ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2024年12月

北朝鮮はサイバー犯罪大国に

 韓国のサイバーセキュリテイ問題の専門家ボラ・パク氏(Bora Park) はこのほどオーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応じ、制限されたインターネットアクセス、不安定な電力にもかかわらず、北朝鮮が「サイバー犯罪のプレイヤーへと成長してきている」と警告を発した。また、「プログラムによる成果だが、ロシアと北朝鮮の軍事分野での協力が深化する中、平壌のハッカー集団がヨーロッパを標的にし始めてきた」と述べた。

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▲「軍事同盟」を宣言したプーチン大統領と金正恩総書記(クレムリン公式サイトから、平壌で、2024年6月19日)

 以下、パク氏がORFとのインタビューの中で語った内容をまとめたORFのヴェブサイドの記事をほぼそのまま日本語訳した。

 北朝鮮には約7,000人がサイバー部門で活動していると推定され、軍事、政治、経済、科学の分野で技術や情報を吸い上げ、暗号資産取引所を荒らしているという。朴氏によると、北朝鮮の目的は2つある。制裁を回避し、政権を維持するために資金を獲得すること、そして他国の機密情報を収集することだという。

 米分析企業チェイナリシス(Chainalysis)が12月中旬に発表した報告書によると、今年だけで北朝鮮のハッカー集団は13億ドル(約1,250億円)を盗んだ。これは2024年に世界中で盗まれた総額の半分以上に相当する。また、国連の報告によれば、2017年から2023年の間に北朝鮮のハッカーは暗号資産企業に58回のサイバー攻撃を仕掛け、約29億ユーロの損害を与えている。こうして得られた資金は貧困にあえぐ一般市民には使われず、平壌のミサイルおよび核計画に利用され、米政府の推定ではこれらのプログラムの半分が盗まれた資金で賄われているというのだ。

 北朝鮮のサイバー作戦は、同国の軍事情報機関である「偵察総局」によって管理されている。この機関に所属するハッカー集団には「ラザルス」「アンドラニール」「キムスキー」といった名前がつけられている。その高度な攻撃能力は、北朝鮮国内の状況と著しい対照をなしている。要するに、エリート集団だ。

 北朝鮮は国際的に孤立しており、新型コロナウイルスのパンデミック中は国境線は完全に閉鎖された。また、電力不足に長年苦しんでおり、とりわけ冬季には深刻だ。同国では電力の大部分を水力発電に頼っている。人口約2,500万人のうち、わずか1%しかインターネットにアクセスできず、国内のイントラネットへのアクセスさえ厳しく規制されているという。 

 一方、北朝鮮政権はインターネットの戦略的価値を早くから認識していた。パク氏によれば、そのルーツは1986年に遡る。当時、北朝鮮はコンピューター科学専用の特別な大学を設立した。そこで学ぶ学生たちは、北朝鮮政府から特権を与えられる。数学に特別な才能を持つ子どもたちは幼少期に家族から引き離され、徹底的な教育を受けた後、軍のサイバー部隊に配属され、特定の任務に従事する。作戦は北朝鮮国内や中国、その他東南アジア諸国にある北朝鮮の拠点で行われる。

 攻撃は主にマルウェアを使って行われ、データの吸い上げは模倣したログインページを通じて行われることが多い。最近では、偽の身分を利用して北朝鮮国外の企業にIT専門家として潜入する手法も増えているという。

 攻撃の大半は韓国を標的にしている。特に、ソウルの統一部やその他の南北関連機関が狙われている。韓国の発表では、これらの機関に対するサイバー攻撃は2022年から2024年にかけて2,300件超に達した。近年に入り、西側諸国も標的にされるようになり、特に国連制裁が厳しくなった後はその傾向が強まっている。

 北朝鮮のサイバー犯罪は2014年、ハリウッドのソニー・ピクチャーズを標的に始まった。その理由は、独裁者金正恩への架空の暗殺を扱った風刺映画「ザ・インタビュー」公開への報復だ。2017年には「ラザルス」グループが「WannaCry」マルウェアによるサイバー攻撃を行い、政府機関や銀行、大企業を含む世界中のWindowsコンピューターが影響を受けた。2023年2月には、ドイツ連邦憲法擁護庁と韓国の国家情報院(INS)が、ヨーロッパの防衛産業に対する北朝鮮のサイバー攻撃について警告を発している。同年6月には、ドイツの防空システムメーカーであるディール・ディフェンスがスパイ攻撃を受けたと報じられた。また、北朝鮮のサイバーチームは、ウィーンにあるオープン・ニュークリア・ネットワーク研究グループのデータを狙ったとされている、といった具合いだ。

 北朝鮮とロシア両国は2024年6月、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を宣言したが、両国の軍事同盟は、ヨーロッパのサイバーセキュリティにも影響を及ぼす可能性がある、北朝鮮とロシアがサイバー分野での協力を強化し、共同で特定の攻撃を実行する可能性がある。パク氏は「北朝鮮とロシアのハッカー集団が過去に協力していた例がある」と述べている。例えば、北朝鮮のサイバーグループが韓国の企業を攻撃した際に得た情報をロシアのハッカーグループに提供し、その情報がウクライナや西側諸国の機関へのサイバー攻撃に使用されたという。

新年のモットーは「希望」を救えだ

 2024年もあと2日を残すばかりとなった。そこで最近聞いたり、読んだりして感動した2つの話を忘れないために書いておく。

 ドイツ高級紙「ツァイト」オンラインから定期的に記事が送られてくるが、今回は2025年に向けてポジティブな声が特集されている。それも「ツァイト」オンライン編集記者たちの生の声が紹介されている。その中で一人の女性記者の話が心に響いた。彼女は妊娠している。ジャーナリストの彼女は世界の情勢や人間の尊厳が傷つくような世相の中に生きていることを知っている。「このような世界に新しい命を迎えることができるだろうか」といった不安があるはずだが、「私は年の初め、暗くて寒い季節、春がまだ遠い時期が好きではありません。でも2025年は2月が楽しみです。私たちは第一子を期待しています」と書いている。

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▲火星から観た地球と月の画像
 NASA公式サイトから 

 もう一つの話を紹介する。ナチス・ドイツが台頭してきている時代に生きた2人のユダヤ人作家の話だ。希望を見いだせなかった時代だ。ヨーゼフ・ロートとシュテファン・ツヴァイクの2人の作家は友人で、頻繁に書簡を交換していた。ロート(1894年〜1939年)は東欧ウクライナ出身ののユダヤ人であり、家族はユダヤ教正統派だった。彼もユダヤ教を信じていたが、後半、カトリック教会にひかれていく。ジャーナリストとして活躍しながら小説を書く。そのような生活の中で次第にアルコール中毒となっていく。住む家もなく、ホテル住まいの生活の中で多くの著名な作品を書いていく。一方、ツヴァイク(1881年から1942年)は豊かなユダヤ人家庭の出身で、金には困らなかった。ベストセラー作家として人気を博していた。ロートから助けてほしいという手紙をもらうと、彼はお金を送って助けている。ロートが金が入るとすぐに酒を買い、他の貧しいユダヤ人に金をばらまくのを知っていたので、後半はホテル代を払うが、余分なお金がロートのもとに残らないようにしながらも支援している。

 文学評論家たちによると、ツヴァイクはロートの才能を高くかっていたという。「ロートならば、酒を飲まず本を書けば凄い小説が生まれる」と信じていたからだ。ロートは神を信じていたが、苦しい生活の中でアル中毒が原因で最後は亡命先のパリで40代半ばで亡くなる。一方、ツヴァイクは人間を信じていた。困った人間がいればいつも助けようとしたが、ナチスが台頭する頃には彼を裏切る友人も出てきた。ロートは神を信じ、アル中で死去、ツヴァイクは人間を信じ、最後は亡命先のブラジルで妻と共に、 自分で亡くなった。希望が見いだせないナチス・ドイツの台頭時代に生きた才能ある2人のユダヤ人作家の生涯は壮絶なものがあった。

 2024年は激動の年だった。ロシア軍のウクライナ侵略戦争は依然停戦の見通しはなく、目を中東に移すと、イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織「ハマス」との戦い、そして戦火はレバノンにも広がった。シリアでは50年以上独裁世間を続けてきたアサド父子政権は崩壊し、反体制派勢力による暫定政権が発足したばかりだ。シリアが来年。民主化の道を歩みだすか、それとも武装勢力間の内戦が再発するかは分からない。スーダンでも内戦状況が続いている。その一方、中国共産党政権は核戦力を強化し、台湾再統合を狙っている。北朝鮮の金正恩総書記はロシアとの軍事協定を締結し、軍事大国化の道を歩み出そうとしている。

 バチカンは24日、新たな「聖年」の幕開けを宣言した。「聖年(Holy Year)」とは、カトリック教会において特別な霊的恩恵を受けるための年を意味し、ローマ教皇によって宣言される。「聖年」は、罪の赦し(免償)を得たり、信仰を深めたりするために設定される特別な年で、カトリック教会の伝統だ。「聖年」の幕開けは、ローマ教皇が大聖堂にある「聖なる戸」(Holy Door)を開ける象徴的な儀式から始まる。これは、神への道が特別に開かれることを象徴的に見せているという。

 バチカンは2025年の「聖年」のテーマに「希望」を選んだ。私たちは「希望」に飢えているからだ。コロナ・パンデミックで世界で700万人以上が犠牲となった。戦争や紛争だけではない、世界至る所で貧富の格差は拡大する一方、情報は溢れ、心の安らぎを見出すことが容易ではない。私たちは今、持続的な「希望」を必要としている。閉塞感を乗り越え、明日に対する希望をどこに見つければいいのだろうか。

 ここまで書いてきて、「希望を探す」のではなく、「希望を失わないこと」ではないかと思わされた。このコラム欄でも数回紹介したが映画「希望を救え」のタイトルを思い出したのだ。病院で最高の外科医と言われていた主人公が交通事故でコマ状況(昏睡)に陥り、体から霊が抜け出し、霊人と対話できるようになったことからこの映画のドラマは始まる。霊人との交信を通じて、患者たちを救っていくストーリだ。テーマは「希望」を探すのではなく、既にある「希望」を失わないように、救済することだ。私たちの周囲には本来、希望が至る所に顔を出しているのではないか。

 2024年の一年間、お付き合いしてくださいまして有難うございました。新年が皆様に希望溢れる年となりますように。 

石破首相と「公邸の幽霊」の相性は?

 日本のメディアは27日、石破茂首相が間もなく公邸に引っ越しする予定だと報じた。引っ越しに際しての石破首相の説明がいい。「自分はオバケのQ太郎世代だから、(幽霊は)たいして怖くない」というのだ。「公邸」と「幽霊」の話は長い。首相時代に公邸に住んだ首相もいたが、さまざまな理由から公邸に引っ越しするのを避けた首相もいた。当方は11年前、「公邸の幽霊は人を選ぶ」というコラムを書いた。首相の立場からではなく、幽霊の視点から、幽霊も首相を選んで出現するという内容だ。

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▲自由民主党総裁選で当選が決まり、祝福の拍手を受ける石破氏 
 自民党公式サイト、2024年09月27日

 このコラム欄の読者の皆さんは既にご存じだと思うが、当方は過去、幽霊については結構、頻繁に書いてきた。幽霊は当方には欠かせられない現実の存在だからだ。幽霊の存在や彼らの考えを理解しないと、問題が解決できないことがあるからだ。それだけ、幽霊は地上で生きている人間にさまざまな影響を与えているのだ。

「幽霊」といえば、どうしても書かざるを得ない話がある。スウェーデンの国民作家と呼ばれるヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849〜1912年)は霊魂をキャッチするためにガラス瓶をもって墓場に行ったというのだ。また、スウェーデンのカール16世グスタフ国王の妻シルビア王妃は、首都ストックホルム郊外のローベン島にあるドロットニングホルム宮殿について「小さな友人たちがおりまして、幽霊です」と述べたことがある。ドロットニングホルム宮殿は17世紀に建設され、世界遺産にも登録済み。王妃は、「とても良い方々で、怖がる必要なんてありません」と強調している。国王の姉クリスティーナ王女は『古い家には幽霊話が付きもの。世紀を重ねて人間が詰め込まれ、死んでもエネルギーが残るのです』と説明しているほどだ。日本の皇室関係者が「幽霊」の話をしたとは聞かない。日本には幽霊がいないのではなく、幽霊が反社会的な存在として嫌われているからかもしれない。

 欧米の映画やTV番組では幽霊はまだ生きている人間と同じように取り扱われるケースが多い。その意味で、幽霊は欧米社会では市民権を有している。日本の場合、幽霊は単に好奇心や恐怖心の対象として取り扱われることがまだ多いのではないか。

 当方が好きな映画「希望を救え」では病院で最高の外科医と言われていたチャーリーが交通事故でコマ状況(昏睡)に陥り、体から霊が抜け出し、霊人と対話できるようになったことからこの映画のドラマは始まる。事故から回復し、再び勤務するチャーリーは手術中に意識を失った患者が霊人となって自分の前に現れ、話しかける体験をする。患者は自分の病歴などをチャーリーに話したり、家族問題を相談する。チャーリーは最初は驚いたが、霊の存在を次第に生きている人間のように感じ、コマ状況で霊が肉体から離れてしまった患者の人生相談に応じる。チャーリーが手術前から患者の病気の原因を知っていることに同僚の医師たちは驚く。チャーリーには患者が教えてくれたのだ。

 また、カナダのTV映画には霊人(幽霊)が出てくる番組が多い。カナダ騎馬警察官の活躍を描いた「Due South」や、劇団の世界を演出した「スリングス・アンド・アロウズ」もそうだ。それもホラーな怖い話ではなく、霊人が日常生活の中で自然に出てきて、生きている人間と会話を交わすストーリーが多い。   

 日本のメディアでは一時期、安倍晋三氏が首相時代、なぜ公邸に住まず、私邸から首相官邸に通っているのかで話題を呼んだことがあった。その際、公邸には幽霊が住んでいるからではないか、といわれたほどだ。それなりの理由が報じられた。産経新聞によると、「公邸は昭和11年、旧陸軍の青年将校が起こしたクーデター『2・26事件』の舞台となっており、犠牲者の幽霊が出るとの噂話がある」という。

 安倍さんの後継者の菅義偉元首相は議員宿舎に寝泊まりしていたという。岸田文雄前首相は公邸に住んでいたが、幽霊騒動は聞かない。要するに、公邸の幽霊は誰でもいいというわけではないのだ。相性の合わない首相の前には出現しない。出てきてもそれが幽霊だと分らない首相の前には出てきたくないのではないか。

 幽霊の特性を知らなければならない。幽霊が出る場合、幽霊とその人物の間には何らかの関係があるはずだ。自分の性格を理解できないような人物の前に幽霊は出て来ない、というより出てこれない。幽霊が傍にきてもそのような人物は分からないからだ。幽霊は何らかのメッセージを地上の人物に託したいと願っている場合がある。地上で出来なかったことがあったら、地上の人物を通じて成し遂げたいと願うこともある。公邸の幽霊の場合も同じだろう。

 当方は石破首相の生い立ちや性格、政治家としてのキャリアを知らないから、石破さんと「公邸の幽霊」の相性は分からない。石破さん自身は「オバケのQ太郎の世代」だから、「幽霊は怖くない」と言われている。幽霊を漫画やTVの主人公のようなキャラクターと誤解されているのかもしれない。いずれにしても、石破さんが公邸に引っ越しされ、「昨夜、幽霊を見たよ」と記者団に語ることも決して排除できない。

 米テレビ番組「Dr・House(ドクター・ハウス)」でハウスが「人が神に話しかければ、『あの人は信心深い人』」といわれるが、神が彼に話しかけたといえば、『彼は狂人だ』と冷笑される」と語っていた。石破さんが「昨夜、幽霊を見たよ」といえば、「首相は度胸がある」と言われるかもしれないが、「幽霊が自分に話しかけてきたよ」と言って、その内容を語り出したら、記者団は「首相が可笑しくなった」といった記事を速報するかもしれない。

シリア暫定政権の2つの大きな課題

 シリア国民の大多数はイスラム教スンニ派だが、それ以外にもイスラム教少数宗派やキリスト教など多数の宗教が存在する。シリアは半世紀以上、アサド父子による独裁政治が行われてきたが、アサド政権はイスラム教だが、その中でも少数宗派のアラウィ派が統治してきた。そのアサド政権は8日、崩壊し、アサド大統領は家族と共にモスクワに逃亡したことで、アサド政権は幕を閉じたが、アサド政権下の一部の残滓勢力がバシル暫定政権に反逆に出る動きを見せている。

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▲アル・アサド政権崩壊後初の攻撃 |神風無人機がアル・ハサカ田舎のハラブ・アル・ジェイルの米軍基地を攻撃 2024年12月25日、シリア人権監視団(SOHR)公式サイトから


外電によると、シリア北西部タルトゥス県の村で25日、アサド政権下の関係者やアラウィ派の住民たちが暫定政権の治安部隊と衝突し、双方で多数の死傷者がでた。中部ホムスでもアラウィ派による抗議デモが起きている。それに先立ち、シリア西部ハマー県の都市で23日、クリスマスツリーが焼かれる事件が発生した。目撃者によると、ダマスカスや他の都市で数百人がこの行為に抗議するデモを行っている。シリア人権監視団によると、デモ参加者はシリアの国家統一を訴え、シリアの少数宗派キリスト教徒の保護を求めている。

 ちなみに、旧反体制派イスラム主義勢力「シャーム解放機構」(HTS)の指導者ジャウラニ氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきたが、バシル暫定政権は大きな試練に直面している。

 そこでシリア情勢を理解するために同国の宗教事情をまとめてみた。
 先述したように、シリアの大多数はスンニ派のイスラム教徒だ。世界のイスラム教徒の約85%はスンニ派に属する。スン二派は、カリフ(指導者)は共同体の合意と選挙によって選ばれるべきだと主張する一方、シーア派は、後継者は預言者ムハンマドの家族、特に義理の息子アリーによって継承されるべきだと考えている。

 一方、アサド政権を治めてきたアラウィ派はイスラム教シーア派の流れをくむ小数宗派だ。主にシリアに居住している。この宗派の信仰は、イスラム教、キリスト教、古代宗教の要素を組み合わせたもので、9世紀にその起源を持つ。アラウィー派の教義や宗教儀式は、特定の男性信徒のみがアクセス可能であり、女性は儀式に参加できない。宗教的祝祭には、ペルシャの新年(ノウルーズ)、イスラム教のラマダン明けの祭り(イード・アル=フィトル)、キリスト教の祝祭などが含まれる。アラウィー派は1966年以降、シリアで政治的な影響力を持つようになった。この宗派の一部はシーア派イスラム教に接近している。なお、シリア内戦でイランが介入して、アサド政権を軍事支援したのは、イランがシーア派の盟主という繋がりがあるからだ。

 次にドルーズ派だ。ドルーズ派の宗教は、11世紀初頭にシーア派のイスマイール派から派生した。ドルーズ派はシーア派と同様に、イマームが再臨し、地上に神の王国を築くと信じているが、スンニ派やシーア派とは異なり、輪廻転生を信じている。そのため、過激派イスラム主義者は、ドルーズ派の信仰を異端視している。世界中のドルーズ派信徒は約100万人とされ、その多くがシリア、イスラエル、ヨルダン、レバノン、そしてイスラエルが占領するゴラン高原に居住している。

 シリアにはまた、ヤズィーディー派が存在する。ヤズィーディー派の信仰は、推定で約4000年の歴史を持つ一神教で、古代オリエントの宗教要素を取り入れている。この宗派には聖典がなく、信仰は口伝で受け継がれている。宗教的象徴の中心には、地上の神の代理者としての「クジャク天使」(メレク・タウス)の存在がある。その物語が堕天使のものと似ているため、ヤズィーディー派は誤って「悪魔崇拝者」と呼ばれることがある。ヤズィーディー派の信徒は主にイラク北部に住んでいるが、イラン、トルコ、シリアにもいる。ヤズィーディー派は、イスラム教の同胞からしばしば差別を受けている。特に2014年、過激派組織「イスラム国(IS)」がイラク北部を占拠した際、多くのヤズィーディー派信徒が迫害を受けた。

 最後に、キリスト教徒だ。シリアのキリスト教徒は内戦前には最大150万人だったが、現在では30万人以下とも推定されている。シリア全土には約400のキリスト教会がある。キリスト教徒の内訳は、ギリシャ正教会(47%)、アルメニア使徒教会(15%)、メルキト派ギリシャ・カトリック教会(15%)、シリア正教会(14%)が主要宗派だ。他にも、シリア・カトリック教会、アルメニア・カトリック教会、マロン派、アッシリア東方教会、カルデア東方カトリック教会、少数のローマ・カトリック教徒やプロテスタント信徒が存在する。

(以上、シリアの宗教事情について、ChatGPTの手助けを受けた)

 バシル暫定政権は現在、�ゝ貳紳寮�派勢力の非武装化、�⊇’百屬里い�み合い、対立を克服して「統合シリア」の建設、という2つの大きな課題に向かって挑戦しているわけだ。

タリバン政権下で女性教育に献身

 激動の2024年もあと5日を残すのみとなった。アフガニスタンのサケナ・ヤコービ博士から2024年の年次報告書が届いたので、このコラム欄で紹介する。同博士は非政府機関「アフガニスタン学習研究所」(AIL)を運営し、女性たちに学習の機会を提供してきた責任者だ。

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▲AILの創設者サケナ・ヤコービ博士

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▲学習するアフガニスタンの女性たち(「Afghan Institut of Leraning」(AIL)の公式サイトから)

 ヤコービ博士は「世界は混乱の淵にあるように思えます。次々と危機が起こり、悲しいニュースが見出しを占めています。このような激動の中で、アフガニスタンはしばしば忘れられているように感じられます。しかし、私はここでお伝えしたいのです。世界が目を他に向けている間も、アフガンの人々―特に女性や子どもたち―は依然としてたくましく、決意を持ち、より明るい未来への希望を抱いています」と述べている。

 そして「AILでは、私たちの使命を揺るがすことなく続けています。私たちは進歩を大切にし、ポジティブな側面に集中することを選びました。巨大な課題にもかかわらず、新しい国の指導体制のもとで、私たちは革新的な方法を見出し、活動を続けています。健康と教育のプログラムはこれまで以上に重要であり、アフガンの女性と子どもたちの生活を改善するという私たちのコミットメントは揺るぎません」と強い決意を表明する一方、「それでもなお、心が張り裂けそうになる瞬間があります。近年、児童婚と児童労働が急増しています。若い少女たちが結婚させられ、子どもたちが想像を絶する環境で働かされています。家族が生き延びるために追い詰められているからです」と説明する。

 博士は「アフガンの経済は崩壊し、国民の半数以上が飢えに苦しんでいます。家族は路上で生活し、寒さ厳しい冬を避けることもできず、食べ物も希望もない状況です。このため、過去4年間、AILは教育と並行して人道支援活動を拡大しました。私たちは最も緊急なニーズに応えるため、重要な支援を提供しています。学習センターではスキルのワークショップを続けていますが、それだけでなく、一歩進んで、若い女性たちが自宅で小さなビジネスを始められるように支援しています。これにより、家族を支え、経済的な安定感を得る機会を提供しています」という。国連によると、約400万人が急性栄養失調であり、その中には5歳未満の子供約320万人が含まれる。約2800万人、人口の約3分の2に当たる人々が人道的支援を必要としているという。

 博士はAILのほか、「母と子の病院」を運営している。この病院は90%が女性スタッフで運営されており、24時間体制で無料で患者を治療している。多数の患者が毎日、治療を受けるために訪れている。同博士によると、AILが経営するMeraj TVは、当初7年生から12年生向けの授業を放送していたが、現在では大学レベルのクラスや読み書きの講座に加え、科学、ビジネス、リーダーシップのクラスも提供している。さらに、幼児向けプログラム、哲学の講義、ドキュメンタリーも配信している。人々は学ぶことに意欲的で、成長を望み、平和と繁栄が実現する未来を築こうとしている。特に若い世代は、エネルギーに満ち、国の運命を変えるという決意に溢れているという。

 そして「しかし、この活動は皆様なしでは実現できません。皆様の支援が私たちの努力を支え、何百万人もの人々に希望を与えています。私たちは一緒に次世代のリーダーを育成し、命を救う援助を提供し、逆境の中でも教育を継続できるよう努めています。皆様の援助は、アフガニスタンの明るく安定した未来への一歩となるのです」と指摘し、支援を要請している。

 最後に、「新年を迎えるにあたり、アフガンの人々を思い、祈りに加えていただければ幸いです。そして、可能であれば、AILへの援助をご検討ください。皆様の寛大さが、生活や国の再建に取り組む人々への命綱となります。心からの感謝と温かい祝福を込めて」と書いて締めくくっている。

 アフガンは2021年8月15日、イスラム原理主義組織「タリバン」がアフガン全土を再び占領し、駐アフガンの米軍撤退で同国の情勢は激変した。タリバン勢力のカブール入りが伝わると、同国に駐在していた外国人要人や家族の国外退去の際に大混乱となったのはまだ記憶に新しい。あれから3年以上が経過、タリバン政権は国際社会から依然孤立し、国内のNGOの活動も容易ではない。タリバン政権は現在、34州からなるアフガン全土を統治している。

 なお、タリバン政府は25日、アフガン東部でパキスタンの空爆によって50人近くが死亡したとしている。タリバンによると、攻撃を受けた地域は、パキスタンとの国境に近い東部パクティカ州バルマル地区の4か所。死亡した少なくとも46人の大半は女性と子供だった。タリバン国防省は今回の攻撃を「野蛮」かつ「明らかな侵略」と非難し、報復攻撃を発表している。一方、パキスタンの治安関係者らは、攻撃は国境を越えた「テロリストの隠れ家」を狙ったと述べている。

シリア旧反体制勢力の「非武装化」の行方

 シリアで半世紀以上続いたアサド父子による独裁政権が8日崩壊、旧反体制派勢力によるバシル暫定政権が発足すると、シリアの新政権は、国際社会への復帰に向けて積極的に取り組んできている。シリアの新たな支配者、イスラム主義勢力「シャーム解放機構」(HTS)は24日、「全ての武装勢力の解散と正規軍への統合に関する合意に至った」と発表した。国営シリア通信社らが報じた。グループ指導者会合にはHTSの指導者モハンマド・アル=シャラア氏(通称ジャウラニ氏)らが出席したが、クルド系勢力の参加は不明だ。暫定政権の新たな国防相にはアサド政権軍と戦ってきた中心人物ムルハフ・アブ・カスラ氏が就任したという。

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▲シリアの首都ダマスカス市の風景(シリア政府サイトから)

 それに先立ち、ジャウラニ氏は22日、トルコのハカン・フィダン外相と会見し、その直後の記者会見で、「国家が管理しない武器が存在することは許されない」と表明し、反体制派武装勢力の非武装化の重要性を強調した。その際 シリア民主軍(SDF)が支配する北東部地域にも非武装化は適応されるという。

 ちなみに、SDF(Syrian Democratic Forces)はクルド人勢力が主導する多民族混成部隊で、米国の支援を受けて活動している。シリア内戦における主要な対IS(イスラム国)勢力だった。主体はクルド人民防衛隊(YPG)であり、女性部隊(YPJ)も含まれている。アラブ人部隊やその他の少数民族(アッシリア人、トルクメン人など)も参加。推定約5〜6万人の戦闘員を抱えている。目的はクルド人の自治権確立を目指す一方、シリア全体の安定化を掲げている。拠点はシリア北東部(ラッカ、ハサカ、デリゾール)を中心に広範囲を支配している。

 旧反体制武装勢力として、HTS、SDFのほか、「シリア国民軍」(SNA)が存在する。トルコが支援する反政府勢力の統一組織だ。「自由シリア軍(FSA)」と呼ばれていたが、2019年に再編され、「シリア国民軍」として組織化された。主にスンニ派アラブ人を中心としたシリア人傭兵だ。トルコの軍事支援を受けており、目的はアサド政権の打倒と共に、トルコ政府の政策に基づき、クルド勢力(特にSDFの主要構成勢力であるYPG)との戦闘だ。活動地域はシリア北部(トルコ国境沿い)だ。

 いずれにしても、3勢力はアサド政権打倒で一致してきたが、それ以外では対立してきた。利害も目的も異なる反体制武装勢力の非武装化は難題だ。暫定政権に主導的な役割を果たしているHTSは米国と欧州連合(EU)、トルコからテロ組織に指定されている。

 例えば、アサド政権崩壊後もクルド系武装勢力とトルコ軍の武力衝突が報じられている。SDF内では、クルド人主体のYPG部隊が主導権を握っており、トルコ軍とその同盟勢力と対峙し、戦闘を繰り返している。トルコ軍とその支持勢力は、北シリアの他の一部地域を占拠している。トルコのフィダン外相は22日、「シリアにYPGの居場所はない」と述べているほどだ。それに対し、米国は、イスラム国(IS)との戦いにおいてYPG部隊と同盟を締結している。ちなみに、トルコ、イラク、シリアに分散する多くのクルド人は、長年にわたり自治や独立国家の設立を目指してきた。外電によると、SDFはトルコが支援するSNAに反攻を行い、トルコ国境沿いの北シリアの地域を奪還しようとしている。一方、SNAは、シリアのマンビジ市を占領している、といった具合いだ。

 なお、シリア西部ハマー県の都市でクリスマスツリーが焼かれる事件が発生し、波紋を呼んでいる。目撃者によると、23日の夜、ダマスカスや他の都市で数百人がこの行為に抗議するデモを行っている。シリア人権監視団によると、デモ参加者はシリアの国家統一を訴え、シリアの少数宗派キリスト教徒の保護を求めている。ジャウラニ氏はアサド失脚後、分裂した国の再統合を呼び掛け、「全ての民族、宗派は等しく公平に扱われるべきだ」と表明してきた。

 シリアの暫定政権にとって懸念事項は、アサド政権を支援してきたロシアとイランの出方だろう。シリアからの報道によると、シリアの新外相アサード・ハッサン・アル=シバーニ氏は24日、イランに対しシリアの内政に干渉しないように警告している。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は22日に行った演説の中で、シリアの若者にむけて、「この不安定さを引き起こし、仕組んだ者たちに断固として立ち向かえ」と呼びかけている。シリアの内戦勃発以来(2011年)、イランはアサド政権を軍事支援し、イラン革命防衛隊をシリアに派遣してきた。 

 アサド政権と闘ってきた旧反体制派勢力にとって、非武装化は大きな賭けだ。一方、バシル暫定政権にとって、今後の政治生命を左右する挑戦となる。 

祭司ザカリヤは洗礼ヨハネとイエスの父親

 イエスの誕生日として世界のキリスト信者たちがお祝いするクリスマスが到来した。実際、イエスがその日に誕生したのかは別問題として、救い主イエスの生誕には多くの不明なことがある。母親マリアは聖霊によって子イエスを身籠ったと聖書では記述されているが、当然のことだが、神の子とはいえ生命の誕生には父親と母親がいなければならない。その父親が祭司長ザカリヤだった。ザカリヤには妻エリサベツの間に息子洗礼ヨハネがいた。すなわち、ザカリヤはイエスと洗礼ヨハネの父親だったのだ。不思議なことに、メシアとその先駆者洗礼ヨハネの父親ザカリヤについて、新約聖書はほとんど何も言及していない。多分、聖書の書き手はザカリヤについては知っていたが、言及できない事情があったと推測せざるを得ない。

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▲バチカンのサン・ピエトロ広場のクリスマスツリー(バチカンニュースから)

 ザカリヤは新約聖書では洗礼者(バプテスマのヨハネ)の父として知られている。彼はユダヤ教の祭司であり、アビヤの組に属していた(ルカ1:5)。洗礼ヨハネの誕生に関しては、ひとつのエピソードが新約聖書「ルカによる福音書」の中に記述されている。ザカリヤとエリサベツの間にはまだ子供がないかった。既に高齢のエリサベツからもはや子供は期待できないと考えていた。

 ザカリヤは妻エリサベツとともに、義なる人物だった。エリサベツは「アロンの家系」(ルカ1:5)に属し、敬虔で正しい女性だった。ザカリヤが神殿で香を焚いている最中、天使ガブリエルが現れ、エリサベツが息子を産むと告げた(ルカ1:11−13)。その子は「ヨハネ」と名付けられ、神の特別な計画の中で大きな役割を果たすというのだ(ルカ1:14−17)。ザカリヤはこれを信じられず、疑念を抱いたため、天使によって口がきけなくなる。その後、ヨハネが誕生し、命名の際に「ヨハネ」と書いたことで口が再び開かれ、神を賛美したというのだ(ルカ1:57−64)。

 聖書の書き手は、洗礼ヨハネの誕生時の奇跡を記述することで、洗礼ヨハネが来るべき救い主の前にたってメシアの証人としての使命があったことを予示したわけだ。エリサベツが洗礼ヨハネを身籠っていた時、ザカリヤ家にマリアが訪問してくる。「ルカによる福音書」によれば、エリサベツは聖母マリアの「親戚」と記されている(ルカ1:36)。そのため、ザカリヤ家はマリアと血縁的なつながりがあると考えられている。ただし、具体的にどの程度の親戚関係かは明示されていない。伝統的な解釈では、エリサベツとマリアは「遠縁の親戚」と見なされる。ユダヤの家系では、親族の範囲は広く捉えられることがあるため、詳細な血縁関係は分からない。

 エリサベツの妊娠中、ザカリヤとマリアの間でイエスを宿したのだ。聖書の書き手はその後、「マリアは3カ月間、エリサベツのもとにいた後、戻っていった」と書いているだけだ。ザカリヤについてもその後、一切の言及がない。そして聖書の書き手は「マリアは聖霊によって子を宿した」と述べ、救い主イエスが処女マリアによって誕生したというナラティブを生み出していったわけだ。

 英国の著作家マーク・ギブス氏は著書「聖家族の秘密」(Secrets of the Holy Family)の中で、「イエスの父親は誰か」を解明している。ギブス氏は「キリスト教会でいわれてきた聖母マリアの処女懐胎は後日、イエスの神性を強調するために作成されたもので、実際は祭司長ザカリアとマリアとの間に生まれた子供であった」と主張。新約聖書「ルカによる福音書」を中心にイエスがどこで、どのようにして生まれたかを冷静な筆運びで記述している。

 イエスの誕生の経緯は当時、多くのユダヤ人たちが知っていたという。そのため、イエスは苦労し、一部の経典によれば、父親ザカリアは殺される羽目に追い込まれたという。著者は「ザカリヤ家庭の失敗がイエスに十字架の道を強いる結果となった」という。換言すれば、イエスは十字架で処刑されるためにきたのではなく、この地上に神の世界を構築するためにきたこと、イエスの十字架は神の予定ではなかったこと、等が明らかになってくる(「イエスの父親はザカリヤだった」2011年2月13日参考)。

 現代人ならば、イエスが聖霊によって誕生したという話より、ザカリヤとの間の子供だったというナラティブのほうがより理解できるだろうが、イエスが誕生した時代、イエスがザカリヤとマリアの間の子供だったということが分かれば、マリアばかりか、祭司長ザカリヤもユダヤ社会から迫害を受けることは必至だ。聖書の書き手はそれゆえに、「マリアは聖霊によってイエスを宿した」というナラティブを考え出したわけだ。

 誤解を避けるために説明するが、イエスがマリアとザカリヤとの間の子供だったということは、イエスのメシアとしての使命や価値を引き下げるものではない。「マタイによる福音書」にイエスの家系図が記述されているが、その中に妾の女性の名前が登場しているのだ。聖書学者たちはその事実をどのように受け止めているのだろうか。

 イエスの誕生を祝う日にこのような話は好ましくはないが、イエスの33歳の生涯には多くの謎があるのだ。なぜ洗礼ヨハネは最初はイエスを神の子として証をしながら、最後には「『きたるべきかた』はあなたなのですか、それとも・・」(「マタイ11:3」と問わざるを得なくなったのか。イエスと洗礼ヨハネの父親ザカリヤは「その後」、どのような生き方をしたのだろうか。イエスを人類の救済者といいながら、私たちはイエスのことをほとんど何も知らないのではないか。

ローマ教皇、「聖年」の幕開けを宣言

 ローマ・カトリック教徒でない人にとって関係がないことかもしれないが、バチカンは24日、新たな「聖年」の幕開けを宣言する。「聖年(Holy Year)」とは、カトリック教会において特別な霊的恩恵を受けるための年を意味し、ローマ教皇によって宣言される。「聖年」は、罪の赦し(免償)を得たり、信仰を深めたりするために設定される特別な年で、カトリック教会の伝統ともいえる。多くの信者がバチカンや他の指定された聖地を訪れ、赦しを求めるために懺悔をし、祈りや慈善活動を通じて、信仰を再確認する機会という。

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▲ウィーンのカールス広場のクリスマス市場(2024年12月19日、撮影)

 ローマ・カトリック教会で最初の「聖年」(1300年)はローマ教皇ボニファティウス8世によって宣言された。当時、多くの信者がローマに巡礼した。それ以降、通常聖年(Ordinary Jubilee)は25年または50年ごとに祝われ、特別聖年(Extraordinary Jubilee)は教会の状況や必要性に応じて、通常の周期とは別に宣言される。例えば、2015年から2016年にかけてはフランシスコ教皇が「慈しみの聖年」を特別に宣言している。なお、2025年の「聖年」は通常の周期に基づくもので、「希望」というテーマが選ばれている。

 「聖年」の幕開けは、ローマ教皇が大聖堂にある「聖なる戸」(Holy Door)を開ける象徴的な儀式から始まる。これは、神への道が特別に開かれる象徴とされている。世界中から多くの巡礼者がローマを訪れ、教皇主催のミサや、平和、希望、連帯に焦点を当てたイベントなどに参加する。「聖年」はカトリック教会の信者にとって、信仰を再確認し、心の刷新を行う絶好の機会といわれている。また、巡礼や慈善活動を通じて世界的な連帯を感じるイベントともいえるわけだ。

 バチカンからの情報によると、24日午後7時、フランシスコ教皇は聖ペトロ大聖堂で厳粛な儀式を通じて「聖なる扉」を開き、2025年の聖年が公式に開始する。この後、教皇は聖ペトロ大聖堂で伝統的な「クリスマスのミサ」を執り行う。クリスマスの大祝日の25日正午、フランシスコ教皇は聖ペトロ大聖堂の中央バルコニーから「ウルビ・エト・オルビ(ローマと全世界への祝福)」を宣布することになっている。

 バチカンは2025年の「聖年」のテーマに「希望」を選んだ。確かに、私たちは「希望」に飢えている。コロナ・パンデミックで世界で700万人以上が犠牲となった。その直後、ロシアのウクライナ戦争が始まり、戦火は中東に飛び、イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム過激派組織「ハマス」との間で戦闘が始まり、レバノンに拡散し、中東全域を紛争に巻き込んでいる。紛争や戦争だけではない。世界至る所で貧富の格差は拡大する一方、情報は溢れ、心の安らぎを見出すことが容易ではなくなってきた。連帯、共存より、競争と奪い合いが繰り広げられ、相手を批判することが傾聴することより評価される。

 私たちは今、持続的な「希望」を必要としている。閉塞感を乗り越え、明日に対する希望をどこに見つければいいのだろうか。激動の2024年はまもなく過ぎていく。25年の「聖年」の「聖なる戸」を開ければ、全く新しい世界が生まれてくる、ということはないだろう。だとしても、人間は、息を吸い、食事を摂取しないと生きていけないように、持続的な「希望」を必要としている。カトリック教会が25年周期で「聖年」を宣言し、過去を悔い改めて神への信仰に立ち返る儀式を挙行することは教会の知恵というより、人間が定期的に出発点に戻り、 再スタートすることが必要であることを裏付けている。

 ちなみに、ドイツの哲学者ニーチェは「神は死んだ」と宣言し、私たち人類を「神殺害の犯罪者」と言い切った。神を殺したことで人類が持続的な「希望」を失ってしまったとすれば、何はさておき「神」と和解し、「希望」を取り戻すべきだろう。

「マクデブルクの惨劇」の犯罪メカニズム

 ドイツ東部のザクセン=アンハルト州の州都マクデブルク市(人口約24万人)で20日夜(現地時間)、市の中心部で開かれていたクリスマス市場に一台の車が突っ込み、多くの訪問客がひかれ、少なくとも5人(一人の子供を含む)が死去、200人以上が負傷した。21日夜、クリスマス市場から近い教会で追悼ミサが挙行された。ミサにはシュタインマイヤー大統領、ショルツ首相、同州首相らも参加した。教会には入れなかった市民のために、教会前に大ビデオスクリーンが設置された。

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▲マクデブルクの惨劇を追悼する人々(2024年12月21日、オーストリア国営放送オンラインのスクリーンショットから)

 20日夜はクリスマスをまじかに控えた週末、多くの市民たちが家族連れで市場を訪問していた。そこにBMWに乗ったタレブ・Aは市場内を猛スピードで暴走した。市場はパニック状況となった。Aは車を400メートル走行させた後、警察官に現場で取り押さえられた。警察当局によると、犯行は単独と見られている。車の中に銃器や爆発物は見つからなかった。

 以下、暴走犯人の犯行動機をこれまで判明した情報をもとに再構築してみた。男はタレブ・A、サウジアラビア出身の50歳の医者(精神科/心理療法の専門医)で、2006年からドイツに居住している。独週刊誌「シュピーゲル」の情報によると、Aは2006年3月に研修のためドイツに来て、同年7月に難民として認定されている。男は長年活動家として、主にサウジの女性たちに国外脱出方法をアドバイスしたり、ドイツの亡命制度に関する情報を掲載したウェブサイトを運営していた。男はプラットフォームX上で自分がイスラム教の反対者であり、ドイツの極右「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持者であることを明らかにしている。

 男は自身をイスラム教の厳格な批判者だと自称している。サウジ当局の人権問題、特に女性への弾圧を告発し、ドイツ当局に「サウジ当局に厳格に対応すべきだ」と何度も要請している活動家だ。興味深い点は、男は今回の行動を「イスラム教に融和的なドイツへの制裁だ」と述べていることだ。男がサウジを含むイスラム教国に激しい憎悪を持っているのならば、クリスマス市場で車を暴走して家族連れの人々をひき殺すのではなく、イスラム寺院とか関連の宗教施設を襲撃すれば、論理が通っていたが、男はイスラム教に融和的な対応するドイツへの刑罰としてクリスマス市場を襲撃したのだ。反イスラム教とクリスマス市場の惨劇との間に繋がりが不明なのだ。
  
 英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は21日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューに応じ、マクデブルクの暴走殺害事件について、「男はイスラム憎悪を表明している人間だ。そしてドイツがイスラム教に対して融和的であることを懸念している。男はドイツがイスラム化することを恐れているというのだ。この人物評からは通常のイスラム過激派のテロ事件とは明らかに異なる。男の犯行動機が更に判明しないと事件の性格を解明できない」と述べている。

 事件発生後2日が経過したが、ドイツのメディアは事件を「マクデブルクのテロ事件」とは呼んでいない。単なる「精神異常者の犯行」か、何らかの政治的意図を含んだ「襲撃事件」かもしれない、といった状況で揺れている。ちなみに、ドイツ大衆紙ビルドはニュース源を匿名にして、「男は麻薬などの薬を摂取していた」と報じている(Aは精神科医だから、麻薬類へのアクセスがある)。

 ちなみに、マクデブルクの暴走殺害事件と安倍晋三元首相暗殺事件の間に酷似点があることに気が付く。Aは50歳でサウジ出身の政治難民で医者、犯行道具は車、一方、山上徹也は犯行時41歳。犯行道具は手製の銃といった違いはあるが、確かに犯行構図が似ているのだ。

 山上容疑者は母親の高額献金が契機となって「旧統一教会」(世界平和統一家庭連合)を嫌悪し、その教会に「融和的な安倍氏」を暗殺する。旧統一教会(関係者)ではなく、外部の人間をターゲットにしているのだ。マクデブルクの男は「イスラム教」を嫌悪し、それに対してイスラム教関連人物や施設ではなく、「融和的なドイツ」に対して事件を起こしているのだ。その結果、安倍氏暗殺事件は旧統一教会へのバッシングへと向かう。一方、マクデブルクの場合、ドイツ国民に「イスラム怖し」といった思いを与えることに成功しているのだ。「医者となってドイツ社会に統合した難民ですらあのような犯罪を犯すのだ」といった失望感だ。いずれにしても、両者とも第一ターゲットを襲撃せず、外部の人間を攻撃することで、最終的には最初の目的を達成しているのだ。

 捜査が進み、Aの犯行動機がより判明し、山上容疑者の公判が始まり、事件の全容が一層明らかになることを期待したい。はっきりとしている点は、両事件が従来の犯罪構図(第一のターゲットを襲撃する)ではなく、インターネットの情報時代に生まれてきた新しいタイプの犯罪メカニズム(AはBを憎んでいる。CはBと仲がいい。AはCを殺すことで、Bを窮地に追い込む)を有していることだ。

クリスマス市場に車が突入、多数の死傷者

 ドイツ東部のザクセン=アンハルト州の州都マクデブルク市(人口約24万人)で20日夜(現地時間)、市の中心部で開かれているクリスマス市場に一台の車が突っ込み、多くの訪問客がひかれ、少なくとも4人(一人の子供を含む)が死亡、205人以上が負傷した。そのうち、127人は重傷という。最寄りの病院に運ばれた。クリスマスを4日に控えた週末、多くの市民たちが家族連れで市場を訪問していた。市場内はパニック状況となった。

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▲マクデブルクのクリスマス市場は事件後、閉鎖された(2024年12月21日、オーストリア国営放送オンラインのスクリーンショットから) 

 男は車を400メートル走行させた後、警察官に現場で取り押さえられた。犯行動機はまだ明らかになっていない。警察当局によると、犯行は単独と見られている。車はBMWのレンタカーだった。車の中に銃器や爆発物は見つからなかった。クリスマス市場は閉鎖された。

 複数のメディアによると、市場内を暴走した男はタレブ・Aと呼ばれ、サウジアラビア出身の50歳の医者(精神科/心理療法の専門医)で、2006年からドイツに居住している。独週刊誌「シュピーゲル」の情報によると、容疑者は2006年3月に研修のためドイツに来て、同年7月に難民として認定されている。男は長年活動家として、主にサウジの女性たちに国外脱出方法をアドバイスしたり、ドイツの亡命制度に関する情報を掲載したウェブサイトも運営していた。男はプラットフォームX上で自分がイスラム教の反対者であり、ドイツの極右「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持者であることを明らかにしている。

 ドイツでは2016年12月19日、首都ベルリン市中央部にある記念教会前のクリスマス市場に1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら暴走し、13人が死亡、70人以上が重軽傷を負うという「トラック乱入テロ事件」が起きた。犯人はチュニジア人で、同月23日、逃亡中、イタリアのミラノ近郊で警察官の職務質問を受けた際、銃撃戦となり、イタリア警察官に射殺されている。ちなみに、ドイツ警察側は犯人を久しく「危険人物」としてマーク、イスラム過激テロ組織(IS)と接触していた事実も掴んでいたが、ベルリンの「トラック乱入テロ事件」を防止できなかった。マクデブルク市の容疑者は、8年前のベルリンの無差別テロ事件を意識し、車両によるクリスマス市場でのテロを考え出したのかもしれないという(「大型トラックが無差別テロの武器」2016年12月21日参考)。 

 欧州では2015年、中東・北アフリカから100万人以上の難民が殺到した。その直後から欧州ではイスラム過激派テロ事件が頻繁に起きている。2016年のフランス革命記念日の日(7月14日)、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でチュニジア出身の31歳のテロリストがトラックで群衆に向かって暴走し、86人が犠牲となった事件が発生するなど、トラクターなど車両を利用したテロが頻繁に発生している。

 欧州のテロ専門家は毎年、「クリスマス市場がテロのターゲットになる危険性がある」と警告を発してきた。例えば、ウィーン市最大のクリスマス市場、市庁舎前広場の市場では路上から市場に大型トラックが侵入できないようにコンクリート製のポラードが設置されている。マクデブルクのクリスマス市場でも市場入口に車両侵入阻止が一応行われていたという。

 マクデブルクのクリスマス市場襲撃事件が報道されると、ドイツばかりか欧州全土に大きな衝撃を投じている。キリスト教社会の欧州では現在、クリスマス一色で多くの人々が24日のクリスマスイブを控え、浮き浮きした気分となっている時だ。ショルツ独首相は「絶対に許されない蛮行だ。犠牲者には哀悼の意を表する」と述べている。
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