ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2025年10月

プーチン氏が戦争犯罪容疑で逮捕される日

 米国アラスカ州で米露首脳会談が開催された日(8月15日)、ドイツのTVジャーナリストがウクライナの首都キーウの市民にインタビューした。「あなたは米露首脳会談に何を期待しますか」と聞くと、一人の男性市民はちょっと笑いながら、「停戦交渉が始まる日はいつもロシア軍のウクライナ攻撃が激しくなるんだ」と答えていた。実際、アラスカの米ロ首脳会談の開催中、キーウ市は戦後最大の空爆を受けた。

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▲アラスカの米ロ首脳会談、クレムリン公式サイトから,2025年8月15日

 トランプ米大統領は今月16日、プーチン氏と電話会談すると、プーチン氏から聞いたばかりの停戦へのブリーフィングをウクライナのゼレンスキー大統領にそのまま繰り返した。

 トランプ氏は電話会談前までトマホーク巡航ミサイルのウクライナ供与に対して積極的だったが、その後、トマホークの供与の話をトーンダウンした。トマホークの供与を願うゼレンスキー大統領に対して、イエスもノーとも答えず曖昧にした。「米国内の在庫も十分ではない」といった言い訳を繰り返す。挙句の果ては、「ウクライナにトマホークを供与すれば、プーチン氏は戦闘を激化させると言っていた」とゼレンスキー氏に伝えた。

 プーチン氏は今回、ウクライナ東部のドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)を完全にロシア側に譲るならば、その代わりにへルソン、サボリーシャ両州でロシア軍が占領している領土の一部をウクライナ側に返すという。ウクライナ側がそれを受け入れるならば、現状の境界線で停戦に応じるという内容だった。

 プーチン氏の停戦案にはあまり新しい点はない。プーチン氏は戦争開始から戦略目標を変えていない。一方、トランプ氏はプーチン氏の停戦案にどのような前提条件が付いているかを無視し、「プーチン氏が停戦に応じる意思を表明した」という部分だけを取り上げ、メディア関係者に「プーチン氏は停戦の意思を明らかにした」とリークする。

 19日の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)によると、トランプ氏は17日、プーチン氏との電話会談の内容をゼレンスキー氏に伝えた。ところが、その停戦案に難色を示すゼレンスキー氏にトランプ氏は怒り、罵声を浴びせたというのだ。ゼレンスキー大統領はワシントンのホワイトハウスで2月28日、トランプ氏やバンス副大統領と会談し、激しい口論となったが、その再現となったわけだ。両者の違いは、前者はメディア関係者がその目撃者だったが、今回はメディアのプレゼンスはなかったことだ。

 口の悪いメディアは「トランプ氏は『2週間以内』に米露首脳会談をブタペストで開催することを最大の目標としている。ウクライナがどれだけの領土を失うことになるか、といったことには余り関心がない。ロシア側が譲歩しないのならば、ウクライナ側をロシア側の提案に合意させる以外にない。だから、トランプ氏はゼレンスキー氏を脅迫したわけだ」と解説している

 ロシア問題の専門家、インスブルック大学政治学者のマンゴット教授は「プーチン氏とトランプ氏では、知性レベルを含む交渉力はプーチン氏のほうが上まわっているから、両者が対談すれば、どうしてもプーチン氏の意向に沿って会談は進められる」と説明、ブタペストでの米露首脳会談もアラスカ会談と同様、プーチン・ペースで会談が進められる可能性があると警告している。

 ところで、プーチン氏には国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。そのこともあって、プーチン氏がどのような空路からハンガリー入りするかで、欧米メディアの話題となっている。欧州の空域を通過してハンガリー入りするか、セルビアのベオグラード経由でブタペスト入りするかだ。欧州諸国の大部分はICC加盟国だ。逮捕状が出ている政治家がICC加盟国の領土に入った場合、逮捕する義務がある。ハンガリーは今年4月、ICCから脱退を表明したが、実際に脱退が発効するのは来年4月からだ。

 唐突だが、ここではプーチン氏が欧州の領域内で逮捕された場合を考えてみた。

 プーチン氏が欧州の領土で逮捕されたならば、ロシア側から激しい反発が出てくるだろう。しかし、ロシアが欧米諸国に対し大量破壊兵器で報復攻撃するとは考えない。時間の経過に伴ってロシア国内で‘ポスト・プーチン‘の話が出てくる。その頃になると、ロシアの政情は落ち着いてくる。なぜならば、プーチン氏の側近の中にも、長い戦争とそれに伴う欧米諸国からの経済制裁で疲れ切った指導者が多いからだ。第2のゴルバチョフ、第2のナワリヌイ(ロシアの著名な反体制派活動家で2024年2月16日、刑務所で獄死したアレクセイ・ナワリヌイ氏)が出てくるかもしれない。独裁者は永遠には生きられない。歴史の鉄則だ。ロシアも例外ではない。

 最後に、忘れてならない点は、「戦争犯罪人プーチン氏逮捕」という政治的ビッグ・ポイントは米露首脳会談をブタペストで開催すると提案したトランプ氏にあることだ。トランプ氏の来年のノーベル平和賞はこれでほぼ確実となる。トランプ氏が喜び、ウクライナ国民も欧州諸国も喜ぶ。プーチン逮捕で反対する国は中国、北朝鮮、イランといったごく少数の国家に過ぎない。「プーチン氏逮捕」は国際社会では大きな混乱もなく認知されるだろう。

 以上、当方が今、夢想しているストーリーだ。

新カンタベリー大主教と聖公会の行方

 英国国教会は今月3日、最高指導者のカンタベリー大主教にサラ・マラーリー氏(63)を選出した。マラーリー氏は英国国教会の歴史で初の女性のカンタベリー大主教だ。元看護師。既婚者で、2人の子供がいる。国王チャールズ3世が承認し、来年3月に第106代として就任する。前任のジャステイン・ウェルビー大主教は昨年11月、国教会関係者の男性が多数の少年らに虐待を繰り返した疑惑を巡り対応を怠ったとして批判され、辞任に追い込まれた。

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▲次期カンタベリー大主教に指名されたサラ・マラーリー氏、ウィキぺディアから

 ところで、保守派「聖公会」グループ「GAFCON」の広報担当者であるルワンダ人首座主教ローラン・ムバンダ氏は16日、「私たちこそが真の英国国教会だ」という趣旨の声明を発表した。リベラル派と受け取られているマラーリー氏がカンタベリー大主教に任命されたことを受けて発表された内容だ。「GAFCON」は、女性の聖職叙任と同性愛関係への寛容さを批判してきた。

 マラーリー氏が任命されたことで、伝統的な信仰を重視する保守派と、より現代的な価値観を取り入れようとするリベラル派との間で長年続いてきた教会内の亀裂がさらに広げられ、組織の求心力が低下する可能性があると受け取られている。ただし、英国国教会は、歴史的に多様な解釈や立場の信徒が存在する組織であり、特定の人物の選出だけで「リベラル化」と断定することはできない、という慎重な声も聞かれる。以下、余り知られていない英国国教会についてまとめた。

 英国国教会は聖公会(アングリカン・コミュニオン)の母体であり、英国の「国教会」としての歴史と位置づけを持つ一方、聖公会は英国国教会から世界中に広がった、各国の独立した姉妹教会の総称だ。

 母体教会は1534年、イングランド国王ヘンリー8世がローマ教皇の承認を得ずに離婚を望んだことが直接的な原因となり、ローマ教会から離脱した。そして「国王聖下法」が制定され、イングランド国王がイングランド国教会の首長(最高指導者)となった。これにより、ローマ教皇の権威から独立した独自の教会が設立されたわけだ。

 その後、英国国教会は、聖書のみを信仰の根拠とするプロテスタント的な考え方(長老制)と、カトリック的な伝統を重んじる考え方(聖公会)が併存し、神学的、儀式的な意見の相違が生じた。英国国教会内部には、様々な教会派が存在している。

 カンタベリー大主教は英国国教会全体を代表する象徴的な存在であり、聖公会世界連盟(Anglican Communion)の議長を務める。世界中で約8500万人を抱える聖公会の儀式上のトップだ。聖公会は保守的なキリスト教徒、特に同性愛が非合法とされている国もあるアフリカのキリスト教徒と、一般的にリベラルな欧米のキリスト教徒とに分かれている。カトリック教会のような中央集権的な組織ではなく、各地域の教会が自治権を持つ連合体であり、分散型の構造を持っている。

 英国国教会は、信徒が約2600万人だ。近年、閉鎖される教会も多く、絶滅の危機にある。過去15年間で約1,000の教会が取り壊された。組織としては、チャールズ3世が最高指導者であり、イングランド全土にカンタベリー管区とヨーク管区の2つの管区が置かれ、それぞれがさらに教区に分かれている。

 一方、英国教会連合(GAFCON)は、保守的な聖公会(アングリカン)の信徒や指導者たちの連合体で、保守的な聖書解釈を支持し、性的指向やジェンダーの問題に関する「アングリカン・コミュニオン」の伝統的な教えからの逸脱を批判してきた。「GAFCON」はマラーリー氏のカンタベリー大主教任命に憤慨し、「この任命は世界中の信者に対し背を向けるものだ」と述べている。

 「GAFCON」は声明の中で、聖公会を聖書のみに基づいて再編成すると発表した。これは、聖公会改革公式文書とGAFCONの2008年の原則声明である「エルサレム宣言」に定められた信仰に基づく、自治権を持つ各教区からなる共同体を意味する。同声明ではまた、「我々は、聖公会の共同体機関、カンタベリー大主教、ランベス会議、聖公会諮問評議会(ACC)、そして首座主教会議を拒否する」と述べている。

 ちなみに、2018年からロンドン主教を務めてきたマラーリー氏は、シビルパートナーシップや結婚における同性カップルの祝福を認めるなど、教会内でリベラルな措置を支持してきたことで知られている。

トランスジェネレーション・トラウマ

 今年は第2次世界大戦が終戦して80年目を迎えたこともあって、欧州各地で様々なイベントや国際会議が開催された。大戦から80年が経過すると戦争を直接体験したり、目撃した人は当然少なくなる。特に、ナチス・ドイツによって大量虐殺されたユダヤ人にとっては民族の体験を後の世代にどのようにして伝えるかが深刻なテーマとなってきている。あと10年もすれば、ナチスの蛮行を体験したユダヤ人がこの地上にはいなくなるからだ。

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▲家族から愛され続けたジャッキー&ポッキー

 最近、トランスジェネレーション・トラウマの話を聞いた。トラウマはギリシャ語の「傷」を意味し、死や重大な怪我など、心に強い衝撃を与える出来事によって生じる「心の傷」だ。トランスジェネレーション・トラウマは世代から世代へと伝わっていく「心の傷」を意味する。

 12歳の少女がアウシュビッツに収容されたが、幸い解放され、その後成人して家庭をもった。娘が出来、その娘に子供が生まれた。アウシュビッツの体験の解放後、少女は他人にほとんど語らなかったという。しかし、娘が母親の腕に捺された数字(囚人番号)を見ると、不安と恐怖でパニックに陥ったというのだ。

 また、電車が動き出すと不安に襲われたり、特定の音を聞くと苦しくなるという女性がいる。これらの症状は医学的に原因を解明することは難しいから、本人は悩み、苦しむ。それらの現象をトランスジェネレーション・トラウマと呼ぶことを知った。祖父の世代やその前の世代が体験したトラウマが後の世代に表れ、そのトラウマを実体験し、悩まされるというのだ。

 幼少時代に性的虐待を受けた人間が成人になると、同じような性犯罪を犯すケースがある。また、家庭内暴力もそのような状況が少なくない。「心の傷」が昇華されない限り、そのトラウマは世代から世代へと継承されていくのだ。
 例えば、カトリック教会の聖職者が未成年者に性的虐待を犯した。同神父は後日、「自分も幼少時代、神父に性的虐待を受けた」と告白していた。

 アウシュビッツでのトラウマは80年の年月が過ぎたとしても消滅しないことを知った。本人が亡くなった後でもそのトラウマは世代から世代へと受け継がれていくからだ。もちろん、トランスジェネレーション・トラウマはユダヤ人のアウシュビッツでの体験だけではない。私たちは程度の差こそあれ、自分が直接体験していないトラウマを背負って生きている。そしてその「心の傷」がどこから起因するのか、多くの場合理解できない。だから、「これは私の運命だ」と考え、割り切って生きていくことになる。

 ところで、個々の人間の「心の傷」だけではなく、歴史で展開された人類のトラウマがある。例えば、ノアの家庭の8人しか生き延びなかった「ノアの大洪水」の話が旧約聖書の「創世記」に記述されている。その「洪水の話」は世界至る所に神話として広がってる。スイスのカール・グスタフ・ユングによると、それは人類の「集合的無意識」となって定着しているというのだ。現代ではトラウマと遺伝子の変化を調べるエピジェネティクスが研究されている。「心の傷」が子孫の遺伝子にどのような変化をもたらすかを扱う分野だ。

 いずれにしても、トランスジェネレーション・トラウマを克服する道は、トラウマとなって潜伏する「心の傷」やそれをもたらした「出来事」をやさしく解きほぐしながら、対応する以外にないだろう。

ウクライナ「第2のブタペスト覚書は御免」

 トランプ米大統領は16日、ロシアのプーチン大統領と2時間に及ぶ電話会談で、ウクライナ戦争の停戦を巡る米露首脳会談を近い将来、ハンガリーの首都ブタペストで開催することで一致したという。正式の日程はまだ明らかになっていないが、「2週間以内に実現したい」という。同大統領がSNSへの投稿で明らかにした。

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▲ウクライナのゼレンスキー大統領、トランプ大統領とウクライナにおける人命保護、防空能力、強靭性、長距離能力の強化について電話会談、2025年10月12日、ウクライナ大統領府公式サイトから

 トランプ米大統領は8月15日、米アラスカ州のアンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン米軍基地でロシアのプーチン大統領との米露首脳会談を開催した。同首脳会談の成果について、欧州のメディアは一様に「ウクライナの停戦問題では成果がなかった」、「国際社会から孤立していたプーチン氏は米国の地で赤絨毯を敷かれて迎えられ、世界に向かってロシアの存在をアピールすることが出来た。米ロ首脳会談はプーチン氏の外交勝利となった」と報じた。

 トランプ氏にとってブタペスト会議は名誉回復のチャンスだ。ぜひともウクライナ戦争の停戦という外交成果を挙げたいところだろう。
 トランプ氏は「2か月前のトランプ氏」ではない。ガザ戦争を停戦させ、人質を解放するなど、中東和平交渉で大きな成果を挙げたばかりだ。トランプ氏には勢い(momentum)がある。そのモメンタムでプーチン氏と会談し、ウクライナ戦争を停戦に導くことが出来るのではないか、といった期待がトランプ氏陣営だけではなく、欧米メディアにも感じられる。

 ところで、米露首脳会談の開催地がブタペストと発表されたため、なぜ東欧のハンガリーで開催するのか、といった声がある。ハンガリーのオルバン首相はトランプ氏だけではなく、プーチン氏とも友好関係を持っている政治家だ。両大国の首脳と良好なチャンネルを有している政治家は欧州諸国ではオルバン氏だけだろう。ただし、欧州連合(EU)の対ロシア制裁に拒否権を行使するオルバン氏は、ブリュッセルからは「欧州の異端児」と酷評されている。

 ブタペスト開催の理由はまだある。ハンガリーは今年4月3日、国際刑事裁判所(ICC)からの離脱を決定した。直接の契機は、イスラエルのネタニヤフ首相に対してガザでの戦争犯罪の疑いでICCが逮捕状を発布したことに抗議する狙いがあった。プーチン氏もウクライナ戦争に関連してICCから戦争犯罪人として逮捕状が出ている身だ。プーチン氏がICC加盟国(2025年1月現在125国)を訪問すれば、逮捕される危険性が排除できないが、ハンガリーはICCに脱退を通達済みだ(同国のICC脱退は来年4月に正式に発効)。プーチン氏にとってハンガリーは米露首脳会談開催地として最適の地というわけだ。

 ちなみに、米露首脳会談開催のニュースが流れると、中東和平交渉のように、ロシアを説得して停戦させてほしいと願っているウクライナ国民にとって朗報だが、開催地が「ブタペスト開催」と聞いて、複雑な思いを抱いた国民も少なくない。ハンガリーがEUの対ロ制裁を拒否し、欧米のウクライナ支援をボイコットしている国という理由だけではないのだ。

 1994年12月5日、ブタペストで開催された欧州安全保障協力機構の会議で、米国、ロシア、英国の3カ国は、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンが核不拡散条約に加盟したことを受け、3カ国の安全を保障する覚書に署名した。これは「ブタペスト覚書」と呼ばれている。

 問題はその覚書の内容が後日、ロシア側に反故されてきたことだ。ロシアは2014年、クリミア半島に侵攻し、半島を併合した。2022年2月末にはウクライナに侵攻し、今日まで戦闘を続けている。「ブタペスト(覚書)」という地名はウクライナ国民には余り快く響かないのだ。「第2のブタペスト覚書は御免だ」というのが偽りのないところかもしれない。

ロシア「ベーリング海峡に海底鉄道トンネルを」

 モスクワからの情報によると、ロシアはプーチン大統領とトランプ大統領の両国首脳会談の合意を受け、ベーリング海峡の海底にロシアと米国を結ぶ「プーチン・トランプ」鉄道トンネルの建設計画を推進している。
 プーチン大統領の投資委員兼外交政策顧問で国営投資基金(RDIF)の総裁、キリル・ドミトリエフ氏は「このプロジェクトは両国を結び、天然資源の共同開発を可能にし、結束の象徴となるはずだ」と述べている。ドミトリエフ総裁は16日夜、この構想を表明した。

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▲RDIFのドミトリエフ総裁、ウィキぺディアから

 ちなみに、同総裁(50)は米国のスタンフォード大やハーバード大で学んだ後、国際金融大手で経験を積んだ「米国通」で、ウクライナの停戦などを巡る米ロ協議で、ロシア側の重要な政策マンと受け取られている。

 なお、アラスカとロシア領土(シベリア)間の最短距離、ベーリング海峡の「ビッグダイオミード島」(ロシア領)と「リトルダイオミード島」(米国領)の間はわずか3.7kmだ。。これは、ユーラシア大陸と北米大陸の間にある最も近い陸地間の距離。 冷戦時代、米国とロシア(ソ連)の両国が争う中、民主主義陣営と共産主義陣営を分かつベーリング海峡に国際ハイウエー建設計画が発表されたことがあった。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の創設者・文鮮明師が1981年6月10日、米国のワシントンDCで開催された「国際科学合同会議」の場で、国際平和高速道路計画を提案し、韓国と日本を海底トンネルで連結し、ロシアと北米大陸を隔てるべーリング海峡に海底トンネル、橋を架け、全地球を一つにする計画を発表している。

 ちなみに、文鮮明師は自伝(345頁)の中で「ローマが興隆できたのは、世界のあらゆる道がローマに通じていたからです。それほど道は重要なのです。道が通じれば人々が通っていきます。文化が通っていきます。思想が通っていきます。それで、道ができれば歴史が変わるのです」と述べている。

‘第2のシンワル‘を恐れるイスラエル

 パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」に2年間余り人質となってきたイスラエル人20人が13日、無事、解放された。また、人質の遺体28体のうち、15日現在、イスラエル側には9遺体しか戻っていない。イスラエル側は和平合意の違反として、ハマス側に28人の遺体すべての返還を求めている。

 同時期、イスラエルの刑務所で拘留されていたパレスチナ人囚人の約1950人が解放された。ガザ合意に基づいて、2023年10月7日のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃容疑で逮捕された約250人のパレスチナ人囚人と約1700人のパレスチナ人が釈放された。イスラエル人殺害で有罪判決を受けた囚人の釈放は、何よりもハマスにとって大きな成果と受け取られた。一方、テロ犠牲者のイスラエル側の遺族は愛する人を殺害した犯人が再び自由になったことに非常に複雑な感情を抱いているという。

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▲踊りだしたパレスチナの人々(2012年11月29日、ウィーン国連内にて撮影) 

 釈放された囚人たちは赤十字のバスでヨルダン川西岸地区のベイトゥニアとガザ地区のハン・ユニスに運ばれ、大勢のパレスチナの人々が彼らを出迎えた。多くの囚人は勝利のVサインをし、自由の身になったことを喜んだ。

 イスラエルの20人の人質は解放されると即、軍事病院に搬送され、メディカル・チェックを受けるとともに、家族や友人たちと再会した。テルアビブの病院関係者は「解放された人質は失った2年間を取り戻し、トラウマを乗り越え、正常な日常生活に復帰するまでには多くの時間がかかるだろう」と述べていた。

 一方、釈放されたパレスチナ人は迎えに来た家族との再会を喜ぶが、眼前に広がる廃墟となったガザの状況を見てショックを受けている。釈放されたが、住むところもなく、電気も水道もない荒廃した地に自分たちは戻されたのだ。囚人の中には、自分の家族が戦争で亡くなったことを初めて知って、新たな衝撃を受けるパレスチナ人もいたという。

 解放されたイスラエルの人質も釈放されたパレスチナ人もつかの間の喜びが過ぎると、厳しい現実が目の前に差し迫ってくる。特に、衣食住も不十分な荒れ地に放置されるパレスチナ人は生存のための新たな戦いが始まるわけだ。オーストリア国営放送(ORF)のウェブサイトは15日、「歓喜から幻滅へ」という見出しで記事を報じていた。

 問題は、イスラエルで有罪判決を受け釈放された250人余りの囚人の中には多数のテロ実行犯が含まれていることだ。メディア報道によれば、250人の囚人のうち154人はイスラエルによって強制的に再定住させられたという。彼らはエジプトに連行され、そこから受入国に分配される。彼らはパレスチナ自治区への再入国を許されないという。

 ところで、イスラエル側は釈放された囚人の中から第2、第3のハマス指導者が生まれるのではないかと懸念している。過去に実例がある。ヤヒヤ・シンワルは1988年10月、イスラエル兵の殺害などで終身刑となったが、2011年に、パレスチナ側に拘束されていたイスラエル兵士ギラド・シャリート氏と引き換えに出所した。そのシンワルは2年前の奇襲テロで1200人のユダヤ人を殺害し、250人を拉致した指導者だった。シンワルは2024年10月16日、ガザでの戦闘中、イスラエル軍によって殺害された。

 また、10月7日のテロ攻撃およびその後の戦争に関連してイスラエル軍に逮捕された約1700人のパレスチナ人も今回、釈放された。その中には、女性や未成年者も含まれていた。

 トランプ米大統領が提案した20項目の和平計画に基づき、第1段階の停戦と人質解放がほぼ終了したことを受け、これからはハマスの武装解除、ガザの非武装地化などの難題が控えているが、第1段階で釈放された約1950人のパレスチナ人のその後の動向次第では、停戦合意が崩壊する危険性は排除できない。

 ちなみに、当方にもパレスチナ人の友人、知人がいる。パレスチナ民族が優秀であることを知っている。ただ、彼らにはイスラエルに国を奪われたという憎しみがある。そして、その憎悪を昇華しない限り、イスラエルと「2国家共存」は絵に描いた餅に過ぎないことも彼ら自身知っている。ガザ戦争で家族、知人、友人を失ったパレスチナ人の‘イスラエル憎し‘が暴発しないかと心配だ。 ああ、パレスチナよ、パレスチナよ。

トランプ大統領は新しいクロス大王?

 米国内ではリベラルなメディアから批判され、こき下ろされることが多いトランプ米大統領にとって、イスラエルはオアシスだろう。トランプ氏は13日、ガザの停戦とイスラエル人の人質解放という実績を引っ提げて、イスラエル国会(クネセト)で演説した時、議員たちからスタンディングオベーションで迎えられ、国会内は熱狂に包まれた。

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▲イスラエル国会で演説するトランプ米大統領、2025年10月13日、オーストリア国営放送からスクリーンショット

 トランプ氏が行く先々にはトランプ氏の写真が大きく飾られ、路上には「トランプ、あなたは新しいクロス大王だ」とヘブライ語で書かれたバナーが目に入る。議員たちから賛辞と感謝の言葉を受けたトランプ氏は気分を良くし、「中東の歴史的な始まりだ」と宣言している。

 イスラエル国会のアミール・オハナ議長は、「トランプ氏は単なる米国の大統領ではなく、ユダヤ史における偉大な人物だ」と強調し、「2500年前のクロス大王と並ぶ人物だ」と持ちあげている。

 このコラム欄ではクロス大王については何度か紹介した。少し復習する。イスラエルという呼称は、ヤコブが天使と相撲を取って勝った褒賞として神から与えられた呼称で、「勝利者」を意味する。そのヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間、捕虜生活をした後、モーセに率いられ出エジプトし、ヨシュアとカレブと荒野で生まれた2世が神の約束の地カナンに入る。士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代に入ったが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝國の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャの支配下に入る。その後ペルシャ大王クロスはBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させる。

 ペルシャのクロス大王は聖書の中で、イスラエルの捕虜をバビロン捕囚から帰還させた偉大な解放者として描かれている。イスラム過激テロ組織「ハマス」から20人の人質を解放したトランプ氏はイスラエル国民の目にはクロス大王とオーバーラップする。その結果、トランプ氏は新たなクロス大王として称賛されるわけだ。

 ただ、神学者の間では「BC538年、捕虜から解放してくれたクロス大王と人質解放を実現したトランプ氏を同列に置くことは、神学的にも政治的にも疑問がある」といった声が聞かれる。

 例えば、ミュンスター大学の旧約聖書研究教授、オリバー・ディマ氏は「福音派の間では、クロス大王とトランプ氏の比較が長らく行われており、大統領自身もそれを楽しんでいるようだが、福音派中心のイスラエル政策はユダヤ教には全く関心がなく、むしろキリストの再臨という特定の期待に焦点を当てている」と説明。現在の政治家を聖書の人物と同一視することで、「イデオロギー的に悪用され、疑わしい政策を正当化するリスクが出てくる」と警告している。

 ところで、指導者の神話化傾向は米国だけの現象ではない。ロシアでも見られる。ロシアのプーチン大統領はその分野ではトランプ氏に負けていない。モスクワの赤の広場前には聖ウラジーミル像が建立されている。モスクワ生まれの映画監督、イリヤ・フルジャノフスキー氏によると、「プーチンはクレムリン前にキーウ大公の聖ウラジーミルの記念碑を建てた。聖ウラジーミルはロシアをキリスト教化した人物だ。クレムリンの前に聖ウラジーミル像を建立することで、ウクライナもロシアに属していることを意味するのだ。プーチンは自身を聖ウラジーミルの転生(生まれ変わり)と信じている」と説明している。

 トランプ氏は支持者から「新しいクロス大王」と見られ、プーチン氏は自身を「聖ウラジーミルの生まれ変わり」と信じている。米露の指導者は、どういうわけか、「神話の世界」に安住の地を見出しているのだ。

ハマスは1970年代のPLOと同じ道を行く?

 トランプ米大統領は13日、イスラエル入りし、パレスチナ自治区ガザでの「戦争は終わった」と誇らしく宣言した。それなりの理由はある。パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエル軍の報復攻撃を受け弱体化し、最大の支援国イランは同じくイスラエル軍の「12日間戦争」で軍事的、経済的にも後退を余儀なくされ、ハマス支援の継続が難しくなってきた。2023年10月7日の奇襲テロで拘束してきた最後の人質をイスラエル側に引き渡したことで、ハマスはイスラエルとの戦いで切れるカードがなくってきたからだ。

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▲連邦情報局マルティン・イエーガー長官(左)、マルティナ・ローゼンベルク軍事対諜報部長官(中央)、連邦憲法擁護庁のシナン・セレン長官(右)、独連邦擁護庁公式サイトから

 トランプ氏の20項目からなる和平計画は第1段階の停戦と人質解放を終え、第2段階に入ると、ハマスの非武装化が次のハードルとなる。ガザ区の国際管理機構ではハマスは排除されている。ハマスは停戦後、従来の活動領域を失うことになる。

 それでは、ハマスはガザから完全に消滅するのか。そうではないのだ。ハマスは武装解除を拒否し、イスラエルをパレスチナ領地から追放し、パレスチナにイスラム国を建設するまで戦いを続けるというのだ。ハマスにとってイスラエルとの「2国家共存」は目標ではない。ハマス代表は「パレスチナの人々は、新たなナチスの牢獄から最後の囚人が解放され、我々の土地と聖地から占領が撤廃されるまで、決して安らぎを得ないだろう」と述べている。

 ハマスの戦闘継続宣言は単なる強がりだろうか。イスラエルは人質解放のために刑務所で拘束されている1950人余りのパレスチナ囚人を釈放した。そのうち、約250人は終身刑を受けたハマスの活動家たちだ。イスラエル側は囚人釈放交渉でその250人の終身犯の釈放に最後まで難色を示した。なぜならば、彼らはハマスの活動家であり、イスラエルにとって潜在的な危険分子だからだ。

 ところで、イスラエルのカッツ国防相によると、「人質送還後のイスラエルの最大の課題は、ガザ地区におけるハマスのテロ用トンネルをすべて破壊することだ」という。目標はガザ地区の非武装化とテロ組織ハマスの武装解除だ。報道によると、イスラエル軍は合意に基づき撤退したが、軍は依然ガザ地区の53%を支配している。更なる撤退はハマスが武器を放棄する意思があるかどうかにかかっているという。

 西側情報機関関係者によると、ハマスはガザ地区での主導的役割を放棄する意向だが、ガザ地区だけではなく、パレスチナ全域を含むアラブ諸国でそのテロ活動を活発化するのではないかと受け取られている。ハマスは囚人釈放後、ガザでイスラエル側を支援した反乱分子を摘発し、一部は処刑しているという情報が流れている。ハマスは組織の再編成を進める一方で、新たな活動目標を掲げて戦闘に乗り出す構えなのだ。

 ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)のシナン・セレン新長官は13日、議会統制委員会の年次公聴会で、「ガザ地区の和平への期待にもかかわらず、ハマスは依然としてドイツを含む欧州全域にとって脅威だ」と警告している。

 公聴会ではまた、マルティン・イエーガー独連邦情報局(BND)長官は「ハマスがガザから追放されるか、あるいは地下に潜伏させられた場合、海外で活動を開始する可能性がある。アラブ世界だけではなく、欧州でも間違いなく活動を開始するだろう」と予想、「ハマスが1960年代後半から70年代にかけてテロ活動を行ったパレスチナ解放機構(PLO)と同じ道を歩むのではないか」と警戒している。

 なお、PLOは1970年代前半、テロ活動を激化し、「ミュンヘン・オリンピック襲撃事件」、「旅客機ハイジャック事件」、 「イスラエル・ロッド空港襲撃事件」などテロ事件を起こした。

イスラエル国民が喜び、涙を流す日

 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派テロ組織「ハマス」が2023年10月7日、イスラエルとの境界線を破壊して侵入、音楽祭に参加中のゲストや集団農園(キブツ)を襲撃して1200人以上のユダヤ人らを射殺、251人を人質にした「奇襲テロ」から今月13日で738日目を迎えた。人質の多くは亡くなってしまったが、生き延びた20人の人質が解放され、28人の遺体が戻るということから、テルアビブなどイスラエル各地で国民は前日から解放の喜びに笑顔で抱き合い、歌い踊っていた。

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▲イスラエル議会で歓迎の拍手を受けるトランプ米大統領、2025年10月13日、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのスクリーンショットから

 現地からの情報によると、ハマスは13日午前、人質7人を最初、赤十字に引き渡し、その1時間後、残りの13人の人質を解放した。解放された人質は直ぐに軍事病院に搬送され、メディカル・チェックなどを受けるとともに、家族との再会を喜んだ。

 同時に、イスラエルの刑務に拘束されていたパレスチナ人の終身犯250人と住民約1700人が解放された。イスラエル人の28人の遺体のうち4遺体だけが引き渡された。遺体の身元確認や回収は難しいという。エジプト、カタール、そして米国が専門家を派遣して遺体の回収作業を支援する予定だ。
 なお、イスラエル側は殺人やテロ容疑で収容されていたパレスチナ人の終身犯250人の解放には最後まで難色を見せてきたが、最終的には釈放したという。

 トランプ米大統領は9月29日、ネタニヤフ首相と会談、パレスチナ自治区ガザについて、20項目の和平計画を発表した。第1段階の和平計画では人質の解放とイスラエル軍の後退が明記されているが、人質の解放が無事行われたことから、第1段階の和平計画は履行されたと受け取られている。

 なお、トランプ大統領は13日、イスラエル国民と共に人質解放を喜ぶためにイスラエル入りした。そして予定より3時間半余り遅れたが、同国議会(クネセト)で演説した。同大統領は「ウオー・イズ・オーバー」(戦争は終わった)と宣言し、「中東の歴史的な始まりだ」と強調、イスラエルのネタニヤフ首相、米国のスティーブ・ウィトコフ首席交渉官を称賛した。同大統領の演説中、クネセトは熱狂に包まれた。トランプ氏は演説の終わりに、「神よイスラエルを守りたまえ、そして米国を、そして中東を」と述べた。

 ところで、トランプ米大統領はイスラエルへ飛ぶ前、記者団に「50万人余りの人々が昨日と今日、人質の解放を喜んでいる。これは歴史的なことだ。中東ではこれまで、一方が喜べば、他方は喜ばないというのが常だったが、今回は両者が喜んでいる」と述べている。

 トランプ氏の20項目の和平計画の第1段階が履行されたことから、和平案計画は第2段階に入るが、ハマスの武装解除、ガザ地区の非武装地帯化、パレスチナの管理問題など、イスラエルとハマス間の間で対立する議題が控えていることから、第1段階より履行が難航することが予想される。

 トランプ大統領は午後4時ごろ(現地時間)、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催中のガザ紛争に関する首脳会議に参加するためにイスラエルを後にした。同会議には主要アラブ諸国とイスラム諸国、そして欧州主要国が第2段階の実施について話し合うことになっている。

 ちなみに、イスラエルの現地から報道していたドイツ民間放送ニュース専門局NTVのアナウンサーは、「欧州ではトランプ大統領の言動を全て批判的、ネガティブに報道する傾向が強いが、トランプ氏がガザ戦闘を停戦し、人質の解放を実現したことは事実だ。これまで誰も出来なかったことだ」と指摘、トランプ氏に対する欧州メディアの報道の見直しが必要となってきた、と述べていた。

欧州委員会は「信教の自由」特使の任命を

 欧州連合司教委員会(COMECE)は、10月1日から3日までブリュッセルで秋季総会を開催し、2016年に創設されたEU域外の「信教の自由」担当特使のポストが、クリストス・スティリアニデス氏の任期満了以来(2023年)空席となっているとして、欧州委員会に速やかに新特使を任命するように要請した。6日に発表された声明では、「特使の空席は迫害を受けている世界中の宗教共同体にとって憂慮すべきシグナルだ」と強調。さらに、EU内での反キリスト教と闘うためのEU調整官の任命を再度求めた。

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▲COMECE秋季総会、バチカンニュース2025年10月7日から

 声明文によると、「信教の自由は奪うことのできない人権であり、EU基本権憲章第10条に明記されている。この自由は多元的な社会における平和的共存に不可欠である。しかし、世界中で大きな脅威にさらされており、個人、家族、そしてコミュニティ全体に深刻な影響を与えている」と警告している。

 「信教の自由」担当特使の設置について、司教たちは「EUは外交政策において常に人権保護に尽力してきたが、現状では宗教的迫害に適切に対応するための十分な制度的資源が不足している」として、「特使を早急に任命するだけでなく、必要な財源と人的資源、そして強力なマンデート(権限)を与えるべきだ」と強調、「信教の自由」担当特使の復活が不可欠であると主張している。

 欧州議会のアントネッラ・ズベルナ副議長はEU司教たちとの会談で、「EUが様々な課題に直面している今日、精神的・宗教的ルーツを含め、そのアイデンティティと自信を再発見しなければならない」と述べている。

 欧州はキリスト教文化圏に入るが、社会の世俗化が加速し、聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚したこともあって、教会から脱会する人が増えてきている。その一方、中東や北アフリカからの難民、移民が欧州に殺到し、イスラム教徒との関係は大きな社会問題となってきた。イスラム教国では少数宗派のキリスト教徒に迫害、弾圧が広がってきている。

 ちなみに、COMECEの「信教の自由」担当特使の任命要求は、トランプ米政権の「宗教の自由重視政策」の影響を少なからず受けているのを感じる。トランプ米大統領は9月8日、自身がホワイトハウスに創設した「宗教の自由委員会」の公聴会で演説し、「われわれは神の下にある一つの国であり、そうあり続ける」と述べ、「信教の自由」の擁護を改めて強調したばかりだ。また、「現在、公立学校で信教の自由が、重大な脅威にさらされている」として、祈る権利を保障する、新たな指針を教育省が策定すると発表している。トランプ氏は「信仰が弱まると国は弱体化する」と述べ、2期目に入り、ホワイトハウス内に信仰局を設置し、その代表上級顧問にポーラ・ホワイト牧師を選出している。

 欧州の政界では、トランプ氏の「アメリカを再び偉大な国に」(MAGA)に倣い、右派傾向が強まってきているが、トランプ氏の「信教の自由」を重視する傾向もここにきて欧州に波及してきているわけだ。

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