ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2024年04月

ドイツの過半数が徴兵制再導入を支持

 ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来、北大西洋条約機構(NATO)加盟国はウクライナに武器を支援する一方、NATOの国境警備を強化。北欧の中立国、フィンランドとスウェ―デンを加盟国に迎え、NATOは32カ国体制となった。

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▲指揮交代のために整列する新しい黒と赤のベレー帽をかぶった偵察大隊10と補給大隊8の兵士たち(ドイツ連邦軍公式サイトから)

 NATO加盟国の中でも米国に次いでウクライナへ軍事支援をするドイツで徴兵制の再導入の声が高まっていることはこのコラム欄で報告済みだ(「ドイツで徴兵制の再導入議論が浮上」2024年3月7日参考)。

 ところで、ドイツ民間放送RTLとニュース専門局ntv共同の要請を受けて世論調査研究所「フォルサ」が徴兵制の再導入に対する国民の是非を聞いた。それによると、ドイツ国民の52%は徴兵制の再導入を支持、反対は44%だった。

徴兵制の再導入に反対しているのは、ショルツ連立政権の与党「緑の党」や自由民主党(FDP)の支持者のほか、兵役の対象となる30歳以下の国民が多い。兵役義務の再導入を最も強く支持しているのは、野党第1党中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)、そして左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)の支持者に多い。ショルツ首相の与党第1党「社会民主党」(SPD)の支持者は意見が分かれている。

 世論調査結果で興味を引く点は、「プーチン大統領はウクライナ戦争に勝利すれば、NATO加盟国に侵攻すると思うか」という質問に対し、54%は「ロシアはNATO加盟国を侵略する」と答え、「NATO加盟国への攻撃は考えられない」は39%に過ぎなかったことだ。

 党支持別の動向を見ると、SPD、緑の党、FDP、CDU/CSUの支持者の大多数は、「プーチン大統領はウクライナに勝利すれば、NATO諸国に侵攻する」と信じている。一方、AfDとBSWの支持者の大多数は、「ロシアの攻撃は問題外だ」と考えている。ショルツ連立政権の3与党と野党第1党のCDU/CSUの支持者はロシアのNATO諸国への攻撃を現実的なシナリオと感じる一方、AfDとBSWの支持者は「侵攻はあり得る」と答えたのは25%に過ぎなかった(データは、RTL Deutschlandの要請を受け、市場世論調査機関ForsaがRTL/ntvトレンドバロメーターのために4月5日と8日に収集したもの。回答者1009人)。

 ドイツでは第2次世界大戦終了後、連邦軍は職業軍人と志願兵で構成されたが、兵士が集まらないこと、旧ソ連・東欧共産ブロックとの対立もあって1956年から徴兵制を施行、18歳以上の男子に9カ月間の兵役の義務を課してきた。兵役拒否は可能で、その場合、病院や介護施設での社会福祉活動が義務付けられた。

 その徴兵制は2011年、廃止された。徴兵の代行だった社会奉仕活動制度もなくなった。冷戦時代が終了し、旧東独と旧西独の再統一もあって、連邦軍は職業軍人と志願兵に戻り、連邦軍の総兵力は約25万人から約18万5000人に縮小された。旧ソ連・東欧共産政権が崩壊していく中、ドイツを含む欧州諸国は軍事費を縮小する一方、社会福祉関連予算を広げていった。

 その流れが大きく変わったのはやはりロシア軍のウクライナ侵攻だ。ショルツ独首相は2022年2月、「時代の転換」(Zeitenwende)を宣言し、軍事費を大幅に増額する方向に乗り出した。連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達などの計画が発表された。そして国防予算は国内総生産(GDP)比2%に増額する一方、軍事大国ロシアと対峙するウクライナに武器を供与してきた。

 参考までに、ピストリウス独国防相は未来の徴兵制として「スウェーデン・モデル」を考えているといわれている。スウェーデンでは2010年に徴兵制が停止されたが、 ロシアのクリミア併合を契機として、2018年1月から徴兵制が再導入された。スウェーデンの徴兵制は、 兵役、一般役務、民間代替役務から構成され、18歳以上の男女を対象としている。

 ちなみに、世論調査機関フォルサは今年2月、「戦争が発生したら武器を持って戦う用意があるか」という質問を聞いた。その結果、59%の国民は「武器を持って戦う考えはない」と答えている。「戦う」19%と「おそらく戦う」19%を合わせても38%の国民しか「武器をもって戦う」と答えていない。

 世論調査の結果はその時のトレンドを理解する上で役立つが、矛盾する結果が出てくることもあるし、出てきた数字をどのように解釈するかによって全く異なった受け取り方も可能だろう。ドイツ国民は地理的に近いこともあってロシア軍のウクライナ侵攻をシリアスに受け取っている。徴兵制の重要さは次第に国民に理解されてきていることが分かる。

バラの美しさは「神の善意」の表れ?

 当方は英国作家コナン・ドイル作の名探偵シャーロック・ホームズと同じく英国の推理作家アガサ・クリスティの名探偵小説の主人公エルキュール・ポワロのファンだが、ホームズのファンの読者から先日コメントを頂いた。ひょっとしたら、熱烈なホームズ・ファンかもしれない。嬉しくなった。

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▲当方の部屋の窓に挨拶に来た若いハト(2024年4月10日、ウィーンで)

 そこで当方が忘れることができないホームズの名言をここで一つ紹介したい。シャーロック・ホームズは「海軍条約文書」の事件の中で、「バラはなんと美しいのか」と驚嘆し、神の創造を賛美する場面がある。ホームズは「この花から神を感じることができるのではないか、力、欲望、食糧は人間が生きていく上で不可欠だが、花はそうではない。にもかかわらず、神はこのバラを美しく装っている。この余分なものこそが神の善意なのだ。この花の存在からわれわれは希望を見出すことができる」と語るのだ。ホームズから突然、宗教者の説教のような話を聞いたワトソンや周囲にいた者たちは驚くが、当方はホームズの話に感動した。

 宇宙・森羅万象は神の手による創造だが、神は創造の最後に自身の似姿でアダムとエバを創造したという。旧約聖書の創世記によると、神はアダムのあばら骨からエバを創造したと書かれているが、最新の聖書解釈によると、神はアダムを粘土のような塊から創造したが、エバはアダムのあばら骨からではなく、脊髄付近から取ったものから精密な設計図に基づいて構築された。要するに、神はアダムを創造する以上に多くの時間と緻密な計画に基づいてエバを創ったというのだ。エバ誕生の名誉回復だ。

 これはジェンダーフリー運動の圧力に屈した結果ではなく、ヘブライ語の言語学的な解釈というのだ。創世記の人類創造の話は2つの資料が重複的に記述されている。聖書学者の中には「神は最初の創造がうまくいかなかったので、もう一度最初から創造の業を始めた。その結果、創世記には同じような話が重複して記述されることになったというのだ。もう少し詳細に説明すると、エバの創造で何らかの不祥事が生じたために、神は創造を再度、初めから始めたというのだ。なお、ヘブライ語によると、宇宙創造を開始した神は複数形だ。すなわち、「神たちは・・」ということになる。神と創造の御業を助けた天使たちを含めて、複数形として書かれたという解釈が一般的だ。

 ホームズの「神の善意」という表現に戻る。神が人間を自身の似姿に創造したということは、神と人間は親子関係ということになる。親は自分の子供を最高の環境で成長させたいと考えるだろう。だから神はバラ一つにも最高の美を備えた存在に創造したはずだ。だから、ホームズは「この花から希望を見出すことができる」と受け取ったのだろう。事実と論理に基づいて事件を解明するホームズは一流の神学者でもあるわけだ。

 ところで、19世紀末に活躍した名探偵ホームズの信仰告白から神について云々したとしても、21世紀に生きる私たちの心に響くだろうか、という一抹の懸念が出てくる。ウクライナではロシア軍との戦争が続き、多数の兵士、民間人が犠牲となっている。パレスチナではイスラエル軍とテロ組織「ハマス」との戦闘が続いている。中国武漢から発生した新型コロナウイルスの大感染で数百万人が死去した。そのような時代に、「神の善意」といえば反発されるだけかもしれない。「神の善意」ではなく、「われわれが苦しんでいる時、あなたはどこにいたのか」「なぜ、親なら子供を苦痛から救わないのか」といった不満の声のほうが現実的なテーマではないか、といった声だ。600万人の同胞をナチス・ドイツ軍によって虐殺されたユダヤ民族ではアウシュヴィッツ以後、神を見失ったユダヤ教徒が少なくなかったといわれている(「アウシュヴィッツ以後の『神』」2016年7月20日参考)。

 バラの花から「神の善意」をくみ取り、希望を感じるより、戦争や疫病から「神の沈黙」「神の不在」を感じ、憤りが飛び出す時代に生きている。神を見失ったとしても不思議ではないかもしれない。にもかかわらず、というべきか、それゆえに「神の善意」を感じる心を失いたくないものだ。これこそ19世紀末の名探偵ホームズの21世紀の私たちへの熱いメッセージではないか。

バチカンの「人権」と国連人権宣言

 「権利」の対義語、反対語は何か、と聞かれれば、「義務」という言葉が出てくるが、それでは「人権」の反対語は何かと聞かれれば、直ぐには飛び出さない。キリスト教の神を信じる人ならば、それは「神権だ」という余り聞きなれない言葉が飛び出すかもしれない。

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▲回勅「パーチェム・イン・テリス」の起草者ヨハネ23世(バチカンニュース2024年4月8日から)

 キリスト教会、特に世界に14億人近くの信者を有するローマ・カトリック教会は過去、「人権」は神の秩序、規律とは相反するものと受け取られてきた面がある。もう少し厳密にいえば、カトリック教会はこの世界の「人権」と対立、時には脅威と受け取ってきた歴史があるからだ。

 バチカン教皇庁は8日、新しい人権に関する声明「Dignitas infinita」(無限の尊厳)を発表した。バチカンニュースは同日、「長い歴史、バチカンと人権」という見出しの記事を掲載している。その最初の書き出しで「『Dignitas infinita』は、明白に1948年の国連の『人権の普遍的宣言』を支持している。驚くことかもしれないが、教会は常に人権についてそうではなかった。これは主に、フランス革命(1789年)以降の人権の旗を掲げた運動が、当時の教会にとって脅威と受け取られてきたためだ。ピウス6世(在位1775年〜99年)は当時、パリ国民議会が掲げた人権宣言に抗議し、その有名な前提『自由・平等・友愛』に反対していた」と、正直に告白している。

 神の愛を説くキリスト教会がパリの人権宣言に反対していたということは不思議に感じるかもしれないが、人間の基本的権利より、神の教理、教えを重視する教会にとって、人権は時には障害となることがあるからだ。教会にとって過去、「神権」は常に「人権」より上位に置かれてきたのだ。

 ただし、バチカンの歴史の中には、フランス革命や国連人権宣言の前、パウルス3世(在位1534年〜49年)は1537年、「Pastorale officium」という使徒書簡で、アメリカ先住民の奴隷化を禁止し、それを破った者は破門すると警告している。同3世は「先住民は自由や財産の管理ができる理性を持つ存在であり、したがって信仰と救いに値する」と述べている。少数民族の人権、権利を認めていたわけだ。

 時代が進むのにつれて、人権に対する教会のスタンスも変わっていった。レオ13世(在位1878年〜1903年)は1885年の教令で「新しい、抑制されない自由の教義」を非難したが、1891年に社会教令を起草し、人権思想を受け入れる道を開いたことで知られている。

 教会の人権問題でマイルストーンとなったのは、第2バチカン公会議の「Dignitatis humanae」(1965年)だ。それに先立ち、ヨハネ23世(在位1958年〜63年)は1963年、有名な平和教令「Pacem in terris」(地上の平和)を発表した。冷戦時代、ソ連・東欧共産政権下で多くの国民が粛清され、キリスト信者の信仰の自由が蹂躙されていた。「パーチェム・イン・テリス」は地上の真の世界平和の樹立を訴えたもので、世界の平和は正義、真理、愛、自由に基づくべきものと謳っていた。教会の「人権への取り組みへの決定的な一歩を踏み出した」と受け取られた。

 ちなみに、冷戦時代、聖職者の平和運動「パーチェム・イン・テリス」はソ連・東欧共産党政権に悪用された。共産諸国は宗教界の和平運動を利用し、偽装のデタント政策を進めていったことはまだ記憶に新しい。興味深い点は、共産政権は「宗教はアヘン」として弾圧する一方、その宗教を利用して国民を懐柔していったことだ。教会は「地上の平和」をアピールすることで、「労働者の天国」を標榜する共産主義国に利用される結果ともなったわけだ。

 バチカンはナチス・ドイツが台頭した時、ナチス政権の正体を見誤ったが、ウラジミール・レーニンが主導したロシア革命(1917年)が起きた時、その無神論的世界観にもかかわらず、バチカンでは共感する声が聞かれた。聖職者の中にはロシア革命に“神の手”を感じ、それを支援するという動きも見られた。バチカンはレーニンのロシア革命を一時的とはいえ「神の地上天国建設」の槌音と受け止めたのだ(「バチカンが共産主義に甘い理由」2020年10月3日参考)。

 バチカンが今回発表した「Dignitas infinita」(25頁)では、カトリック教会の観点から個人の尊厳を侵害する長期にわたる一連の行為を挙げている。貧困、搾取、死刑、戦争、環境破壊に始まり、移民の苦しみや人身売買、さらには性的虐待など、特に教会自体の問題としても取り上げられる一方、代理出産、中絶、安楽死などの問題では断固として拒否、ジェンダー理論を通じて生物学的性別の否定には反対の立場を取っている。バチカンはこれまで複数の国連人権条約に署名してきたが、中絶やLGBTQ問題については「人権の印を押し付けようとする試み」として警戒している。

 なお、バチカンニュースは最後に、「カトリック教会が人権の理論的基礎を完全に受け入れることは決してできないだろう」と述べている。

軍最高司令官が弱気を吐き出した時

 大統領は軍の最高司令官の立場だ。そのトップが「戦は厳しい。ひょっとしたら敗北するかもしれない」と呟いたとする。軍関係者、側近たちはどのような反応をするだろうか。「大統領、大丈夫です。わが軍は必ず勝利します」と答えるだろうか、それとも「敗北した場合、われわれはどのようになるだろうか」といった後ろ向きの論議が飛び出すだろうか。

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▲NATO外相会合に招待されたウクライナのクレバ外相(左)
2024年4月4日、NATO公式サイトから

 ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、政府の資金集めイニシアチブであるユナイテッド24が主催したビデオ会議で、「米国からの更なる軍事援助がなければ、ウクライナは戦争に負けるだろう」と述べた。同大統領には「戦争に敗北する」といったシナリオはこれまでテーマにはならなかった。欧米諸国に武器の支援を要請する時も「戦いに勝つために・・」と説明するなど、強気を崩さなかった。その大統領が「米国の支援がなければ、ウクライナは敗北する」と嘆いたのだ。欧米諸国は大きな衝撃を受けている。

 ゼレンスキー氏はオンラインネットワークで中継された演説で、「米議会の支援がなければ、われわれが勝利すること、さらには国として存続することさえ難しくなるだろう」と強調した。その上で「ウクライナが敗北すれば他の欧州諸国も(ロシア軍に)攻撃されるだろう」と警告している。

 「戦略分析センター」議長の軍事専門家バルター・ファイヒティンガー氏は8日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューで、「大統領の表現は確かにドラマチックだが、内容自体は新しいことではない。ウクライナ戦争の勃発後、米国は欧州諸国と共にウクライナを支援してきた。最大支援国の米国が援助を止めた場合、ウクライナが厳しくなるのは明らかなことだ。ゼレンスキー氏はウクライナの戦場での現実を踏まえ、米国議会に再度、迅速な支援をアピールしただけだ」と解釈している。

 米国に代わって欧州がウクライナ支援の主導権を握るという可能性について、同氏は「欧州諸国もウクライナ支援ではそれなりの役割を果たしているが、米国に代わることはできない」と説明、「欧州諸国は自国の軍事力をアップし、米国依存から抜け出すために努力しなければならない」という。

 米議会の共和党は昨年以来、今年11月の再選を目指すドナルド・トランプ前米大統領の圧力を受けて、600億ドル(約550億ユーロ)相当の新たなウクライナ支援策を阻止してきた。目を戦場に移すと、ウクライナ軍はロシア軍の激しい攻勢を受け、守勢を強いられてきている。第26砲兵旅団のオレフ・カラシニコフ報道官は7日、ウクライナのテレビで、「激戦が続いているチャシフ・ヤル市付近の状況はかなり困難で緊張している」と証言している。

 同時期、北大西洋条約機構軍(NATO)のストルテンベルグ事務総長はロシアと停戦交渉の可能性をもはや完全には排除しなくなった。同事務総長はこれまで「侵略国が報酬を受けるような和平交渉には絶対に応じるべきではない。和平交渉への条件はウクライナ側が決定することだ」と主張してきた。

 ちなみに、紛争当事国が停戦や和平交渉に応じる場合、3通りの状況がある。(響莵餞屬寮錣い互角の場合、∧響莵颪琉貶が圧倒的に強く、相手側を押している場合、B茖街颪紛争国間の和平の調停に乗り出す場合だ。ウクライナ戦争の場合、昨年半ばまでは,世辰燭、現在はロシア側が戦場では有利に展開してきた。の場合、米国、中国の2大国がウクライナとロシア間の和平交渉の調停役に乗り出すシナリオだ。

 欧米の軍事専門家たちは「ロシア軍は今年5月以降から攻勢を再開する計画だから、その前の和平交渉は目下、考えられない」と見ている。「プーチン氏は国内の治安対策のためにも戦争が必要だ」というのだ。

 ウクライナ戦争は長期化してきた。ロシア側だけではなく、ウクライナ側にも厭戦気分が漂ってきている。両軍とも兵力不足だ。ウクライナ側は動員年齢を下げる法令が採択されたばかりだ。ロシア側もこの夏以降、志願兵と新たな徴兵で兵力を増強する予定だ。戦時経済体制に再編したロシアには目下、武器、弾薬不足はないが、ウクライナ軍のフロントでは武器不足が深刻だ。

 米紙「ワシントン・ポスト」によると、トランプ前米大統領が大統領選に勝利し、再選を果たした場合、ウクライナ側に圧力をかけ、領土の一部をロシア側に与え、迅速に和平を実現させるというのだ。ウクライナ国内ではトランプ氏の和平案に強い批判と反発の声が聞かれる一方、国力を削減する戦争を継続するゼレンスキー氏のリーダーシップに懐疑的な声も聞かれる。

 いずれにしても、ゼレンスキー氏もプーチン氏も戦争の終結へのシナリオを描くことが出来ずにいる。その一方、両国国民の忍耐は次第に限界に近づいてきている。

IRNA通信の「イスラエル経済解説」

 イスラエル空軍は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆し、そこにいた「イラン革命防衛隊」(IRG)の准将2人と隊員5人を殺害した。これを受け、イラン最高指導者ハメネイ師は2日、イスラエルに対して報復を表明、軍は厳戒体制を敷いている。それ以来、イラン国営IRNA通信は激しいイスラエル批判を展開し、明日でもイスラエルとの戦闘が始まるような緊迫感が漂っている。

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▲IRNA通信が作成したイスラエル通貨シェケルの下落動向(同通信2024年04月07日から)

 もちろん、イスラエルを「宿敵」とするイラン当局の反イスラエル路線は今始まったわけではない。冷静な読者ならば、IRG司令官の英雄、カセム・ソレイマニ将軍が2020年1月、バクダッド国際空港近くで米無人機の攻撃で殺害された時、イラン全土で追悼集会が開催され、イラン当局が米国に対して報復を宣言した時を思い出すかもしれない。

 イラン当局は当時、米国批判を高め、直ぐにも対米戦争を始めるのではないかといった雰囲気があったが、さすがに世界最強国米国と一戦を交えるほどの軍事力がないことを知っていたから、対米戦争宣言は避けた。今回もイスラエルを批判するが、イラクかシリアからミサイルをイスラエルに向けて数発撃ちこんでメンツを保つのではないか。イラン聖職者政権は今年2月、イラン革命45周年を祝ったが、中東の軍事強国イスラエルとの正面衝突は躊躇せざるを得ないからだ。

 そのように考えていた時、イランIRNA国営通信が7日、「ガザ紛争でイスラエル経済が危機に陥っている」という経済記事をグラフを付けて報じたのだ。記事のタイトルはIsraeli-economy-continues-to-suffer-as-Gaza-war-drags-onだ。

 IRNA通信は「公式統計と報告書によると、イスラエルの国民経済は巨額の損失を被り、通貨シェケルの対米ドルレートが過去8年間で最低水準に達している。パレスチナのハマス抵抗運動がイスラエル占領地南部で前例のないアル・アクサ嵐作戦を開始した10月7日、シェケルは3%以上下落して3.96ドルに達し、イスラエル中央銀行は通貨変動に対処するために最大450億シェケル(114億ドル)の支出を余儀なくされた」と報じている。IRNA通信は「これはブルームバーグに語った元イスラエル中央銀行総裁カーニット・フルーグ氏の発言だ」とわざわざ断っている。イラン側のイスラエル経済への批判的解説記事だ。

 もう少し、IRNA通信のイスラエル経済記事を紹介する。

 「イスラエル中央統計局の公式統計によると、2023年第4四半期の国内総生産(GDP)が19.4%減少した。そして今年2月初旬、ムーディーズ機関はイスラエルの信用格付けをA1からA2に引き下げ、ガザ戦争による政権への重大な政治的・財政的リスクを理由に、信用見通しはマイナスとなっている。政府がガザ戦争のためにタマル・ガス田の操業を一時停止したため、エネルギー、観光、雇用、テクノロジーもすべて打撃を受けた。また、ガザからの報復ロケット弾とミサイル攻撃を受けて、ベングリオン空港の便が80%減少するなど、イスラエルを発着する外国航空便が大幅に減少している。これは観光客の減少によるもので、公式統計では昨年10月以降、観光収入が76%減少したことが記録されている。イスラエルのハポアリム銀行は、ガザ戦争の費用を見積もるのは時期尚早だと考えている。しかし、観測筋や経済アナリストらは、その代償は大きく、経済への影響は過去のどの戦争よりもはるかに苦痛であり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響よりもさらに深刻だと考えている」

 当方はIRNA通信(英語版)を定期的に読んでいるが、イスラエル経済について上記のような解説記事に過去、読んだことがない。敵国イスラエルの国民経済の通貨危機を報じれば、「それではイラン経済はどうか」といったごく当然の質問が飛び出す懸念もあったからだろう。そしてイランの経済は残念ながらイスラエルの国民経済より厳しい。イスラエル経済はガザ戦争で大きな負担を背負っていることは間違いないが、聖職者支配政権のイランの国民経済は構造的な欠陥を抱えているのだ。

 イランの国民経済は厳しい。イランの通貨イラン・リアルの対ドル為替レートの下落に歯止めがかからない。インフレ率も久しく50%を上回ってきた。その一方イラン当局はパレスチナ自治区ガザのハマス、レバノンのイスラム根本主義組織ヒズボラ、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派へ武器、軍事支援をし、シリアの内戦時にはロシアと共にアサド政権を擁護するなど、多くの財源を軍事活動に投入している。

 イランでは若い青年層の失業率が高く、多くの国民は「明日はよくなる」という思いが持てない。特に、ソーシャルネットワークで育った若者は、イスラム革命のイデオロギーに共感することは少ない。聖職者統治政権と国民の間の溝は更に深まっている(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

 汝の敵を知れ、という狙いからIRNA通信は今回、イスラエルの国民経済の現状に目を向けて、それを厳しく批判したわけだ。次回はイランの国民経済の現状に対して客観的に分析する記事を配信してほしいものだ。

「ハマス奇襲テロ」半年後のガザ情勢

 パレスチナ自治区ガザを2007年以来実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」は昨年10月7日、イスラエル領土に侵入し、開催中の音楽祭にいたイスラエル人を片っ端から射殺し、近くのキブツ(集団農場)を襲撃しておよそ1200人のユダヤ人を殺害した。

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▲AIPAC主催の共和党米国議会代表団と会談するネタニヤフ首相(2024年04月04日、イスラエル首相府公式サイドから。写真は Amos Ben-Gershom氏撮影)

 通称「10・7奇襲テロ事件」は今月7日で半年が経過した。懸念されていたことだが、イスラエル軍とハマス間の戦闘は長期化し、人質は依然解放されず、停戦の見通しは不透明だ。ここにきてイラン、レバノンなど近隣諸国を巻き込む大戦へとエスカレートする気配が出てきた。

 イスラエルのネタニヤフ首相はハマスのテロ直後、「ハマスの壊滅」と「人質の全員解放」を目標に掲げ、ガザ地区に向けて軍事攻撃を開始した。パレスチナ側の保健当局によると、これまで3万3000人以上のパレスチナ人、主に民間人がイスラエル軍の軍事攻勢の犠牲となった。米国を含む国際社会はイスラエル側に停戦を呼び掛けてきたが、カタール政府やエジプト当局の調停にもかかわらず、イスラエル側とハマス間の停戦交渉は合意に至っていない。なお、イスラエル首相府は5日未明、米国から強く要請されてきたパレスチナ自治区ガザの人道状況の改善のため、エレズ検問所を一時的に開放する緊急措置を決定したばかりだ。

 イスラエル軍がハマスの拠点、ガザ最南部ラファに軍事攻勢を準備している中、4月1日、ガザ地区で人道支援中の国際NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)のメンバー7人がイスラエル軍の空爆の犠牲となるという惨事が発生し、国際社会のイスラエル批判は一層高まってきた。国連は「ガザ地区の人道状況は危機的だ」と警告。イスラエル側は軍の誤爆を認め、軍の関係者を処罰するなど事態の鎮静化に乗り出した。

 ただし、事態は急変してきた。イスラエル空軍は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆し、そこにいた「イラン革命防衛隊」(IRG)の准将2人と隊員5人を殺害した。これを受け、イラン最高指導者ハメネイ師は2日、イスラエルに対して報復を表明、軍は厳戒体制を敷いている。

 イラン軍が本格的に戦闘に参戦する危険性が出てきた。米メディアによると、イランは無人機や巡航ミサイルによる攻撃を計画しているという。イスラエル側もイラン軍の報復攻撃を予想、ネタニヤフ首相は4日、「われわれは自分たちを守る方法を知っている。われわれに危害を加える者は誰であっても、われわれは彼らに攻撃を加える」と述べている。

 イラン革命防衛隊(IRG)司令官だったカセム・ソレイマニ将軍が2020年1月、バクダッド国際空港近くで米無人機の攻撃で殺害された時、イラン全土で追悼集会が開催され、イラン当局は米国に対して報復を宣言した。実際はイランと米国の対戦といった最悪の事態は生じなかった。同じように、イラン側はレバノンの親イラン武装勢力「ヒズボラ」によるイスラエルへのミサイル攻撃を強めるだけで、イスラエル軍と正面衝突は避けるのではないか、という見方がある(「ソレイマニ司令官は英雄だったか?」2020年01月14日参考)。

 エルサレムからの情報によると、イスラエル側は全戦闘部隊の休暇を一時的に停止し、ミサイル防衛予備役の動員を発表した。軍はまた、イスラエルの全地球測位システム(GPS)を遮断した。GPS信号の遮断はミサイルやドローンなどGPS情報を使って攻撃する兵器を無力化するための処置だ。

 参考までに、ガザ戦争の停止、人道状況の改善のためにカタールとエジプト両国が紛争当事国らと交渉を展開中だ。外電によると、6週間の停戦と人質40人の解放、イスラエル側からは投獄中の約700人のパレスチナ人を釈放するという調停案だ。イスラエル側の情報では、ハマスに拉致された人質のうち、約100人は生存しているという。

 なお、テルアビブやエルサレムなどイスラエル各地で6日、人質の解放、停戦の早期合意などを求める大規模な抗議デモが開かれた。参加者らはネタニヤフ首相の退陣、早期選挙の実施などを要求している。

 以上、ガザ紛争の半年間の経緯だ。ドイツのケルン大学政治学者のトーマス・イェーガー教授は6日、「イスラエルはパレスチナでの戦闘では情報戦で守勢に立っている」と指摘している。イスラエルはアラブ・イスラム圏だけではなく、欧米諸国、特に同盟国の米国からもガザ戦闘の即停止、人道支援の改善などを強く要求されてきた。その一方、イスラエル国内では人質解放が遅れているネタニヤフ首相の退陣要求が飛び出すなど、内外両面から強い圧力を受けている。

 ガザの戦闘は半年前、ハマスの「奇襲テロ」から始まった。イスラエル側には自衛権があり、ハマスへの軍事攻撃には正当性があった。しかし、ハマスはイスラエル軍との戦いではガザ住民を人間の盾に利用するためパレスチナ人、特に女性や子供たちに多大の犠牲者が出た。その結果、圧倒的な軍事力を誇るイスラエル軍は国連を含む国際社会から批判にさらされることになったわけだ。国際社会は本来、ハマスの奇襲テロ、人質拉致を糾弾すべきだ。パレスチナ人の現在の人道的危機はハマスがもたらしたものだ。

「4月の夏」が到来した

 オーストリアは筆者が住み始めた40年前はまだ春・夏・秋・冬の4つの四季が定期的に訪れたが、季節の移り変わりが次第に薄れ、カレンダーでは冬が到来したのに雪が降らないといったシーズンが増えてきた。今年もウィーンでは数回の雪しか降らなかった。

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▲散歩道の花壇(2024年4月5日、ウィ―ン16区で撮影)

 このコラム欄で数回書いたが、1980年初めごろ、オーストリアに住みだした時、知人が「ここに住むには冬には厚い外套(マンテル)が必要だよ」とアドバイスしてくれた。そこでかなり重いマンテルを買ったが、マンテルが必要な冬が到来しなくなったこともあって、マンテルをどこに仕舞ったか忘れてしまった。

 今年の2月、3月は気象庁観測史上もっとも暖かな月となった。そして4月に入った。本来ならば厳しい冬を終え、花や虫が出てきて一年でも最も過ごしやすい季節だが、5日の日中の最高気温は24度、7日には30度に迫るという。地中海からの高気圧に覆われ、週末には北アフリカから非常に暖かい空気がオーストリアに流れ込むというのだ。4月に真夏日が到来するわけだ。ちなみに、最も早い猛暑日(最高気温が35℃以上)はザルツブルク市で1934年4月17日に測定された。

 オーストリア気象庁の予測では、今後数日間の気温は、4月の第1週の平均値より約15度高くなる。標高1500メートルの山では最高20度、標高2000メートルでは15度まで気温が上がる。グロースグロックナー山頂でも気温は氷点以上になるという。少々異常な状況だ。4月も観測史上最も暑い4月となることは間違いないという。このトレンドが続くと7月、8月はどんな猛暑となるだろうか。

 当方は欧州で数回、40度以上の気温を体験した。チェコの首都プラハで40度以上を体験した時、ムーンとした熱風が頬を包む。風景がボーと沸騰しているように感じたことを思い出す。2018年の8月はウィーンでも40度を超えた(「『地球』に何が起きているのか」2018年8月8日参考)。

 「2022年地軸大変動」(松本徹三著)というSFを読んだことがある。地軸の大変動で熱帯地域から極寒帯地になるアフリカ大陸の人々を救うために世界の指導者たちは英知を結集。地軸の変動が開始する前にアフリカ国民を安全な地域に移住させようと史上最大規模の移住計画が立てられる。アフリカは多くの犠牲を払いながらも、アフリカ連邦共和国として存続していくという話だ。ハッピーエンドだが、非常に啓蒙的な話だ(「『2022年地軸大変動』を読んで」2021年11月7日参考)。

 東日本大震災(2011年3月11日)では地球の地軸が僅かだが動いたと聞いたことがある。地球温暖化は久しく警告されてきた。地球温暖化には人類の責任が問われるかもしれないが、地軸変動は人類の責任というより、惑星地球の運命と受け取るべきかもしれない。

 参考までに、米航空宇宙局(NASA)は2021年11月24日、地球に接近する小惑星の軌道を変更させることを目的とした「DART」と呼ばれるミッションをスタートさせた。未来の地球の安全を守るためにNASAと欧州宇宙機関(ESA)が結束して「地球防衛システム」を構築するためのビッグプロジェクトだ。DART計画は、宇宙探査機(プローブ)を打ち上げ、目的の小惑星に衝突させ、小惑星の軌道の変動を観察する実験だった。NASAの管理者、ビル・ネルソン氏は2022年10月11日、小惑星衛星ディモルフォスの軌道が9月のDART探査機の衝突の結果、その軌道に影響があったと語ったのだ。ディモルフォスがディディモスを周回するのにこれまで11時間55分かかっていたが、現在は11時間23分だ。人類は惑星の運命すら変えようとしているのだろうか(「天体の動きを変えた人類初の試み」2022年10月13日参考)。

 当方は「4月の夏」を迎えたアルプスの小国オーストリアの気象の変動から人類の終末、黙示論的な世界を描く意図は全くないことを断っておく。名探偵シャーロック・ホームズが友人ワトソン博士に「君は僕と同じように見ているが、僕のようにそれを観ていない」と語る場面がある。当方は努力して少しでも観ていきたいのだ。

 4月に30度の気温を体験することは気象学的には少なくとも正常ではない。めったにないことだから、「4月の夏」をエンジョンすればいいだろう、という意見もある。長い地球の歴史には過去、同じようなことがあった。驚くことはない、と楽観視することも可能だろう。

 ところで、イエスは「いちじくの木から譬を学びなさい。その枝が柔らかになり葉が出てくると、夏が近いことが分かる」(「マルコによる福音書」第13章)と述べ、時の徴(しるし)を見逃してはならないと警告を発している。当方は「4月の夏」の訪れに一種の緊張感と戸惑いを感じている。

ウクライナ戦争の大義と欧州の再軍備

 ブリュッセルで3日から2日間の日程で北大西洋条約機構(NATO)加盟国の外相会議が開催された。4日にはNATO創設75周年の祝賀会が挙行された。フィンランド、スウェーデンの北欧2カ国を加え、NATOは32カ国体制となった。創設75周年にはブリンケン米国務長官をはじめ、加盟国の外相が一同結集した。NATOは1949年4月4日に12か国が条約に署名して設立された。ストルテンベルグ事務総長は創設75周年を歓迎し、「我々は歴史上最も強力で最も成功した同盟である」と述べている。

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▲ブリュッセル本部で開催されたNATO外相会議(2024年04月04日、NATO公式サイトから)

 NATOはロシア軍の侵攻以来、ウクライナを軍事支援してきた。外相会議では如何にウクライナを持続的に支援するかが焦点となった。ストルテンベルグ事務総長は会議前にウクライナへの軍事支援のために今後5年間で1000億ユーロの基金を設立させる案を発表した。

 各外相が会議前後で国の立場、見解を記者団に述べたが、その中でベアボック独外相の発言が光っていた。同外相はNATOによる1000億ユーロ相当のウクライナ援助基金の提案に慎重な反応を示し、「NATOと欧州連合(EU)の約束が重複してはいけない。ここで個々の数字を議論しても意味がない」と強調。そのうえで、「信頼できる財政援助がウクライナに提供され続けなければならないことは明らかだ。自由と民主主義の保護は、次の選挙日までにのみ適用されるべきではない。私たちの子供たちの将来に関わるものだ。安全保障には信頼性が必要だ」と語っている。同外相によると、ドイツはすでにウクライナへの民事・軍事支援として320億ユーロを提供している。米国についで2番目の支援国だ。

 ウクライナ軍は現在、弾薬不足と兵力不足に直面し、ロシア軍の攻勢に守勢を余儀なくされてきた。NATO外相会議に参加したウクライナのクレバ外相はロシア軍のミサイル攻撃、無人機対策のために「対空防衛システムの強化」を訴えた。なお、ゼレンスキー大統領は2日、動員年齢をこれまでの「27歳」から「25歳」に引き下げ、予備兵を徴兵できる法案に署名した。

 ウクライナ議会では予備兵の徴兵年齢の引き下げ問題は昨年から議論されてきたが、ゼレンスキー氏は国民への影響を考え、最終決定まで9カ月間の月日を要したことになる。 動員年齢引き下げが実施されれば、40万人が対ロシア兵役に徴兵される可能性が出てくる。ゼレンスキー氏は兵役の資格基準を調整する法律にも署名している。

 なお、キーウの一人の中年の女性はドイツ民間ニュース専門局ntvのインタビューに、「自分は一人の息子しかいない」と述べ、徴兵年齢の引き下げに該当する息子が兵役に就くことに懸念を吐露していた。

 ウクライナ支援問題がアジェンダとなる会議では常にテーマとなるのは、トランプ前米大統領が11月の米大統領選で勝利し、ホワイトハウスにカムバックした場合、NATOはどうなるか、ウクライナ支援はどうなるかだ。ストルテンベルグ事務総長が1000億ユーロ構想を提案したのは、NATOが米国から独立し、欧州の軍事力をアップさせるためだ。ちなみに、NATO諸国の国防支出レポートによると、過去75年間、米国はNATOの国防予算に21兆9000億ドルを拠出している。

 ちなみに、米国は現在、ウクライナへの武器供与の調整を主導している。独ラインラント=プファルツ州のラムシュタイン米空軍基地やブリュッセルなどで定期的に会議を開催してきたが、トランプ氏が勝利した場合、米国がウクライナへの関与を大幅に縮小、あるいは停止する可能性がある。そこで軍事支援で各国の調整を行ってきたウクライナ防衛諮問グループ(ラムシュタイン・グループ)の仕事をNATOが主導していく計画が出てくるわけだ。

 北大西洋軍事同盟NATO創設75周年を機に、ドイツ、フランス、ポーランドの3国、通称ワイマール・トライアングルの3外相(ベアボック外相、セジュルネ仏外相、シコルスキー・ポーランド外相)は共同書簡の中で、「米国は長い間、他の同盟諸国よりも大きな負担を背負ってきた。集団的防衛は共同の努力が必要だ。欧州は防衛力を強化し、大西洋横断の安全保障に貢献する必要がある」と記している。もはや国内総生産(GDP)の2%を防衛に費やすといった公約の域を超え、欧州の再軍備化宣言だ。

 戦争が長期化すれば、欧米諸国でも国民経済が厳しく、ウクライナ支援への余裕を失う国が出てくるだろう。ハンガリーやスロバキアはウクライナ支援には消極的、ないしは拒否している。そのような中、NATO加盟国には「ウクライナ戦争は民主主義を守り、次の世代の安全のための戦いだ」という大義を見失わないことがこれまで以上に重要となってきている。

「クルド人は日本人ではない」

 オーストリアの極右政党「自由党」の故イェルク・ハイダー党首(1950〜2008年)は当時、移民・難民の増加による外国人の犯罪増加について、「ウィーンはシカゴになってはいけない」と檄を飛ばしたことがあった。ハイダー党首にとって米国の都市シカゴはマフィア、ギャングが闊歩する犯罪都市というイメージがあったのだろう。オーストリアではシカゴを犯罪都市というキャッチフレーズで使っていると聞いたのか、シカゴ市関係者から怒りの声が上がり、一時、米国とオーストリア間の外交問題にまで発展した。

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▲ウィーン子が大好きなメアシュヴァインヒェン(モルモット)
 写真は愛称ジャッキー、2024年3月、ウィーンで撮影

 ちなみに、自由党のキャッチフレーズは時代の流れと共に変わっていった。「シカゴ」から現在は「カブール」と変わってきた。すなわち、「ウィーンはカブールになってはいけない」というのが最新版のキャッチフレーズだ。

 政治家を含め、人は自分が生まれ、成長した国、都市との繋がりを忘れることができない。自分が住んでいる市や地域に異国の外国人が殺到すれば、居心地が悪くなるから、現地住民と外国人との間でさまざまな軋轢や衝突が起きる。日本では埼玉県川口市でクルド系住民と現地住民との間でちょっとした衝突が起きているというニュースを聞いた。

 曰く、「自転車盗難、信号無視や暴走をはじめ、深夜に集まり大声で会話、ルールを守らないごみ捨て、産業廃棄物の不法投棄、脱税まで。さらに、日本人女性に対するナンパ行為、未就学児童の増加と一部の不良化など…枚挙にいとまがない」という(世界日報電子版3月23日)。上記の言動を目撃したり、体験した川口市民は戸惑い、怒りが飛び出したとしても理解できる。

 作家の曽野綾子さんが2015年の産経新聞のコラムで「外国人を理解するのに居住を共にするのは至難の業だ。居住だけは別にしたほうがいい」といった趣旨を述べておられた。クリスチャンとして思いやりが深く、外国旅行を重ね、外国人をよく知っておられる曽野さんが海外で見て実感した現実だ。川口市の例のように、深夜隣人の外国人が騒いだり、公衆の決まりを守らなかったりすれば、多くの日本人は我慢も限界がきて、怒りも湧いてくるだろう。外国人が少ないエリアに引っ越したくなる人が出てきても不思議ではない。

 ウィーンはカブールではないように、川口はクルドの町ではない。異国で居住する外国人は先ず、居住する国、社会の慣習、伝統を尊重しなければならない。当たり前のことだ。人は他者を100%理解できない。異国で別の宗教、文化で成長してきた外国人を理解するハードルはそれ以上に高くなる。

 類は類を呼ぶではないが、同じ家系、民族、出身国の人々が近くに集まり住むことで、コミュニテイーが生まれてくる。クルド系・コミュニテ―、セルビア・コミュニティといったようにだ。また、棲み分け理論ではないが、天敵から可能なだけ離れて生きていくためには、それぞれが特定の地域に住む。人もある意味で他の動物とは大きな相違がないのかもしれない。自分と歴史、民族、宗教、慣習が違えば、それだけ警戒心が生まれてくる。

 当方はウィーン16区に住んでいる。外国人が多く住むエリアとして知られている。深夜、煩い声も時には耳に入る。サッカー試合後の歓声、怒声は当たり前だ。いちいち怒ったり、喧嘩してもらちがあかない。

 ウィーン市には世田谷公園に日本庭園がある。週末には多くの市民が訪ねてくる。ところで、海外で日本庭園が開園されると、竹筒に水が流れてはじく音(鹿威し)が煩いという声が時に聞かれるという。水が流れる竹の音がなければ、日本庭園の静けさは生まれてこない。外国人が日本人の風情を理解することは決して容易ではない。

 日本では長い間、同じ民族が住んできた。教育水準も高いうえ 農耕農民として共存していくことを学んできた。一方、戦い、勝つか負けるかの明暗がはっきりとしている狩猟の世界に生きてきた国民は、どうしても闘争心が強まる一方、共存、連帯という面ではまだ未発展だ。一神教を信じる民族と多神教の国民ではその精神生活は異なる。目の前に砂漠しか見えない国では、目はどうしても上に向かい神への信仰が生まれてくる。人間、社会、国の相違点を挙げればきりがない。その相違点を対立や紛争の原因とせず、相違点の背景や歴史を知って和合を見つけ出すこと、それが人間の知恵だろう。これまで見えなかった共通点が浮かび上がってくるかもしれない。

 日本は不法移民・難民への監視、受け入れの取り締まりを強化しなければならない。ただ、外国人嫌悪・排斥になってはならない。異国に住めば、日本人も外国人なのだから。

北の不法核拡散に新たな監視ツールを

 ロシアが2023年4月、国連安全保障理事会の議長国に就任した時、欧米諸国では「ウクライナに侵攻し、戦争犯罪を繰り返すロシアが国連安保理の議長国に就任するのは冗談以外の何物でもない」といった囁きが聞かれた。ウクライナのクレバ外相はロシアの議長就任を「ジョークだ」と笑い飛ばした。世界の紛争問題の平和的解決を協議する国連の最高意思決定機関、国連安全保障理事会の議長ポストにウクライナに侵攻し、その主権を蹂躙し、多数の民間人を殺害するロシアが就任することになったからだ。

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▲国連安全保障理事会風景(安保理公式サイトから)

 ところで先日(3月28日)、北朝鮮に対する制裁決議の実施を監視する国連安全保障理事会専門家パネルの任期延長に関する決議案が、安保理理事国の過半数の支持にもかかわらず、ロシアの拒否権によって否決された。

 同パネルは、北朝鮮の核拡散を抑制する上で重要なツールであり、過去15年間、国連加盟国が制裁を忠実に実施するのを支援してきた。このため、安保理事会はパネルの任務を毎年延長してきた。それが今回は違ったのだ。ロシアと北朝鮮の最近の蜜月関係を知っている読者ならば、「モスクワは武器を供給してくれる北朝鮮に恩を返したのだろう。モスクワの意図は丸見えだ」と受け取るだろう。

 韓国情報筋は「北朝鮮の違法な核拡散活動は今後ますます露骨になる可能性がある」と懸念している。金正恩総書記は核能力の強化を国家目標に置き、核兵器の小型化、原子力潜水艦、弾頭ミサイルなどの開発に乗り出している。北側の一連の弾道ミサイル発射や超音速ミサイルエンジンのテストにより、アジア地域の安全保障の危機を引き起こすだけでなく、世界的レベルで核の拡散を加速させることになる。

 北朝鮮にとっては朗報だろう。専門家パネルが廃止されれば、今後、誰が北朝鮮の核開発を監視できるだろうか。例えば、核エネルギーの平和利用を監視する国際原子力機関(IAEA)は核拡散防止条約(NPT)に基づいて、加盟国の核開発を監視してきた。しかし、IAEAは過去15年間、北朝鮮の核関連施設へのアクセスを失っている。効果的な監視ツールがなくなったのだ。

 IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。1994年、米朝核合意が実現したが、ウラン濃縮開発疑惑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、翌年、核拡散防止条約(NPT)とIAEAから脱退。06年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」が承認され、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは過去15年間、北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至っている。そして今、専門家パネルが廃止されれば、北朝鮮はもはや監視を恐れなく核開発に専心できる。そのうえ、ロシアという願ってもない核大国から技術支援も期待できるわけだ。

 ウクライナのクレバ外相はユーモアと少しの皮肉を込めて、「ロシアとウクライナ戦争の行方はここにきて北朝鮮が握っている」と発言した。関係者にとっては想定外の展開だからだ(「ウクライナ戦争の行方を握る北朝鮮」2024年1月26日参考)。

 ロシアと北朝鮮の関係強化は、もはや世界的な脅威となってきている。ロシアの拒否権は、ロシアと北朝鮮の緊密な関係の証明だ。北朝鮮の拡散の執拗な追求は、朝鮮半島、東南アジア、ヨーロッパを含む世界全体に脅威をもたらす。

 プーチン大統領と金正恩総書記は昨年9月、首脳会談で両国間の軍事協力の強化などで合意した。その最初の成果は北朝鮮の軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げ成功だろう。過去2回、打ち上げに失敗してきた北朝鮮はロシアから偵察衛星関連技術の支援を受け、昨年11月21日の3回目の打ち上げに成功した。北側は今後、数基の偵察衛星を打ち上げる予定だ。

 ロシアの今回の決定は、常任理事国としての責任を濫用した無責任なものだ。ウクライナの戦争で証明されているように、ロシアはすでに自らの利益のために一貫して国際的な規範や秩序を侵害している。ちなみに、ロシアのペスコフ大統領報道官は29日、国連安保理で対北朝鮮制裁に関する専門家パネルの任期延長決議案にロシアが拒否権を行使したことについて、「この立場の方がわれわれの利益に合致する」と述べた。タス通信が伝えた。

 一方、日本外務省は3月28日、「安保理において、米国提案の国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルのマンデートに関する安保理決議案が、ロシアの拒否権行使により否決されたことは遺憾だ。北朝鮮が核・ミサイル活動と安保理決議違反を繰り返す中、国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、2009年の設置以来、毎年全会一致でマンデートを延長し、その調査活動を通じて、北朝鮮による制裁回避活動に関する情報を提供する等、関連安保理決議の実効性を向上させるための重要な役割を果たしてきた」という内容の外務報道官談話を発表している。

 なお、古川勝久・北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員は先月29日、時事通信に対し、「専門家パネルがなくなれば、制裁違反の調査や監視の機能が国連から事実上消える。対北朝鮮制裁が形骸化しかねず、パネルの機能を継続する多国籍組織を有志連合でつくる必要がある」と述べ、有志連合での代替組織設置を提案している。具体的には、北朝鮮のロシア急傾斜を懸念する中国に呼びかけ、ロシアと北朝鮮の危険な軍事協力に圧力をかけ、北朝鮮の核・ミサイルの監視を継続していくという考えだ(「中国『金正恩氏のロシアへの傾斜』懸念」2024年03月26日参考)。

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