ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2026年03月

戦時下の「アブラハムの宗教」

 ローマのサン・ピエトロ広場で、レオ14世教皇はまばゆい太陽の下、4万人の信徒とともに聖枝祭のミサを執り行った。説教の中で、教皇は、イエスが十字架への道のりを通して、真の平和は暴力を拒絶することによってのみ達成できることを私たちに示した、と説いた(「バチカンニュース)。米国人のレオ14世にとって教皇就任最初の復活祭を迎える。

cq5dam.thumbnail.cropped.1500.844 (37)
▲聖枝祭の記念礼拝をサン・ピエトロ広場で挙行するレオ14世、2026年3月29日、ANSA通信

 世界のキリスト教にとってイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスと共に、イエスの十字架後の復活を祝うイースター(復活祭)は2大祭日だ。今年は29日の聖枝祭から4月5日までの一週間は聖週間と呼ばれている。

 聖枝祭はイエス・キリストが十字架にかかる直前に、ロバに乗ってエルサレムに入城した出来事を記念する祝日だ。カトリックでは「枝の主日(受難の主日)」、プロテスタントでは「棕櫚(しゅろ)の主日」とも呼ばれる。エルサレムに入るイエスを、民衆がナツメヤシ(シュロ)の枝を手に持ち、「ホサナ(救いたまえ)」と叫んで歓迎した聖書の記述に基づいている。

 聖週間はキリスト教の典礼暦の中で最も神聖な1週間であり、イエス・キリストの受難、死、そして復活を記念する。 具体的には、3月29日 受難の主日(枝の主日)で聖週間が始まり、4月2日 聖木曜日(洗足木曜日)、そして4月3日 の聖金曜日(受難の金曜日)は キリストの十字架上での受難と死を記念する、最も厳かな日だ。4月4日の聖土曜日は 墓に葬られたキリストを偲び、静かに復活を待つ。夜には「復活徹夜祭」が行われる。4月5日は復活の主日(イースター)だ。 キリストの復活を祝う。

 以上は、ローマ・カトリック教会などの西方教会の復活祭の日程だが、東方教会の正教会では今年の復活祭は4月12日だ。一週間遅れて祝う。 西方教会は「グレゴリオ暦」を用いるが、正教会の多くは「ユリウス暦」に基づき算出するため、日付がずれることが一般的だ。

 今年の聖週間は米イスラエル軍のイラン戦闘以来、中東全域で戦闘が拡散している中で迎えている。聖枝祭の29日、イスラエル警察は、エルサレム・ラテン典礼総大司教を務めるピッツァバッラ枢機卿とフランチェスコ・イエルポ聖地守護者(フランシスコ会)の聖墳墓教会への立ち入りを阻止した。両氏は聖墳墓教会で聖枝祭を祝う予定だった。

 エルサレム・ラテン総大司教区および聖地守護区は、キリスト教暦において最も神聖な日の一つである聖日に祈りを捧げることが妨げられたことについて、深い遺憾の意を表明した。それに対し、イスラエル首相府は声明で、エルサレム旧市街にもイランからのミサイルの破片が落下しており、安全に配慮した措置だったと説明している。幸い、イスラエル当局はその直後、両者の聖墳墓教会入りを認めている。

 ちなみに、エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という世界3大宗教にとっての「聖地」だ。現在は、イスラエルとパレスチナ双方が自国の首都と主張しており、国際的にも極めて複雑な状況にある。約1km四方の城壁に囲まれた旧市街には、それぞれの宗教の最も神聖な場所が集まっている。

 ユダヤ教には「嘆きの壁」だ。紀元前10世紀にソロモン王が建設した「エルサレム神殿」の外壁の一部。かつて「契約の櫃」が納められていた場所として、祈りを捧げる最も神聖な場所だ。キリスト教の聖墳墓教会 は イエス・キリストが十字架にかけられ、処刑・埋葬された後に復活したとされる場所。世界中の巡礼者が訪れる信仰の中心地だ。一方、イスラム教の「岩のドーム / アル=アクサー・モスク」は メッカ、メディナに次ぐ第3の聖地だ。預言者ムハンマドが昇天(ミラージュ)した場所とされている。

 なお、イスラエルで4月1日からユダヤ教の3大祭りの一つである「過越祭」(ぺサハ)が始まる。ぺサハは4月1日の日没から4月8日の日没まで一週間続く。過越祭りは古代エジプトで奴隷だったイスラエル人がモーセに率いられて脱出し、神の約束の地カナン(現在のパレスチナ)に入り、自由を手にした歴史を記念する重要な宗教祝日だ。

 ロシア軍のウクライナ侵攻は既に4年が経過したが、停戦の見通しはない。一方、米イスラエル軍のイラン戦争は中東全域にその火の粉を拡散してきた。イラン側のホルムズ海峡の封鎖警告を受け、世界の原油・ガス市場は大きな影響を受けてきた。

 アブラハムを「信仰の祖」とするユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3兄弟宗教はこれまで「神の名」で戦いを行ったきたが、レオ14世は29日、「神の名で戦うのを止めるべきだ」とアピールしていた。「神の名」で今、和解し、許し合い、連帯すべき時ではないか。

イランで大統領とIRGCの間で権力争いか

 海外のイランメディア「イラン・インターナショナル」が29日、独占記事として報じたところによると、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領とイスラム革命防衛隊(IRGC)のアフマド・ヴァヒディ(Ahmad Vahidi)司令官の間で、戦争への対応と、それが国民生活や経済に及ぼす影響を巡り、深刻な意見の相違が生じているという。匿名を条件に「イラン・インターナショナル」の取材に応じた関係筋によると、ペゼシュキアン大統領は、緊張の高まりと近隣諸国への攻撃継続に関して、革命防衛隊の対応を批判し、事態の経済的影響について警告した。関係筋によると、ペゼシュキアン大統領は「停戦がなければ、イラン経済は3週間から1ヶ月以内に完全に崩壊する可能性がある」と強調したという。

Ahmad_Vahidi
▲今年3月からIRGC司令官に就任したアフマド・ヴァヒディ氏、ウィキぺディアから

 ちなみに、ペゼシュキアン大統領は7日、国営放送でビデオ声明を通じて、湾岸諸国ら隣国へのイラン側の攻撃を謝罪し、「我々は隣国を侵略するつもりはない」と語り、「攻撃を受けた隣国に謝罪する必要があると考えている」と説明、イラン軍には今後攻撃しないように求めたことがある。

 ぺゼシュキアン大統領の謝罪表明は当時、隣国を含む多くの国々で驚きをもって受け取られた。謝罪することで、テヘランは戦争をより広範な地域対立にエスカレートさせる考えがないことを内外に示した、と受け取られた。一方、IRGCからは大統領の謝罪表明に対し「米・イスラエル軍との戦闘中、謝罪を表明するのは敗北宣言に等しい」と批判的だった。実際、大統領の謝罪メッセージ後もIRGCによる周辺国への攻撃は続いたことから、ぺゼシュキアン大統領の指令がイラン国軍やIRGC全体に浸透していないか、拒絶されているのではないか、といった憶測を生み出していた。

 イラン・インターナショナルの情報筋によると、ペゼシュキアン大統領は行政権限と管理権限を政権に返還するよう求めたが、ヴァヒディ司令官はこれを断固として拒否し、ペゼシュキアン氏の批判に対し、「紛争が始まる前に政府が構造改革を実施しなかったことが現状の原因だ」と反論したという。

 ここ数日、イスラエルメディアもイランの統治体制内部の分裂の兆候を報じている。タイムズ・オブ・イスラエルは、イスラエル高官の発言を引用し、「イラン政権に亀裂が生じている兆候が見られる。我々は政権打倒のための条件を整えているが、最終的にはすべてはイラン国民にかかっている」と報じた。イスラエルのメディアYnet(ワイネット)も今月初め、同様の内部分裂を報じている。

 中東専門家は、アリ・ハメネイ師の死後、イランで最高の権限を有しているのはIRGCと見ている。ハメネイ師時代から巨大な権限、経済力を有し、イランを掌握してきた組織だ。IRGCは継承問題に深く関与し、憲法上の配慮や聖職者の一部からの抵抗にもかかわらず、次期最高指導者にハメネイ師の次男、モジタバ・ハメネイ師(56)を選出させたばかりだ。

 イラン・インターナショナルによると、「イラン戦争は5週目に突入するにつれ、その経済的影響はますます顕著になってきている。主要都市からの報告によると、多くのATMは現金不足、故障、または物理的にアクセス不能な状態にあり、バンク・メッリを含む複数の主要銀行のオンラインバンキングサービスも断続的に中断されている。政府職員は、過去3か月間、多くの職員の給与と手当が定期的に支払われていないと述べていた」という。

ウクライナ戦争はどうなっているか?

 米イスラエル軍が先月28日、イラン攻撃を開始して以来、世界のメディアの報道は一斉に中東情勢に集中し、世界の原油市場に大きな影響をあるホルムズ海峡の封鎖を巡るイラン側の動向が刻々と報じられている。一方、先月24日で戦争勃発から4年が経過したウクライナ戦争の動向については報道は減少してきているが、ロシア軍のウクライナへの軍事攻勢は継続され、激しさすら増してきている。今年に入り和平交渉が開かれたが、成果らしい成果はなく、次回の交渉日程も決まらないまま戦いは今日まで続いている。2月中旬にジュネーブでロシア、ウクライナ、アメリカの代表による三者協議が行われたが、具体的な成果は得られなかった。

27c032f863e286ed95c9533b0dfcbae1_1774601434_extra_large
▲ウクライナのオレナ・ゼレンスカ大統領夫人は、米国訪問中にウクライナ書籍コーナーの開設式典とウクライナ語音声ガイドの発表会に出席。2026年3月27日、ウクライナ大統領府公式サイトから

 ロシアとの和平交渉に取り組んできた米国がイラン戦闘に次第にのめり込み、戦況が米国の予想を超えて厳しくなってきたこともあって、トランプ米政権の優先順位がイラン戦闘への対応となって以来、ウクライナ問題は影を薄くなっていった。それだけではない。ワシントン・ポスト紙によると、米国政府はウクライナ向け兵器を中東地域に転用することを検討しているというのだ。その理由はイラン内戦によって米軍の特に重要な弾薬備蓄が枯渇しているためだという。

パリ郊外で開催されたG7外相会談に参加したルビオ米国務長官は27日、米国がウクライナに既に供与した武器を転用する可能性について、「今のところ転用は行われていないが、可能性はある。米国が必要とする場合、我々はそれを何よりもまず米国のために確保する」と述べている。

 同国務長官はまた、ウクライナのゼレンスキー大統領が「米国が安全保障の保証の条件としてウクライナ東部ドンバス地域全域のロシアへの割譲を要求している」と発言していることに、「ゼレンスキー大統領はウクライナ和平交渉における米国の立場について嘘をついている」と非難し、「ゼレンスキー大統領は単にウクライナに対する安全保障は戦争が終わるまで発効しないと告げられただけだ。ウクライナによる領土譲歩とは一切関係がない」と述べている。

 ちなみに、モスクワは、4年以上続く侵略戦争を終結させるためには、ウクライナがドンバス地域全体と現在ロシアが占領している領土を割譲しなければならないと主張しているが、キーウはこの要求を断固として拒否している。両者の和平へのスタンスで何の変化もないのが現状だ。

 キーウ側は和平交渉では米国がロシア側の主張を支持していると感じ、領土譲歩を強いられるのではないか、といった懸念を払拭できないでいる。トランプ米大統領がイラン戦闘を理由に米国がロシア産原油供給に対する一部の制裁措置を停止したことに対し、ゼレンスキー大統領は「モスクワがその収入を侵略戦争の資金源として利用する可能性がある」と指摘し、トランプ氏の決定に強い不満を表明したばかりだ。

 一方、トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国が「イラン攻撃は我々の戦争ではない」と主張し、トランプ大統領が提案した、ホルムズ海峡の海上封鎖を解除するための軍事作戦への参加に応じていないこともあって、「ウクライナ戦争は欧州の戦争だ」と強調し、ウクライナ問題の関与を急減させている。実際、米国は2025年以降、ウクライナへの軍事・人道支援をストップさせている。

 米国がウクライナ問題への関与を減らす一方、イラン戦闘の停戦への出口模索に腐心している中、ロシアのプーチン大統領はイラン戦闘で世界の原油・ガス市場が急騰、外貨収入が増加してきたことを歓迎、米イスラエルのイラン戦闘の長期化を図るために様々なルートを通じ、イランを支援してきている。その一方、ロシア軍はウクライナへのミサイル、無人機攻撃を続けている。

 以下、27日から28日にかけウクライナ軍とロシア軍の戦闘状況を報告する。

 ウクライナ当局によると、ロシア軍が夜間にオデッサ市をドローンで攻撃し、子供を含む少なくとも10人が負傷した。オデッサ州知事のセルヒー・リサク氏は「キーフ・インディペンデント」紙に対し、ドローンが産科病院と3つの教育機関の屋根に命中したと語った。当局によると、住宅ビルも攻撃を受け、4階と5階の間が「部分的に破壊された」という。リサク知事は、負傷者10人のうち少なくとも2人が重体だと述べたが、攻撃の詳細については明らかにしなかった。

 一方、ロシア中部でウクライナのドローンによる大規模攻撃あった。当局によると、ロシア中部ヤロスラヴリ州でウクライナのドローンによる攻撃があり、子供1人が死亡した。同州のミハイル・エヴラエフ知事は、テレグラムのメッセージサービスで、他に3人が負傷したと発表した。複数のアパートと小売店も被害を受けた。子供は攻撃当時、アパートの建物内にいた。両親は重体で入院している。近隣の建物の住人も負傷した。ロシアの防空部隊は、攻撃中に30機以上のウクライナのドローンを迎撃した。ロシア国防省は、モスクワ州を含むロシアの複数の地域で、一夜にして155機のウクライナのドローンを破壊したと発表した。

イラン戦闘は「我々の戦争」か

 米イスラエル軍のイラン戦闘が始まって以来、欧州諸国の首脳陣の口からは「これは我々の戦争ではない」という発言をよく聞く。ドイツのシュタインマイヤー大統領は「イラン戦闘は国際法違反だ」と、堂々と言い切る。イラン戦闘の場合、ホワイトハウスが米議会との協議を行うことなく戦闘に踏み切った経緯もあって、同盟国からは「我々の戦争ではない」といった声が依然、支配的だ。

61580421601627cfe686264fd423ed2f_1774601967_extra_large
▲サウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子と会談するウクライナのゼレンスキー大統領、2026年3月27日、ウクライナ大統領府公式サイトから

 イスラエルは別として、米国は地理的にもイランから遠いうえ、直接の軍事的脅威は少ないが、トランプ米政権は「イランの核兵器製造は近い。中東の武装勢力に軍事支援するイランが核兵器を手に入れれば、世界の脅威だ」と説明する。イランが原油・ガスの世界の輸送ルートのホルムズ海峡を封鎖すると警告を発すると、「イランは武力で世界経済を脅かしている」と説明してきた。すなわち、イランは世界の平和と安定の脅威だというわけだ。にもかかわらず、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の多くは「これは我々の戦争ではない」と受け取っているのだ。

 例えば、メルツ独首相はノルウェー訪問中に、「ドイツはこの戦争に関与しておらず、関与するつもりもない」と述べた。また、ピストリウス独国防相は「これは我々の戦争ではない」と強調。クリングバイル独副首相はドイツのニュースネットワークRNDのインタビューで「はっきり言っておきます。これは我々の戦争ではない」と述べている、といった具合だ。

 フランスで開催されたG7外相会談に出席中のルビオ米国務長官は26日、トランプ大統領の対イラン政策を擁護し、「同盟国はイラン問題とホルムズ海峡の安全確保に関して、より多くのことを行う必要がある。米国は常に戦争への支援を求められており、ウクライナという別の大陸で起きている戦争において、世界のどの国よりも多くの支援を行ってきた。しかし、米国自身が支援を必要とした時、何の肯定的な反応も得られていない」と記者団に語っている。

 G7諸国は米国と同盟関係にあるが、イランへの攻撃を明確に支持した国はいない。また、トランプ大統領がかつて提案した、ホルムズ海峡の海上封鎖を解除するための軍事作戦への参加にも、いずれも応じていない。

 トランプ大統領はホワイトハウスでの閣議で、「これは我々の戦争ではない」と述べたドイツの政治家たちの発言に言及して、「これは不適切だ」と非難。「米国は我々の戦争でもないウクライナ戦争を支援してきた」と強調している。

 米国側の不満は理解できる。「ウクライナ戦争では過去4年間、ウクライナ戦争に軍事、人道支援をしてきたが、欧州諸国は『イラン戦争は、我々の戦争ではない』と主張して米国やイスラエルの支援要請を無視している」というのだ。

 ただし、トランプ氏の発言をもう少し検証すると、米国が過去4年間、「米国の戦争ではない」ウクライナ戦争へ支援提供してきたというが、必ずしも正確ではない。新政権は2025年第1四半期に支援を提供したが、その後、支援額はゼロに削減された。3月末までに提供された支援は、主にバイデン前政権下で委託された支援だ。

 ドイツ民間放送ニュース専門局NTVは、トランプ氏の欧州への批判に対し、「米大統領は両戦争の決定的な違いを見落としている。ウクライナは4年以上にわたりロシアの侵攻から自国を守り続けている。同盟国は主に武器供与と財政支援によってウクライナを支援し、ウクライナの財政破綻を防いでいる。一方、米国とイスラエルは現在、イランに対して侵略戦争を仕掛けている。両国の説明によれば、イランが核兵器開発計画をほぼ完了させようとしていたと主張しているが、米国内外の専門家はこれらの主張に疑問を抱いている」と説明している。

 また、ワシントン・ポスト紙によると、米国政府はウクライナ向け兵器を中東地域に転用することを検討しているという。その理由はイラン内戦によって米軍の特に重要な弾薬備蓄が枯渇しているためだという。この情報が正しければ、ウクライナは深刻な影響を受けるだろう。ゼレンスキー大統領は26日、軍の資金不足が差し迫っていると警告した。また、イラン戦闘を理由に米国がロシア産原油供給に対する一部の制裁措置を停止したことを批判し、モスクワがその収入を侵略戦争の資金源として利用する可能性があると指摘した。

 ちなみに、現代では国連憲章により武力行使が原則禁止されているため、正面切って「戦争を始める」と宣言することは稀だ。多くの場合、「自衛権の行使」という名目で戦闘が始まる。

 ところで、日本にとってウクライナ戦争は「我々の戦争」か、米イスラエル軍のイラン戦闘はどうか。ウクライナもイランも地理的には日本から遠い。ただ、後者は日本の重要な原油供給国であり、経済関係は深いだけに、その影響は大きい。

 高市早苗首相は25日、国会答弁で米イスラエルのイラン攻撃について当初「戦争」と表現したが、直後に「戦闘」と言い直す場面があった。日本政府は、特定の事態を「戦争」と定義することを避ける傾向がある。これは、憲法第9条で「戦争の放棄」を掲げているため、国際法上の「戦争(War)」という言葉を使うと、日本がその当事者や支援者としてどう関わるべきかという法的議論が複雑化するためだといわれている。

ピーター・ティール氏の‘政治神学‘

 米国のテクノロジー界の大富豪、ピーター・ティール氏は15日から18日までの4日間、イタリアのローマ市内のパラッツォ・タベルナで招待制の非公開セミナーを開催し、終末論と反キリストをテーマに講演した。
 バチカン教育文化省次官のアントニオ・スパダロ神父(イエズス会)は、選ばれた聴衆に向けてティ―ル氏が行った4回の講演についてソーシャルメディアで報告した。ただし、スパダロ神父自身が講演に出席したのか、あるいは他の参加者からの情報なのかは明言しなかった。ティール氏による同様のセミナーは、ここ数ヶ月、サンフランシスコ、パリ、インスブルックなど各地で開催されている。

thumbnail (28)
▲ウィーン市16区の散歩道で見つけたチューリップ、2026 年3 月15 日、撮影

 スパダロ神父によると、ティール氏は「聖書、キリスト、そして終末」について語ったという。ティール氏の思想の中心にあるのは、新約聖書に登場する「カテコン」という存在、すなわち終末におけるイエスの再臨を阻む力だ。もう一つの中心的なテーマは、終末(ギリシャ語:エスカトン)と「新たな創造への移行」だった。

 スパダロ神父によれば、ティールの考え方は本質的な点、イエス・キリストの役割と人類の救済という点を見落としているという。ティールは世界の終末を宗教的な視点からではなく、歴史的出来事として捉えている。彼の関心はキリストの再臨ではなく、むしろ現在の世界情勢を分析し、反キリストを特定してそれに対抗することにある。そうすることで、キリスト教の救済史は、政治的なカテゴリーのみによって定義される善と悪の最終決戦へと矮小化されてしまう。

 スパダロ神父は長文の報告書の中で、「ティール氏の議論に耳を傾けることは有益である。しかし、彼の考え方をキリスト教神学だと考えるのは間違いだ。むしろ、それは権力プロジェクトに奉仕する政治神学に過ぎない」と言い切っている。

 「ティ―ル氏の考え方はキリスト教神学ではなく、政治神学だ」というスパダロ神父の指摘は大きくは間違っていないだろう。ティール氏が使用する「カテコン」は新約聖書の「テサロニケ人への第2の手紙」第2章6節〜7節に記述されている。終末(アンチキリストの到来)を遅らせ、世界が崩壊するのを食い止める「抑止力」や「存在」を指す。「不法の者(アンチキリスト)」が世に現れるのを、何らかの力(あるいは存在)が一時的に食い止めているというのだ。この「抑止するもの」が具体的に何を指すのかについては、古くから神学者の間で解釈が分かれている。

 聖書の記述から発展した「カテコン」は、現代では「秩序を維持するために終末(破局)を遅らせる存在」という重要な政治哲学的概念として注目されている。20世紀のドイツの法学者カール・シュミット(1888〜1985年)によると、「カテコンは、単なる宗教用語ではなく、国家や主権者がカオス(無政府状態や内戦)を抑止し、歴史を継続させる機能を指す言葉となってきた」という。カテコンは「善」そのものではなく、あくまで「より大きな悪(終末)」を避けるための抑止力だ。そのため、現状維持を重視する保守的な権力を正当化する論理として使われることもある」という。

 カテコン(抑止者)はまた、曖昧な議論ではなく、明確な「敵と味方」の区別を行い、断固たる決断を下すことでしか存在し得ない。決断なき政治は、カオス(終末)への門を開く。カテコンによる抑止は、問題を根本解決する「救済」ではない。あくまで「時間を稼ぐこと」に意味がある。

 現代においてカテコンを求める声は、「自由よりも安全(秩序)」を優先する傾向として現れる。ただし、先述したように、カテコンは「救済(理想の実現)」ではなく、あくまで「破局の先送り」に過ぎない。そのため、「いつまで先送りし続けられるのか?」「抑止そのものが新たな抑圧にならないか?」という問いが常に付きまとう。

 次は、ティール氏の中的なテーマ「終末」だ。キリスト教における「終末」は、単なる世界の滅亡ではなく、神による「歴史の完成」と「新しい世界の始まり」を意味する。キリスト教の終末はキリストの再臨が合図となる。死者が復活、最後の審判というプロセスを経て、新天新地が誕生する。

 新約聖書の「ヨハネの黙示録」などに基づくと、世界の終末が訪れる直前に、神に敵対する最大の偽物であるアンチキリスト(反キリスト)が現れるとされている。アンチ・キリストについて、ティール氏は2025年9月、サンフランシスコで開かれたセミナーの中で「現代の反キリストは、平和と安定をもたらすと主張する主体や組織だ」と説明した。彼の見解では、「悪」は、例えば技術規制、グローバル・ガバナンス、気候変動対策といったものに具現化されている。これらは一見安全を約束するように見えるが、実際には市民の自由を制限するものだという。

 「終末思想」は世界の始めと終わりの到来を前提とした思想で、キリスト教の教えの中に色濃く反映している。同時に、終末思想は民族、文化、宗教を越えてさまざまな形態でみられる。「終末思想」が人類共通のDNAとすると、スイスの精神科医カール・グスタフ・ユングの言葉を借りれば、人類の「集団的無意識」の世界に属する思想といえる。「天地創造の神話」、「洪水神話」、「兄弟殺人の話」(フラトリサイド)などが世界至る所で形を変えながらも見い出せるように、「終末思想」も文化圏を越えて人類が継承してきた集団的無意識の一つといえる。

 ところで、「終末」があるということは、「始め」があったことになる。始めも終わりもないギリシャ思想や仏教の時間観とは異なる。キリスト教では天地創造だ。そこから始まった人類の歴史はいつしか終りを迎える。その終幕が人類全てにとって新約聖書の黙示録が暗示する「カタストロフィ」を意味するのか、それとも人類の「再出発」なのかは「終末」を説く宗教、思想によってやはり異なる。

 聖書的観点から「反キリスト(Antichrist)とは、「イエス・キリストに反対する者」や「キリストの身代わりに成り代わろうとする者」を指す言葉だ。すなわち、キリストの敵対者・偽教唆者で、イエスがキリスト(救い主)であることを否定したり、聖書の教えに背く教えを広めたりする個人や集団を指す。特定の人物だけでなく、キリストに反対する勢力全体を指すこともある。

 ティール氏にとっての「反キリスト」は、角の生えた怪物ではなく、「平和と安全」を旗印に世界を一つにまとめようとする管理体制や思想を指す。核戦争、気候変動、AIの暴走といった「終末(アルマゲドン)」への恐怖を煽り、それを防ぐという名目で世界を一元的に管理・統制しようとする動きこそが反キリストの本質であるというのだ。

 ちなみに、バチカンの人工知能(AI)顧問パオロ・ベナンティ神父は、ティール氏の思想を「リベラルな合意に対する異端(heresy)」と呼び、社会の共生基盤を脅かすものだと批判している。

人類はエネルギーを巡り戦い続ける

 ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、軍事目標のターゲットが軍事基地や関連施設から次第に発電所や石油・ガス輸送パイプラインなどエネルギー供給施設に移ってきた。米イスラエルのイラン戦闘でも世界の原油・ガス輸送の約20%が通過するホルムズ海峡をイラン革命防衛隊(IRGC)が海上封鎖を実施すると警告すると、世界の原油市場は大混乱し、原油価格が急騰、世界経済に大きな影響を与えている。IRGCの広報担当は「米国とその同盟国には1リットルの油もここを通過させない」と脅迫している。相手のエネルギー源をどれだけ破壊、ないしは麻痺させるかが、戦いの勝敗を分ける、といわんばかりだ。

1399041416065521120720894
▲イラン最高国家安全保障会議の新書記にモハマド・バゲル・ゾルカドル氏が任命された。同氏は、イスラエル軍の攻撃で17日殉教したアリ・ラリジャニ氏の後任者、Tasnim通信3月24日、

 トランプ米大統領によると、米国はイランの将来の指導部と交渉中という。交渉がうまくいかない場合、イランの主要な発電所を破壊するだけではなく、イランでは原油輸出の90%がハルク島を経由して輸送されているが、その島の占領も辞さない強い意向を示唆している。

 外電によると、 米国は海兵隊に続き、精鋭空挺部隊もイランに向けて派遣している。この派遣には第82空挺師団から3000人の空挺兵が参加するとみられている。これにより、米軍のハルク島占領計画が現実味を帯びてくる。

 このコラム欄でも報じたが、ハンガリーやスロバキアは依然、ロシアから安価の原油、天然ガスをウクライナのドルジバ・パイプライン経由で輸入しているが、そのパイプラインがウクライナ戦争の被害で損壊。原油輸送が今年1月27日からストップになっている。ハンガリー政府は、キーウに対して、損傷箇所の早期修復と輸送再開を要求してきたが、ウクライナ側は「早急な修復は不可能だ」と一蹴。ウクライナ側の説明によると、「被害地域はリヴィウ州ブロディ近郊のウクライナ西部だ。1月末にロシアの無人機による攻撃でタンク基地が被災し、火災で地下パイプラインの制御システムも損傷した。この被害は外からは見えないが、大規模な修復が必要だ」というのだ。

 ブリュッセルはハンガリーとウクライナ間のパイプライン問題を解決するために、ウクライナ側には「5月までにパイプラインの修復を実施するように」と要請、ハンガリー側にはその代わりに、ウクライナにとって極めて重要な、数百万ユーロ規模のEU融資の支払い阻止を止めるように、という調停案を提示している。

 ウクライナ戦争のとばっちりを受けているにはモルドバも同じだ。モルドバ議会は24日、隣国ウクライナへのロシア軍の攻撃により、同国の電力需要の大部分を供給する送電線が麻痺したことを受け、60日間の「エネルギー非常事態」を宣言した。

 旧ソ連構成国であるモルドバは、南ウクライナを通る送電線(イサチェア=ヴルカネシュティ線)を経由して電力を供給されているが、モルドバのマイア・サンドゥ大統領によると、「最も重要な電力接続」が途絶えたと発表し、停電の責任はロシアにあると非難している。状況は依然として危機的だという。首都キシナウをはじめとする都市は数時間にわたり停電に見舞われたばかりだ。

  ロシア軍は昨年末から今年にかけ、ウクライナの発電所などエネルギー供給源の拠点を集中的にミサイルや無人機で攻撃。その結果、首都キーウばかりかウクライナ各地で電力不足から停電となり、零下20度の中、暖房のない冬を過ごしてきた。

 エストニア情報機関(ISS)によると、ロシアのドローンがNATO加盟国であるエストニアの発電所を攻撃した。ISSは25日、「ドローンはオーヴェール発電所の煙突に命中した」と発表した。ドローンは「ロシア領空からエストニア領空に侵入した」とみられ、負傷者は出ていない。ロシアとエストニアは全長約300キロメートルに及ぶ国境を接している。

 ところで、国際人道法(International Humanitarian Law)によると、発電所は本来、病院、水道、一般家庭の生活を支える「民用物」(民間施設)とみなされる。これらを意図的に攻撃することは戦争犯罪にあたる。例外は、その発電所が「軍事行動に実質的に寄与している」とみなされ、かつ破壊することで「明確な軍事的利益」が得られる場合に限り、「軍事目標」として攻撃対象になる可能性がある。ただし、軍事的に重要であっても、軍事的な利益よりも攻撃によって民間人に与える被害(飢え、病気、死など)が、過度に大きい場合は、国際法違反となる。特に原子力発電所については、放射性物質による甚大な被害を避けるため、より厳格な保護規定が設けられている。

 ウクライナやイランなどの紛争におけるエネルギー施設への攻撃は、国際法(国際人道法)において原則として「民間施設(民用物)への攻撃」として禁止されている。 国際刑事裁判所(ICC)は2024年3月、ウクライナの電力インフラへのミサイル攻撃に関与したとして、ロシア軍の司令官2人に対して逮捕状を発行している。

 米イスラエル軍のイラン空爆(2月28日)の場合、イラン国内の複数の燃料貯蔵・流通施設を標的にし、大規模な火災や民間サービスへの支障が出た。法律専門家は、1500万人が暮らすテヘラン近郊の石油施設などへの攻撃は、輸送や公共サービスを停止させ、民間人に甚大な被害を与えるため、国際法上の「比例性の原則」に抵触する可能性が高いと指摘している。

 人類は石油や天然ガスのエネルギー埋蔵地を獲得するために戦争を繰り返してきた。そして現在、エネルギー供給源の拠点を破壊することで相手国を窮地に陥れようとする。年数をかけて作り上げた建物や橋を壊す一方、原油・ガスの産出拠点を破壊して周辺に住む人々を困らせている。

 宇宙には無限のエネルギーがあるといわれているが、人類がそのエネルギーを利用できるまで地上でエネルギーを巡る戦いを繰り返すことになるのだろうか。「20世紀以降の戦争は、領土のためではなく、エネルギーのために戦われるだろう」といわれている。

「労働者の党」の看板を失った独社民党

 2026年はドイツにとってスーパー選挙の年だ。今月8日のバーデン=ヴュルテンベルク州議会選を皮切りに、同月22日にはラインラント・プファルツ州議会選が実施されたばかりだ。、そして9月6日には ザクセン・アンハルト州、 同月20日にはメクレンブルク=フォアポンメルン州の州議会選が行われる。また、ベルリン市議会選挙も同じ時期に行われる予定だ。「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の2大連立政権にとって国民の政権への支持傾向を知るうえで重要な機会だ。

657550960_18569558221019180_2958371517397980900_n
▲SPD共同党首、ラース・クリングバイル氏(右)とバールベル・バース氏、SPD公式サイトから

 今月8日に実施されたバーデン・ヴュルテンベルク州議会選では「緑の党」が得票率30・2%を獲得し、「キリスト教民主同盟」(CDU)との接戦を制し、第1党を維持した。 一方、SPDは得票率5・5%と議席獲得に必要な得票率5%のハードルを辛うじてクリアするという歴史的な惨敗を屈した。一方、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)は18・8%と得票率を大幅に伸ばした。

 今月22日に実施されたラインラント・プファルツ州議会選ではCDUが得票率30・9%で第1党を奪取、ゴードン・シュニーダー州党首が次期州首相に就任する予定だ。一方、同州を35年間君臨してきたSPDは2021年の前回の選挙から約10%得票を減らし、得票率25・9%と州創設以来最悪の結果となった。AfDはここでも約22%と西部ドイツの州としては異例の高得票を記録し、第3党となった。旧東独に強いAfDと言われてきたが、旧西独でもその支持基盤を拡大してきていることがバーデン・ヴュルテンベルク州とラインラント・プファルツ州の両州議会選を通じて改めて明らかにした。

 22日はラインラント・プファルツ州議会選と共にドイツ南部バイエル州の州都ミュンヘンの市長選の決選投票が実施された。「緑の党」のドミニク・クラウゼ (Dominik Krause) 氏が、得票率56・4%で現職で社会民主党(SPD)のディーター・ライター (Dieter Reiter) 氏を破り、初当選を果たした。 今回の結果は、1948年以来(1978年〜1984年の中断を除く)続いてきたSPDによる市政に終止符を打つ、歴史的な政権交代となった。 ドイツ第3の都市ミュンヘン市において、「緑の党」市長が誕生するのは史上初めて。

 上記の2州議会選とミュンヘン市長選の選挙結果は社民党にとって厳しい結果だった。バーデン=ヴュルテンベルク州議会で議席をほぼ失いかけ、そして22日にはラインラント・プファルツ州首相とミュンヘン市長の座を失った。ラインラント・プファルツ州首相の地位を失ったアレクサンダー・シュヴァイツァー氏は選挙直後、「敗北は連邦指導部のせいだ」と述べ、SPD連邦党本部を批判した。

 選挙で歴史的な敗北を屈すれば、その後、人事問題が浮上するのは政界の常だ。SPDも例外ではない。クリングバイル党首の場合、副首相であり財務相、そしてSPD党首と3つの重要なポストを握っていることから、連邦政府の要職と党要職を分けるべきだという声が出ている。ただし潜在的な党首候補とみられるボリス・ピストリウス国防相と、ザールラント州首相のアンケ・レーリンガー氏は、いずれも党首就任の意思のないことを明らかにしている。

 SPD党首のラース・クリングバイル氏と共同議長のバース氏は、引き続きそれぞれの役職にとどまる意向だ。両氏は23日、ベルリンで開かれた党執行委員会の会合後、連立政権第2党であるSPDを混乱に陥れるつもりはないと明言した。「今は人事ではなく、敗北の根本的な分析に注力する」というわけだ。党執行委員会もこの見解を共有しているという。27日には、党指導部、SPD所属の州首相、地方政治家らが再び会合を開き、議論を行う予定だ。

 ティム・クリュッセンドルフ幹事長、マティアス・ミアシュ議会会派代表、ピストリウス国防相らは、党指導部を公然と支持した。SPDの方向性をめぐる議論では、「国民はSPDが労働者階級よりも福祉受給者を優先していると考え出している」という意見が聞かれる。例えば、「国民はもはや我々を信じていない。これは我々にとって警鐘だ」と、SPD議会会派内の保守派グループであるゼーハイマー・サークル氏は警告している。

 フランクフルター・ルントシャウ紙の報道によると、SPD内部ではクリングバイル氏に対する批判が依然として根強く残っている。連邦議会選挙後、迅速に議会会派の議長職を確保し、権力を掌握したとの批判がある。さらに、メルツ首相(CDU)の政策に過度に追随しているという批判も上がっている、といった具合だ。

 選挙での敗北とSPD内部の混乱は、ベルリンの大連立政権にとって良い兆候とは言えない。さらに、ウクライナとイランで戦争が激化し、経済が低迷を続ける中、主要な改革案は保留状態にある。

 メルツ首相は22日のラインラント・プファルツ州議会選挙直後、ベルリンでSPD幹部と協議し、連立政権の今後の進め方について話し合ったという。「我々は、今後も共に改革の道を歩み続けることで合意した」と述べた。メルツ首相は「我々は決して性急に物事を進めているわけではない。改革は着実に進められており、今後も継続していく」という。一方、キリスト教社会同盟(CSU)党首のマルクス・ゼーダー氏は、SPD内部の左傾化に警鐘を鳴らした。

 ちなみに、ラインラント・プファルツ州議会選で得票数が倍増したAfDの筆頭候補者ヤン・ボリンガー氏は23日、「我々が今や労働者の党となったことは、AfDにとって喜ばしいことだ」と述べている。

 SPDはザクセン=アンハルト州でも厳しい戦いを強いられており、メクレンブルク=フォアポンメルン州では州首相の座を守らなければならない。SPDが9月に実施される旧東独の両州議会選で有権者の支持を大きく失うようだと党として存続の危機に陥る。SPDがメルツ政権内で野党色を強めていくことが予想される。

スロべニア下院選で親EU与党が首位

 「スロベニア」といえば、「スロバキアではないですよ」と言われる。当方が住む「オーストリア」はオーストラリアではないようにだ。旧ユーゴ連邦共和国は6共和国、2自治州から構成されていた。その中でスロベニア共和国は最北部に位置し、最も経済発展していた共和国だった。人口は全体の10%にも満たなかったが、国内総生産は全体の20%、外国貿易では30%を占める文字通り旧ユーゴ連邦の国民経済を支える共和国だった。自主管理社会主義システムを積極的に推進し、経済は潤っていた。他共和国からは“優等生”として羨まれていたほどだ。

Robert-Golob-1-1024x574
▲「勝利宣言」をしたスロベニアのゴロブ首相、スロベニアTVから(PopTV)

 スロべニアは地理的にはオーストリアに近く、首都リュブリャナはオーストリアの南部ケルンテン州のクラーゲンフルトとその町の風情がよく似ている、ただ、人口は211万人と小国であり、政治情勢は他のバルカン諸国と比べると、安定していることから、日本のメディアでスロベニアが登場する機会が少なかった。ただ、トランプ米大統領の奥さん、ファーストレディのメラニア夫人はスロベニア出身だということで、スロべニアに関心を持つ人が増えたともいわれている。

 前口上はこれで終え、コラムのテーマであるスロべニア国民議会(下院、定数90)の結果を報告する。欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国スロベニアでの選挙は接戦となった。 スロベニアで22日、国民議会の投開票が実施され、ロベルト・ゴロブ首相が率いる中道左派「自由運動党(GS)」が中道右派のヤネス・ヤンシャ党首「スロベニア民主党(SDS)」に僅差で勝利した。ただし、暫定結果によると、ゴロブ首相率いる連立政権は過半数を失ったため、連立交渉が難航することが予想されている。連立交渉次第ではSDSの政権交代のチャンスはある。

 開票率99.9%の時点で、自由運動党(GS)は28.6%の得票率で「スロベニア民主党」(SDS)27 .95%を破り、勝利を収めた。党に対する中傷キャンペーンの圧力にさらされながらも、ゴロブ氏は最終局面でSDSを抜いた。これにより、GSは29議席、SDSは28議席を獲得した。ゴロブ首相は22日夜遅くに勝利宣言を行った。

 ゴロブ氏は22日夜、首都リュブリャナの党本部で、「有権者は自由運動だけでなく、民主主義そのものに投票した」と述べた。その後、議会で記者団に対し、政権樹立に向けて「議会内のすべての民主政党」と協議する意向を表明した。同氏は、可能な限り幅広い政党による連立政権を目指すという。

 59歳のゴロブ氏は、2022年に政界の新人として政権に就き、現在は3党による中道左派連立政権を率いている。一方、ヤンシャ氏は2004年から3期にわたり首相を務めたが、2022年の選挙でゴロブ氏に大敗を喫した。

 GSとSDSに加え、5つの政党が議席を獲得した。その中には、親ロシア・反欧州政党のResni.ca(真実)が議席を獲得した。第3党にはキリスト教民主派NSiが率いる保守連合で、次いで社会民主党、そして元副首相アンジェ・ロガル氏の民主党が続いた。いずれの二大政党も単独では90議席中46議席という絶対多数を獲得する見込みがないため、4%の得票率を突破した小政党がキングメーカーの役割を担うことになる。

 社会民主党と左派によるこれまでの連立政権はもはや過半数を維持できない。しかし、ヤンシャ氏が右派ブロックと組んだとしても過半数を確保できる見込みはない。ヤンシャ氏はすでに僅差の選挙結果に異議を申し立てる意向を示している。STA通信によると、同氏は「すべての投票所のすべての票を再集計する」と述べた。

 両陣営は選挙前、今回の選挙を国の将来を左右する重要な決定だと位置づけていた。ゴロブ政権下では、スロベニアは社会改革に重点を置いた自由主義的で親欧州的な路線を歩んできた。ゴロブ政権下でスロベニアでは同性婚が合法化された。外交政策においては、パレスチナ独立国家を支持し、イスラエルに対する武器禁輸措置を課した。

 一方、ヤンシャ氏は法人税減税を掲げ、政府の財政浪費を非難し、今回の選挙を「腐敗に対する国民投票」と位置づけた。さらに、「伝統的な家族」といった「スロベニアの価値観」の回復と、一部の非政府組織への国家補助金の削減計画を発表した。ヤンシャ氏はハンガリーのオルバン首相の盟友であり、ドナルド・トランプ米大統領の強力な支持者と目されている。そのため、ヤンシャ氏が勝利すれば、スロベニアの外交政策は大きく方向転換する可能性が高い。

 なお、選挙運動は、外国による干渉疑惑が表面化した。当局は、イスラエルの企業ブラックキューブが、ゴロブ政権の腐敗ぶりを描いた動画作成に関与していたかどうかを捜査している。ヤンシャ氏はブラックキューブの代表者と会ったことは認めたものの、動画の公開への関与は否定した。

イラン戦争下で迎える過越祭(ぺサハ)

 イスラエルで4月1日からユダヤ教の3大祭りの一つである「過越祭」(ぺサハ)が始まる。ぺサハは4月1日の日没から4月8日の日没まで一週間続く。過越祭りは古代エジプトで奴隷だったイスラエル人がモーセに率いられて脱出し、神の約束の地カナン(現在のパレスチナ)に入り、自由を手にした歴史を記念する重要な宗教祝日だ。モーセが主導した出エジプトの内容は旧約聖書の「出エジプト記」に記述されている。

pic_event_pikkud20.3.26
▲ネタニヤフ首相、イスラエル国防軍中央司令部で安全保障評価を実施、2026年3月22日、イスラエル首相府公式サイトから

 約3300年前にイスラエル民族がエジプトから解放された出来事を祝うぺサハでは、脱出時にパンを膨らませる時間がなかったことにちなみ、期間中は酵母(イースト)を含む食品を食べず、「マッツァ」と呼ばれる平たい無酵母パン(種入れぬパン)を食べる。ぺサハの最初の夜には家族や友人が集まり、出エジプトの物語を記した「ハガダー」を読みながら、特別な料理を囲む伝統的な夕食会(セデル)を開く。

 ぺサハの期間は法定祝日であり、 多くのお店や公共交通機関が休みになる。4月2日〜6日:はホ・ハ・モエド(中日)」と呼ばれ、学校などは休みだが、一部の商店や施設は半日営業するなど、準祝日のような扱いになる。この期間のイスラエルは、伝統を重んじる厳かな雰囲気と、春の訪れを祝う華やかさが混じり合った特別な時期となる。

 ところで、世界のイスラム教徒(信者数約19・5億人)は先月18日(地域によっては19日)からラマダン(断食)を開始し、3月19日までの1か月間、日の出から日没の間、イスラム教徒は断食(サウム)が義務付けられていた。そのラマダンも終わったばかりだ。

 イスラム教の経典によると、「ラマダン」とは、イスラム暦(ヒジュラ暦)における第9番目の月の名称だ。預言者ムハンマドが西暦624年、メッカからメディナに移った時、神(アッラー)からの命令を受け、ラマダン期間中の断食が正式に義務づけられた。ラマダンの順守はイスラム教徒が義務づけられている五行(信仰告白、1日5回の礼拝、喜捨(寄付)、メッカへの巡礼、ラマダン中の断食)の一つだ。この期間は単に飲食の摂取だけではなく、喫煙、性交渉、そして喧嘩や悪口なども禁止されている。同時に、貧しい人へ積極的な喜捨が願われている。

 ぺサハの期間中に戦闘が起きたり、大規模なテロ事件が起きた例は過去、ある。ユダヤ教の重要な祝祭日は家族が集まる時期であるため、そこを狙った攻撃が大きな悲劇を招く。2002年3月27日、過越祭の虐殺 (Passover Massacre)と呼ばれているテロ事件が起きた。ホテルの食堂で過越祭の夕食会(セデル)が行われていた際、ハマスの自爆テロが発生し、30名が死亡、140名以上が負傷した。、第2次インティファーダ(パレスチナ人の反イスラエル闘争)においてイスラエル市民を標的とした最悪の攻撃の一つとなった。この事件を受け、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区で大規模な軍事作戦「防衛の盾作戦」を開始した。

 また、2023年10月に始まったハマスとの戦闘は、2024年や2025年の過越祭の期間中も継続した。2024年のペサハでは、多くの避難民が自宅で祝うことができず、ガザに拘束されたままの人質を想う「空席のあるセデル(夕食会)」が行われるなど、非常に重苦しい雰囲気の中での祝祭となった。自由への解放を祝うペサハの時期は、歴史的に見ても安全保障上の緊張が非常に高まりやすい時期と言える。

 過越祭をまじかに控え,イスラエル人の「出エジプト」は実際にはなかったという考古学的な成果を引き合いに出すのは少々恐縮するが、モーセがイスラエル人の成人男性60万人を奴隷の地のエジプトから解放し、神の約束の地に入った、という物語(ナラティブ)はどうやら史実ではないのだ。

 多くのイスラエル人が40年間もシナイ半島を彷徨ったのであれば、当時の土器、住居跡、排泄物、埋葬跡などの生活痕跡が大量に見つかるはずだが、現代の高度な発掘技術をもってしても、その時代のシナイ半島からイスラエル人の大規模な移動を裏付ける物理的な証拠は一切見つかっていない。エジプト側にもイスラエル人の大量出国を裏付ける記録(壁画、パピルス)がないのだ。

 それでは、イスラエル民族に延々と伝えられてきた「出エジプト」の物語は何を意味するのだろうか。実際は、エジプトから脱出した少人数のグループ(レビ族など)がおり、彼らがカナンに定住した際、自分たちの神(ヤハウェ)の体験を現地の民に伝え、それが民族全体の「共通の記憶」として誇張・神話化されたのではないか、といわれている。バビロン捕囚期(紀元前6世紀頃)などに、ユダヤ人が民族の結束を固めるために「苦難から神によって救われた」という建国神話をまとめ上げた。結論として、出エジプトは「歴史的事実」というよりは、ユダヤ教における「信仰と自由の精神の象徴」としての物語であると捉えるべきだろう。
 
 「出エジプト」という物語が、歴史的事実かどうかを超えて、ユダヤ人のアイデンティティや精神に深く影響を与えてきたことは間違いない。その核心は、単なる「昔話」ではなく、「今を生きる指針」として機能し続けている点だ。出エジプトの途上、シナイ山で授かったとされる「十戒」を含む律法(トーラー)が、民族の憲法となった。

 紀元70年に国を失い、世界中に散らばった(ディアスポラ)後も、彼らは同じ「法」を守ることで、2000年以上も一つの民族としてのアイデンティティを保ち続けた。「神と契約を結んだ特別な民」という自覚が、過酷な運命を生き抜く強いプライドを生み出した。ユダヤ人はペサハ(過越祭)の儀式を通じて、この物語を単に「思い出す」のではなく、「自分たちが今、エジプトから出ている」と再体験しているというのだ。

 ちなみに、19世紀末から始まったユダヤ人の帰還運動(シオニズム)は、まさに現代版の「出エジプト」として位置づけられている。欧州での迫害(ホロコーストなど)を「エジプトでの奴隷状態」に見立て、イスラエル建国を「約束の地への到達」と重ね合わせることで、世界中のユダヤ人を結集させる強力な精神的支柱となった。

 問題は、イスラエル人にとって「出エジプト」は全員が知っているアイデンティティだが、それは「民主的な自由国家」を目指すための物語なのか、それとも「神の律法を完璧に守る宗教国家」に回帰するための物語なのか。この「国の形」を巡る争いが、外敵との戦い以上に、今のイスラエルを内側から揺り動かす切実な問題となっている。

 エルサレム・ポスト紙によると、イランやその支援を受ける武装組織にとって、イスラエルの祝日は軍事的な「狙い目」や「警戒時」とみなされている。祝祭期間中は多くの市民が集まり、兵士も休暇で帰宅するため、心理的・物理的な隙が生まれやすいからだ。

 イスラエルによるイランへの先制攻撃や最高指導者の死去を受け、イラン側が「祝祭期間中も攻撃を緩めない」との姿勢を示している。実際に、イスラエル軍はペサハ期間中も戦闘が継続することを想定し、警戒を強めている。 ペサハが「奴隷からの解放」を祝うものであるのに対し、イランは「イスラエルこそがパレスチナ人を抑圧する現代のファラオである」と宣伝し、祝日の意義を否定するキャンペーンを行っている。

 シーア派の教義においてエルサレム(アル=クドッス)の解放は重要な悲願であり、イスラエルがその地でユダヤ教の祝祭を盛大に行うことは、イランの指導部にとって宗教的な挑発と受け取られる側面がある。 2026年4月のペサハ期間は、これまでの緊張に加え、イラン国内の体制の動揺やイスラエルによる大規模な軍事作戦が重なっており、例年以上に「衝突の火種」としての意味合いが強まっている。

モジタバ師のプロファイリング

 イランでアリ・ハメネイ師の後継者に選出されたモジタバ・ハメネイ師は20日、イラン暦の新年(ノウルーズ)にあわせてメッセージを発表した。その内容は新年の挨拶と共に、「敵にさらなる打撃を与えていく」と述べ、強硬姿勢を改めて強調、同時に国民統一の重要性を発信した。

1404122918020363136108334
▲モジタバ・ハメネイ師、新年のメッセージで国民統一の重要性を強調、2026年3月20日、Tasnim通信から
 
 第3代の最高指導者に選ばれたモジタバ師は就任直後から姿を現さない異例の状態が続いている。その一方、21日を含めてこれまでに国営放送やSNSなどを通じて3回のメッセージ(声明)を発表している。

 第1回声明は2026年3月12日、イラン国営放送(IRIB)で同師の初のメッセージがアナウンサーを通じて代読された。そこでは父ハメネイ師の死に対する「復讐を決して放棄しない」と宣言。敵(アメリカやイスラエル)に対し「いかなる場合でも代償を支払わせる」として徹底抗戦を訴えた。また、周辺諸国の米軍事基地を攻撃したことについて「各国への侵略ではない」と釈明しつつ、米軍基地などへの攻撃を続ける意向を示した。

 第2回声明は2026年3月17日頃で、緊迫する情勢の中で出されたメッセージだ。その内容は国際社会などからの休戦提案を一蹴。前指導者の暗殺犯に対し「必ず代償を払うだろう」と改めて警告している。

 ちなみに、米・イスラエル軍のイラン攻撃の初日(2月28日)、モジタバ師の父親のハメネイ師、その妻や家族メンバーが一度に殺害された。空爆された建物にモジタバ師もいたが、同師はその場所を少し離れた時に空爆を受けたため、死を逃れたという経緯がある。現地からの情報によれば、モジタバ師は足や顔を負傷したといわれている。

 ところで、当方は昔、FBIの行動分析課(Behavioral Analysis Unit、BAU)のメンバーたちが、犯罪者たちをプロファイリングし、犯罪心理を読み解き、事件の解決に挑む米TV番組「クリミナル・マインドFBI行動分析課」が好きだったが、それに倣って、モジタバ師の発言などからそのプロファイリング、性格などを推測してみた。

 声や表情といった「非言語情報」がなくても、テキストそのものに発信者の心理状態、知性、社会的背景、癖が色濃く反映される。語彙の豊富さ、専門用語の使用頻度、好んで使う接続詞、句読点の打ち方などから、教育水準や職業、年齢層を推定できる。また、「私」という一人称の多用(自己執着や不安)や、否定語の頻度(拒絶やストレス)など、無意識に選ばれた言葉から感情や性格を読み解く。特定の話題を避ける、あるいは執拗に繰り返すといった「歪み」から、隠れた意図や嘘の兆候を探ることが出来る、といった具合だ。

 それでは、モジタバ師がこれまでに発信された3度のメッセージから何が分かるだろうか。父親や家族を殺害されたはモジタバ師には、 徹底した「意志の強固さ」と「復讐心」が感じられる。第1回のメッセージで「復讐を決して放棄しない」と明言した点は、彼が感情に流されているのではなく、「国家の威信」と「血の報復」を政権維持の核に据えていることを示している。敵対勢力に対して一切の妥協を見せない、冷酷なまでの断固とした姿勢が伺える。
  
 また、公式な場に姿を見せず、メッセージのみを流す手法からは、自身の安全確保を最優先しつつ、神秘性を高めてフォロワーを統制する計算高い性格が推察される。感情的な演説よりも、国営放送を通じた事務的かつ重みのある宣言を好む、極めて戦略的な人物だ。
 
 第2回、第3回の声明で休戦提案を一蹴し、「さらなる打撃」を強調していることから、外交による解決よりも軍事的なプレゼンスによる現状打破を信奉している可能性が高い。国際社会の反応よりも、国内の保守強硬派や革命防衛隊(IRGC)の期待に応えることを優先する、内向的かつ攻撃的なリーダー像が浮かび上がる。

 以上、モジタバ師の発言は父であるハメネイ師の思想をさらに先鋭化させた内容だ。彼は「融和」を弱さと断じ、「力による均衡」を信奉するハードライナー(強硬派)であると分析できる。

 モジタバ師に対する国民の評価は、期待よりも「不透明さへの不安」や「世襲への反発」が強く混在している。 1979年の革命で王政(世襲制)を打倒した経緯があるため、ハメネイ家の「世襲」には多くの国民が反発を感じている。一部の世論調査(漏洩したとされるデータを含む)では、現体制への不支持率が非常に高い(90%前後)。

 これまで公職に就かず、説教すらほとんど行わなかったため、国民の多くは彼の肉声を聞いたことがなく、「何を考えているかわからない」という不気味さが不信感に繋がっている。一方で、革命防衛隊やバスィージ(民兵組織)、保守的な聖職者層からは、父の路線を忠実に継承する「革命の守護者」として高く評価・支持されている。モジタバ師は、国民との直接的な対話よりも、強力な治安組織を背景とした「力による統治」を優先しているように見受けられる。

 最後に、モジタバ師の危機管理には、ロシアからの助言や援助の影がちらつく。モジタバ師の徹底した「徹底潜伏」と「情報の小出し(メッセージ発信)」という手法には、ロシア流の危機管理術や、プーチン政権が長年培ってきた「ハイブリッド戦」の影響が色濃く感じられる。
 モジタバ師が録音や代読でメッセージを流す手法は、「生きていること(権力の継続)」を伝えつつ「居場所を特定させない」という、ロシア式の高度な情報統制の学習成果だ。。

 また、イスラエルなどの諜報機関による「斬首作戦」を防ぐには、物理的な警備だけでなく、通信の遮断や偽情報の流布といった電子的な盾が必要となる。イランはロシアから最新の防空システムや電子戦技術の供与を受けており、モジタバ師の居場所を隠蔽する技術的なバックアップにロシアが関わっている可能性は極めて高い。

 いずれにしても、ロシアにとって、イランが混乱して親米政権に変わることは最大の悪夢だ。そのため、モジタバ政権の早期安定化はロシアの国益に直結する。モジタバ師の背後に、ロシアの軍事・諜報顧問がピタリとついて、暗殺阻止と情報戦略を練っているという見方は、国際政治の文脈からも非常に説得力がある。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ