存在しない組織であり、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)や親イラン派武装組織「ヒズボラ」に関連する架空の組織である可能性があると見ている。

 ノイマン教授は「この組織はイラン戦争の勃発後に初めて目立った活動を開始し、活動している。攻撃対象の選択は、イランが想定する敵対勢力像に合致している。ユダヤ人コミュニティ、イスラエル関連施設、米国企業、そしてイランの反体制派への攻撃だ。作戦の手口は、過去の攻撃で知られているイラン革命防衛隊のパターンにも合致している。典型的な特徴は、犯罪組織から実行犯を募集することであり、時には送信した写真や動画が閲覧後に自動で消える機能(消える投稿)を有するSnapchatを通じてオンラインで募集される。これらの人物はイランに思想的な親和性を持たないことが多く、攻撃の報酬を受け取るだけだ。そのため、テヘランは関与を否定できる」と説明している。

 要するに、組織的な実行部隊を送り込むのではなく、SNSや通信アプリ(Signalなど)を通じて現地の若者や未成年者を勧誘し、小規模な報酬で放火や爆発物の設置を指示する「ハイブリッド型」のテロが特徴というのだ。

 ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)は、親イランのテロ組織HAYI(ハラカト・アシャブ・アル・ヤミン・アル・イスラミヤ)がヨーロッパ全域に於ける新たなレベルのエスカレーションについて警告を発している。

 具体的には、HAYIはこれまで行ってきた「象徴的な被害(放火や小規模な爆発)」から、「武器を用いたより殺傷力の高い攻撃」へ段階を引き上げる準備をしているという。特にドイツにおけるユダヤ人および米国の施設が標的となる可能性が高まっている。

 ちなみに、2026年3月9日以降、欧州でいくつかの放火や爆発事件が発生しており、HAYIによるものと懸念されている。ドイツ(ミュンヘン)で4月中旬、ユダヤ系レストラン付近で爆発事件が発生。HAYIが犯行声明動画を公開した。また、オランダのロッテルダムやベルギーのリエーシュでシナゴークが放火された、といった具合だ。

 なお、英国政府は28日、イラン大使を外務省に召喚した。理由は、イラン戦争において、英国在住のイラン人に対し「自己犠牲」を呼びかけたことにある。外務省は声明で、「イラン大使館がソーシャルメディア上で行った、容認しがたい扇動的な発言」を非難した。イラン大使館は最近、テレグラムにペルシャ語のメッセージを投稿し、「イランの勇敢で高潔なすべての子どもたち」に対し、大使館領事部を通じてイランの「ジャンファダ」(自己犠牲)キャンペーンに登録するよう呼びかけた。メッセージには、「敵に国を明け渡すより、自らの命を犠牲にする方がましだ」と記されていたという。

「道徳的羅針盤」失った世界で生きる人々

 オーストリア保険研究所(GOG)が27日発表した最新報告書によると、同国で約30万人がギャンブル依存症に苦しみ、そのうち4分の1が重度だ。ニコチンは依然として最も蔓延している依存症物質であり、アルコールは最も広く使用されている精神活性物質。コカインの使用も増加している。オーストリア国営放送(ORF)は同日、「存亡の危機」(EXISTENZIELL BEDROHLICH)というショッキングな見出しで報道していた。以下、ORFのヴェブサイトに掲載されたGOG報告書の概要を紹介する。

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▲研究結果を報告する依存症専門センター長、マルティン・ブッシュ氏、2026年4月27日、

 ギャンブルとスポーツ賭博に関する調査を体系的に実施した調査によると、15歳以上の人口の少なくとも50%が年に1回以上ギャンブルに興じ、約4%(約30万人)が軽度以上のギャンブル依存症的な行動を示している。スロットマシン、スポーツ賭博、ポーカーは特に依存症のリスクが高い。

 オンラインサービスやスポーツ賭博は、手軽に利用でき、主に若者に人気があるため、特に急速に発展している。依存症治療を受けている人の平均負債額は2万8000ユーロ(約525万円)。頻繁なギャンブルと精神的苦痛との相関関係は、特に若者の間で顕著だ。

 ウィーンのアントン・プロクシュ研究所(API)の健康心理学者、オリバー・シャイベンボーゲン氏は「借金は人々を「存在を脅かす」状態に陥らせ、うつ病から自殺未遂に至るまで様々な事態を引き起こす可能性がある」と警告する。

 オーストリアにおける薬物使用は全体的には安定しているが、その行動は変化している。特に若者の間で、薬物の種類、消費パターン、リスクに明らかな変化が見られると、依存症専門センター所長のマルティン・ブッシュ氏は記者会見で述べた。

 「2025年薬物依存疫学報告書」および「2025年薬物情勢報告書」によると、ニコチン依存は依然として最も一般的な依存症形態だ。人口の約24%が毎日ニコチンを摂取している。従来の紙巻きたばこの消費量は減少傾向にある一方で、電子たばこ、加熱式たばこ製品、ニコチンパウチといった新製品の消費量は著しく増加している。

 特に若者の間で、こうした製品への依存がますます高まっている。これらの製品は非常に高濃度のニコチンを含んでいるだけでなく、粘膜を通して体内に「強力に」吸収されるという。ニコチンは最も依存性の高い薬物の一つだ。

 一方、アルコール消費は高い数値だが減少傾向にある。アルコールは依然として最も広く使用されている精神活性物質。人口の約15%が健康を害するほど飲酒しており、約5%がアルコール依存症とされている。GOGによると、「男性は女性よりも著しく影響を受けており、問題のある飲酒は年齢とともに増加し、特に40歳から70歳の間で蔓延している」という。

 長期的に見ると、アルコール消費量とアルコール関連疾患はともに減少傾向にあるが、絶対数は依然として高い水準にある。若者の約10%も「非常に危険な」飲酒行動を示しており、そのため将来的にアルコール依存症になる可能性が高いという。

 また、薬物に関する報告書によると、大麻は依然として最も頻繁に消費されている物質だ。人口の約5分の1が少なくとも一度は大麻を使用したことがあるが、ほとんどは断続的な使用にとどまっている。さらに、治療を必要とする問題を抱える使用者はごく少数だ。

 コカインをはじめとする覚醒剤の重要性が著しく高まっている。人口の約6%が少なくとも一度はコカインを使用した経験があると回答している。比較すると、2015年にはコカインを試したことがあると回答した人は3%だった。現在使用している人の割合も増加している。入手しやすさ、価格の下落、純度の上昇といった市場指標は、供給量の増加を示している

 高リスク薬物使用は依然としてオピオイドが中心だ。影響を受ける人の数は、2023/24年には最大39,000人に達すると推定されている。同時に、複数の薬物の使用や複雑な摂取パターンが増加しており、緊急事態や死亡のリスクを高めている。2024年の薬物関連死者数は257人で、2010年代初頭と比べて大幅に増加。報告書は、特に10歳から19歳の少女や若い女性の間で、過去5年間で薬物関連死が「著しく増加」していると指摘している。


【一口解説】
 アムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務総長は20日、ロンドンで年次報告書の発表会において、「道徳的羅針盤を失った世界」について警告を発した。世界の政治情勢は、戦争と紛争が繰り広げられ、道徳的羅針盤を失った状況だが、その世界に生きる多くの人々も同様、未来への見通しがない中、苦悩している。アルプスの小国オーストリアで生きる人々も例外ではない。特に、若者の世界では「ニヒリズム過激主義」と呼ばれる現象がみられる。イデオロギーや思想なき過激主義だ。理由なき反抗、動機なき殺人と呼ばれる現象だ。

 ちなみに、ニヒリズム過激主義(Nihilistic Violent Extremism)とは、既存の価値、道徳、社会秩序のすべてを無意味と否定し、その空虚さからくる混沌や暴力を目的化する過激思想。特定の政治・宗教的な目的を持たず、破壊そのものを賛美して暴力を振るう傾向が指摘されている。すべてが無意味であるなら「暴力も許される」という極端な理論から、社会的な大義名分を必要としない。

EUのポスト・オルバン時代が始まった

 4月12日に実施されたハンガリーの国民議会選挙でオルバン首相が率いる与党右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」が野党のティサ(尊重と自由)に大敗し、16年間続いたオルバン政権が終焉を迎えた。それを待っていました、というわけではないが、ハンガリーがブロックしてきた欧州連合(EU)の対ウクライナへの融資900億ユーロにゴーサインが出たばかりだ。

 EU・ウクライナ融資と対ロシア制裁が23日、承認された。EU理事会議長国であるキプロスが発表したところによると、EU加盟27カ国すべてが書面手続きを経て両案を承認した。ちなみに、対ロシア制裁パッケージには、ロシア産原油を輸送するタンカーの「シャドーフィン」に対するより厳格な措置などが含まれている。ブリュッセルの政策決定のテンポが速まってきた。

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▲キプロスで開催された非公式EUサミットに参加したフィツォ首相(左)、2026年4月24日、スロバキア首相府公式サイトから、右はキプロスのフリストドゥリディス大統領

 ところで、EUに対して懐疑的な政権はハンガリーのオルバン政権だけではない。スロバキアのフィツォ政権もEUのウクライナ政策ではオルバン政権と連携して阻止してきた。それだけではない。ブルガリアで19日に実施された早期議会選挙(一院制、定数240)では、前大統領のルメン・ラデフ氏が率いる親ロ派政党「前進するブルガリア」(PB)が議席の絶対多数を獲得した。ラデフ氏はEU加盟による経済的メリットを認識している一方、ウクライナへのEU援助を批判し、対ロシア制裁に疑問を呈し、ロシアとの対話を求めている。選挙運動中は、モスクワとの関係改善とロシアからの石油・ガス供給再開を訴えてきた。

 スロバキアの動向に焦点を絞る。スロバキアは対ウクライナ政策でオルバン政権と同じ歩調をとることが多かった。両国ともロシアからの安価な原油にそのエネルギーを依存してきた。ロシア産原油がドルジバ・パイプラインを経由してスロバキアに運ばれてきたが、今年1月27日、そのパイプラインがロシア軍の攻撃で破損したため、原油輸送がストップ。ハンガリーとスロバキア両国はウクライナ側の恣意的な破壊工作と受け取り、キーウを批判してきた。原油輸送の中断を受け、スロバキアはハンガリーとともに、ロシアに対するEU第20次制裁措置に反対した。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシア産原油を購入することで、モスクワ側に戦争の戦費を与えることになる」として、ハンガリーとスロバキアのロシア産原油の購入に強く警告を発してきた。

 興味深い点は、ハンガリーの総選挙でオルバン首相の敗北が決まった直後、ドルジバのパイプラインが回復したことだ。スロバキアのサコバ経済相は23日、「ドルジバ・パイプラインを経由してロシア産原油がスロバキアに再び流入していることを確認した」とフェイスブックに投稿している。ハンガリー側もロシア産の原油輸送の再開を受け、EUのウクライナ融資に対する拒否権を撤回したわけだ。

 スロバキアの対ウクライナ政策はハンガリーと常に同じ路線というわけではない。例えば、EUの900億ユーロ融資については、フィツォ政権は、自国が資金を負担しないことを条件に、EU全体としての融資決定そのものには反対しない(ブロックしない)という現実的な姿勢を見せてきた。その点、オルバン政権下のハンガリーは、EU全体のウクライナ支援自体を外交上の「人質」として利用してきた。

  フィツォ首相(61)は「ウクライナへの武器供与は紛争を長引かせるだけだ」と主張し、政府による軍事支援を停止し、ウクライナのNATO加盟については「第三次世界大戦の火種になる」として反対を公言。 ウクライナ戦争では、 戦闘の即時停止こそが最善策であるとし、戦争終結のためにはウクライナがロシアに対し領土の一部を割譲することも「非現実的ではない」との見解を示してきた。EUの対ロシア制裁には懐疑的で、自国の利益を守るためにロシア産原油の輸入を継続してきた。

 フィツォ首相(61)は2024年10月には、侵攻開始後、EU首脳として初めてロシア国営テレビのインタビューに応じ、2025年5月にはモスクワでの「戦勝記念日」に出席するなど、親ロシア的な動きを鮮明にしてきた。同首相は今年も5月9日の戦勝記念日に参加する予定だが、バルト3国は同3国領空経由でモスクワ入りすることを拒否している。

 EUの異端児・ハンガリーのオルバン政権はその歴史を閉じたが、スロバキア、ブルガリア、そしてチェコといった旧東欧のEU加盟国がEUの対ウクライナ政策などで今後、ブリュッセルと対立するシナリオは完全には排除されない。

 なお、フィツォ首相は24日、キプロスでの非公式EUサミット会議で「スロバキアはブリュッセルの支部ではない。我々は建設的なパートナーとなり、欧州の解決策を共創したい主権国家だ」と述べている。

イランとUAEの関係が急速に悪化

 イラン情勢は不透明さと不確かさを増してきた。米国とイラン両国間の紛争解決のための外交交渉の見通しがたたないのだ。米国はイランの濃縮ラン関連活動の完全停止、高濃縮ウランの管理問題、ホルムズ海峡の完全開放を強く要求する一方、イラン側は核関連活動の継続、対イラン制裁の解除、ホルムズ海峡通過に関連した自国管理権を主張するなど、双方の立場は依然対立している。

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▲サンクトペテルブルクを訪問し、ロシア当局関係者と会見するイランのアラグチ外相(左)、2026年4月27日、Tasnim通信

 両国間の第2回目の交渉は依然実現していない。トランプ米大統領は「イランが交渉を願うならば、電話でも可能だ。ワシントンに来ればいい」と述べるなど、両国間の立場が大きく離れている時点でのイランとの交渉に余り乗り気ではなくなってきている。一方、イランのアラグチ外相は27日、サンクトぺテルブルクを訪問し、ロシア政府関係者との軍事・外交協力について会合している、といった具合だ。

 メディアの関心が米イラン交渉の動きに注がれているが、イランの国民経済が戦争の影響もあって破綻する危険性すら囁かれ出したのだ。海外イラン・メディアの「イラン・インターナショナル」(4月24日)によると、「イラン経済は3月の戦争後、急激な悪化期に突入しており、インフレ、通貨安、主要産業への打撃による圧力の高まりが、より広範な危機のリスクを高めている。今後2〜4ヶ月間、イランの経済状況は急激に悪化し続けると予想され、高インフレ、失業率の上昇、実質所得の低下、主要産業、対外部門、金融システム全体にわたる深刻なストレスにより、深刻なスタグフレーションに陥る可能性がある」と予測している。

 イランの国民経済は2025年、インフレ率は50%を超え、イラン・リアルは大幅に下落し、銀行システムはアヤンデ銀行の破綻をはじめとする深刻な危機に瀕した。こうした圧力は既に家計の購買力を低下させ、企業活動を著しく弱体化させた。経済状況の悪化は、国内各地で広範な社会不安を引き起こし、昨年末から今年初めの大規模な抗議デモを誘発させた。

「戦争はイランの主要な輸出収入源に直接的な影響を与えた。産業インフラ、特に石油化学および金属分野への被害は、2024年に約250億〜300億ドルの輸出額を計上していたセクターに深刻な打撃を与えている」(イラン・インターナショナル)という。

 ちなみに、イラン当局は国内の治安維持のためにインターネットを制限してきた。広範囲にわたるインターネット遮断は、経済活動、特にデジタルプラットフォームに依存する中小企業に深刻な影響を与えている。NetBlocksによると、イランにおけるインターネット遮断による経済的損失は、最近の遮断期間中、1日あたり少なくとも3,700万ドルと推定されている。

 ところで、ここにきてアラブ首長国連邦(UAE)とイランの関係が急速に悪化してきている。直接の原因は、イランが米軍の攻撃への報復としてUAE内の米軍基地や関連施設を空爆したことだ。イランは民間施設、石油施設、そしてオラクル社関連のデータセンターを含む重要インフラを攻撃した。テヘランは、米国とイスラエルによるイランへの攻撃において、自国の領空と基地の使用を許可したことに対する賠償を、アラブ首長国連邦(UAE)を含む複数の地域諸国に正式に要求した。それに対し、UAEは駐テヘラン大使を召還するなど、外交的緊張の急速な高まりを示した。
 
 イラン・インターナショナルのマリアム・シナイ記者は「イランとUAEは過去数十年にわたり、広範かつ強固な経済関係を築いてきた。地理的な近さ、高度な港湾インフラ、そして自由貿易規制により、イラン・イラク戦争終結以来、UAEはイランの商業拠点へと変貌を遂げた。数千ものイラン企業がUAEに拠点を構え、イランの輸入の大部分はドバイを拠点とする再輸出ルートを経由している。UAEは単なる貿易相手国ではなく、厳しい制裁を受けているイランにとって、世界市場への重要な玄関口となった」という。

 過去20年間、UAEはイランの貿易相手国の中で常に第1位か第2位の地位を占めている。UAEは現在もイランにとって最大の商品供給国の一つであり、イランの輸入のかなりの部分を占めているという。その貴重な経済貿易パートナーのUAEに対し、米軍への報復攻撃を理由にUAEに空爆を実施したことで、イラン・UAE関係は急速に険悪化してきたわけだ。

 シナイ記者は「米国と欧州によるイランへの制裁強化、特に2018年の米国による2015年核合意(JCPOA)からの離脱後、UAEの重要性は劇的に高まった。直接貿易ルートが狭まるにつれ、UAEはイランへの物資、資本、資金の流れの主要な経路となった。UAEからイランへの輸出額は、2018年の約52億ドルから近年では200億ドル以上に増加した。また、ドバイはイランの両替所の金融ハブにもなり、その多くが通貨送金の円滑化や制裁回避において重要な役割を果たした。しかし、このシステムは現在、圧力にさらされている。UAE当局は、イランの両替所やいわゆる信託会社を標的にし、口座凍結、事務所閉鎖、一部関係者の拘束などの措置を講じているという。これらの措置は、イランの国際金融ルートへのアクセスを著しく制限する可能性がある」と解説している。

「右翼」と「左翼」のルーツについて

 日本のメディアによると、沖縄県名護市の辺野古沖で3月16日、2隻の船が転覆し、平和学習のために乗船していた同志社国際高(京都府京田辺市)の女子生徒と70代の男性船長が死亡した事故が起きた。そしてキリスト教主義の同志社国際高が戦後、左傾化した日本基督教団と深い関係があること、事故の背後に左翼的イデオロギーが大きな影響を与えていたことなどが次々と明らかになってきた。興味深い点は、左翼的傾向の強い日本の大手のメディアが同事故について突っ込んで報じることを避けている印象を受けることだ。

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▲「磔刑」、画アンドレア・マンテ―二ャ(1431〜1506年)

 ところで、当方は同事故について書くつもりはない。ただ、同事故に関連して「なぜ左翼は平和という言葉が好きなのか」という疑問を改めて強く感じた。このコラム欄で一度テーマ化したことがあったが、「左翼」、「右翼」のルーツ、日本と左翼と海外の左翼の相違などについて、改めて少し考えてみた。

 先ず、日本の左翼と海外の左翼では、「平和」という言葉の重点の置き方や、対立軸の立て方に違いがあることだ。日本の左翼が「憲法9条」や「反戦」といった安全保障上の平和をアイデンティティの核とするのに対し、海外の左翼は経済的・社会的な不平等の是正を第一に掲げる傾向が強いことだ。

 日本では、第2次世界大戦への反省から「平和憲法(憲法9条)」を守ることが左翼運動の大きな柱となってきた。だから、日本の左翼(リベラル・革新)は、戦後の平和憲法を守る「護憲」が最大の争点となり、政治的な「右・左」は、「憲法9条をどう考えるか」「日米安保をどうするか」という視点から語られることが一般的だ。一方、欧米の左翼は、伝統的に「資本家 vs 労働者」の構図からくる経済的平等(再分配、公共サービスの充実)を最優先とする、平和についても、単なる「非戦」以上に、格差や差別などの「構造的な暴力」をなくすことにエネルギーを注ぐ傾向がある。

 日本の左翼は「軍隊を持たず、戦争に関わらないこと」を平和と定義する絶対平和主義に近い立場をとることが多い。そのため、自衛隊の増強や日米同盟の強化は「平和への脅威」と見なす。一方、欧米の左翼は、独裁政権による虐殺や人権侵害を止めるための「平和維持活動」や、時には武力による「人道的介入」を容認・支持することもある。彼らにとっての平和は、必要であれば国際社会が協力して「勝ち取るもの」という側面がある。

 日本の左翼は、戦前の国家主義への反省から、国家の権限を縮小させ、憲法というルールで縛ることに重点を置く。そのため、愛国心や国防といった言葉には非常に慎重だ。一方、欧米の左翼は、国民の福祉を支える強い「国家機能」や「公共」を重視し、自国の文化や伝統についても肯定的に捉えることもある。 総括すれば、日本の左翼は「戦争をしない(受動的)」ことに平和の価値を置き、海外の左翼は「不平等をなくし、人権を守るために社会を作り変える(能動的)」ことに平和の価値を置くという違いがある。

 次は、「左翼」と「右翼」のルーツ(語源)についてだ。ウィキぺディアによると、「左翼」「右翼」という言葉のルーツは、18世紀末のフランス革命期の議会における「座席の配置」にあるという。1789年に開催されたフランスの国民議会において、議長席から見てどちら側に座るかによって立場が分かれたことが始まりという。議長席から見て右側には、国王の権限を認め、伝統的な社会秩序(王政や宗教)を維持しようとする保守的な勢力(王党派や貴族派など)が座った。ここから、保守・伝統を重視する立場を「右翼」と呼ぶようになった。反対に、議長席から見て左側には、国王の特権に反対し、革命による急進的な改革や平等な社会を求める革新的な勢力(ジャコバン派など)が座った。ここから、改革・平等を重視する立場を「左翼」と呼ぶようになったという。

 上記の説明は良く知られている。ただ、聖書の「ルカによる福音書」に記された「2人の犯罪者」の記述(右が信仰を告白し、左が罵った)を、右翼・左翼の起源だと考える説がある。また、聖書には「復活したイエスは役事後、天に昇天し、神の右に座った」と書かれている。旧約聖書の「伝道の書」10章2節(コヘレトの言葉)には「知恵ある者の心は右に向き、愚かな者の心は左に向く」と記され、左右がそのまま内面的な正しさを表すメタファーとなっている。「マタイによる福音書」では、救われる者(羊)は「右」へ、呪われる者(山羊)は「左」へ分けられると記述されている。

 すなわち、「右」と「左」に価値の差を設ける文化や概念は、フランス革命よりはるか昔から存在していたのだ。多くの文化圏で「右=正義、神聖、優越」「左=不浄、不吉、劣等」という象徴的な意味付けがなされてきた。

 その辺の事情について、人工知能(AI)は、「キリスト教や西洋の伝統において、『右』と『左』には古くから象徴的な意味があった。右は『正しいもの』『祝福されたもの』『善』の象徴だった。左は『不吉なもの』『不信心』『呪い』だった。ラテン語で左を意味する sinister(シニスター)は、英語で『邪悪な』という意味になった。このため、当時のフランス議会で、現状維持(王政=神に与えられた秩序)」を望む側が右側に座ったのも、『右=正しい、秩序』という伝統的な価値観が無意識に反映されていた可能性は十分にある」と解説している。

マルクス枢機卿「同性愛者にも祝福を」

 資本論を書いたカール・マルクスの話ではない。ミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿の発言についてだ。同枢機卿はバチカンで経済評議会の調整役を務めている高位聖職者でローマ教皇レオ14世のブレインの一人だ。その枢機卿が司牧スタッフへの書簡の中で、昨年ドイツ司教協議会(DBK)とドイツ・カトリック中央委員会(ZdK)の合同会議で採択された「祝福のガイドライン」に基づき、「互いに愛し合い、教会に結婚の祝福を求めるすべてのカップルに、祝福を通して神の恵みを感じていただきたい」と記しているのだ。具体的に、教会が祝福を拒否している再婚者、同性愛者に対しても祝福を与えてほしいと述べているのだ。

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▲神の祝福に関して意見の相違があるレオ14世とマルクス枢機卿、ドイツのカトリック通信から

 同枢機卿は書簡の中で、「祝福の意味について悩んでいるすべての人に、祝福の神学的意味を説明するよう求める。また、祝福を執り行うことを良しとしない司牧スタッフは、希望するカップルを該当する主任司祭または他の司牧スタッフに紹介すべきだ」と述べ、6月からは、ガイドラインに沿った祝福式のための研修コースが開講されことを明らかにしている。すなわち、同性愛者に祝福を与えることを拒否している聖職者に対しては、「自身が祝福を与えることができないのならば、同性愛者に祝福を与える同胞の聖職者にその旨を伝え、祝福を与えさせてほしい」と述べているわけだ。

 ガイドラインでは、祝福は秘跡としての結婚ではないことが明確にされている。しかし、マルクス枢機卿は、「多くの場合、既に民事婚である非秘跡的な結合の祝福が、カップルを会衆や教会の周縁に追いやるという意味ではない。どのカップルも拒絶されるべきではなく、カップルは会衆の心の中で歓迎されるべきだ。したがって、教会は神がこれらのカップルを祝福し、良きものを与えてくださるよう祈るべきだ。これは教会による癒しと和解への貢献にもなり得る」と説明している。

 祝福に関する文書は、シノドス会議の指示に基づいている。2023年12月にバチカンが「フィドゥシア・サプリカンス」(同性愛の祈り)による同性カップルへの祝福の禁止を緩和したことを受け、これらの変更も文書に盛り込まれている。文書に要約された提案は、「離婚・再婚した個人、あらゆる性自認と性的指向を持つカップル、そしてその他の理由で結婚の秘跡を受けたくない、あるいは受けられないカップル」のためのものである」と強調されている。ちなみに、祝福のガイドラインは前教皇フランシスコの司牧的アプローチに沿ったものであるという。

 ところで、ドイツ司教協議会(DBK)とドイツ・カトリック中央委員会(ZdK)の対話機関の合同会議で採択された「祝福ガイドライン」は司教たちを拘束するものではない。ドイツのほとんどの教区では、同ガイドラインは推奨されているが、アウクスブルク、アイヒシュテット、ケルン、パッサウ、レーゲンスブルクの各教区は同ガイドラインの使用を拒否している。すなわち、合同会議で採択された祝福ガイドラインについては、ドイツの教会内で対応が分かれているわけだ。

 ドイツのカトリック教会司教会議(DBK)の前議長、リンブルク教区のゲオルク・ベッツィング司教(64)は昨年12月、ドイツ放送局「ドイチュラントフンク」とのインタビューで、「ドイツの司教たちがあらゆる問題について、一致した意見を述べていないことが自分の重荷だ」と、ドイツ教会内で意見の対立があることを認めた。

 例えば、シュテファン・オスター司教(パッサウ)、ルドルフ・フォーデルホルツァー司教(レーゲンスブルク)、ライナー・マリア・ヴェルキ枢機卿(ケルン)らが、教会改革に関して進歩的な多数派の主張を繰り返し妨害してきたことは、誰の目にも明らかだった。

 特にシノドス改革プロセスに関して、意見は大きく分かれた。ベッツィング議長は、改革への意欲を示し、ローマからの反対をものともせず、実際に先頭に立った。2019年に開始された改革対話がローマからの分離につながると批判された際、ベッツィング議長は「われわれドイツの司教はそのような行動を少しでも考えたことはない」と強く反論した、といった具合だ。

 ちなみに、ドイツ教会の改革案は、教会の権力分立(非中央集権体制)、指導部と平信徒の関係改善を核とした内容だ。具体的な提案としては、�〇紛気稜ぬ燭砲弔い匿�者に発言権を与える、��同性カップルのための祝福を正当化する、��女性聖職者の任命、等が含まれている。

 ローマ教皇庁の懸念にもかかわらず、ドイツの教会で同性カップルへの正式な祝福を慣例化しようとしていることに対し、レオ14世は4月23日、赤道ギニアからローマへ向かう機内で、「バチカンは既にドイツの司教たちに同性カップルへの正式な祝福を認めないと明確に伝えている」と説明した。

 バチカンの立場は「同性愛カップルへの祝福はあくまでも自発的に行われるべきであり、厳粛な典礼の一部として行われるべきではない。カトリックの教義に基づき男女間のカップルにのみ与えられる結婚の秘跡と混同させてはならない」というものだ。

 欧州のカトリック教会ではクィアの信者が増えてきている。同時に、同性愛者を差別してはいけないと考え、積極的にクィアの信者と対話を模索する聖職者が出てきた。ドイツのエッセン=デルヴィヒの聖ミヒャエル教区主催の祭典で地元のカトリック青年共同体(KjG)がレインボーフラッグを掲げたことが発端となって、同性愛者を支援する信者とそれに反対する信者間で暴力事件が起きたことがあった。

 なお、レオ14世は「性に関する問題は教会の教義の中心ではない。正義、男女の平等と自由、そして信教の自由といった問題のほうがはるかに優先順位が高い」と述べ、「性道徳の問題が、教会の統一や分裂を決定づけるものであってはならない」と釘を刺している。同性愛者への祝福問題では、レオ14世はべネディクト16世(在位2005年4月〜13年2月)と同様、保守的だ。

ドイツの大学で欧州初のイスラム神学部

 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州北部に位置する人口約32万人のミュンスター市にあるミュンスター大学で今年7月、欧州初のイスラム神学部が開設される。ミュンスター大学のヨハネス・ヴェッセルズ学長は22日、記者会見を開き、「イスラム神学部の設立はイスラム神学にとって画期的な出来事であり、私たちは大変誇りに思っている」と強調。同時に、「これは社会政治的な寛容の象徴でもあり、ミュンスターにとどまらず、広く注目されるだろう」と指摘している。

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▲ヨハネス・ヴェッセルズ学長(左)と学部長のムハナド・ホルチデ教授、ミュンスター大学公式サイトから

 新設される学部は、イスラム神学センター(ZIT)から派生したもの。ミュンスター大学には文献学部の一部であるイスラム神学センター(ZIT)があり、そこで学校向けの宗教教育教員の養成が行われてきた。約900名の学生が在籍する欧州最大級のイスラム神学教育機関だ。今回、イスラム神学部への昇格により、キリスト教神学部(カトリック、プロテスタント)と同等の学術的地位が与えられる。なお、キリスト教(カトリック、プロテスタント、正教)とイスラム教の神学部、さらに非宗教的な宗教研究機関が集結する、世界でも類を見ない「宗教キャンパス」が形成される予定だ。

 初代学部長は、ZITの所長であり、2010年からイスラム教教育の教授を務めているムハナド・ホルチデ教授が就任する。同教授は「イスラム神学部の誕生は、神学的多様性を育む場としてのミュンスター大学の地位をさらに強化するものだ。ドイツに住む多くのイスラム教徒にとって、非常に意義深く、重要な承認の証となる」と強調した。ちなみに、ミュンスター市には約6万人の学生が居住しており、人口の約5〜6人に一人が学生というドイツ屈指の「大学街」だ。

 本プログラムは2026/27年度冬学期に開始される。イスラム神学部では、女性教授4名、男性教授4名が教鞭を執り、イスラム哲学や社会福祉におけるイスラムに関する講義などを担当する。現在、約450名の学生が教員養成プログラムおよび神学の学士・修士課程に在籍している。

 開設される学部では、7つの主要分野(講座)を中心にカリキュラムが構成される。 �.魁璽薀鶻悗斑躰甞� (Exegese): 聖典の歴史的背景と現代的解釈,�▲魯妊�ース学 (Prophetic Traditions): 預言者の伝承に関する学術的研究、��イスラム法学 (Fiqh): 法の源泉、方法論、および現代における適用、�ぅ�ラーム(イスラム教理学)と哲学: 信仰の論理的体系化や神秘主義(スーフィズム)の研究。�ゥぅ好薀狃ゞ偽軌薐� (Religionspadagogik): ドイツの教育現場に適した教授法の研究、�Εぅ好薀犹砲伴匆�: イスラム文明の歴史的変遷と、現代ヨーロッパにおける宗教の在り方、�Д▲薀咼�語: テキスト読解のための高度な言語教育。

 学部制への移行に伴い、学部は大幅に自治権を拡大する。例えば、イスラム神学部は、研究分野とカリキュラムのさらなる発展、試験規則の策定、博士号および博士研究員資格認定手続きの実施などを行う権限を持つ。また、教員の任命手続きや教員ポストの補充においても重要な役割を担う。

 イスラム神学部は、プロテスタント神学部およびカトリック神学部とともに、数ヶ月以内に開校予定の新しい「神学・宗教学キャンパス」の中核を成す構成要素の一つとなる。このユニークなキャンパスは、学術、政治、宗教、メディア、文化、芸術の対話の場となる。同時に、世界最大級の宗教研究図書館がそこに設立される予定だ。

 現在、ドイツには約500万人以上のイスラム教徒が居住しており(人口の約6%強)、その過半数はトルコ系だ。イスラム教組織の公的法人化や、ドイツ社会への同化とアイデンティティの保持といった課題に対し、ミュンスター大学のような公立機関での神学教育は、イスラム教を「ドイツの社会の一部」として制度的に統合する重要なステップと見なされている。

 ちなみに、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで2023年2月、通称「アブラハムファミリーハウス」がオープンされた。同ハウスはアブラハムから派生した3宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の礼拝場、シナゴーグ(ユダヤ会堂)、教会、そしてイスラム寺院(モスク)を単に独立した宗教施設だけではなく、大きな敷地の中に統合し、会議やイベントのための「共通教育センター」も備えている。ドイツのミュンスター大学のイスラム神学部の開設はアブラハムファミリーハウスの精神を具体化する試みとして、その進展が注目される。

 なお、ミュンスター市は1648年に三十年戦争(カトリックとプロテスタントの抗争)を終結させた「ヴェストファーレン条約」が調印されたドイツの都市であり、オスナブリュック(新教側)と共に「平和都市」として知られている。

レバノンでの十字架像冒涜とその対応

 レバノンで倒れた十字架像の頭部をイスラエル兵が斧で叩きつける画像が19日、ソーシャルメディア上で拡散した。イスラエル国防軍(IDF)は同日夜、この画像の信憑性を確認し、内部調査の結果、写真に写っている兵士は確かに軍人であることが判明したと発表した。十字架像破壊事件はレバノン南部、イスラエル国境に近いキリスト教徒の村デブルで起きた。ファディ・ファルフェル司祭(レバノン・デブル村)は「イスラエル兵が十字架を壊し、私たちの神聖な象徴を冒涜するという恐ろしいことをした」と述べ、地元コミュニティの深い憤りを伝えた。

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▲イタリアのフィレンツェの「サンタ・マリア・ノヴェッラ教会」の「十字架のイエス」(フィレンツェ・ガイドブックから)

 IDFは公式ソーシャルメディアアカウントXへの投稿で、この事件を「極めて厳重に対処している」とし、「兵士の行為は部隊に求められる価値観と全く相容れない」と付け加えた。軍は、この事件は北部方面軍が調査しており、「責任者に対する適切な措置を講じるため、指揮系統を通じて処理されている」と強調した。関与した兵士は戦闘任務から解任され、30日間の軍拘禁刑に処されるという。イスラエル軍は最終的に、地域社会と協力して「像を元の場所に戻す」と表明した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は20日、この事件に「衝撃と悲しみ」を表明し、「我が国ではあらゆる宗教が栄えており、我々はすべての信仰を持つ人々を社会構築において平等な存在とみなしている」と強調した。サール外相は「この行為は完全に我々の価値観と反する。イスラエルは、様々な宗教とその神聖な象徴を尊重し、信仰間の寛容と相互尊重を促進する国である。不快な思いをされたすべてのキリスト教徒の方々に深くお詫び申し上げる」と述べている。

 ローマ教皇レオ14世は事件を直接的に名指しはしなかったものの、X上で「中東のキリスト教徒のために、かつてないほど祈りを捧げている」と投稿し、地域の信仰の自由への懸念をにじませている。また、駐イスラエルのハッカビー米大使は「迅速かつ厳格な結果が必要だ」と述べ、速やかな法的措置を求めている。

 カトリック通信(KNA)によると、聖地カトリック司教会議は20日に声明を発表し、「この行為はキリスト教信仰に対する重大な侮辱であり、レバノン南部でイスラエル国防軍兵士によるキリスト教の象徴への冒涜が報告されている複数の事例の一つである」と述べた。

 エルサレム・ラテン総大司教であり、総会議長でもあるピエルバッティスタ・ピッツァバラ枢機卿が署名した公式声明の中で、「この行為はキリスト教信仰に対する重大な侮辱であり、レバノン南部でイスラエル軍兵士によるキリスト教の象徴の冒涜に関する他の報告事例に加わるものだ。この事件は、道徳的・人間的形成における憂慮すべき欠陥、すなわち、聖なるものへの最も基本的な敬意や他者の尊厳さえも著しく損なわれている状態を示している」と指摘。そして「信者にとって、十字架は尊厳、希望、そして贖いの源であり、自己犠牲的な愛を通して暴力に打ち勝つための呼びかけでもある」と述べた。

 なお、 イタリアのタヤーニ外相も今回の事件に言及し、「中東和平の担い手であるキリスト教徒に対する暴力的な扇動行為だ。決して許されない事件であり、二度と繰り返されないことを願う」と述べた。また、欧州議会のピナ・ピチェルノ副議長は「信仰の自由に対する、重大かつ前例のない、受け入れがたい侵害である」との声明を出した。


【一口解説】

 イスラエルでは過去にも軍兵士や過激派による宗教施設への攻撃や冒涜事件が報告されている。例えば、ガザ地区での戦闘中(2023年)、イスラエル兵がモスクのスピーカーを使ってユダヤ教の祈りを詠唱したり、商店の品物を破壊したりする動画がSNSで拡散し、国際的な批判を浴びた。2025年には、ガザ唯一のカトリック教会である「聖家族教会」の敷地が攻撃を受け、避難していた市民が死傷した事件がある。また、ガリラヤ湖畔にある著名な教会「パンと魚の奇跡の教会」が2015年、ユダヤ教過激派によって放火され、壁にヘブライ語で異教徒を侮辱する落書きがされた。エルサレムのシオンの山にあるキリスト教徒の墓地で、墓石や十字架が破壊される事件が発生した。今回の事件は十字架像の頭部を斧で破壊するシーンが拡散されたことで、その画像を観た関係者、特に、キリスト教徒には大きなショックを与えている。

 今回の事件で驚いた点は、イスラエル軍側の対応の迅速さだ。IDFは報告を受けて数時間後、事件を確認し、破壊行為をした兵士を見つけ出し、処罰を下している。それだけではない。IIDFは正式に謝罪表明しているのだ。

 ユダヤ民族は過去、キリスト教会から「メシア殺害民族」と指摘され、キリスト教社会では反ユダヤ主義的蛮行の犠牲となった長く苦い歴史がある。イスラエル軍の今回の異常とも思える対応の迅速さは、イスラエル側の危機管理が機能していることを証明している。それだけではなく、「メシア殺害民族」というレッテルはユダヤ民族にとって今なお歴史的重荷となっているのだ。

 なお、レバノンは中東で最もキリスト教徒の割合が高い。キリスト教徒の割合は約35%と推定されている。、主な宗派: マロン派(最大勢力)、ギリシャ正教、メルキート・カトリックなどだ。レバノンでは、大統領はマロン派キリスト教徒、首相はスンニ派イスラム教徒、国会議長はシーア派イスラム教徒が務めるという宗派別権力分立制がとられている。

トランプ氏とソロモン王の「歴代志」の話

 ドイツのカトリック通信によると、ローマ教皇レオ14世との間で激しい論争を展開してきたトランプ米大統領は、今度は米国で開催される全国的な聖書朗読イベントで旧約聖書の一節を朗読する。「アメリカ聖書朗読会」の主催者が18日、発表した。それによると、トランプ大統領は21日(現地時間)、ホワイトハウスの大統領執務室で、旧約聖書「歴代志」下第7巻11節から22節を朗読する予定だ。

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▲トランプ米大統領と会談するネタニヤフ首相、2025年9月30日、イスラエル首相府公式サイトから

 今年はアメリカ合衆国建国250周年を記念する年だ。聖書朗読会もその祝賀イベントの一つで、今月19日に始まった。今週を通して、政界や保守社会の様々な著名人が聖書の一節を朗読する。これには、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、マイク・ジョンソン下院議長といった共和党の政治家も含まれている。目標は、1週間で聖書全体を朗読することだ。

 トランプ大統領とキリスト教会との関係、特に、ローマ教皇レオ14世との関係は気まずい。トランプ大統領はイラン戦争に関する平和のメッセージを発したレオ14世教皇を批判し、外交政策において「弱腰だ」と非難。「彼は何も分かっていないし、戦争について語るべきではない。何が起こっているのか全く理解していない」と述べている。同時に、彼は自身のソーシャルネットワーク「Truth Social」に、AIで生成した自身のイエス・キリスト像をオンラインに投稿し、キリスト教会関係者から強い批判の声が飛び出したばかりだ(現在は削除されている)。

 そのような時期にトランプ氏が聖書朗読会に参加するわけだ。そこでトランプ氏が朗読する予定の「歴代志」下第7章を開いてみた。「歴代志」下7章11節〜22節は、ソロモン神殿の完成後、神が夜にソロモンの前に現れて語られる場面が記述されている。
 
 国に災い(飢饉や疫病など)が起きた際、民が自らを低くして祈り、悪の道から立ち返るなら、神はその罪を赦し、地を回復させると約束。神はこの神殿を「わたしの名を永遠に置く場所」として選び、ソロモンが父ダビデのように神の掟に従い歩むなら、その王座は永遠に続くという契約を再確認された。ただし、もし民が神を捨てて他の神々に仕えるなら、イスラエルを地から引き抜き、この神殿を「物笑いの種」にすると警告している。
 
 この聖句は、神の民にとって「神への忠実さ」がいかに死活問題であるかを強調している。ちなみに、「歴代志」下7章17節〜18節で神が言及されている内容は、かつてソロモンの父ダビデと結ばれた「ダビデ契約」に基づいている。神は18節で、「あなたの父ダビデに約束(契約)した通り、あなたの王座を堅くする」と明言している。

 ところで、疑問が沸いてくる。トランプ氏が自主的に「歴代志」下第7章11節〜22節の個所を朗読すると決めたのか、朗読会のプロジェクトを主導する側からの要請に基づくものかだ。当方は、日頃からキング(王)を夢見ているトランプ氏が自らソロモン王の話の個所を選んだのではないか、と考えている。キングは大統領職とは違い、選挙で選ばれるのではなく、神が任命して選ぶポジションだ。国民や他の政党の意向に惑わされることはない。

 ただし、米国ではトランプ氏がキングのような振る舞いをすることを批判する声、「ノー・キングス運動」が活発だ。「ノー・キングス(No Kings、王はいらない)」の背景に、トランプ大統領の強権的な政治手法と、それにお墨付きを与えたとされる司法判断に対する強い危機感があるからだ。

 最大の契機は、2024年7月の米連邦最高裁による判決だ。 大統領が在任中に行った「公的行為」について、刑事訴追を免れる広範な免責特権(Immunity)を認めたのだ。「キング」への懸念に対し、リベラル派のソトマイヨール判事は「大統領は法を超越した王(キング)になった」とする激しい反対意見を表明した。民主党側はこの判決を覆すための「ノー・キングス法案(No Kings Act)」を提出し、対抗姿勢を鮮明にしてきた経緯がある。

 第2次トランプ政権(2025年発足以降)が発足して以来、トランプ氏は大統領権限の限界を試すような行動を繰り返してきた。例えば、州知事の反対を押し切っての州兵派遣、議会と十分な協議のないままのイランへの軍事作戦、大規模な不法移民の摘発などが「独裁的・権威主義的だ」と非難されてきた。また、 2025年6月、自身の誕生日に合わせて大規模な軍事パレードを挙行した際、これが「王のような振る舞い」と映り、全米各地で「ノー・キングス」を掲げる大規模デモが発生した。

 ここまで書いてくると、トランプ氏が アメリカ合衆国建国250周年を記念する聖書の朗読会でソロモン王が記述されている「歴代志」を朗読するのは決して偶然ではなく、トランプ氏のキングへの執念が引き寄せた「意味ある偶然の一致」(シンクロニシティ)といえるかもしれない。

 参考までに、イスラエルのネタニヤフ首相も「キング・ビビ(King Bibi)」と呼ばれている政治家だ(「『ビビ王』のイスラエル王国の行方」2019年4月11日参考)。トランプ氏とネタニヤフ氏が馬が合うのは偶然ではない。

 なお、「歴代志」下は、ソロモン王の時代から始まり、南ユダ王国の歴代の王たちの統治、そしてバビロン捕囚を経てペルシア王キュロスによる解放の布告までを描いているが、トランプ政権が現在、古代ペルシャ王国の後継国であり、その子孫のイランと戦闘中というのは、これまた何らかの意味ある偶然といえるかもしれない。

 (「歴代志」下第36章22〜23節には、キュロス王が神の導きによって布告を出し、バビロン捕囚にあったイスラエルの民をエルサレムに帰還させ、神殿を再建することを許可したと記述されている)
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