ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2025年10月

トランプ大統領の核実験再開指示の波紋 

 トランプ米大統領は30日、核実験の即再開を米国務総省に指示した。同大統領は自身のプラットフォーム「Truth Social」に投稿し、「他国の核実験計画を踏まえ、私は国防総省に対し、公平な条件で我が国の核兵器実験を開始するよう指示した。このプロセスは直ちに開始される」と述べた。実験対象となる核兵器や核実験の種類(大気圏内、地下、大気圏外、水中)については言及されていない。

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▲中国の最初の核実験(1964年10月16日、CTBTO公式サイトから)

 トランプ氏の核実験再開宣言は、韓国で中国の習近平国家主席と会談する直前に出された。核実験の主な目的は、核兵器の開発・性能確認と性能維持だ。また、核爆発を伴わない臨界前核実験という形では、核兵器の近代化や維持管理に必要なデータを収集する目的がある。

 西側の核専門家は「トランプ氏の核実験再開宣言はロシアや中国へのプレゼントとなる」という。米国が核実験を実施すれば、両国は国際社会から大きな批判を受けずに堂々と核実験できるからだ。特に、中国にとって核実験の回数が米国やロシアと比較して圧倒的に少ない。核実験を増やすことで核兵器の性能を向上したいはずだ。

 ちなみに、米国の核実験回数は約1030回、ロシア(旧ソ連時代を含む)715回、中国45回、フランス210回、英国45回だ。中国の回数が少ないことは明らかだ。トランプ氏は「4、5年も経過すれば、中国は我々と同じ水準になるはずだ」と警戒している。

 米国が実施した最後の核実験は1992年9月23日だ。同年、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は地下核実験のモラトリアムを発表した。米国が核実験を再開すれば33年ぶりとなる。国際社会からの批判は必至だ。また、ウイーンに拠点を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)は決定的なダメージを受けるだろう。従来の核保有国5か国(米露中英仏)は核実験のモラトリアムを堅持してきたが、そのモラトリアムが消滅した場合、核の拡散にストップをかけることが一段と難しくなるからだ。

 ところで、トランプ大統領が核実験の再開に踏み切った背景については、ロシアによる最近の核兵力の強化があると受け取られている。プーチン大統領は29日、ロシアが原子力ポセイドン型超大型魚雷の実験に成功したと宣言した。この魚雷の性能は大陸間弾道ミサイル「サルマート」を凌駕するという。米ロの専門家は、ポセイドンを海中に爆発させれば、放射能波を発生させ、沿岸都市を居住不能に陥れる可能性のある新たなタイプの報復兵器と位置付けている。

 それに先立ち、ロシアは10月21日に新型のブレヴェスニク・ミサイルの試験を実施し、10月22日には核兵器演習を実施している。「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。核弾頭を搭載できる。クレムリンは核ミサイルの配備準備に入ったという。北大西洋条約機構(NATO)では、9M730は「SSC-X-9スカイフォール」というコードネームで呼ばれている。

 ロシアと中国の核戦力の強化に対し、米国は33年ぶりに核実験再開に踏み切らざるを得なくなったわけだ。ドイツ連邦情報機関関係者は「寛容、自制、そして寛大さは、ロシアのような敵対国にとっては弱さとして解釈される」と警告を発していた。トランプ氏は露中に米国の「力」を見せつけたくなったのだろう。ただし、それは危険が伴う冒険だ。

日本の熊はもはやテディベアではない

 日本からの記事をフォローしていると、秋田県や山形県などで熊が人間が住んでいるエリアに降りてきて人的被害が出ている、というニュースがあった。オーストリア国営放送(ORF)のウェブサイトでも日本の熊の話が掲載されていたぐらいだから、かなりの数の熊が人家近くにきて食べ物を物色しているのだろう。

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▲子供たちに愛されるテデイベア、2025年8月23日、「日本テデイベア協会」公式サイトから

 読売新聞オンラインには「秋田県の鈴木知事は28日、防衛省を訪れ、小泉防衛相に熊捕獲の支援を求め、自衛隊の派遣を要請した。小泉防衛相は『深刻な状況と受け止めている』と発言し、陸上自衛隊の自衛官らを秋田県庁に向かわせた。同日夕、今後の支援内容を話し合う初めての協議が県庁で行われた」という記事が掲載されていた。

 「アゴラ言論プラットフォーム」で軍事ジャーナリストの清谷信一氏が「ぶっちゃけた話、中国やロシアや北朝鮮よりクマの方が現実的な脅威です。実際に国民が死傷し、農作物が荒らされる被害が無視できないレベルです。国はこの事態を軽く見てきました」と書いている。

 アルプスの小国オーストリアではオオカミが農家を襲い、羊や鶏などを襲撃する事件が多発し、オオカミをいかに退治するかでメディアで一時期議論が沸いた。狩猟家に射殺を要請すべきだというと、動物愛護グループから批判の声が飛び出した。また、牧草地の横の散歩道を犬と散歩していた女性が牧草地で草を食べる牛の群れの傍にきた時、母親牛が突然女性を襲撃したことがあった。母親牛は子牛を守るために攻撃したのではないかといわれた。

 新型コロナウイルスのパンデミックの時、英国でヤギが群れをなして街に出てきたことがあった。コロナ時代、ロックダウンが実施され街の路上から人の姿が消えた。いつも餌をくれる人がいなくなったので鳩もお腹を空かして苦しんだ。また、ロシア軍のウクライナ戦争では、大砲やミサイルの音が日常茶飯事となったウクライナの街のカラスは、大砲の音を聞いてももはや驚かなくなった、といった様々な鳥や動物界の異変が報じられた。

 最近、家人が家の近くを散歩していた時、一匹のキツネに出会った。キツネの目と家人の目が合った時、「キツネは大きくなかったが、その眼光は野生の目で、怖くなった」という。人間に飼われている犬や猫とは違い、野生の動物の場合、小さな動物でも野生的な眼光で相手を睨む。それが熊だったら、人間は恐怖に襲われるだろう。

 女性に「あなたが一人で森の中を歩いていた。その時、あなたは男性に会うのと、熊に会うのとではどちらを選びますか」という質問が出された。すると、大多数の女性は「熊です」と答えたという調査結果がある。女性にとって、人間の男性より動物の熊のほうが安全だと感じているのかもしれない。日本の熊の話を聞いていたならば、女性たちは果たして「熊」と答えただろうか。

 ところで、日本の熊の話を聞いた時、凶暴なイメージが広がって熊の人気が落ちるのではないか、と思った。縫いぐるみでは子熊の縫いぐるみが人気がある。当方も最初の子供が生まれた時、ミュンヘンの百貨店で子熊のぬいぐるみを買ったことを覚えている。その熊の縫いぐるが少なくとも日本では売れなくなるのではないか。

 ちなみに、縫いぐるみの中でテディベアは圧倒的に人気がある。1902年の秋、米国のセオドア・ルーズベルト大統領は熊狩りに出かけた。傷を負った子熊を見つけたので、かわいそうだから助けた。その美談が記事で報じられ、ルーズベルトの愛称「テディ」を付けた子熊の縫いぐるみが売り出されると大ヒットし、世界の子供たちに愛されてきた。なお、ルーズベルトの誕生日10月27日は「テディベアの日」だ。

「ゴールデンドーム」対「ブレヴェス二ク」

 トランプ米大統領は5月20日、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表した。同構想は、米本土をミサイル攻撃から守るために、宇宙空間に衛星や兵器を配備する次世代ミサイル防衛システムだ。約1750億ドルを投じ、3年以内の完成と運用開始を目指している。これまでのシステムでは対抗できなかった中国やロシアのミサイル戦力に対し、最先端技術を駆使して宇宙などから迎撃する野心的な構想だ。実現すれば、世界の戦略環境に広範囲の影響を及ぼすことは必至だ。

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▲プーチン大統領、軍服で統合軍司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長らと会談、2025年10月26日、クレムリン公式サイトから

 ちなみに、ゴールデンドーム構想の先駆けはレーガン大統領(当時)が1983年3月に公表した「戦略防衛構想(SDI)」だ。同構想は当時「スターウォーズ計画」と呼ばれた。

 一方、プーチン大統領は今月26日、長距離核ミサイル「ブレヴェスニク」のテストに成功したと述べた。「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。北大西洋条約機構(NATO)では、9M730は「SSC-X-9スカイフォール」というコードネームで呼ばれている。

 プーチン氏が2018年、核弾頭搭載可能な長距離ミサイルの開発を初めて発表した時、専門家はこのプロジェクトは実現不可能だと見なしていた。しかし、ゲラシモフ参謀総長によると、今月21日に「決定的なテスト」が完了したという。そして「クレムリンは核ミサイルの配備準備に入っている」というのだ。

 軍事大国の米国とロシアの軍事開発レースが激化してきた。トランプ氏の「ゴールデンドーム構想」では、敵国の核ミサイルを宇宙空間で撃ち落とせる全段階で迎撃する多層的システムだ。「ゴールデンドドーム」の目玉は、これまで技術的に困難だったブースト段階のミサイルを宇宙から迎撃することだ。

 ロシアが開発した9M730ミサイルはいかなる防衛システムも回避できるという。報道によると、10月21日、「ブレヴェスニク」のテストが行われた。ゲラシモフ参謀総長によると、ミサイルは15時間空中に留まり、1万4000キロメートルを飛行した。同参謀総長は「これが限界ではない。原子力推進のミサイルは無制限に飛行できる。そして核弾頭を搭載できる新ミサイルだ」というのだ。 

 ロシアが実験に成功した原子力推進の核ミサイルの射程距離は事実上無制限で、軌道が予測不可能なことから、現在および将来のミサイル防衛システムも探知して撃ち落とせないという。プーチン大統領は「これは世界で他に類を見ない兵器だ。重要な試験は完了した」と強調している。

 米国の「ゴールデンドーム構想」が実現できるまでにはまだ時間がかかる一方、ロシアの核ミサイルは実験段階で成功し、配備準備にあるという。ロシア側の発表が事実とすれば、ロシアが米国を先行していることになる(米国は核ミサイル開発を継続しているが、2022年、核巡航ミサイル開発を中止すると発表した)。

 SDIによる技術競争がソ連を追い込み、米国の冷戦勝利の原動力になったが、今回はロシアの核ミサイルの登場で米国は軍事的に初めて守勢に回ることになるかもしれない。プーチン大統領は「ブレヴェスニク・ミサイルの実験は西側諸国への警告だ」と豪語している。

 なお、トランプ大統領は27日、訪日途上のエアフォースワン機内で、ロシアの新型原子力巡航ミサイルの実験について「不適切だ」と指摘、「ミサイルのテストを止め、ウクライナの戦争を停止すべきだ」と述べている。


 

政治家は、聞くに早く、語るに遅くあれ

 高市早苗首相の所信声明の時、議会の野党議員からヤジが飛び、首相の話が聞きずらくなった、といった苦情が聞かれた。ヤジを飛ばしたのは野党「立憲民主党」の水沼秀幸議員や岡田悟議員だった。議会でのヤジに対してソーシャルネットなどで批判の声が出ていることに対し、同じ立憲民主党の小西洋之議員はXで「ヤジは非常に重要な国会議員の議会活動」とヤジの意義を強調している。

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▲第219回国会における高市首相の所信表明演説,2025年10月24日、首相官邸公式サイトから

 小西議員の「ヤジ擁護論」について、前参議院議員・音喜多駿氏は日本最大の言論フォーム「アゴラ言論プラットフォーム」で反論されている。音喜多氏は「議会風景を“怒号と割り込みの場”にしてしまえば、民主主義制度の根幹である『言論の場としての国会『「首相演説を国民に届ける場としての国会』が、形骸化・劣化してしまいます」と述べている。

 いつだったか忘れたが、香港やバルカン諸国の議会で議員同士が殴り合うといったシーンを見たことがある。どちらに義があるかは別として、国民から選出された議員の品位に傷がつくことは間違いない。

 ヤジといえば、トランプ大統領は13日、イスラエル国民と共に人質解放を喜ぶためにイスラエル入りし同国議会(クネセト)で演説した時、2人の男性議員がヤジを飛ばした。同大統領はちょっと驚いた表情を見せたが、演説を続けた。ヤジを飛ばした議員は議会の警備員らに連れられ、議会から退去させられた。

 ちなみに、トランプ大統領は「ウオー・イズ・オーバー」(戦争は終わった)と宣言し、「中東の歴史的な始まりだ」と強調、同大統領の演説中、クネセトは熱狂に包まれていた。そのような中、ヤジが飛ばされたのだ。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのライブ中継を見ていた当方も一瞬、何が起きたのか緊張した。

 いずれにしても、議会はヤジを飛ばすところではなく、互いに政策を議論し、研磨する場所だから、感情の暴発的なヤジは議会進行を阻害するだけだ。ましてや、首相の所信声明演説の時、国民もその内容に耳を傾けている時だ。

 ところで、政治家や宗教者は語る機会が通常の人より多い。政治家は自身の政策を、宗教者は自己の信仰や教えを他に伝えることをその使命としているから、ある意味で当然かもしれない。また、現代は「沈黙は金」ではなく、論理的、実証的に相手を論破する能力が評価される時代でもある。

 ただ、忘れてならない点は、相手が何を考え、何を伝えたいのかを冷静に傾聴する姿勢こそ今、最も願われているのではないか。新約聖書『ヤコブの手紙」第1章19節には「愛する兄弟たちよ、このことを知っておきなさい。人はすべて、聞くに早く、語るにおそく、怒るにおそくあるべきである。人の怒りは、神の義を全うするものではないからである」と記述されている。

 米国人初のローマ教皇に選出されたレオ14世について、バチカン教皇庁の関係者は「新教皇は話す人というより相手の話を聞く人だ」と述べていた。自分の話を真剣に聞いてくれていると分かれば、その人は慰められ、心を開くものだ。

 最後に、高市首相のヘアスタイルについて聞いた話を紹介する。高市首相のヘアーカットは行きつけの奈良の美容院でやってもらうという。耳を覆うヘアスタイルにしていた当時、美容院のオーナーから「耳を覆うのではなく、人の話をよく聞くため髪を耳にかけたスタイルのほうがいいのでは」といわれたことから今のヘアースタイルになったらしい。高市首相が国民の願い、希望に耳を傾ける指導者となって国家の再生に全力を投入して頂きたい。

建国70周年オーストリアの「国体の変容」

 アルプスの小国オーストリアは26日、連合国軍(米英ロ仏)4カ国の10年間の占領時代を経て再独立してから今年で70周年の建国記念日を迎えた。同国は1955年5月、4カ国の連合国軍との間で「オーストリア国家条約」を締結し、再び独立国家(国家回復)が認められた。 条約の規定に従い、同年10月、「永世中立に関する連邦憲法法規」(中立法)を制定して永世中立を宣言した。当時のレオボルト・フィグル外相がベルヴェデーレ宮殿内で「オーストリア・イスト・フライ(オーストリアが自由に)」と叫び、再び独立国となった喜びを国民と共に祝った。

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▲世界最古の動物園シェーブルン動物園で3頭のチータ―の赤ちゃんが誕生した、2025年10月26日,シェーンブルン動物園で撮影

 建国記念日では首都ウィ―ンの英雄広場で毎年、連邦軍が戦車やヘリコプターを披露してウィーン市民に国防の実態を紹介する。多くの親子連れが見学にやってくる。文字通り、国民的祝日だ。

 オーストリアは再独立後、中立国家としてスタートしたが、同国の国体は時代の変遷の中で大きく揺れ動かされてきた。同国は中立国として軍事同盟には加盟せず、冷戦時代には東西間の架け橋的な調停外交を展開する一方、中東・バルカン半島の紛争時には国連平和維持軍に参加、また国連の専門機関をウィーンに誘致し、国連外交を推進してきた。

 ちなみに、ウィーン市にはイランや北朝鮮の核問題を監視する国際原子力機関(IAEA)、国連工業開発機関(UNIDO)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)などの本部や事務所がある一方、石油輸出国機構(OPEC)や欧州安全保障協力機構(OSCE)など30を超える国際機関がある。

 冷戦時代には中立主義がその価値を発揮できたが、ロシア軍が2022年2月末、ウクライナに侵攻して以来、中立主義の見直しが叫ばれ出した。欧州の4カ国の中立主義国のうち、フィンランドとスウェ―デンは中立主義を放棄して北大西洋条約機構(NATO)に加盟したが、スイスと共にオーストリアは依然、中立主義を堅持してきた。

 スイスは中立主義の定義の再考(「協調的中立主義」)や武器再輸出法案の是非を検討するなど試行錯誤。一方、オーストリアでは中立主義との整合が問われるような政治的動きが出てきた。例えば、欧州の空域防衛システム「スカイシールド」(Skyshield)へのオーストリアの参加だ。ちなみに、中立国オーストリアのESSI参加に対し、極右「自由党」キックル党首は、「スカイシールド参加と中立主義は一致しない。NATOとロシアが戦闘した場合、わが国はその戦禍を受けることになる」と強く反対した。

 オーストリアは冷戦時代、旧ソ連・東欧共産圏から政治難民が殺到、その数は200万人にも及び、「難民収容国家」と呼ばれた。冷戦の終焉後の2015年、中東・北アフリカから100万人の経済難民が欧州に殺到し、移民・難民の収容問題が大きな政治課題となった。

 ところで、オーストリアはローマ・カトリック教国だ。戦後直後、カトリック信者は国民の85%以上だったが社会の世俗化、教会の聖職者の性犯罪問題の発覚もあって、信者数は現在、50%台に急減し、あと10年もすれば過半数割れは確実視されている。同時に、イスラム系移民が急増し、ウィーンの小学校ではドイツ語を母国語としない生徒がクラスの過半数を占め、学力低下の原因ともなっている。

 政府はイスラム系移民の統合政策を促進させている。シュトッカ―政権は9月、14歳未満の女子に対して学校でスカーフの着用を禁止する法案を閣僚決定している。オーストリア、特に首都ウィーンの「都市の風景」は大きく変わってきた。

 まとめると、建国70周年を迎えたオーストリアでは今日、国是の中立主義はその価値を失い、国民の精神的支柱だったキリスト教の信仰は益々希薄化する一方、イスラム系移民が急増している。オーストリアの国体は変容してきている。

メルツ首相の「都市の風景」発言について

 ドイツのメルツ首相は今月16日、ポツダムでの記者会見で移民政策に言及し、「都市の風景」(Stadtbild)に問題がある、といった趣旨の発言をし、移民を侮辱したような発言と受け取られ、野党の「緑の党」、「左翼党」だけではなく、連立政権を担う社会民主党からも「民族主義的な発言」といった非難を浴びた。ドイツでは25 日、ハンブルクや各地で数千人が「私たちは都市の風景だ」と叫び、メルツ氏の発言に抗議デモをした。

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▲「都市の風景」について説明するメルツ首相、2025年10月23日、CDU公式サイトから

 自身の発言の反響の大きさに驚いたメルツ氏は後日、ロンドンで開催された西バルカン諸国会議後、「都市の風景」に関する自身の発言について説明した。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのウェブサイトに掲載された記事(10月22日)からその箇所を紹介する。メルツ首相は、労働市場のために、ドイツは今後も移民を必要とすると強調する一方、移民がドイツの都市の公共イメージを壊していると説明した。

「確かに、私たちは今後も移民を必要とし続けるだろう。これはドイツだけでなく、欧州連合(EU)加盟国すべてに当てはまる。もはや彼らなしではやっていけない。彼らの多くは既にドイツ国籍を取得している。しかし、永住権を持たない人々、仕事をしていない人々、そして我々のルールを守らない人々が問題だ。こうした人々が都市の公共イメージをある程度決定づけている。だからこそ、ドイツや他のEU諸国では、ドイツに限ったことではないが、多くの人々が公共空間を移動することを恐れているのだ。駅、地下鉄、特定の公園、そして地域全体にも当てはまる。警察にとっても大きな問題となっている」

 最後に、「法の支配に対する国民の信頼を回復し、失われた信頼を取り戻すためには、これらの問題の原因に欧州全体で共同で取り組まなければならない。そのため、EU首脳会議では、欧州共通の移民・難民政策について再び議論されるのだ」と述べている。

 メルツ氏の全部の説明を聞けば、激怒し、抗議デモするほどの内容ではないことが分かる。メルツ氏の発言が一部の人々から激しい激怒を誘発させたのは、移住者、外国人が「都市の風景」を汚している、という意味の侮辱発言と受け取られたからだろう。実際は、ドイツ日刊紙ヴェルト電子版が24日、「国民の63%はメルツ氏の発言を支持、反対は29%だった」という世論調査結果を報じていた。

 音楽の都ウィーンでも程度の差こそあれ同様の問題を抱えている。ただ、ウィーンは観光都市だから、外から来た訪問者に対しては外的には寛容な振舞いをする習慣が身についている。その結果、観光客に交じって不法な移住者も一緒に押し寄せてくるわけだ。

 ウィーン市は東京都と同様で23区から成り立っているが、18,19区には政治家や裕福な家族が多く住み、10区や16区には外国人労働者が多く居住している。社会層の棲み分けが出来ているのだ。10区のロイマンプラッツの地下鉄駅周辺は多くの移民出身の背景を持つ若者たちがたむろしているエリアで知られている。同エリアは最近、ナイフ所持禁止エリアに指定されたばかりだ。

 当方は1980年代からウイーンに住んでいるが、「ウィーンの風景」は確かに変わった。外国人が増えた。もう少し端的にいうと、イスラム系市民が急増したことだ。その結果、小学校ではドイツ語を母国語としない生徒がクラスの過半数を占め、学力低下の原因ともなっている。犯罪統計によると、外国人による犯罪は増えている。

 ここで看過できない点は、ドイツやオーストリアに移住する人にはイスラム系が多いことだ。キリスト教文化圏に属するドイツやオーストリアにとって、イスラム系移民は異文化圏からの人間だ。両者には文化的、宗教的ギャップがあるから、事ある度に誤解し、対立が生まれてくる。

 だから、ホスト国(移民受け入れ国)の国民にとってゲスト(移民、難民)の言動が理解できないことがある。ケバップの店が並ぶ街を歩くとき、ホスト国の国民が繊細な感情の持主であれば、違和感を感じるだろう。極端に言えば、自身が生まれ、育った故郷が消滅したような心細さを感じるかもしれない。「昔はこうではなかった」というため息が飛び出すのだ。

 ところで、「都市の風景」が時代の推移によって変わっていくことは自然のことだ。問題は「都市の風景」が変わることではなく、ホスト国側に自身のふるさとを部外者によって奪われてしまうという危機感が生まれてくることだ。キリスト教文化圏のホスト国の国民は、人道的、寛容な思いでゲストに接しようと努力するが、その高尚な試みは多くの場合、長続きしない。

 中東・北アフリカから100万人の移民たちが欧州に殺到した時(2015年)、メルケル首相(当時)は有名なセリフ「Wir schaffen das」(私たちは問題に対応できる)を発し、人道的視点からドイツを目指す難民を歓迎する政策(ウエルカム政策)を実施した。メルケル氏は当時、どのような「都市の風景」を見ていたのだろうか。

「SOS子どもの村」創設者の神話が崩れた

 第2次世界大戦後の困難と貧困下で全てを失った子供たちを守り、彼らが安全で安心できる環境で成長できるようにすることを目標に建設された「SOS子どもの村」の創設者ヘルマン・グマイナー(1919〜1989年)が生前、「SOS子どもの村」の男の子たちに性的虐待をしていたことが明らかになった。

 グマイナーは1949年、チロル州イムストに最初の「SOS子どもの村」を建設し、献身的な女性たちと男性たちと共に、世界的な人道支援の理念の礎を築いたことで有名となり、一時期、ノーベル平和賞候補にも挙がったことがあった。オーストリア国民はグマイナーの献身的歩みを誇らしく感じてきた。それだけに、「創設者の神話」が崩れ落ちていくのを感じ、大きな衝撃を受けている。
 
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▲「SOS子どもの村」公式サイト 

 「SOS子どもの村」は今日、世界135カ国と地域で活動する国際NGOだ。「SOS子どもの村」は世界中に450箇所以上あり、全体では約170万人の子どもと家族を支援している。オーストリアに「SOS子どもの村インターナショナル」の本部がある。日本にも支部がある。

 ところで、「SOS子どもの村」で過去、子どもたちが虐待されていたというのだ。同事件を最初に報道したのはオーストリア週刊紙「ファルター」だ。同週刊誌は9月16日号でケルンテン州の「SOS子どもの村」で数年前に発生したとされる深刻な虐待疑惑を報じた。報道によると、「SOS子どもの村」の関係者は不祥事を知りながら、証拠と手がかりを隠蔽していた(「『SOS子どもの村』の虐待疑惑問題」2025年10月2日参照)。

 そしてここにきて「SOS子どもの村」のスタッフだけではなく、創設者グマイナーが生前、男の子に性的虐待を犯していたことが明らかになり、オーストリア国民もショックを受けている。オーストリア公営放送は23日、プライムタイムのニュース番組でトップで報じたほどだ。

 グマイナーに対し、少なくとも8人の未成年の少年に「性的暴力と虐待」を行った疑いがかけられている。暴行自体は1950年代から1980年代にかけてオーストリアの4か所で発生したという。さらなる被害者が出る可能性も否定できない。そして8人の被害者には最大2万5000ユーロの補償金が支払われ、セラピーセッションの費用も支払われたが、グマイナーは性的虐待容疑で起訴されることはなかった。「SOS子どもの村」での虐待疑惑は過去、内部で調査され、処理され、その調査結果や関連情報が公表されたことはなかった。

 グマイナーは1919年、フォアアールベルク州に生まれ、1949年、「ソシエタス・ソシアリス」(SOS)協会を設立した。これは後に「SOS子どもの村」と改名された。同年、イムストに最初の家庭施設の礎石が据えられ、1950年12月24日、最初の5人の孤児たちが収容された。1960年代には、「SOS子どもの村」の理念はヨーロッパを越えてアジアやラテンアメリカへと広がり、現在、「SOS子どもの村」は約135カ国に拠点を置いている。グマイナーは1986年、67歳で亡くなった。

 グマイナーは生前、「SOS子ども村」の創設者として世界から146の賞を受賞し、ダライ・ラマやマザー・テレサといった国際的な著名人とも親交を深めた。オーストリアでは、多くの学校、通り、公園がグマイナーにちなんで名付けられている。そのグマイナーが生前、村に住む男の子に性的不祥事を繰り返していたことが判明し、グマイナーの名前がついた通りや学校の名称変更がテーマとなってきた。

 同村のシュラック専務理事は「軽微な変更ではなく、組織の全面的な再編が必要だ。隠蔽や見て見ぬふりを好んだシステムと完全に決別する。そのためには創設者の神話を一掃しなければならない」と述べている。ちなみに、傘下団体である「SOS子どもの村インターナショナル」のドメニコ・パリシ会長は「ヘルマン・グマイナー氏とその卑劣な行為を、私は可能な限り強く非難する」という声明を発表している。
 
 「SOS子どもの村」における虐待疑惑が明るみに出た後、外部専門家から成る調査委員会が設立された。同委員会の議長を務める元最高裁判所長官イルムガルト・グリス氏は「我々は改革案を実施する責任を負う。調査結果は、被害者の保護を尊重しつつ公表される」という。

「信教の自由」は人権であり、特権ではない

 困窮下の教会支援団体「エイド・トゥ・ザ・チャーチ・イン・ニード」(ACN)が21日に発表した報告書「世界の宗教の自由2025」によると、世界人口の約3分の2にあたる54億人が完全な「信教の自由」がない国に住み、自由に信仰を実践することができないという。世界で「信教の自由」が悪化していると警告している。

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▲中国共産党政権のチベット人弾圧を訴える亡命チベット人たち(2012年2月8日 ウィーン市内で撮影)

「世界の信教の自由」報告書は1999年初版発行以来、25年間にわたり、196カ国におけるこの基本的人権の現状を調査してきた。政府機関以外で実施されたこの種の調査としては世界で唯一のものだ。ACNの報告書はカトリック組織によって発行されているが、「信教の自由」の権利が濫用、侵害、または制限されているあらゆる信仰の人々を対象としている。

 今回の報告書によると、調査対象となった196カ国のうち62カ国で、この基本的人権の深刻な侵害が見られ、権威主義、宗教的過激主義、そして紛争が状況をさらに悪化させている。2023年1月から2024年12月までの期間を対象とし、今回で25回目の発表となるこの調査によると、改善が見られた国はカザフスタンとスリランカの2カ国のみだった。

 同報告書の発表に先駆け、ローマ教皇レオ14世はXショートメッセージで「信教の自由はあらゆる公正な社会の礎だ。信教の自由は、真理を探究し、自由に真理に生き、公然と証をすることを可能にさせる。それゆえに、良心が形成され尊重される道徳的空間を守るため、それはあらゆる公正な社会の礎となる」と述べている。

 ACNのレジーナ・リンチ事務局長は、「世界人権宣言第18条で保護されている思想、良心、宗教の自由の権利は、単に圧力を受けているだけではない。多くの国で、この権利は失われつつある。信教の自由は、他のすべての人権の指標だ。信教の自由の制限は、基本的自由のより包括的な崩壊を告げるものだ」と語っている。

 報告書によると、権威主義が宗教弾圧の主因であると指摘している。迫害を受けている24カ国のうち19カ国、そして差別を受けている38カ国のうち33カ国において、政府は宗教活動を統制または封じ込めるための組織的な戦略を展開している。イラン、エリトリア、ニカラグアにおいて、当局は監視技術、デジタル検閲、制限的な法律、そして恣意的な逮捕を用いていた。報告書は「信仰の統制は政治権力の手段となっている」と指摘し、「宗教弾圧の官僚化が進んでいる」と強調している。

 今回の報告書では、アフリカとアジアにおけるイスラム過激主義の脅威の高まりにも光を当てている。サヘル地域(サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域)はジハード主義による暴力の中心地とみなされており、イスラム国サヘル州(ISSP)やJNIM(「イスラム教及びイスラム教徒の守護者」)などの組織が数十万人を殺害し、数百万人を避難させ、数百の教会や学校を破壊してきた。民族宗教的ナショナリズムは、アジア、特にインドとミャンマーにおいて弾圧を推進している。例えばインドでは、報告書は「ハイブリッドな迫害」、つまりキリスト教徒とイスラム教徒のコミュニティを標的とした政治的言説によって煽られた差別的な法律と民間人による暴力の組み合わせについて言及している。

 中国の実情について、報告書は「中国はウイグル族のイスラム教徒とキリスト教徒のコミュニティにイデオロギーの統一を強制する「中国化」政策をさらに拡大している。2024年から施行された新たな規制では、すべての宗教集会所が社会主義的価値観を明確に遵守することが義務付けられている。チベット族とイスラム教徒のコミュニティは、村の改名、逮捕、礼拝所の破壊といった苦難に耐えてきた。特に懸念されるのは、未成年者への宗教教育を禁止し、宗教行事への参加を制限する法律である」と記述している。

 ACNの報告書によると、「信教の自由」の悪化は欧州や北米も例外ではない。2023年には、フランスで約1,000件の教会への攻撃が記録され、ギリシャでは600件以上の破壊行為が記録された。スペイン、イタリア、アメリカ合衆国でも礼拝所の冒涜、聖職者への身体的暴行、礼拝の妨害などが見られた。 ACNによると、こうした攻撃は宗教に対するイデオロギー的な敵意の風潮を反映している。

 報告書はまた、2023年10月7日のイスラム過激テロ組織(ハマス)のイスラエル攻撃を発端にガザ地区における戦争を受けて、反ユダヤ主義および反イスラム主義的な行為が劇的に増加したことも記録している。フランスでは反ユダヤ主義的な行為が増加し、イスラム教徒に対するヘイトクライムは29%増加した。ドイツでは、イスラエルとハマスの紛争に関連する事件が2023年に4,369件記録された。前年は61件だった。

 ACNは、今回の報告書を受けて、「信教の自由」を求める初の国際嘆願書を開始した。リンチ事務局長は「62カ国で、自らの信念に従って信仰し、生きる権利が損なわれており、これは数十億の人々に影響を与えている。信教の自由は人権であり、特権ではない」と強調している。

高市新首相はメロー二氏から何を学ぶか

 日本で21日、自民党の高市早苗総裁が日本の政界では初の女性首相に選出されたニュースは欧州でもかなり大きく報道された。ロイターやAFP通信社からの転載が多かったこともあって独自の評価や期待まで言及する記事は少なかったが、記事の共通トーンは「女性初の首相」だ。少し突っ込んだ記事では「安倍晋三元首相の政治を継承した政治家」といった紹介もあった。隣国中国や韓国の警戒心に満ちた記事とは異なり、欧州からのコメントは一般論的な域を超えないのは仕方がないかもしれない。

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▲就任初の記者会見に臨む高市新首相、2025年10月21日、首相官邸公式サイトから

 「決断と前進の内閣」をモットーに掲げる高市首相は21日、就任最初の記者会見の中で「トランプ大統領と早期にお会いをして、日米関係を更なる高みに引き上げていきたい。日米関係は、同盟国として、日本の外交・安全保障政策の基軸だ」と述べた。

 新首相に就任した高市早苗首相(64)にとって最大の同盟国・米国のトランプ大統領との信頼関係の構築は重要な課題だ。ホワイトハウスからの報道によると、トランプ米大統領は27〜29日の日程で来日し、日米首脳会談を28日に開く方向で調整しているという。

 ところで、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVは21日、イタリアのジョルジャ・メロー二首相(48)とトランプ米大統領の関係について報道していた(22日はメロー二氏の48歳の誕生日)。高市新首相にとって、メロー二首相がどのようにしてトランプ氏の信頼を勝ち取ったかを検証することも無駄ではないだろう。

 ミラノ発でNTVのアッファティカーティ記者は「トランプ氏はメロー二に夢中」という見出しで、「ワシントンとローマの関係はかつてないほど調和がとれている。その理由は、トランプ米大統領がイタリアのメローニ首相を高く評価しているからだ。トランプ氏はメローニ首相に惚れているようだ。ただの憧れではなく、まさに真の憧れだ。最近、彼は自身のプラットフォーム『Truth Social』で、メローニ首相の自伝は必読だと述べていた」と書いている。

 先進7カ国(G7)や様々な国際会議での記念写真の撮影では、メロー二氏はトランプ氏の傍に立ち、トランプ氏がメロー二氏に話しかけるシーンを良く目撃した。トランプ氏は、メロー二氏が2019年からトレードマークとしている「私はジョルジャ、私は女性、私は母、そして私はクリスチャン」というフレーズを使った動画も投稿しているほどの惚れ込み、というのだ。

 トランプ氏がメロー二氏に特別の感情を抱く背景は、メロー二氏がトランプ氏の政策に忠実だからだ。例えば、イスラエル政策だ。欧州のほとんどの国がイスラエルを批判し、パレスチナの国家承認に傾いているなか、イタリアはパレスチナの国家承認をしていない。メロー二首相と好対照は、イスラエル批判を繰り返すスペインのペドロ・サンチェス首相(社会労働党党首)だろう。トランプ氏はスペインに対して高関税で脅迫している、といった具合だ。

 ガザ地区で多くのパレスチナの民間人が犠牲となっているが、メロー二氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相批判を控えていた。どうしてもイスラエルの軍事攻撃を批判しなければならない時は、メロー二氏は自分からイスラエル批判をせず、アントニオ・タヤーニ外相に任せている。

 メロー二氏にも勇み足がある。トランプ氏との友好関係をいいことに、米国と有利な関税協定を単独で締結しようとしたことが暴露され、EUのブリュッセルばかりか、イタリアの野党からも批判されている。

 アッファティカーティ記者は「野党からの批判は政治の常だが、メロー二氏の言動に最も鋭い批判を投げかけているのは右派陣営だ」という。メローニ氏の「イタリアの同胞」から分離した右派政党「インディペンデンツァ」のマッシモ・アルレキーノ氏は、インタビューの中でメロー二氏を「反逆罪」と告発している。アルレキーノ氏によれば、メローニ氏は「イタリア社会運動」の前身である「青年戦線」の青年組織「フロンテ・デッラ・ジョヴェントゥ」で政治活動を始め、そこで「反帝国主義、反米」を掲げ、「民族の自決権のために戦ったではないか」というのだ。そのメロー二氏が今、米国やイスラエルの立場を盲目的に信じているという不満だろう。

 いずれにしても、政権発足時、メロー二氏は欧州諸国から「権力の座についたファシスト」、「極右」といったレッテルを貼られ続けたが、トランプ米大統領と最強の同盟関係を築いてきた。イタリアでは戦後から短期政権が常だったが、メロー二政権は22日で3年目に入った。注目に値する女性政治家だ。

 高市新首相が尊敬し、目標としている政治家はマーガレット・サッチャー英元首相(在任1979〜1990年)といわれるが、高市新首相が「イタリア初の女性首相」メロー二氏からどのような教訓をくみ取り、今後の政策に役立てるか、興味深いところだ。

同性愛カップルへの教会の「祝福」論争

 世界に約14億人の信者を有するローマ・カトリック教会で今年5月,米国人のローマ教皇レオ14世が選出されて以来、外の世界に向かっては大きな波乱もなく、新教皇は順調なスタートを切った。しかし、同性愛カップルへの教会の祝福に対し、レオ14世が明確に拒否したことから、バチカン教皇庁と「祝福は愛に力を与える ― 愛し合うカップルのための祝福」を主張するドイツ教会の間で論争が起きている。

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▲LGBTQ巡礼を報じるバチカンニュース、2025年9月6日

 前教皇フランシスコは、教皇在位中、LGBTQグループと定期的に面会し、同性愛の信者に対して寛容な姿勢を示してきた。そしてバチカン教理省は2023年12月18日、「Fiducia Supplicans(司牧的な祝福の意義について)」宣言を発し、一定の条件の下で再婚または同性カップルの祝福を認めた。ただし、同宣言は、特にアフリカのカトリック司教たちの間で激しい批判を巻き起こした。

 同性愛カップルへの祝福に関するドイツ教会のマニュエルは、バチカンの「Fiducia Supplicans」の内容、すなわち同性間やその他の「非正規」な関係にある人々に対する教会による非公式の祝福の規範を明らかに超えている。

 そのため、ドイツ教会の教区の中でも混乱が見える。ローマ教皇庁によって承認された祝福と一致しないという理由から、バイエルン州の4つの教区とケルン大司教区は、自らの管轄区域におけるドイツ教会のマニュエルの施行を拒否している。その一方、リンブルク、トリーア、オスナブリュックの各教区はドイツ教会のマニュアルを公式の教会広報に掲載し、それぞれの教区において法的効力を持たせている、といった具合だ。

 バチカンの立場は「同性愛カップルへの祝福はあくまでも自発的に行われるべきであり、厳粛な典礼の一部として行われるべきではない。カトリックの教義に基づき男女間のカップルにのみ与えられる結婚の秘跡と混同させてはならない」となっている。

 同性愛カップルへの教会の祝福論争を更にエスカレートさせたのは、レオ14世がウェブサイト「Crux」の米国人ジャーナリスト、エリーゼ・アン・アレン氏との2度にわたる長時間の対談の中で、「北欧では既に『愛し合う人々を祝福する』儀式が行われている』と不満を漏らし、「これらは教会の教えと一致しない」と述べていることに発する。

 教皇の発言がメディアに伝わると、ドイツ司教会議の秋の総会で問題となった。ドイツ司教会議のゲオルク・ベッツィング議長は、バチカンの公式の見解とドイツ教会が公表した祝福へのハンドブックの間の矛盾点を説明しなければならなくなったわけだ。

 欧州のカトリック教会ではクィアの信者が増えてきている。同時に、同性愛者を差別してはいけないと考え、積極的にクィアの信者と対話を模索する聖職者が出てきた。ドイツのエッセン=デルヴィヒの聖ミヒャエル教区主催の祭典で地元のカトリック青年共同体(KjG)がレインボーフラッグを掲げたことが発端となって、同性愛者を支援する信者とそれに反対する信者間で暴力事件が起きたことがあった。

 同性愛カップルへの教会の祝福問題でドイツ側と協議してきたバチカンのビクトル・フェルナンデス教理省長官は10月8日、教会内の混乱を収めるため、米国のポータルサイト「ザ・ピラー」の中で、「教理省はドイツ教会の決定を一切承認していないと通知済みだ」と述べている。

 バチカンの宣言「Fiducia supplicans」と、法的拘束力のないドイツの祝福に関するマニュエルとの間の緊張関係が今後も続くだろう。しかし、司教たちが官報に掲載することで指針を法的拘束力のあるものにした場合、バチカンは遅かれ早かれ法的措置を取らざるを得ないだろう。

 ちなみに、前教皇フランシスコは2022年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、ドイツ教会司教会議の教会刷新運動に異議を唱えたことがある。要するに、教会改革も行き過ぎはダメというわけだ。

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