ドイツの首都ベルリンで27日から3日間、社会民主党(SPD)の党大会が開催された。SPDは今年2月23日に実施された連邦議会選挙で党歴史上最悪の得票率約16・4%に終わった。それだけに、党大会では党指導部の選出のほか、選挙結果の分析と党改革について話し合うことになっていた。

▲党大会でAfDの禁止要請で一致する社会民主党(右はクリングバイル党首)、SPD公式サイトから,2025年6月29日
党大会の初日、党の指導部の選出が行われた。現共同党首のクリングバイル財務相兼副首相は歴史上、2番目に悪い約65%の支持で再選された。もう一人の共同党首として立候補したベルベル・バス労働相は約95%の支持を得て選出されたのとは好対照な結果だった。
クリングバイル党首はその直後、「自分はSPD内の不満の引き金となる存在だったから、この結果には特に驚かない」と述べていたが、ショックは隠せられない。3人に1人の党代表が同党首に「ノー」を突き付けたからだ。
なぜクリングバイル党首への批判が厳しいかといえば、同党首が選挙後の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との連立交渉で自身は副首相、財務省という要職に就任する一方、他の共同党首エスケン共同党首は政権内の要職に就任することなく、選挙結果の責任を取る形で辞任したからだ。
エスケン党首が連立政権と党内の全ての要職から外された一方、クリングバイル党首はメルツ政権内で副首相、財務相の要職を手にしたのだ。多くの党員には自己中心の権力欲者と受け取られたわけだ。それが「自分は党内の不満の引き金となる存在だ」といったクリングバイル党首の自嘲発言となったのだ。
党大会の会場の演壇の壁には「刷新は我々と共に」というキャッチフレーズが掲げられていた。今回の党大会の最大の課題は、前回総選挙への分析と党の刷新だった。3日間の党大会では、SPDは今後2年間で新たな政策プログラムを策定することで合意したが、必要な改革を先延ばしにした、といった感はする。
ところで、党大会前にSPD議員の数名が発表した「マニフェスト」(6頁)が党内に動揺を引き起こしたことはこのコラム欄でも報告済みだ。署名者たちは前回選挙での歴史的敗北を指摘し、党の刷新を求める一方、連邦政府の現在の軍備増強政策からの離脱と「ロシアとの協力」を求めていた。メルツ首相の軍備力強化路線に対する批判だ。同時に、連立政権下でCDU/CSUの言いなりになっている社民党指導部への不満の表れともいえる
「マニフェスト」ではまた、「国防予算を国内総生産(GDP)の3.5%または5%という固定的な年次増額にとどめることには、安全保障政策上の正当性はない。軍備費を増大し続けるのではなく、貧困削減、気候変動対策、そして私たちが依存する天然資源の破壊防止への投資に、より多くの財源を緊急に投入する必要がある」と記述されている。
ちなみに、共同党首に選出されたバス労働相は「社民党は本来の労働者の利益を守る政党に戻るべきだ」と主張し、参加者から拍手を受けていた。クリングバイル党首は「社民党が再び国民政党になるために、時代の要請を受けて新しい政党として生まれ変わらなければならない」と訴えていた。
SPDはCDU/CSUと共に戦後のドイツの政界を主導してきた2大政党だが、社民党のプロフィールはここにきて曖昧となってきた。SPDは「労働者の政党」が看板だったが、国民の大多数は低所得層の労働者意識などはない。社民党は現在、労働者層に代わる支持基盤を見出すことができないで苦労している。外交問題や国防問題でもロシアのウクライナ侵攻で「平和、平和」と唱えていても問題の解決ができないことは明らかになった。
また、移民問題でもしかりだ。無制限に移民・難民を受けいれることはできない。どうしても強制送還や難民家族の受け入れ拒否も必要となってくる。それに対し、社民党は明確な移民・難民政策を提示できないでいる。
そして党大会最終日(29日)、SPDは野党第1党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD_)の政党禁止を全国的に申請することで一致した。
党の刷新が進まない中、敵を見つけ出し、党内の結束を固めるというやり方は、国民政党を自負する社民党の改革能力、政策施行能力の欠如を逆に明らかにしたともいえる。SPDと連立を組むCDU/CSUはAfDの禁止には反対の姿勢を取っている。
独民間ニュース専門局NTVは30日、「SPD党大会はAfDへの路線に関してのみ一致団結した」と指摘、「クリングバイル氏の選出により、人々の不満が爆発し、最終的には党大会全体が憂鬱なイベント、むしろプロ意識のない鶏の群れのように見えるようになった」と語るヴォルフガング・シュレーダー教授(カッセル大学政治学者)とのインタビュー記事を掲載していた。

▲党大会でAfDの禁止要請で一致する社会民主党(右はクリングバイル党首)、SPD公式サイトから,2025年6月29日
党大会の初日、党の指導部の選出が行われた。現共同党首のクリングバイル財務相兼副首相は歴史上、2番目に悪い約65%の支持で再選された。もう一人の共同党首として立候補したベルベル・バス労働相は約95%の支持を得て選出されたのとは好対照な結果だった。
クリングバイル党首はその直後、「自分はSPD内の不満の引き金となる存在だったから、この結果には特に驚かない」と述べていたが、ショックは隠せられない。3人に1人の党代表が同党首に「ノー」を突き付けたからだ。
なぜクリングバイル党首への批判が厳しいかといえば、同党首が選挙後の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との連立交渉で自身は副首相、財務省という要職に就任する一方、他の共同党首エスケン共同党首は政権内の要職に就任することなく、選挙結果の責任を取る形で辞任したからだ。
エスケン党首が連立政権と党内の全ての要職から外された一方、クリングバイル党首はメルツ政権内で副首相、財務相の要職を手にしたのだ。多くの党員には自己中心の権力欲者と受け取られたわけだ。それが「自分は党内の不満の引き金となる存在だ」といったクリングバイル党首の自嘲発言となったのだ。
党大会の会場の演壇の壁には「刷新は我々と共に」というキャッチフレーズが掲げられていた。今回の党大会の最大の課題は、前回総選挙への分析と党の刷新だった。3日間の党大会では、SPDは今後2年間で新たな政策プログラムを策定することで合意したが、必要な改革を先延ばしにした、といった感はする。
ところで、党大会前にSPD議員の数名が発表した「マニフェスト」(6頁)が党内に動揺を引き起こしたことはこのコラム欄でも報告済みだ。署名者たちは前回選挙での歴史的敗北を指摘し、党の刷新を求める一方、連邦政府の現在の軍備増強政策からの離脱と「ロシアとの協力」を求めていた。メルツ首相の軍備力強化路線に対する批判だ。同時に、連立政権下でCDU/CSUの言いなりになっている社民党指導部への不満の表れともいえる
「マニフェスト」ではまた、「国防予算を国内総生産(GDP)の3.5%または5%という固定的な年次増額にとどめることには、安全保障政策上の正当性はない。軍備費を増大し続けるのではなく、貧困削減、気候変動対策、そして私たちが依存する天然資源の破壊防止への投資に、より多くの財源を緊急に投入する必要がある」と記述されている。
ちなみに、共同党首に選出されたバス労働相は「社民党は本来の労働者の利益を守る政党に戻るべきだ」と主張し、参加者から拍手を受けていた。クリングバイル党首は「社民党が再び国民政党になるために、時代の要請を受けて新しい政党として生まれ変わらなければならない」と訴えていた。
SPDはCDU/CSUと共に戦後のドイツの政界を主導してきた2大政党だが、社民党のプロフィールはここにきて曖昧となってきた。SPDは「労働者の政党」が看板だったが、国民の大多数は低所得層の労働者意識などはない。社民党は現在、労働者層に代わる支持基盤を見出すことができないで苦労している。外交問題や国防問題でもロシアのウクライナ侵攻で「平和、平和」と唱えていても問題の解決ができないことは明らかになった。
また、移民問題でもしかりだ。無制限に移民・難民を受けいれることはできない。どうしても強制送還や難民家族の受け入れ拒否も必要となってくる。それに対し、社民党は明確な移民・難民政策を提示できないでいる。
そして党大会最終日(29日)、SPDは野党第1党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD_)の政党禁止を全国的に申請することで一致した。
党の刷新が進まない中、敵を見つけ出し、党内の結束を固めるというやり方は、国民政党を自負する社民党の改革能力、政策施行能力の欠如を逆に明らかにしたともいえる。SPDと連立を組むCDU/CSUはAfDの禁止には反対の姿勢を取っている。
独民間ニュース専門局NTVは30日、「SPD党大会はAfDへの路線に関してのみ一致団結した」と指摘、「クリングバイル氏の選出により、人々の不満が爆発し、最終的には党大会全体が憂鬱なイベント、むしろプロ意識のない鶏の群れのように見えるようになった」と語るヴォルフガング・シュレーダー教授(カッセル大学政治学者)とのインタビュー記事を掲載していた。