ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2025年07月

独教会「性虐待被害者への賠償金支出報告」

 世界に14億人以上の信者を誇る最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会では聖職者による未成年者への性的虐待が多発し、その被害者への賠償金の支給額は既に天文学的な数字となっている。賠償金を支払えず、破産に追い込まれる教会も出てきている。

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▲「十字架」、聖職者の性犯罪への賠償金問題を報じるバチカンニュースから、2025年7月30日 

 米国のカトリック教会は過去20年間、聖職者の性的虐待事件に関連して約50億�法別�7500億円)の賠償金を支払ってきた。ジョージタウン大学の「応用使徒職研究センター(CARA)」が発表した研究結果によるものだ。CARAの研究によれば、2004年から2023年の調査期間中、合計15,000件の信憑性のある告発が報告された。被害者の5人に4人は少年であり、被害を受けた当時の年齢は半数以上が10歳から14歳だった。

 ドイツのカトリック教会でも聖職者への性犯罪は過去、頻繁に発生し、教会側によって隠蔽されたケースも少なくなかった。
 ドイツのカトリック教会での性犯罪を調査してきた認知給付独立委員会(UKA)が7月29日にウエブサイトで公表したところによると、虐待被害者は、2021年初頭から2025年6月末までに、計4504件の申請を提出した。この中には、初回申請と追加申請の2,992件が含まれている。

 UKAは、カトリック教会の聖職者における虐待被害者にいくらの賠償金を支払うかを決定する役割を担っている。UKAは、教区または修道会の担当者を通じて被害者からの申請を受け付け、給付額を決定し、被害者への支払いを承認する。ドイツ司教団が採択した規則に基づいている。

 UKAの年次報告書によると、UKAは2021年初頭から2024年末までに、カトリック教会における虐待の被害者に対し、約7,666万5,300ユーロ(約131億円)の支払いを承認した。そのうち12%のケースで5万ユーロを超え、31件では25万ユーロを超えた。

 例えば、2023年、ケルン地方裁判所は、祭壇奉仕中に虐待を受けた男性に、苦痛に対する補償として30万ユーロを支払うよう命じた。先月、マインツのカトリック教区はマインツ地方裁判所での和解で性的暴力の被害者に34万ユーロを支払うことに同意している。

 UKAの年次報告書によると、2024年の申請件数ではトリーア教区(82件)がトップ、ミュンスター教区(71件)、アーヘン教区(66件)と続く。2021年初頭から提出された申請件数では、ミュンスター教区が428件でトップと、ケルン教区(297件)、フライブルク教区(295件)と続く。

 聖職者の性犯罪の犠牲者にとって、裁判で争って賠償金を得るためには、教会側の隠蔽、告解の守秘義務(Seal of Confession)、そして時効の壁といったように、多くのハードルがある。もちろん、教会側の事件の全容解明への協力が欠かせられない。

 ちなみに、カトリック通信が3月27日報じたところによると、国際的な児童虐待被害者団体「SNAP」は、バチカンに対し、6人の著名な枢機卿を告発した。理由は、聖職者や教会職員による性的虐待を隠蔽したり、教会法上の十分な措置を取らなかったことだ。SNAPは「Survivors Network of those Abused by Priests(聖職者による虐待の被害者ネットワーク)」の略称で、1989年にアメリカで設立され、現在では世界規模のネットワークを持つ組織だ。なお、告発された6人の枢機卿の中には、現教皇レオ14世(本名ロバート・プレボスト枢機卿)の名前も入っていたことを付け加えておく。

ユダヤ民族の選民思想と「ファースト」

  「信仰の祖」アブラハムから派生した唯一神教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3宗派には共通点が多くある一方、相違点もある。イスラム教専門家でバチカンのグレゴリア大学で教鞭をとるフェリックス・ケルナー神父は神への祈りでも3宗派の間で相違があるという。同神父によると、「イスラム教徒が神に委ねるのは神が全能だからだ。キリスト教徒の場合、神がキリスト(救世主)を送って下さったからだ。そしてユダヤ教徒の場合、神がユダヤ人を選民に選ばれたからだ」という。

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▲イスラエル南部のネゲヴ砂漠がある町ミツぺ・ラモンを訪問したネタニヤフ首相(左)、イスラエル首相府公式サイトから、2025年7月27日

 パレスチナのガザ地区でイスラム軍とイスラム過激派テロ組織「ハマス」の紛争をフォローしていると、ユダヤ民族の動向から「神から選ばれた民族」(選民思想)といった印(しるし)を感じることがある。それはユダヤ教正統派だけに言えることではなく、リベラル派の人々でもユダヤ民族の血統を継承する人には程度の差こそあれ当てはまるのではないか。

 例えば、イスラエルのネタニヤフ首相はユダヤ人だが、決して頑迷なユダヤ教徒ではなく、米国流の生活スタイルを愛するリベラルなユダヤ人だ。その首相も危機に瀕すると、これまで見られなかった「選民思想」が疼きだす。このコラム欄でも紹介したが、、同首相はイラン攻撃の前日(6月12日)、ユダヤ教の最も神聖な礼拝所、エルサレムの旧市街にある聖地「嘆きの壁」を巡礼し、一片の紙を壁の隙間に差し込んでいる。現地のメディアによると、ネタニヤフ首相は手書きでヘブライ語聖書「民数記」23章24節の聖句「見よ、民は若い獅子のように立ち上がり、獅子のように高ぶる」を書き写している。そしてイスラエル軍は「ライジング・ライオン作戦」(立ち上がる獅子)と呼ばれるイラン攻撃を始めた。

 それに先立ち、ネタニヤフ首相は2023年10月28日、イスラム過激派テロ組織「ハマス」のイスラエル奇襲テロ事件直後、旧約聖書「申命記」や「サムエル記上」に記述されている聖句「アマレクが私たちに何をしたかを覚えなさい」との箇所を演説の中で引用している。モーセがエジプトから60万人のイスラエルの民を引き連れて神の約束の地に向かって歩みだした時、アマレク人は弱り果てていたイスラエルの民を襲撃した。ネタニヤフ首相は当時、「ハマスの奇襲テロ」を「アマレク人の蛮行」と重ね合わせて語ったことは明らかだった。すなわち、1,200人以上の国民を殺害し、250人以上を人質にしたハマスの蛮行を忘れてはならないという意味だ。ネタニヤフ首相はその後、「ハマス撲滅」を宣言し、ガザのハマスの拠点に激しい報復攻撃を展開させている。ネタニヤフ首相は自身の決定を常に神のみ言葉で定義し、位置づけているのだ。

 ところで、 当方は米TVシリーズ「選民」(The Chosen )を観てきた。イエスと12弟子たちの交流が描かれている。イエスは自身の語る意味を理解できない弟子たちにたとえ話で忍耐強く諭し続ける。多くの奇跡を行うが、弟子たちはイエスの本当の願いを理解できない。誰が一番偉いかなどと言い争う弟子たちに、イエスは絶望するような思いで怒りを発し、一人寂しいところに行く場面は心を突く。

 救い主イエスと、イエスによって選ばれた弟子たちの間にはパーセプション・ギャップがあった。イエスと両親(ヨセフとマリア)との間にもパーセプション・ギャップがあった。弟子の中には、イエスを政治的指導者と考え、民族の解放者と受け取っていた弟子たちもいた。イエスと弟子たちの間には世界観、人間観で大きなギャップがあった。

 その結果、神の中心的な摂理はユダヤ民族から、民族、国家の壁を越えて広がっていったキリスト教に移動していくことになった。ただ、ユダヤ民族を神は忘れることがなかった。なぜならば、ユダヤ民族を選民にしたのは神自身だったからだ。イスラエルは1948年、建国し、世界中のユダヤ人が神の約束の地カナンに移住してきた。

 ユダヤ民族の歴史を単なる一民族の神話と受け取るか、それとも人類で先駆けて選民となった民族の歴史と受け取るかで、現在のイスラエルの動向への評価は変わるだろう。明確な点は、選民だとしても、神が発信するメッセージとずれが生じることがあることだ。だから常に自省しながら他民族との共存の道をいかなければならない。選民は他の民族に対して責任がある。それは神の祝福を受けた選民の義務であり、同時に誇りでもある。ネタニヤフ首相には、ユダヤ民族と同じように苦難の道を歩むパレスチナ民族に温かい手を差し伸ばしてほしい。
 
 参考までに、トランプ米大統領の「米国ファースト」、オルバン首相の「ハンガリー・ファースト」、日本では参政党の「日本人ファースト」といったように、「ファースト」を政治信条に掲げる政治家、政党が世界的な広がりを見せているが、「ファースト」にはナショナリズムや優越意識がみられる一方、一種の「選民思想」がその根底に潜んでいるのを感じる。

今のパレスチナ「国家承認」は時期尚早だ

 ニューヨークの国連本部で28日、パレスチナの国家承認を求める国際会合が始まった。同会合はフランスとサウジアラビア両国が主催したもので、近未来のイスラエルとパレスチナの2国家共存の実現を目的としている。ただし、2国家共存案は久しく外交上のテーマだが、その実現の可能性はパレスチナのイスラム過激テロ組織「ハマス」がイスラエル領に侵入し、1200人以上を殺害し、250人余りを人質にした奇襲テロ事件(2023年10月7日)以来、一層非現実的となってきている。

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▲国連でパレスチナとイスラエルの2国家共存に関する国際会合が開催、2025年7月28日、国連広報部提供

 にもかかわらず、フランスのマクロン大統領は24日、9月の国連総会で同国がパレスチナの国家承認を表明すると宣言したことで、2国家共存案が再び浮上してきたわけだが、イスラエルと米国らはフランスの表明に強く反発、イスラエルは「パレスチナの国家承認はハマスのテロに報酬を与えることになる」と非難している。

 国連193か国中、パレスチナの国家承認をしている国は144か国と過半数を大きく上回っているが、米国や英国の国連安保常任理事国が拒否している以上、正式の国家承認は難しい。
 例えば、国連に加盟する場合、安全保障理事会の勧告と総会の承認を必要とする。「国家の条件」としては、「領土」「国民」「主権」の3点をクリアしていなければならない。

 現在のパレスチナは上記の国家の条件、国連の加盟国への条件を満たしているだろうか。「主権」でも、国民を統治する政府が存在するだろうか。パレスチナ自治政府が存在するが、同自治政府では久しく腐敗、汚職問題が指摘され、その行政能力は疑われてきた。一方、ガザ地区ではこれまでテロ組織「ハマス」が実質的統治してきた。ちなみに、国連は2012年11月、パレスチナ自治政府に「非加盟オブザーバー国家」としての参加資格を認めている。

 トランプ米大統領はフランスのパレスチナの国家承認宣言について、「タイミングが悪い」と述べているが、それはイスラエル軍のガザ攻撃がまだ完全には停戦していない状況下で、パレスチナの国家承認を下す時期ではないというわけだ。

 また、マクロン大統領のパレスチナ国家承認という宣言は、ガザ地区でのイスラエル軍の戦闘と、パレスチナ人への人道危機に対して、イスラエルに圧力を行使するという意味合いが強い。すなわち、国家承認という非常に国際法上、政治・外交上、高度な判断が必要なテーマに対して、パレスチナ人への人道的支援を阻止するイスラエルへの制裁といった道義的理由が大きな契機となっていることだ。また、ヨルダン川西岸地区の状況は、ここ数ヶ月、イスラエルの入植地によって悪化し続けている。このような状況下でパレスチナの国家承認は「時期尚早」(メローニ伊首相)と言わざるを得ないのだ。

 2015年に先駆けて国家承認したバチカン市国の国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿は、日刊紙「ラ・レプブリカ」(28日付)で、「2国家共存が唯一の実行可能な道だ」と述べ、マクロン大統領の国家承認発言を歓迎している。バチカンは長年、イスラエルとパレスチナの2国家共存こそ、聖地パレスチナの平和に向けた最善の策だとの立場を取ってきた。
 なお、ローマ教皇レオ14世は今月21日、ガザ紛争についてパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領と電話会談をし、2015年6月26日に調印され、2016年1月2日に発効した聖座(バチカン)とパレスチナ自治政府間の外交合意10周年を祝っている。
 
 ちなみに、「信仰の祖」アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗派代表が2014年6月8日、ローマ教皇フランシスコの招きでバチカン教皇庁に結集し、中東の和平実現のために祈祷会を開催したことがあった。フランシスコ教皇のほか、、ユダヤ教代表のイスラエルのペレス大統領、そしてイスラム教代表のパレスチナ自治政府アッバス議長の3人がバチカン内の庭園に集まった。

 フランシスコ教皇は当時、「憎悪と暴力の悪循環を突破するためには“兄弟”という言葉がある。頭を天に向け、われわれの共通の父親を見つけることができれば、われわれは兄弟だと分かるのではないか」と述べたことがある。現実はそんなにシンプルではないかもしれないが、解決策は結局そこに帰着するのではないか。

 マクロン大統領のパレスチナ国家承認発言を「売名行為」と誹謗することは正しくはないが、イスラエルとパレスチナ間の現状は2国家共存の段階まで来ていない。時期尚早の「2国家承認」は状況をさらに悪化させる危険性が排除できない。

「イエスは神である」としたニカイア公会議

 「イエス・キリストは神である」と決定したにニカイア公会議が開催されて今年で1700年を迎えた。バチカンからの情報によると、新教皇レオ14 世はこの秋、最初の使途的訪問として西暦325年に開催されたニカイア公会議(二ケア公会議)の開催地、ニカイア(現在のトルコの都市イズ二ク)を訪問する予定、といわれている。

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▲コンスタンティヌス1世が「ニカイア・コンスタンティノープル信条」のテキストを広げている、ギリシャのメガロ・メテオロ修道院の中世のアイコン、ウィキぺディアから

 レオ14世は6月7日、バチカンで開催されたアンジェリカム(エキュメニクム)と国際正教神学協会が共催するシンポジウムで、「ニカイア公会議は単なる過去の出来事ではなく、全てのキリスト教徒の、完全な目に見える一致へと私たちを導き続ける羅針盤だ。私たちは共に、三位一体の神、真の人であり真の神であるキリスト、そして教会で読まれる聖書に従い、聖霊の導きのもとに、イエス・キリストによる救いを信じている」と説明している。

 ニカイア公会議は、史上初のエキュメニカル公会議だ。この公会議のテーマは、「ロゴスであるイエス・キリストは被造物か、それとも神か?」だった。コンスタンティヌス1世(大帝)の招待により、ローマ帝国各地から数百人の司教が、現在のトルコのイズニクにあたるニカイアの町に初めて集まった。

 4世紀、ローマ帝国には多くの宗教や宗派が存在し、統一されたキリスト教会は存在していなかった。しばしば対立する諸潮流を統合し、紛争を鎮めるため、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世は公会議を召集したといわれている。帝国の約1,800人の司教のうち、公会議に出席したのは200人から300人程度だったという。

 教会はローマ皇帝の保護下に置かれていた。 皇帝が保護権力だった。同時に、教会が世俗権力、つまり皇帝に依存することをも意味していた。公会議の裁定に従わなかった異端者への罰は、追放であった。

 ニカイア公会議には具体的には、アリウス派 とアタナシウス派の対立を解消する目的があった。アタナシウス派とは、アレクサンドリアのアタナシウスの指導の下、父なる神と子なる神であるキリストが同質(ホモウシオス)であると主張した派だ。この考え方は、後に三位一体説として確立され、キリスト教の正統教義とされた。

 一方、アリウス派は、キリストは神の被造物であり、「イエスの神性」を否定していた。アリウス派は当時、最も影響力のあるキリスト教運動であり、アレクサンドリアの長老アリウス(260年頃から327年)の信奉者たちの信仰だった。アリウスにとって、「父なる神」と「子なる神」との関係は、子を至高の神ではなく被造物として捉える、段階的な関係として理解する方が、より説得力があり、聖書にも合致していると理解していた。

 最終的には「イエスの神性」を否定するアリウス派が異端とされ、アタナシウス派の「ニカイア信条」が採択された。しかし、アタナシウスの説は正統とされたが、その後もアリウス派との対立は続いた。

 教会全体が、イエス・キリストの「完全な神性」を強調する信仰告白に同意する一方、キリストを「ある種の神聖な存在、あるいは神の領域に属する存在」と定義するだけで、神自身とは定義しないアリウス派の教義は退けられた。そして、聖霊を神格における第三の「位格」とする「三位一体」の教義は、数十年後のコンスタンティノープル公会議(381年)によって定着していく。

 参考までに、ニカイア公会議のテーマ、「イエス・キリストは神か」を聖書に基づいて少し検証してみる。

 ピリボがイエスに、神を見せてくださいと言った時、イエスはピリボに「私を見た者は、父を見たのである。どうして、わたしたちに父を示して欲しいと言うのか。私が父におり、父が私におられることを信じないのか」(「ヨハネによる福音書」第14章8節〜10節)と答えている。別の個所では、「アブラハムの生まれる前から私(イエス)は、いるのである」と述べている。「イエスが神」と解釈できる聖句だ。

 一方、「ローマ人への手紙」第8章34節によると、「イエスはよみがえって神の右に座し、また私たちのために取りなして下さるのである」。さらにイエスは神を父と呼び、自ら神でないことを明らかにしている。イエスは十字架上で「わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか」(「マタイによる福音書」第27章46節)と述べている箇所などは、「イエスが神ではない」ことを示している聖句だ。

 すなわち、聖書には「イエスは神」という聖句と「イエスは神ではない」という聖句が記述されているわけだ。この一見矛盾する聖句を如何に合理的に解明するか、という課題はキリスト者に依然残されているのだ。

ロシア軍は2027年にもNATOに軍事攻勢

 ポーランドのドナルド・トゥスク首相は「欧州とポーランドは早ければ2027年にロシアと大規模な紛争が発生する可能性がある。今後2年間を最大限に活用し、ポーランド情勢の安定化と安全保障を確保しなければならない」と述べている。ポーランド国営通信社(PAP)が報じた。

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▲海軍潜水艦部隊の発展に関する会議で語るプーチン大統領、2025年7月24日、クレムリン公式サイトから

 トゥスク首相の上記の発言は数年前ならば単なる政治的プロパガンダで済ませることができたが、ロシアのプーチン大統領の動向を見ると、そうとは言えなくなってきている。西側の専門家は、ロシアは遅くとも2030年までにNATO(北大西洋条約機構)と軍事衝突すると見ている。ポーランドのトゥスク首相は、早ければ再来年にも紛争が発生する可能性があると警告しただけで、決して突飛な発言ではないのだ。

 トゥスク首相によると、NATOの新最高司令官アレクサス・グリンケヴィッチ氏も同様の見解を有し、「ロシアと中国は2027年までに非常に強くなり、NATOと米国と対決を求めるようになる可能性がある」と見ているのだ。ちなみに、ドイツのボリス・ピストリウス国防相はロシア軍の欧州侵攻を「2029年」と予測している。そのシナリオに沿って、EU諸国は再軍備を進めており、2030年までにロシアの攻撃を撃退できることを目指しているというわけだ。

 軍事専門家のゾンケ・ナイツェル氏は南ドイツ新聞で「今後3年間が最も危険な時期だ」という。ロシアは大規模な再軍備を進めており、ウクライナでの損失にもかかわらず、120万人の兵士を擁している。この軍備上の優位性は、NATOが追いつくまでだ。つまり、プーチン大統領は,NATOと対決すべきか否かを決断しなければならないが、その持ち時間は限られているのだ」と説明し、「今後数年間はロシアにとって非常に重要となる」というのだ(この項、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのHPから引用した)。

 ロシア外務省に勤務していた外交官ボリス・ボンダレフ氏は2022年、プーチン大統領のウクライナ戦争に抗議して西側に亡命し、昨年、プーチン大統領のウクライナ戦争の目的などを解説した著書「Im Ministerium der Lugen」(嘘の省で)を出版した。同氏は「欧州ではプーチン大統領に反対する人がいかに少ないかに驚かされる。西側諸国が何をしようとウクライナは破滅する運命にある、戦争におけるロシアの勝利は避けられない、と考えている西側指導者が多い。ロシアに少し勝たせて、ウクライナの一部を併合すれば、プーチンは黙るだろう、というのだ。2008年には、プーチンはアブハジアと南オセチアだけを欲しがり、あとは黙るだろうという声が聞こえた。2014年には、プーチンはクリミアを併合し、ドンバスを掌握した。アンゲラ・メルケル(元独首相)のような西側諸国の政治家たちは、最初は見て見ぬふりをし、それからプーチンはそれ以上は進まないだろう、我々が彼のガスを買うからいいだろうと述べていた。しかし、2022年には、周知の通り、プーチンはさらに踏み込み、ウクライナ全土を征服しようとしている。驚くべきことに、ここにきても依然、『彼にウクライナ東部を渡せば、あとは黙るだろう」という空気は広がっていることだ」と警告を発している。

 同氏によると、「ロシアの攻撃を受けた場合、バルト諸国は他のNATO加盟国全員の防衛に頼ることはできない。たとえそうする義務があるとしてもだ。プーチンは、世界が長らく見てきたハイブリッドなパターンに従い、一歩一歩、この目標に向かって進んでいくだろう。経済的、政治的、武力的な挑発、あるいは人為的に作り出された不安を通じて、バルト諸国の不安定化を試みるだろう。彼は秩序の回復と『ロシア系少数民族の保護』を要求し、密かに事態をさらにエスカレートさせる。プーチン大統領はその後、全てを解決すべく軍隊を派遣するだろう。NATOの介入を阻止するため、クレムリンの指導者は核兵器の使用も辞さないだろう」というのだ(「亡命露外交官『西側はプーチンを倒せ』」2025年7月18日参考)。

 いずれにしても、トゥスク首相の「2027年説」が当たるか、ピストリウス国防相の「2029年説」が当たるかは現時点では定かではないが、明かな点は欧州側にとっても、そしてプーチン大統領にとっても残された時間は余り多くはないことだ。西側にとってはロシア軍の侵攻阻止のための防衛体制の確立までに、プーチン氏にとっては、NATOが結束してロシア軍の軍事的優位性を克服するまでにだ。 

イランはイスラエルとウクライナの共通の敵

 ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、プラットフォームXでウクライナとイスラエルの両国がウクライナの防空強化について協議したことを明らかにした。同大統領はキエフでイスラエルのギデオン・サール外相と会談し、共同兵器生産の可能性についても話し合ったと発表している。

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▲ゼレンスキー大統領、イスラエルのサール外相と会談,2025年7月23日、ウクライナ大統領府公式サイトから

 サール外相は、ロシアの侵略と闘うウクライナ国民の粘り強さを称賛し、イスラエルがウクライナとの関係強化に関心を持っていることを強調し、「私たちは友人だ。あらゆる面で関係を強化するためにここに来た。この関係を強化できることを願っている。それは私たちにとっても重要だ」と述べた。

 会談は経済協力と防衛協力に焦点が当てられた。特に、両国はウクライナの防空能力強化と共同兵器生産の機会について協議した。

 ウクライナとイスラエル両国にとって共通の軍事的脅威はイランだ。イランはウラン濃縮関連活動を継続し、核兵器の製造に強い関心を示してきた。イスラエルは6月13日早朝、イランの核兵器製造を阻止するために米軍と連携してイランの主要な3か所の核関連施設を空爆し、イランの核開発計画を大きく後退させたばかりだ。ただし、イラン側は核開発計画の継続を宣言している。一方、ウクライナはロシアから戦闘ドローンの攻撃を受け、民間人にも多くの犠牲が出ている。その戦闘ドローンの多くはイラン製無人機(シャヘド)だ。イランはロシアに無人機やミサイルを供与し、ロシア軍を軍事的に支援している。すなわち、ウクライナとイスラエルにとって「イラン」が共通の敵というわけだ。

 ウクライナのシビハ外相は「両国は共通の安全保障上の課題に直面している」と指摘、「そこで両外相はイランの脅威に関する個別の対話を開始することを決定した」という。
 ウクライナにとって特に関心がある分野はイスラエルが誇る対空防衛システム(アイアンドーム)だ。迎撃成功率は80%から90%ともいわれる。イスラム過激派テロ組織が発射するミサイルを撃墜させるためにイスラエルが米国の支援を受けて開発したものだ。
 
 ウクライナはロシア軍に制空権を握られ、ここにきて数百の無人機攻撃を受けて、首都キーウでも多くの民間人に犠牲者が出ている。それだけに、ゼレンスキー大統領は米国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対空防御システムの提供を要請してきた。ウクライナにとって、イスラエルから防空システムの技術移転が可能ならば理想的だろう。

 サール外相は、ウクライナ政府がイラン政府関係者への制裁措置と、イスラエルによるイランの核施設への攻撃を支援したことに感謝の意を表明。また、イスラエルはロシアとの戦争においてウクライナを支援していることを強調した。

 ちなみに、ロシア軍のウクライナ侵攻後、イスラエルは暫くは中立の立場を取り、モスクワへの制裁を課さなかった。これは戦略的な理由に加え、イスラエルのユダヤ人人口の5分の1がロシア系であることから、両国間の良好な人間関係も理由の一つだ。そのイスラエルはここにきてロシアとは距離を置く一方、ウクライナ支援を鮮明にしている。

 ウクライナとユダヤ人の関係は、歴史的に複雑だ。ウクライナには古くからユダヤ人が居住し、ポグロム(ユダヤ人迫害)やホロコーストといった悲劇も経験している。ロシア軍のウクライナ侵攻後、多くのユダヤ人がイスラエルに移住している。ゼレンスキー大統領自身はユダヤ人だ。一方、ロシアに住んでいたユダヤ人もウクライナ戦争後、ロシアからの出国が絶えない。ロシアに住むユダヤ人人口は現在約19万人と推定されている。


宇宙全体で生命体の有機物が形成

 「人間の生命はどこから起因するのか」というエキサイティングな問いに、天体物理学者は大きく分けて2通りの生命起源説を主張してきた。先ず、地球の生命体は海から誕生したという「地球起源説」。しかし、天体物理学者たちはここにきて宇宙空間に無数に散らばる小惑星が地球に生命体の基礎素材を運んできたのではないかと考えだしてきた。すなわち、地球の生命体は内から生まれたのではなく、宇宙から運ばれた原料をもとに生まれてきたというのだ。まるで栄養剤を入れた注射をするように、数多くの小惑星が過去、地球に衝突することで生命に必要な物質を運び込んできたというわけだ。地球の生命起源問題では、「小惑星起源説」が有力視されてきた。

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▲地球と接近する小惑星2012DA14(NASAのHPから)

 そして国際研究チームが今回、「生命の起源は地球にあるのではなく、生命の構成要素は個々の惑星だけでなく、宇宙全体で形成されているという証拠を発見した」というのだ。今回の発見は、小惑星が地球に衝突することで、生命体に必要な有機物を地球に運んできたという説をさらに突っ込んでいる。すなわち、宇宙全てで生命体の有機物形成が進められてきているというのだ。

 約138億年前、暗黒の宇宙に通称ビックバーンと呼ばれる大爆発が起き、その瞬間、時間と空間が生まれた。同時に、生命体に必要なすべての元素、水素、ヘリウム、窒素、酸素などが宇宙空間に散らばり、その後、最初の星が生まれた。星の寿命は相対的に短く、スーパーノヴァと呼ばれる爆発が起き、ブラックホールと中性子星が生まれた。インフレーション理論によれば、宇宙空間はビックバーン後、急速に拡大していく。私たちが夜空に見る星の光は過去の宇宙生成を見る瞬間でもあるわけだ。いずれにしても、ビックバーン理論は「宇宙に始まりがあった」ことを証明している。

 国際研究チームは、1,350光年離れた新しく発達中の恒星系、オリオン座V883番星で、複雑な有機分子を発見した。これには、生命の構成要素の前駆体と考えられるエチレングリコールとグリコロニトリルという2つの物質が含まれていた。この結果は「Astrophysical Journal Letters」誌に掲載された。ハイデルベルクにあるマックス・プランク天文学研究所のプレスリリースによると、「生命の構成要素は個々の惑星だけでなく、宇宙全体で形成されている」というわけだ。

 この見解では、星が誕生後、ある一定の安定状態に達した後にのみ複雑な有機分子が形成されるのではなく、生命の出現に不可欠な複雑な分子の出現頻度と複雑さは、惑星系の形成過程のあらゆる段階で顕著に見られるのだ。これらの分子は宇宙に広く存在し、既に星間分子雲で形成されている可能性がある。そして、新たに形成される惑星系に吸収され、時間の経過とともにより複雑な分子へと進化していくわけだ。

 メタノールのような単純な有機分子は、恒星の前駆物質である濃いガスと塵の雲の中で既に検出される。好条件下では、オリオン座V883星で今回発見された物質の一つであるエチレングリコールのような、さらに複雑な化合物もそこで生成されている。アミノ酸、糖、DNAとRNAを構成する核酸塩基など、生物学的プロセスに不可欠なさらに複雑な有機分子は、太陽系の小惑星、隕石、彗星で既に検出されている。

 以上、ドイツ民間放送ニュース専門局ntvの科学欄(2025年7月24日)で掲載されていた「宇宙で生命起源の証拠を発見」の概要をまとめた。

 科学者はビックバーンは誰が起こしたのか、その目的は何か、等はテーマにしない。現在の宇宙天文学の対象はビックバーン後、生まれた宇宙空間だ。そして生命体の起源だ。最大の謎は宇宙空間を覆っている暗黒物質だ。ひょっとしたら、その暗黒物質は「生命の構成要素は個々の惑星だけでなく、宇宙全体で形成されている」という今回の発見にその謎を解くカギがあるのではないか。

イメージ操作された「宗教2世」が独り歩き

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)解散問題は安倍晋三元首相の暗殺事件を契機に、共産党系弁護士、左派メディアが実行犯の供述をもとに持ち出してきたテーマだ。メディアの圧力を受けた当時の岸田文雄首相は法の解釈を変えて旧統一教会の解散請求を持ち出した経緯がある。これは明らかに「信教の自由」を蹂躙している。旧統一教会信者の拉致監禁問題についても政府関係当局はこれまで沈黙してきた。

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▲12歳の時洗礼を受けた作家・遠藤周作、ウィキぺディアから

 朝日新聞など左派系メディアをみていると、旧統一教会問題が話題を呼ぶようになって以来、恣意的か「宗教2世」という表現が頻繁に登場してきた。多くはネガティブなイメージを絡ませて使用されている。元信者がメディアに登場して、「両親が旧統一教会信者でそのもとで自分は生まれた」と語り、旧統一教会がいかに2世たちの人権と自由を束縛しているかをテレビのワイドショーで証する。そこでは「宗教2世」のアイデンティティへの葛藤も飛び出してくる。

 信仰者は時には、自身の宗教に対し葛藤するだろうし、疑念も生まれてくる。それは「宗教1世」も「2世」も基本的には同じだ。そして最悪の場合、教会から脱退し、元信者となる。その元信者が脱退した宗教の悪口を言い,時には罵倒するのはごく自然のことだ。「自分は出ましたが、あの教会は素晴らしかった」と語る元信者はほとんどいないだろう。

 朝日新聞など左派系メディアは好んで「元信者」で、「宗教2世」に旧統一教会への批判のコメントを取材する。特に、「宗教2世」から旧統一教会への批判を聞き出そうとする。それに誘われ、元信者の「宗教2世」がメディアに登場する。その結果、「宗教2世」と言えば、親から強制的に信仰を強いられた人間といったイメージが定着していくわけだ。

 ところで、「宗教2世」という表現は欧米キリスト教圏ではほとんど聞かない。多くのキリスト者の家庭は代々信者だから、とりわけて「宗教2世」といった表現は使わない。

 参考までに、ローマ・カトリック教会の信者,麻生太郎氏は幼児洗礼を受けている。また「沈黙」を書いた小説家遠藤周作も幼児洗礼を受けているから、両者は、「宗教2世」と呼んでもいいわけだ。だだ、日本のメディアが過去、麻生太郎元首相を「宗教2世」と呼んだとは聞かない。

 キリスト教の歴史ではアナバステスト運動といわれ、幼児洗礼を否定し、再洗礼派と呼ばれる宗教運動がある。16世紀に起きた宗教改革の文脈から生まれた同運動は、スイス、チロル、南ドイツに始まり、モラビアなど中欧全域に広まっていった。教会への入会のためには、洗礼を受ける人の意識的な信仰と意志の行為が必要であると理解していた。そのため、幼児洗礼を拒否した。ちなみに、バンス米副大統領は19歳の時、カトリック教会で洗礼を受けている。また、プロテスタント派のキリスト者の石破茂首相は18歳で洗礼を受けたと聞く。両者は「宗教2世」ではないわけだ。

 通常、人は自身の家庭、氏族が代々継承してきた信仰を自然に引き継ぐ。その意味で、多くの人々は「宗教2世」であり、3世、4世・・だ。旧統一教会の場合も「宗教2世」が生まれ、3代、4代と継承していく。極、自然なことであり、特異な現象ではない。ただ、日本の場合、事情は少し異なる。「宗教2世」という表現は旧統一教会に反社会的な団体というイメージを与えるために左派メディアが恣意的に頻繁に使用し、それが奇異な状況と思わせるために、元信者の「宗教2世」を動員して、イメージ操作しているわけだ。

ガザ地区に関する「共同声明」への反応

 28カ国の西側諸国は21日、パレスチナ占領地に関する共同声明を発表した。「共同声明」の署名国は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、キプロス、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、アイスランド、アイルランド、イタリア、ギリシャ、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、そして欧州連合(EU)平等・準備・危機管理担当委員が含まれる。

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▲ブリュッセルの外相会議に参加するオーストリアのベアテ・マインル=ライジンガー外相,2025年7月15日、オーストリア外務省公式サイトから

 共同声明は先ず、「署名国は、簡潔かつ緊急のメッセージとして、ガザにおける戦争は今すぐに終結しなければならないと訴える」と明記したうえで、「ガザ地区の民間人の苦しみは、かつてないほど深刻化している。イスラエル政府の援助提供モデルは危険であり、不安定化を助長し、ガザ地区の人々の人間としての尊厳を奪っている。水と食料という最も基本的なニーズを満たそうとする民間人(子どもを含む)への、非人道的な殺害を、私たちは非難する。800人以上のパレスチナ人が援助を求めて殺害されたことは、恐ろしいことだ。イスラエル政府が民間人への不可欠な人道支援を拒否していることは、到底容認できない。イスラエルは国際人道法に基づく義務を遵守しなければならない」と訴えている。

 そして2段目に、「2023年10月7日以来、ハマスによって残酷に拘束されている人質たちは、依然としてひどい苦しみを味わっている。私たちは彼らの拘束が続いていることを非難し、即時かつ無条件の解放を求める。停戦交渉による合意こそが、彼らを故郷に連れ戻し、家族の苦しみに終止符を打つ最大の希望となる」とイスラエル側の主張に配慮したうえで、「私たちはイスラエル政府に対し、援助の流れに対する制限を直ちに解除し、国連と人道支援NGOが人命救助活動を安全かつ効果的に行えるよう緊急に支援するよう求める」と述べている。

 「共同声明」発表の直接の契機は、、イスラエル軍が20日、支援物資を受け取るため集まった住民に発砲し、93人が死亡するという事態が生じたことだ。ガザでは、配給所付近で食糧を求める多くのパレスチナ人、少年や少女たちが殺害される例が多発している。国連によると、5月下旬以降800人近くが犠牲となったという。

 「共同声明」に署名した国リストをみると、ドイツが署名に参加していないことに気が付く。一方、ドイツと共にイスラエルへの無条件支持を表明してきたオーストリアは署名国となっているのだ。

 メルツ首相は22日、「わが国は欧州理事会で既に同様の立場を取っている」と政府の行動を擁護した。ただし、同首相は5月26日、ベルリンで開催されたドイツ公共放送「西部ドイツ放送」(WDR)主催の「ヨーロッパフォーラム」で、イスラエルのガザでの行動について、「ガザの民間人の苦しみはもはやハマスのテロとの戦いによって正当化されることはない」と強調し「イスラエル政府は最良の友人でさえも受け入れることができなくなるようなことをしてはならない」と、イスラエルのガザ戦闘を厳しく批判した。一方、メルツ首相の連立パートナー、社会民主党(SPD)のマティアス・ミールシュ院内総務は、メルツ首相の姿勢に不満を表明し、「 28カ国の共同声明の明確なシグナルは正しく、ドイツも本来、共有すべきだ」と述べている。メルツ連立政権でイスラエル政策で相違があることが分かる。

 ドイツとイスラエル両国は今年、外交関係を樹立して60周年を迎えた。ドイツでは過去、個々の政治家がイスラエルを批判することがあっても、政府レベル、首相が公の場でイスラエル政府を非難することはなかった。ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ドイツ・ナチス軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いという意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。
 メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。

 一方、ドイツと共にイスラエルに対して無条件支持を表明してきたオーストリアは今回、「共同声明」に署名している(オーストリアはアドルフ・ヒトラーの出身国であり、ナチス政権の戦争犯罪に加担してきた国だ)。

 ベアテ・マインル=ライジンガー外相は共同声明に署名したことで、「オーストリアの中東政策におけるパラダイムシフトではないか」という指摘に対し、「声明の内容は私が何ヶ月も言い続けてきたことだ。オーストリアはイスラエルを支持するが、同時に、ガザの人道状況に目をつぶっているわけではない。イスラエルには自衛の権利があるが、殺害は止めなければならない」と説明している。そして「共同声明はハマスを支援する結果となる」という批判に対しては、「不合理だ。ハマスはテロ組織だ」と一蹴した。

 ちなみに、マインル=ライジンガー外相はドイツのヨハン・ワーデフール外相とイスラエルのギデオン・ザール外相をウィーンに招き、「ウィーン三国会談」を発足させるなど、ウィーン、ベルリン、エルサレム間の協議の枠組みが確立されたばかりだ。

 なお、イスラエルの駐オーストリア大使、デイヴィッド・ロート氏は日刊紙「プレッセ」(23日)の中で、「このような微妙な時期にこの声明を発表しても、停戦に近づくことはない。むしろ、ハマスのテロリストたちを勇気づけ、強硬にさせるだけだ」と反論している。

レオ14世、中東外交に乗り出す

 ローマ教皇レオ14世は21日、ガザ紛争についてパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領と電話会談をした。バチカンニュースによると、会談では、ガザ地区とヨルダン川西岸地区における最新の情勢について意見の交換が行われた。レオ14世は、民間人の保護と国際人道法の遵守を改めて強く求めたという。

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▲アッバース大統領と電話会談するレオ14世、バチカンニュースから、2025年7月21日

 バチカンの広報によると、教皇は国際人道法の完全な遵守を訴え、無差別な武力行使とあらゆる形態の強制的な避難を非難した。そしてガザ地区が現在も不安定な人道状況が続いていることを踏まえ、「危機的状況にある地域への人道支援物資の流入を許可すべきだ」を訴えた。

 最後に、レオ14世は、2015年6月26日に調印され、2016年1月2日に発効した聖座(バチカン)とパレスチナ自治政府間の外交合意10周年を祝った。

 なお、レオ14世教皇は20日、カステル・ガンドルフォの夏の別荘前の広場に集まった数千人の人々を前に、ここでもガザ紛争に言及し、「戦争の蛮行」の即時終結を訴えている。

 ところで、レオ14世は18日、カステル・ガンドルフォの夏の別荘からイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行っている。会談のきっかけは、イスラエル軍がガザ地区の聖家族教会を攻撃し、3人が死亡、重傷者を含む負傷者が出たことだ。

 バチカンからの情報によると、レオ14世はネタニヤフ首相に停戦交渉を再開し、戦争の終結を実現するように呼びかけた。また、、ガザ地区の住民の人道的状況に対する懸念を表明した。同時に、全ての宗教施設を保護し、パレスチナとイスラエルの信者および全ての人々の安全を確保することの緊急性を訴えた。

 ガザのパレスチナ当局者によると、イスラエル軍が20日、支援物資を受け取るため集まった住民に発砲し、93人が死亡するという事態が生じた。ガザでは、配給所付近で食糧を求める多くのパレスチナ人、少年や少女たちが殺害される例が多発している。国連によると、5月下旬以降800人近くが犠牲となったと発表した。

 それを受け、28カ国の外相は21日、パレスチナ自治区ガザ情勢を巡るイスラエルの対応を非難する共同声明を発表した。

 イスラエル外務省は「停戦合意を破っているのはイスラム過激派テロ組織ハマスだ。ガザ紛争の責任はハマスにある」とこれまでの立場を繰り返し、イスラエル非難の共同声明に強く反発している。

 ただし、イスラエル軍が5月、パレスチナ自治区ジェニンの難民キャンプを視察していた日本などの外交団に「警告射撃」を行うなど、イスラエル軍の過剰な軍事活動に欧米諸国で批判の声が日増しに高まっている。これまでほぼ無条件でイスラエルを支持してきたドイツのメルツ首相も「イスラエル軍のガザでの軍事活動は容認できない」と批判している。

 イスラエルとパレスチナ間の中東紛争問題では、バチカンは部外者ではない。例えば、エルサレムはユダヤ教とイスラム教にとって「聖地」だが、キリスト教にとっても同じだ。すなわち、「エルサレムの地位」問題があるのだ。

 バチカン市国は、中東和平の具体的な和平案を公式には発表したことはないが、バチカンの立場は、イスラエルとパレスチナの二国家共存を支持し、両者が平和的に共存できるような解決策を模索、そしてエルサレムの地位や、入植地の問題など、複雑な問題を対話を通じて解決していくというスタンスだ。レオ14世のアッバース大統領とネタニヤフ首相との電話会談は、米国出身の新教皇の中東外交の始め、と受け取られている。

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