ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2024年09月

「ナスララ師の死」で衝撃受けるイラン

 イスラエル軍は27日、レバノンの首都べイルート南部の市街地に潜伏していたイスラム教シーア派テロ組織「ヒズボラ」の最高指導者ハッサン・ナスララ師を殺害したと発表した。イスラエル軍は7月31日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織「ハマス」の最高指導者イスマイル・ハニヤ氏を訪問中のイランのテヘランで殺害している。ヒズボラの最高指導者の殺害は、ハマスのイスラエル領内の奇襲テロを防止できなかったことで批判を受けてきたイスラエル軍とその情報機関にとって名誉回復を意味する一方、ヒズボラとハマスを支援してきたイランはイスラエル側の軍事攻勢を受け、その対応に苦慮している。28日のロイター通信によると、イラン最高指導者ハメネイ師がイスラエル側の暗殺計画を恐れて安全な場所に移動したという。

171397760
▲イスラム革命最高指導者ハメネイ師「抵抗戦線はシオニスト政権の朽ち果てた本体にさらなる壊滅的な打撃を与えるだろう」と表明(2024年9月28日、IRNA通信から)

 オーストリア国営放送(ORF)は28日、「イランの深刻なジレンマ」という見出しで、ナスララ師の死は中東全域の情勢を大きく変える可能性があると指摘、特に、親イランの民兵組織ヒズボラを支援してきたイラン聖職者支配体制がナスララ師の死に大きな衝撃を受けていると報じている。

 ヒズボラはイランが全面的に支援してきたシーア派民兵組織だ。イランが宿敵イスラエルへの前線組織として軍事、経済両面で支援してきた。ヒズボラはハマスやイエメンの反体制派組織フーシ派勢力を凌ぐ最大の軍事力を有している。イスラエル側はヒズボラの攻撃で避難した数万人のユダヤ人の帰還を目的にヒズボラ攻撃に乗りだした。ネタニヤフ首相は23日、「我々の敵はヒズボラであって、レバノン国民ではない」と指摘、レバノン国民に軍事攻勢前に避難を呼び掛けている。

 レバノンで17日、無数の携帯用通信機器ページャーが突然同時爆発し、少なくとも12人が死亡、2800人が負傷したのを皮切りに、その直後、無線機の同時爆発などで多数のヒズボラメンバーが犠牲となった。その10日後、イスラエルへの報復を呼びかけたナスララ師がイスラエル軍の空爆の犠牲となったわけだ。イスラエル軍の圧倒的な軍事攻勢でヒズボラは指導者を失い、急速に弱体化してきているという。看過できない事実は、ナスララ師の死に対し、レバノン国内では喜ぶ声があることだ。

 中東専門家は27日のイスラエル軍の空爆をヒズボラにとって「10月7日だ」と表現している。ハマスの奇襲テロを受け、イスラエル軍が震撼したように、ヒズボラはイスラエル軍の空爆で大きく揺れ出した。ヒズボラはハマスがイスラエルを攻撃した直後からハマスを支援し、イスラエルをほぼ毎日攻撃してきた。イラン政権はイスラエルへの圧力を高め、パレスチナの大義の擁護者としてハマスを支援してきたが、イスラエル側の軍事攻勢を受け、立場は逆転してきたのだ。

 一方、イスラエルはガザでのハマス壊滅、そして今ヒズボラ最高指導者の殺害で状況は有利となってきたが、100人余りのイスラエル人人質が依然、ハマスの手の中にあって、解放の見通しはない。それ以上に、ガザ戦闘、そして対ヒズボラ戦線で軍事的優位に立ったイスラエル側は「戦闘後の青写真」、ポスト戦争の管理体制が依然明確ではないのだ。ネタニヤフ政権内で強硬派と穏健派で意見が分かれている。ただ、イスラエル軍はナスララ師を失い、弱体化したヒズボラを壊滅するためにここ暫くはレバノン攻勢を強めていくだろう。

 問題は,ハマスとヒズボラの黒幕だったシーア派の盟主イランの出方だ。ハマスの奇襲テロで反イスラエル勢力に突進ラッパを吹いてきたテヘランはナスララ師の死を受け、当然報復攻撃に出なければならないが、イスラエルとの全面戦争には躊躇している。イスラエル軍の高度な戦闘力だけではなく、イスラエルの背後には米国が待機している。イランは米軍を巻き込んだ中東全面戦争で勝利できる確信はない。それだけではない。国内の経済が停滞し、国内には聖職者支配体制への不満が充満している。イラン国内の反体制派の動きを無視できない。そのうえ、ロシアから戦争のエスカレーションを回避すべきだという圧力があるはずだ。なぜならば、イランはウクライナと戦闘中のロシアに無人機やミサイルを送ってきたので、イスラエルとの全面戦争となれば、イランはロシアにもはや軍事器材を支援する余力がなくなってしまうことをロシア側は恐れているのだ。

 イランのペゼシュキアン新大統領の就任式に参加したハマス最高指導者ハニヤ氏が7月31日未明、殺害された。テヘラン滞在中にハマスの最高指導者がイスラエル側の暗殺で死去したことから、イラン側のメンツは大きく傷ついた。ハメネイ師はイスラエル側への報復を宣言したが、イランはイスラエル軍との全面戦争にこれまで乗り出していない。それどころか、ナスララ師の死を受け、ハメネイ師は身の安全のために潜伏したというニュースが飛んできた。これを「イランの深刻なジレンマ」と呼ぶのだろう。

「悪魔は決して眠らない」

 ローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇は今月25日、慣例の一般謁見で信者たちに「悪魔を単なる集団的無意識の象徴や比喩と考えることは間違っている。多くの人々が悪魔は実際には存在しないと信じていることは奇妙な現象だ」と述べ、「悪魔の最大のトリックは、自分が存在しないと人々に信じ込ませることだと書いていた人(シャルル・ボードレール)がいた。私たちの技術化され、世俗化された世界には、魔術師、オカルト信者、霊媒師、占星術師、魔法やお守りの売人、そして残念ながら本物の悪魔崇拝のセクトが溢れている」と指摘し、悪魔に注意を呼び掛けている。

c5396430-s
▲ギュスターヴ・ドレによるジョン・ミルトンの「失楽園」の挿絵、「地球へ向かうサタンを描いている」(ウィキぺディアから)

 南米出身の教皇は一般謁見の場や説教で頻繁に「悪魔」について語るローマ教皇だといわれてきた。ただし、ヨハネ・パウロ2世とは違い、フランシスコ教皇自身はエクソシストではない。ちなみに、2014年4月27日に列聖したヨハネ・パウロ2世(在位1978〜2005年)は悪魔について、「悪魔は擬人化した悪」と規定し、「悪魔の影響は今日でも見られるが、キリスト者は悪魔を恐れる必要はない。しかし、悪魔から完全に解放されるためには、時(最後の審判)の到来を待たなければならない。それまでは悪魔に勝利したイエスを信じ、それを慰めとしなければならない」と語っている。

 フランシスコ教皇は「悪魔は扉から追い出されても窓から再び入り込んでくる。信仰によって追い出されると、迷信と共に戻ってくる」と、悪魔の動きを比喩的に説明している。いずれにしても、ヨハネ・パウロ2世やフランシスコ教皇にとって、悪魔の存在は生きている人間と同じように存在しているわけだ。

 フランシスコ教皇によれば、悪魔の存在に対する最も強力な証拠は、罪人や憑依された者ではなく、聖人に見られるという。すべての偉大な聖人たちはこの不気味な現実との戦いを報告しており、悪魔の存在は特定の時代に限定された現象と片付けることはできないからだ。また、世界の中の悪によって悪魔の存在を説明しようとする試みに対しても懐疑的だ。私たちの周りに見られる極端で非人間的な悪や悪質な行為には、悪魔が存在し、活動していることは事実だが、個々のケースで、それが実際に悪魔によるものであると確信を得ることは事実上難しい」という(以上、バチカンニュース2024年9月25日から)。

 聖書では約300回、「悪魔」が登場してくるが、「悪魔」はキリスト教の専売特許ではない。キリスト教以外の宗教や文化でも「悪魔」について様々に考えられており、それぞれ独自の視点を有している。キリスト教において、悪魔(サタン)は堕落天使として描かれ、もともとは神に仕える存在だったが、神に逆らい、堕落して悪の象徴となった存在だ。聖書の記述では、悪魔は自由意志を持ち、神の創造計画を破壊しようとしている。ただし、悪魔は神と対等の存在ではなく、被造物の一つだ。悪魔は一時的に人間を誘惑し、試す役割を果たすが、最終的には神によって打ち負かされる運命にあるという。

 キリスト教の神学にとって最も難解な問いは「なぜ神が創造した世界に悪魔が存在するのか」だ。神学的な観点からは、悪魔の存在は自由意志の結果であるという。神は被造物に自由意志を与えたが、悪魔はそれを使って神に反逆した。神が悪を直接創造したわけではないという。

 イスラム教でも、悪魔(イブリース)は神に背いた存在だ。イブリースはもともと天使のような存在だったが、神に対して人間への服従を拒否したため、堕落した。イスラム教における悪魔も、人間を誘惑し、神の道から逸脱させようとする働きをする。アブラハムを「信仰の祖」とするイスラム教は悪魔についてはキリスト教とほぼ同じ解釈をしている。悪魔の存在は、信仰者に対する試練や誘惑の役割を果たし、信仰心の強さを試す存在として理解されている面がある。

 一方、仏教ではキリスト教やイスラム教のような神と悪魔の二元論的な存在はないが、悪の概念は存在する。仏教においては、「煩悩」や「無明」(無知)が悪の根源とされている。これらの煩悩が人間を迷わせ、苦しみの輪廻に縛り付ける原因とされている。仏教の伝統にはマーラという悪の象徴的な存在がある。マーラは人間の悟りを妨げ、煩悩や執着を通じて人々を苦しみの世界に引き戻そうとする役割を担っている。仏教では、悪は個人の無知や執着から生じるものとされ、外的な悪の力というよりも、内面的な問題と考えられている。

 ヒンドゥー教では、宇宙の調和を維持するために神々と悪魔(アスラ)の対立が描かれている。アスラは、神々(デーヴァ)に対抗する存在として、しばしば悪の象徴とされているが、完全に悪い存在ではなく、神々とアスラの戦いは宇宙のバランスを維持するためであり、善と悪の絶対的な対立よりも、宇宙的秩序(ダルマ)の維持を重視している。

 参考までに、ゾロアスター教は、善と悪の二元論的な世界観を持つ古代宗教だ。アフラ・マズダーという善の神と、アーリマンという悪の神が対立している。アーリマンは悪と混乱の象徴であり、人類を破壊しようとしている。ゾロアスター教では、アフラ・マズダーが最終的に勝利し、アーリマンは滅ぼされるとされている。

 フランシスコ教皇は「悪魔は君より頭がいい」と述べたことがある。ドイツの文豪ゲーテはその作品「ファウスト」で、メフィストフェレスを通じて「悪魔は決して眠らず、人間の弱さを巧みに利用し、常に誘惑の手を伸ばす存在」として描いている。私たちは、人間より利口で眠らず誘惑する悪魔と対峙しているわけだ。なお、ドイツ人哲学者ニーチェは「悪魔と戦う者は、その過程で自らが悪魔と化さぬよう気をつけよ」と警告を発している。

 <参考資料>
 � �悪魔(サタン)の存在」2006年10月31日
 �◆�バチカンと『悪魔』の関係について」2014年7月7日
 ��「ローマ法王『悪魔は君より頭がいい』」2017年12月15日
 �ぁ�悪魔『私は存在しない』」2021年6月23日

極右「自由党」と国民党がトップ争いか

 オーストリアで29日、国民議会(下院183議席)の投開票が実施される。複数の世論調査によると、野党の極右「自由党」が第1党に躍り出るものと予想されている。それを追って与党の中道右派「国民党」が選挙戦終盤、急速に支持を獲得し、自由党とトップ争いを展開してきている。

d5cf4a98-s
▲自由党の選挙プログラムを発表するキックル党首(左から2人目)(2024年8月21日、FPO公式サイトから)

 9月22日の最新世論調査(IFDD)結果によると、自由党が27%でトップ、それを追って国民党25%、社会民主党21%と3大政党が支持率20%台で並んでいる。そのほか、リベラル派政党「ネオス」が9%で2桁台を伺っている一方、ネハンマー首相の連立政権のジュニアパートナー、環境保護政党「緑の党」は9%と前回総選挙比で約5%減と大きく後退すると予想されている。

 欧州ではフランスやオランダで極右政党が活躍し、欧州政界は右寄り傾向を見せているが、オーストリアでは自由党は今年に入り欧州議会選でも得票率を伸ばし、第1党に躍進するなど、世論調査の結果を裏付けてきた。ただ、自由党が第1党となった場合、どの政党と連立を組むかで難航が予想される。社会民主党や「ネオス」、「緑の党」は自由党との連立を拒否している。一方、国民党は過去、自由党と連立を組閣した経験がある。州レベルではニーダーエステライヒ州などの議会で国民党と自由党の両党は連立政権を運営している。その意味から、選挙後、自由党と国民党の連立政権が発足する可能性が囁かれているわけだ。

 1999年の国民議会選で自由党が第2党に躍進し、第3党の保守党「国民党」と連立を組み、国民党の党首シュッセル氏を首相に担ぎだして新政権を発足した時、欧州政界はオーストリア・ボイコットの嵐が吹き荒れた。多分、同じようなボイコットの嵐が欧州各地で起きることが十分予想される。

 1999年と違うのは、キックル自由党は第2党ではなく、第1党に躍進し、そして選挙後は国民党と連立を組むとしてもネハンマー党首に首相の座を譲る考えはなく、キックル主導の新政権を発足させる方向で固まっていることだ。

 自由党と国民党はその政治信条は似ている。特に、移民政策では国民党はここにきて自由党のそれに負けないほど強硬政策を主張し、国境の監視強化、不法移民・難民の強制送還など実施してきた。ただ、対欧州連合(EU)や安保政策では自由党は国民党とは異なり、EUに対して批判的である一方、ロシアに対しては融和的な姿勢が目立つ。対ウクライナ支援でも消極的だ。

 自由党のキッケル党首は8月21日、ウィーンのブルクガルテンのパルメンハウスで同党の選挙プログラムを発表した。そのタイトルは「オーストリア要塞」(Die Festung Osterreich)だ。キックル党首は「オーストリア要塞は自由の要塞である」と言明している。

 自由党は、移民排斥、ナショナリズム、欧州連合(EU)やグローバリズムに対して強い懐疑心を抱き、イスラムフォビアだ。その一方、厳格な伝統的家族観を支持し、ジェンダー主義に警告を発している。キックル党首は「自由党は個性、主権、均質性、そして連帯を重視する」と述べ、パンデミック時の基本的権利や自由の制限について批判している(「極右『自由党』は何を考えているのか」2024年9月1日参考)。

 今回の選挙戦で興味深い点は、「緑の党」の低迷だ。オーストリアでは今月上旬、大洪水に見舞われ、多くの家屋が水浸しとなるなど、気候不順でさまざまな被害が出たばかりだ。「緑の党」が「ほら見たことか」と言って、環境保護政策の重要性を国民に訴えるチャンスだったが、同党への支持率をみる限りでは、全く反対の結果になっている。ドイツの「緑の党」でも同じ傾向が見られる。多くの国民が「緑の党」離れを見せてきているのだ。

 「緑の党」と好対照なのは、ネハンマー首相の国民党だ。同首相は洪水被害地を視察し、緊急被害対策に積極的に乗りだしている。その危機管理への対応に対し、国民の信頼と好感度が上がっているのだろう。国民党の支持率アップとなって表れてきているのだ。自由党と国民党のトップ争いが面白くなってきた。

スイスで議論を呼ぶ「自殺用カプセル」

 アルプスの小国スイスで24日、自殺用カプセル「サルコ」(Sarco)による第1号の死者が出た。スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォ(9月24日配信されたニュースレター)によると、「サルコの運用団体ラスト・リゾートは24日、カプセルを使った初の自殺ほう助が行われたと発表した。死亡したのは健康問題を抱える64歳の米国人女性で、23日午後、シャフハウゼン州の森の小屋のそばでカプセルの中に入り、自死した」という。それに対し、「シャフハウゼン州警察は24日、州検察が自殺教唆・ほう助の容疑で数人に対する刑事手続きを開始し、数人が州警察に身柄を拘束されたと発表した」というのだ。サルコは当局が押収し、遺体は検死のためチューリヒ法医学研究所(IRMZ)に運ばれた。ちなみに、「サルコ」は古代ギリシャ語サルコファガスから由来し、「石棺」や「棺」を意味し、「最終的な安息の場」を象徴している。

6ea7bde7-s
▲欧州で広がる安楽死を願う声(バチカン・ニュース公式サイトから)

 「サルコ」はオーストラリアの医師で安楽死擁護者のフィリップ・ニチケ氏とオランダ人技師のアレックス・バニンク氏が考案。カプセル内に窒素を大量に放出し、室内を急激に低酸素状態にして中にいる人を死に至らしめる。スイスなど自殺ほう助が合法化されている国では通常、医師の処方する致死量のペントバルビタールナトリウムが使われるが、窒素は安価で購入でき、医師の処方せんも要らない(スイス・インフォ)。

 それに対し、スイス連邦政府のエリザベット・ボーム・シュナイダー内相は23日、「このカプセルは2つの点で法的適合性を欠ける」と指摘し、スイス国内では使用できないと明言した。具体的には、�.�プセルは、商業・業務目的で市場に出される製品の安全性を規制する製品安全法の要件を満たしておらず、市場に出してはならない、�⊆�殺を目的とした窒素の使用は、化学物質法の意図する目的とは一致しないという。一方、ラスト・リゾートは、カプセルのスイスでの使用が合法であるという姿勢は崩していない。

 スイスでこのカプセルが使用されたニュースは24日、スイスの主要メディアでも大きく報道された。スイスでは安楽死に対する受容度が比較的高い。多くの国民は、自らの死を選ぶ権利を重視しており、「サルコ」のような自殺補助の技術も、その一環として認識されているが、「サルコ」の技術的な側面や倫理的問題については、一部の人々や団体から懸念の声も上がっている。特に、使用が簡単すぎる点や、過剰に美化されているという批判が見られる。

 ところで、スイスは安楽死を願う人々が集まってくることで知られている。スイスには「エグジット」と呼ばれる自殺ほう助を行う非営利団体が存在する。1982年に創設され、2019末現在で12万8212人の会員(会員登録費年間40〜80フラン)が登録されていた。同団体は国内居住者の安楽死のほう助を取り扱うが、国外居住者の安楽死ほう助を支援する団体としては「ディグニタス」が存在する。会員は9822人だ。国別ではドイツ人が多く、日本人も2019年末現在で47人が登録されていた。その他、国外居住者を対象としている団体としては「ライフサークル」や「ペガソス」などがある。

 通称「安楽死」には、同意殺人を意味する「積極的な安楽死」(active euthanasia)から「自殺ほう助」、そして「受動的な安楽死」(passive euthanasia)がある。「積極的な安楽死」とは、医師などが患者に対して致死薬を投与するなど、直接的に死をもたらす行為を指す。「受動的な安楽死」は、延命治療を中止するなどして自然な死を迎えさせる行為だ。

 なお、延命装置を外すなどの「受動的な安楽死」を認める国は年々増えてきている。ドイツでも2020年2月26日、独連邦憲法裁判所は自死への自己決定権を認め、第3者のほう助を受けた自死も合法とし、自死ほう助を禁止してきた刑法217条を違憲と判断している。オーストリア憲法裁判所(VfGH)は2020年12月11日、「自死を願う人を助ける行為を刑罰犯罪とすることは自己決定権への侵害にあたる」として、2022年1月1日を期して関連条項を削除すると表明したばかりだ。

 スイスでは「積極的な安楽死」は法的に禁止され、医師は自殺する日に診断書を提出するが、安楽死の現場には同席しない。医師の自殺ほう助は法的に刑罰を受ける。医師は患者に直接致死量の薬や注射を投入することは認められていない。安楽死を希望する患者は医師が準備した致死薬を自ら体内に取り入れるか、延命装置を外す。自殺のほう助は、�ーL�する可能性がない場合、��耐えられない苦痛や障害がある場合、�7鯀瓦僻獣芭呂鰺�する場合、という3条件を満たす必要がある。

 一方、オランダが2002年、世界で初めて「積極的な安楽死」を合法化した。医療従事者が患者の自発的かつ持続的な要請に応じて、一定の条件のもとで安楽死を行うことができる。ベルギーでも安楽死は合法だ。同国では成人だけでなく、特定の条件下で未成年者にも安楽死が認められている。そのほか、「積極的な安楽死」を認めている国としては、ルクセンブルク、カナダ、スペイン、ニュージランド、コロンビアなどだ(「ベルギーで『安楽死』が急増」2018年8月15日参考)。

 オーストリア憲法裁判所(VfGH)は2020年12月11日、「自由な自己決定権は生きる権利ばかりか、人間として威厳ある死を迎える権利も包括している。死を願う人は、第3者にその支援を求める自由な自己決定権がある。第3者の助けによる自死を禁止することは個人の自由な自己決定権への特別な集中的介入を意味する。関係者の自由な自己決定権に基づいた自死決定ならば、法によって尊重されなければならない。自由な自己決定権には、第3者の支援を受けて自死する権利も含む」と述べ、安楽死の自己決定権を尊重すべきだと主張した。欧米社会では高齢化が進み、医療技術の発展もあって100歳以上生きる人間が増加してきた。同時に、健康で長寿を全うしたいと人は願うが、不治の病で死を待つ人も増えてきている。「安楽死の自己決定権を尊重すべきか」は益々現実的なテーマとなってきた。

人間ドラマを演じる「偶然」の力

 当方はこのコラム欄で「天才物理学者アルベルト・アイシュタインは、偶発性、確率、統計に基づく量子力学の曖昧さを嫌い、神はサイコロを振らないと答えた」という話を紹介し、「しかし、21世紀に入り、最近の量子物理学では神はギャンブラーのようにサイコロを振るうと受け止められてきている」と書いた。

Synthetic_Production_of_Penicillin_TR1468
▲ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミング(ウィキぺディアから)

 「分子は原子の結合体であり、原子は陽子と中性子と電子の結合体だ。そして電子や光子は2カ所の穴を同時に通り抜けたり、複数の場所に同時に存在したり、同時に複数の異なる方向を向いたりできる。さらに不思議なことに、これらの粒子は空間のある地点から別の地点に光より速く通信し、テレポーテーションさえ可能なようだ」(スイス公営放送「スイスインフォ」2023年2月13日)というのだ。

 従来の物理学の理論では理解できない現象だ。物理学者たちは光や電子が「粒子」か「波」かで頭を悩ませ、実際は「どちらでも成立してしまう」という問題にぶつかった。この解明と実用化のために、世界の科学者は昼夜、研究開発に没頭している。

 ところで、「神はサイコロを振らない」と考え、多くの物理学者もそれを信じていた時代、物理学の世界だけではなく、神を信じるキリスト教会関係者も迷いがなかった。なぜなら、神が創造した宇宙が地上の物理原則、方式に基づいて観測可能であり、神の創造した世界は一定の秩序を維持した安定した世界だったからだ。しかし、量子物理学が登場して、「神はサイコロを振るう」と主張しだしたのだ。多くの物理学者がその学説の過ちを指摘するために懸命に努力したが、量子物理学者の理論を覆すことができないだけではなく、世界の優秀な物理学者が量子物理の研究に没頭しだした(「『神』がサイコロを振る時」2023年3月7日参考)。

 量子物理学の話をするつもりもないし、話す能力も当方は持ち合わせていない。世界には「偶然」は存在するかというテーマに強い関心があるのだ。オーストリアの最大部数を誇る日刊紙「クローネ」日曜版に興味深い記事が紹介されていた。「偶然の力」という見出しで、「偶然は私たちの日々の生活、そして科学の世界でどのような役割を果たしているか」と述べ、「偶然は実際に存在するか」と問いかけているのだ。例えば、サイコロの場合、数字6が出てくる可能性はサイコロを少なくとも13回降った場合、90%の確率だという。一方、我々の生活レベルで考えると、間違った電車に乗って、そこで人生の伴侶を見出した場合、幸運な「偶然」と呼ばれる。「偶然」をどのように解釈するかでとらえ方も異なってくる。

 科学の世界では「偶然」が大きな働きをした有名な話がある。英国の細菌学者アレクサンダー・フレミング(1881〜1955年)のリゾチームとペニシリンの2つの発見だ。両者とも「偶然」によって発見されたのだ。前者のリゾチームは1921年、フレミングは研究室で突然鼻がかゆくなってくしゃみをした。その飛翔が研究用に細菌を塗抹していたペトリ皿に付着した。そして飛翔が付着した部分の細菌のコロニーだけが破壊されているのを発見したのだ。それを通じて、ヒトの鼻汁や血清などに含まれる「リゾチーム」が発見されたのだ。1928年、休暇から帰国したフレミングが洗うのを忘れて放置していたペトリ皿にアオカビが発生していた。そこでペトリ皿を廃棄しようとしたところ、カビの周囲だけ細菌が育っていないのを発見した。これが、世界初の抗生物質「ペニシリン」の発見だ。フレミングの2つの発見は「偶然」が大きな働きをした歴史的な実例だろう。彼はその成果でノーベル医学生理学賞を受賞している。

 もちろん、フレミングは単に「幸運な偶然」で大きな成果を生み出したのではない。2つの発見は一見「偶然」のように感じるが、フレミングはそれまでの研究生活を通じて、「偶然」の中に大きな真理を発見できる経験を積んできていたのだ。逆に、「幸運な偶然」があっても、それを認識できない場合がある。例えば、アメリカ大陸を発見したイタリア人のクリストファー・コロンブスは自身はインドに到着したと最後まで思い込んでいた。実際は、コロンブスは「偶然」、アメリカ大陸を発見したのだ。しかし、彼はそれを理解できなかった。コロンブスの場合、まったくの「偶然」だったのだ。

 科学者フレミングの例は「偶然」のパワーを理解する上で分かりやすい例だが、私たちの通常の生活で出くわす「偶然」については、その意味を理解することは容易ではない。「偶然」、路上で出会った人が生涯の友人となったとか、「偶然」に読んだ本が契機となってその分野の著名な専門家となったとか、いろいろな「偶然」がもたらす人間ドラマがある。

 アリストテレスは「偶然」とは特定の原因を有していない場合に当てはまるという。人間は自然法則の世界の中で生存しているから、全ての言動には原因があると考えてきた。しかし、ここにきて量子物理学者は「説明できない絶対的な偶然が存在する」と説明する。その「絶対的な偶然」が存在しなければ、コンピューターやナビゲーション、人工衛星、レーザーも生み出せないというのだ。

 最後に、当方が「偶然」に関する名言で最も感動した2人の言葉を紹介したい。
 �.侫薀鵐垢虜拔欒惻團襯ぁΕ僖好帖璽襦峩�然は準備の出来ていない人を助けない」
 �∧胴颪虜邁肇沺璽�・トウェイン「最も偉大な発明家は誰か。それは『偶然』である」

現代「ダビデとゴリアテの戦い」の教訓

 少年ダビデが巨人ゴリアテとの戦いに勝利した話は旧約聖書「サムエル記上」第17章の中で記述されている。天使との戦いに勝利したヤコブは神から「イスラエル」という呼称を与えられた。そのイスラエル国民は多くの偉人、指導者の中でもダビデを最も愛している。だから、6角の星を表す「ダビデの星」はユダヤ民族を象徴する印となっているわけだ。

Spoke_message230924
▲ レバノンの国民に避難を呼びかけるイスラエルのネタニヤフ首相(2024年09月23日、イスラエル首相府公式サイトから)

 ところで、羊飼いの少年ダビデがペリシテ人の巨人ゴリアテに勝利できたのは、ダビデがゴリアテの急所を知ってそれを目掛けて小石を命中させたからではない。ユダヤ民族の神がダビデの背後にあって彼を助けたからだ。神の助けを得たダビデに対し、いかに巨人とはいえゴリアテは勝てなかったのだ。異教徒から迫害されて来たユダヤ民族にとってダビデの話は忘れることが出来ない神の証と受け取られてきた。

 現代のイスラエル軍は中東地域では最高の軍事力を誇り、先端の軍事技術に裏付けされた武器でアラブのイスラム教国を圧倒している。レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが調達したページャーを同時爆発させたパワーは現代のイスラエルを表示する好例だろう。旺盛な戦闘意欲を有するヒズボラのメンバーですら宿敵イスラエル軍の高度な戦闘力の前に怯えてきているというのだ。

 レバノンで17日、ヒズボラのメンバーが所持していたポケベル同時爆発、無線機の爆発で多数の犠牲者が出たばかりだ。ヒズボラはイスラエルへ報復攻撃に出てきたが、それに対抗してイスラエル軍はベイルートのヒズボラの拠点を空爆し、ヒズボラの軍事部門幹部イブラヒム・アキル氏ら多数のヒズボラのメンバーを殺害した。レバノン保健省は23日、イスラエル軍の空爆でレバノン全土で死者が少なくとも492人、負傷者は1645人となったと発表した。イスラエル軍は24日、ヒズボラの拠点約1600カ所を攻撃したことを明らかにした。

 イスラエル軍の空爆によるレバノン側の犠牲者数が余りにも多いことに正直言って驚かされた。ただ、明確にしなければならない点は、イスラエル軍の空爆の前にヒズボラ側はロケット弾150発以上をイスラエルに撃ち込んでいるのだ。しかし、そのほとんどがイスラエル軍が誇る対空防衛システムに撃ち落とされ、爆発したミサイルは限られている。その結果、被害は少なく済んだという事実だ。ヒズボラの攻撃を回避するためにイスラエル国民はシェルターに避難した。イスラエル軍の軍事目的は避難しているユダヤ人を帰還させるために、ヒズボラの軍事拠点を破壊することにあった。

 すなわち、発射したミサイルの数や爆発量はヒズボラとイスラエル空軍の間では大きな差はなかったが、結果は、イスラエル側には数人の死傷者が出ただけで、ヒズボラ側には492人以上の犠牲者がでたわけだ。国連側はレバノン側の犠牲者の数の多さにショックを受け、イスラエル側に自制を要求している。

 同じパターンがパレスチナ自治ガザでのイスラム過激派テロ組織「ハマス」とイスラエル軍の戦いでもみられる。ハマスは昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、1200人のユダヤ人を殺害し、250人余りの住民を人質にした。それが契機となってガザ紛争が始まった。イスラエル側はハマスの奇襲テロに報復するためにガザを攻撃。ガザ保健局の情報によると、これまで4万人以上のパレスチナ人が犠牲となっている。ハマス側も可能な限りの武器でイスラエル側を攻撃したが、イスラエル側の被害はパレスチナ側と比較できないほど少ない。

 レバノンでもガザ区でも同じことが繰り返されているのだ。イスラエル軍はパレスチナ自治区ではハマスを、レバノンではヒズボラを攻撃し、ハマスとヒズボラもイスラエル軍に負けないほどのミサイルをイスラエル領土に打ち込んだが、被害状況では大きな差が出た。戦闘で圧倒的な攻撃力を誇るイスラエル側はそのパワーゆえに国際社会から批判を受けることになる。

 イスラエル軍はガザ攻撃でも事前にパレスチナ住民に避難を呼び掛けたし、レバノンでもヒズボラ拠点への空爆前に住民に避難を呼び掛けていた。一方、ハマスとヒズボラはイスラエル軍の攻撃を避けるために住民を盾に利用してきた。そのため、多くの民間人、女性、子供たちが犠牲となってきた。

 以上から一つの教訓が生まれてくる。中東のイスラム教国はイスラエルとの戦闘は可能な限り回避すべきだ。勝利するチャンスが少ないばかり、国民に多大な犠性を強いる結果となるからだ。もちろん、白旗を掲げて屈服せよといっているのではない。イスラエルとの問題では戦闘で解決する選択肢を排除し、外交、対話で解決の道を模索すべきだということだ。

 一方、イスラエル側は自身がもはや少年ダビデではなく、筋力隆々の成人ダビデであることを認識し、拳を挙げることを避け、隣国のアラブ諸国との共存の道を模索すべきだということだ。力で問題を解決しようとしたならば、イスラエルは必ず国際社会で孤立する危険性が出てくる。ユダヤ民族は昔は国もなく世界に離散していて他民族から迫害されたが、今は強いから国際社会から嫌われているのだ。戦いは必ず恨みをかうのだ。

 中東地域にはアブラハム・イサク・ヤコブの神が導いてきた多数の民族が生きている。イスラエルは中東のイスラム国と共存できない理由はないのだ。戦闘は外交の敗北を意味するといわれている。今こそ民族間の対話(外交)を蘇らせるべきだ。

SPDの勝因「連邦政権と距離を置く」

 ドイツ東部のブランデンブルク州議会選挙は22日、投開票が実施され、与党「社会民主党」(SPD)が躍進する極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)を僅差で抑え、第1党を堅持した。一方、「キリスト教民主同盟」(CDU)は前回選挙(2019年)より得票率を失い、左翼党から離脱して新党を結成した「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)の後塵に甘んじ第4党。ショルツ連邦政権で与党の「緑の党」と「自由民主党」(FDP)は議席獲得に必要な得票率5%の壁を破れず、いずれも州議会議席を失った。

2017-03-19_Dietmar_Woidke_SPD_Parteitag_by_Olaf_Kosinsky-1
▲SPDに貴重な勝利をもたらしたブランデンブルク州のボイトケ州首相(ウィキぺディアから)

 選挙管理委員会によると、SPDは得票率30.9%で前回選挙より4.7%増、ブランデンブルク州で11年間首相を務めてきたボイトケ首相(62)の個人的人気もあって今月実施された東部3州議会選でSPDは初めて第1党となり政権を維持した。複数の世論調査で一貫してSPDを抜いて第1党と予想されていたAfDは29.2%で前回比で5.7%得票率をアップさせたが、SPDに惜敗。第3党にはBSWが13.5%でテューリンゲン州とザクセン州に続き、二桁台の得票率を獲得した。CDUは前回比で3.5%得票率を落とし12.1%に甘んじた。

 一方、「緑の党」は得票率4.1%で前回比でマイナス6.7%と大きく票を失った。「緑の党」はテューリンゲン州議会選でも3.2%に終わり、議席獲得に必要な得票率5%の壁をクリアできずに州議会で議席を失ったばかりだ。ザクセン州議会選では5.1%と辛うじて5%を超えた。FDPは9月に実施された3州の議会選ではいずれも完敗し、3州議会には議席を有していない。BSWに票を奪われた左翼党は得票率3%で前回比マイナス7%の大敗を喫した。投票率は約72.9%と前回の61.3%より大きく上回った。

 州議会の定数は88議席だ。SPDは32議席を獲得(2019年:25)、AfDは30議席(23)、BSWは14議席、CDUは12議席を獲得した。過半数を獲得するには45議席が必要だ。SPDはこれまでCDUと「緑の党」の3連立政権を組んできたが、「緑の党」が5%の壁を突破できず議席がない。ボイトケ首相はCDUとだけでは過半数を獲得できないので、BSWの政権参加を促すことを検討しているという。いずれにしても、東部3州議会選ではAfDと連立政権を組む政党がないことから、安定した新政権組閣に難航することが必至だ。

 ブランデンブルク州議会では、ショルツ政権の行方を左右する選挙と受け取られた。もう少し厳密にいえば、ショルツ首相の首がかかっていた。東部3州議会選で敗北するならば、SPDは「ショルツ首相では選挙に勝てない」ということで、ショルツ首相落としが本格的に始まるだろうと予想されていた。その意味で、有権者200万人のブランデンブルク州議会選とはいえ、SPDが第1党となったことでSPDだけではなく、ショルツ首相個人にとっても朗報だ。

 ところで、ボイトケ州首相のSPDがなぜAfDを破り第1党を堅持することができたかを見てみる必要がある。投票2日前、ボイトケ州首相は「SPDがAfDに敗れて第2党となれば、私は辞任する」と表明し、州国民に「私の政権を維持させたいか、どうか」の最後通告を発している。同州を11年間担当してきたボイトケ州首相は人気のある政治家だ。州の経済もドイツ東部ではトップだ。オーストリア国営放送のドイツ特派員は「ブランデンブルク州議会選はボイトケ首相の過去11年間の政治への信任投票だ」と述べていた。同州のSPDの選挙ポスターには、「ボイトケを望むならSPDに投票を」と書かれていた。

 興味深い点は、ボイトケ首相は連邦政治で批判に晒されているショルツ首相の選挙応援を断っていたことだ。ボイトケ首相は連邦SPDとの距離を置いてきた。「暖房法案に反対」「農業補助金削減に反対」「市民給付の増額に反対」「大麻の合法化に反対」といったように、ショルツ政権の政策に対して批判的な立場を取ってきた。ボイトケ首相の勝利が決まった22日、ショルツ首相はニューヨークで国連主催の「未来サミット」に参加していた。ボイトケ首相は電話で選挙の結果を報告したというが、詳細な内容は明らかにしていない。

 第1党を維持したボイトケ首相は「州を極右政党に委ねることは絶対にできないから、全力を投入してきた。ただ、AfDが州国民の3割の支持を得ていることを深刻に受け取らなければならない」と語っている。

 ショルツ連立政権はSPD、「緑の党」、FDPの連邦レベルでは初の3党連立政権だ。来年秋には連邦議会選挙が待っているが、予算問題から移民対策まで連立政権内の政策の違いから対立が絶えなかった。FDPは東部3州議会で議席がなく、「緑の党」はザクセン州だけで辛うじて議席を確保するといった惨憺たる結果だった。東部3州ではショルツ連立政権は存在しないのに等しいわけだ。ブランデンブルク州議会でのSPDの勝利はあくまでもボイトケ首相の個人的人気と11年間の実績によるものだ。その意味で、SPD内でショルツ首相への辞任要求は治まらないだろういう声が依然強いわけだ。

 なお、ドイツでは「ブランデンブルク州議会選が終われば、来年の総選挙のキャンペーンが始まる」といわれている。確かな点は、SPDはショルツ首相を次期総選挙でも党筆頭候補者にするか否かで、SPD内の議論は更に熱を帯びてくることだ。

ロシア、ウクライナ原発施設へ攻撃か

気温35度前後の猛暑や熱帯夜が嘘のように、暴風雨、洪水の襲来後、気候は一挙に秋模様となってきた。秋分の22日の朝はウィーンでは気温が急速に下がって10度以下となり、やや寒いぐらいだ。もうすぐ厳しい冬がやってくるな、と思っていた時、キーウから「ロシアが原子力施設への攻撃を計画している」とニュースが流れてきた。ウクライナ側はウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)にロシアの計画を通知済みという。ロシア側の狙いは明らかだ。厳しい冬の訪れを前に、ウクライナのエネルギー供給網を破壊し、エネルギー危機をもたらすことにあるはずだ。

gc68-opening-plenary-1140x640
▲第68回年次総会で冒頭演説するグロッシ事務局長(2024年9月16日、IAEA公式サイトから)

 ロシア軍が2022年2月、ウクライナに侵攻してから、3度目の冬を迎える。気温がマイナスとなる厳冬の到来を控え、キーウ側はエネルギー供給網の安全を最重要課題としている。その矢先、ロシアはウクライナにある原発施設への攻撃を計画しているというのだ。

 ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナの原子力発電所が戦闘で大きな被害を受けずに済んだことは幸運だったが、戦闘が続く限り、これからも幸運が続くという保証はない。原発がミサイル攻撃を受けた場合、どのような被害が生じるか分からない。少なくとも、欧州全土に放射線被害が拡散することが予想される。欧州では1986年4月26日、ウクライナでチェルノブイリ原発事故が発生し、欧州全土に大きな被害を与えたことはまだ記憶に新しい。

 ところで、ウクライナには、4つの原子力発電所があり、合計で15基の原子炉があるが、欧州最大の原発サポリージャ原発は、ロシア軍が占領して以来、安全性を理由に稼働を完全に停止している。そのほか、リウネ原発(原子炉4基、VVER−440型が2基、VVER−1000型が2基)、南ウクライナ原発(原子炉3基、VVER−1000型)、フメリニツキー原発(原子炉2基、VVER−1000型)だ。3つの原発はウクライナ全体の電力供給の約50%を担っている。

 ロシアはウクライナ侵攻の一環として、南ウクライナのザポリージャ近郊にあるヨーロッパ最大の原子力発電所を占領している。この発電所には6基の原子炉があり、合計出力は6ギガワットに達するが、安全性を考慮して完全に停止している。発電所周辺では、度々砲撃やドローン攻撃が確認されている。ウクライナ側による数回の奪還試みも失敗している

 IAEAの8月17日の「ウクライナ報告」によると、サポリージャ原発(ZNPP)の原子力安全状況は、無人機による攻撃で発電所敷地の周囲の道路が被弾したことを受けて悪化している。IAEAのグロッシ事務局長によると、「IAEAのサポリージャ支援・援助ミッション(ISAMZ)チームは、無人機が運んだ爆発物が発電所の保護区域のすぐ外で爆発したとZNPPから報告を受け取った」という。爆発地点は、重要な冷却水スプリンクラー池の近くで、発電所に電力を供給する唯一の残存750キロボルト(KV)送電線であるドニプロフスカ送電線から約100メートルの場所だったという。

 ロシアが冬を前に原子力施設へのミサイル攻撃を計画していることに対し、ウクライナのアンドリー・スィビハ外相はX(旧ツイッター)に「原子力発電所や、原子力の安全運転に重要な変電所の配電施設への攻撃計画だ」と書き、原発周辺での戦闘行為は世界的な影響を及ぼす可能性があると警告している。

 ウクライナ側の発表によれば、今年3月以降、発電容量が9ギガワット以上の発電所が損傷または破壊された。このため、ウクライナ国内では度々、数時間にわたる停電が発生している。ウクライナで現存操業中の3つの原子力発電所の合計出力は約7.8ギガワットだ。

 IAEAのグロッシ事務局長は16日、年次総会の冒頭演説で「ウクライナの原子力発電所に安定した電力供給を提供するために不可欠な電力変電所の監視に力を注いでいる。原子力の安全を維持するために非常に重要だからだ」と説明している。

 なお、ウクライナ軍が8月6日以来、ロシア領土内に越境攻撃を開始し、クルスク州に進攻中だ。同州にはクルスク原発(NPP)がある。ウクライナの反攻撃が始まった後、IAEAはクルスク原発への戦闘の影響について警告し、当事者に最大限の抑制を呼びかけてきた。

ドイツで100歳以上の国民が増加

 ドイツ高級週刊紙「ツァイト」電子版では毎土曜日には「グッドニュース」だけが配信される。週末をグッドニュースでエンジョイしてほしい、という編集担当者の心遣いだろう。ということは、平日はグッドニュースより圧倒的にバッドニュースが多いことを意味する。ストレスの多い平日を終え、週末ぐらいは楽しいニュースと希望を感じる情報を提供したいという配慮だ。

IMG_20240920_184755
▲ウィーン市16区のキルターク(教会祭、秋祭り)風景(2024年09月20日、撮影)

 実際、ドイツでは暴風雨、洪水が襲い、イスラム過激派テロ事件も頻繁に生じている。ドイツ国民経済は日本を抜いて世界第3位だが、過去一年間はマイナス成長が続いている。脱原発政策の影響でエネルギーコストは急騰し、輸出大国の屋台骨を支えてきた自動車産業は中国製の電子自動車(EV)の進出で厳しい一方、中国市場で売り上げを伸ばしてきたメルセデス・ベンツ社はここにきて売れ行きが停滞している、というニュースが報じられたばかりだ。

  当方はこのコラム欄で「毎日が『13日金曜日』だ」(2024年9月15日)という記事を書いた。9月13日は「13日金曜日」だったが、大多数の現地メディアは「金曜日13日」を話題にしなかった。古いテーマであり、迷信に過ぎないからだろうか、と考えていた時、知人のポーランド人は「もはや『13日金曜日』だけが不吉な日ではなくなったからだよ。考えてみろよ。ウィーンでもイスラム過激派事件が起きたばかりだ。ウィーンで開催予定だったアメリカのポップスター、テイラー・スウィフトのコンサートはキャンセルされた。ドイツでは橋は崩れ、至る所が洪水や大雨だ。少なくとも、欧州では最近、毎日が『13日金曜日』となったのだ。そんな時、誰がわざわざ『今日は13日金曜日だぞ』と叫ぶだろうか」と言うのだ。知人の説明は非常に説得力があった。

 ところで、当方も「ツァイト」電子版から週末に配信されてくるグッドニュースを楽しみにしている一人だ。今週のグッドニュースのトップは「ドイツにおける100歳以上の人々の数が増加」というニュースだ。「ツァイトオンライン」によると、過去10年間で、ドイツで100歳以上の人々の数は増加した。連邦統計局によると、2022年にはドイツで100歳以上の市民が1万6800人以上いた。2011年には1万3400人だった。そのうち男性はわずか15%に過ぎないという。

 また、統計によると、100歳以上の人々の約半数が自宅や家に住んでおり、約7000人は老人ホームや介護施設などの共同施設に住んでいる。総人口に対して、ハンブルク、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ザクセンでは最も多くの100歳以上の人々が暮らしている。高齢者が最も多い都市はヴュルツブルクで、1万人当たりほぼ5人が100歳以上だ。そして高齢な人々が増加している理由は、生活環境の改善、医療の進歩、そして豊かさの増加だという。

 ドイツの平均寿命は再び上昇してきた。連邦統計局によると、2023年には男性も女性も前年より平均約0.4歳長生きしている。それ以前は、コロナパンデミックの影響で2020年から2022年にかけて2019年と比較して平均寿命が0.6年短くなっていた。昨年のドイツの平均寿命は、女性で83.3歳、男性で78.6歳だ。

 ただし、ドイツでは、社会的に貧困層の人々は、富裕層の人々よりも早く亡くなる傾向が見られる。ロベルト・コッホ研究所が専門誌「The Lancet Public Health」に発表した研究によると、この不平等は過去数十年間で拡大してきたという。平均寿命と貧富の格差問題だ。どの国でも見られるが、欧州の経済大国ドイツでもそれが表面化している。

 参考までに、韓国統計庁の「2015年北朝鮮主要統計指標」によると、韓国の平均寿命は男性が78.2歳、女性が85.0歳、北朝鮮は男性が66.0歳、女性が72.7歳で、南北の差は男性が12.2歳、女性が12.3歳だった。データは少し古いが、南北間の寿命の格差は深刻だ(「北の金王朝は国民の寿命を奪った」2015年12月22日参考)。

 ドイツ国民の多くは、1980年代、90年代より長生きし、豊かに生活できるようになったが、未来に不安を感じる人が増えてきたといわれている。80年代、90年代のドイツ人は現代ほど豊かではなかったが、未来に対してまだ希望的だったというのだ。その一方、高齢者の増加、平均寿命の上昇で、社会は急速に高齢化してきている。

 「ツァイトオンライン」の編集担当者には申し訳ないが、グッドニュースを読みながら、当方は未来に対して少々悲観的になった。100%ピュアなグッドニュースは元々ないのかもしれない。とすれば、100%バッドニュースもないはずだ。ひょっとしたら、悲観的なニュースにも私たちを鼓舞、啓蒙する内容が潜んでいるかもしれない。

バチカンがメジュゴリエ巡礼地を承認

 バチカン教皇庁は19日、記者会見を開き、ボスニア・ヘルツェゴビナの巡礼地メジュゴリエでの聖母マリアの再臨現象に関する取り扱いについて、最終的決定を明らかにした。教理省が発表した文書「平和の女王」はフランシスコ教皇が昨年8月承認したもので、その中で教皇は「ニヒル・オプスタット」(反対意見なし)を示し、聖母マリアの再臨の地メジュゴリエの巡礼を正式に承認した。ただし、いくつかの制約が設けられている。

cq5dam.thumbnail.cropped.750.422 (43)
▲聖母マリアの再臨地メジュゴリエを巡礼する信者たち(バチカンニュース2024年9月19日から)

 サラエボから南西100キロにあるメジュゴリエでは、1981年に聖母マリアの出現が報告されて以来、世界最大級のカトリック巡礼地の一つとなり、毎年何百万人もの巡礼者が訪れている。当時子供だった「幻視者たち」によって聖母マリアの再臨が報告され、さまざまなメッセージが届いているという。

 メジュゴリエの霊的現象では長い間、司教、神学者、バチカン関係者たちの間でさまざまな議論があったが、教皇庁が今回まとめた文書「平和の女王」はその序文の中で、「メジュゴリエの霊的現象に関する長く複雑な歴史に終止符を打つ時が来た」と記述している。フランシスコ教皇が昨年8月28日に承認し、教理省長官のフェルナンデス枢機卿とマッテオ師が署名した今回の文書では、メジュゴリエに関連する多くの霊的な実りを認めている。ただし、聖母マリアの再臨の超自然性、つまり真実性については触れず、メッセージに対して全体的に肯定的な判断を下している。

 「平和の女王」の文書で重要な点は、メジュゴリエでの体験に関連する霊的な実りを認め、信者がその体験に従うことを可能にすることだ。これは、超自然現象に関する新しい識別規範に従い、「多くの肯定的な実りが現れ、神の民に危険な影響が広がっていない」という理由に基づく。全体的にメッセージに対しては肯定的な評価を下しつつも、いくつかの表現については明確化が求められている。また、いわゆる「幻視者」たちの道徳的生活に対する評価を含むものではないこと、霊的な賜物が「関与する者たちの道徳的な完全さを必ずしも前提としていない」ことが強調されている。

 バチカン教理省は今年5月、1978年から施行されていた超自然現象の評価基準を更新した。新しい規範は、地方司教がマリアの出現やその他の現象をより迅速かつ効果的に判断する助けとなるもので、宗教的実践が霊的に支持されるかが重視され、民衆信仰に関する迅速な評価が可能となる。

 新しいガイドラインでは、出現が超自然現象かどうかを教会が公式に判断する必要はなく、その場所での宗教的実践が牧会観点から推奨されるかどうかが重要視される。評価には6段階があり、「Nihil obstat」から「さらに観察する」(ラテン語で「pro oculis habeatur」)、監視下での管理(「sub mandato」)、さらには禁止(「prohibetur」)まである。

 ボスニア・ヘルツェゴビナでは、地元の司教と、巡礼地での牧師活動に中心的な役割を果たしているフランシスコ会士との間で対立があった。また、一部の「預言者」たちが非常に詳細な聖母マリアのメッセージを報告し、それを政治や教会内の議論に利用しようとしたこともあった。今回の文書は「聖母マリアの再臨現象が超自然的な性質を持つという宣言ではなく、信者がそれを信じる義務はないことを強調しながらも、『Nihil obstat』は、この霊的な提供を通じて信仰生活において肯定的な刺激を得ることができ、公的な崇拝が許可されることを示しているだけだ。

 メジュゴリエに現れた聖母マリアは自らを「平和の女王」と呼び、「私は世界の救いのために、ここに平和をもたらすために来た。真の喜びは神の中にあり、そこから真の平和が生まれるため、私は回心を求める」(1983年6月16日)というメッセージを残している。これは、隣人愛の実践の実りであり、「カトリックでない者への愛をも含む」ものだ。この点は、宗教的対立が関与した悲惨な戦争を経験したボスニアのエキュメニカル(宗教間対話)および宗教間の文脈においても重要な内容と受け取られている。

 バチカンの文書は、「信仰生活の健全な実践を促進している」ことを肯定的な実りとして強調し、メジュゴリエを訪れた多くの人々が、信仰を発見したり、再発見したりする「多数の回心」があり、告解や聖体拝領への回帰、聖職者の召命、「夫婦間の和解や結婚・家族生活の再生」が数多く見られると記している。

 マリアの出現やさまざまな奇跡はカトリック教会の伝統の一部であり、民衆信仰においても大きな影響を与えている。フェルナンデス枢機卿は「これらの出来事はしばしば霊的な成果や信仰の成長、信心深さ、兄弟愛、奉仕精神を生み出し、いくつかの巡礼地が世界中に広まり、民衆信仰の重要な一部となってきた」と述べる一方、「超自然的な起源を持つとされる出来事の中には、信者に害を及ぼす深刻な問題が発生することもある。特に利益、権力、社会的な名声、個人的な利益を得るためにこれらの現象が利用される場合がある」と指摘することを忘れていない。

 なお、18世紀以降、聖母マリアの出現は「私的啓示」とされてきた。カトリック教義によれば、信者は私的啓示を信じるかどうかは自由だ。聖母マリアの再臨現象で興味深い点は、世界が経済的、政治的危機、たとえば飢饉、疫病、不作などの時に頻繁に出現していること、そして多くは子供たちの前に現れていることだ。例えば、1850年代、1870年代、第一次世界大戦、そして1930年代初頭に多くの聖母マリアの出現が記録されている(「聖母マリアはなぜ頻繁に出現するか」2023年8月19日参考)。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ