ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2024年02月

ロシアで働く北朝鮮労働者の実態

 韓国統一研究院(KINU)のオ・ギョンソプ氏(Oh Gyeong-seob)はロシアで働く北朝鮮労働者の実態を報告している。それを読むと、北朝鮮の労働者は奴隷のように酷使される一方、北労働者から入る外貨で金正恩総書記は核・ミサイル開発を進めているという。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は27日付電子版で、「私たちが別のところに気を取られている間、北は世界の大きな脅威となってきた」と警告を発する記事を掲載している。

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▲ロシアのプーチン大統領と金正恩総書記の会見(2023年9月13日、クレムリン公式サイドから)

 当方は10年前、このコラム欄で「金正恩氏は“現代の奴隷市場”支配人」(2014年12月9日参考)を書いた。そこで「海外で働く北労働者総数は約6万人から6万5000人、約40カ国に派遣されている。労働者海外派遣ビジネスからの総収入は年間1億5000千万ドルから2億3000万ドルと見られている。労働職種は建設業、レストラン、鉱山、森林業、道路建設などが主だ」とその実情を紹介した。オ・ギョンソプ氏の報告はその10年後のロシアでの北労働者の実情だ。

 以下、オ・ギョンソプ氏の報告の概要を紹介する。

 ロシアに派遣された北朝鮮労働者の数を正確に掌握することは難しい。2019年の国連安全保障理事会決議(UNSCR)2397の採択後、ロシアは2019年末までに、ほとんどの北朝鮮労働者を帰国させたと安保理に報告し、約1000人しか残っていないと報告した。しかし、米国国務省の年次「2023 Trafficking in Persons Report」によると、2022年にロシア政府が北朝鮮の海外労働を禁止する安保理決議を回避するために4723のビザを発行または再発行したことが明らかになった。これらの労働者の大多数は極東地域の建設および伐採産業に従事しており、モスクワとサンクトペテルブルクで建設に従事している数千人がいる。北朝鮮とロシアの間の関係が強化される中で、ロシアに残る北朝鮮労働者の数が約3万人から5万人に急増すると予想されている。

 KINUによってインタビューされた北朝鮮の亡命者によると、ロシアに派遣された北朝鮮人労働者は3万人以上いると証言している。ロシアが北朝鮮労働者を雇用することは、安保理が課した制裁に違反している。決議2397では、加盟国に対して、24カ月以内に収入を持つすべての北朝鮮労働者を帰国させ、27カ月以内に制裁委員会に報告することが義務付けられている。これらの規制にもかかわらず、ロシアと北朝鮮は制裁を回避または回避する方法を見つけており、北朝鮮労働者を帰国させる義務を避け、新たな雇用を継続している。その理由としては、深刻な労働力不足であり、ウクライナの戦争にも従事していることが挙げられるという。

 ロシアのマラット・フスヌリン副首相は、2022年9月のロシアメディア(RBC TV)とのインタビューで、ロシア建設市場の労働力不足を緩和するために最大5万人の北朝鮮労働者を配置する計画を明らかにした。北朝鮮の高麗航空が2023年8月にロシアのウラジオストクに定期便を再開したことに続き、北朝鮮労働者の流入が増加している。北朝鮮制裁を回避するため、ロシアは頻繁に北朝鮮労働者に学生ビザを発行し、観光または技術ビザの名目のもとで滞在を許可している。

 ロシアでの北朝鮮労働者の問題が2023年9月12日にロシアのヴォストーク宇宙基地で開催された金正恩総書記とプーチン大統領の首脳会談で議論されたと推測されている。国家情報院は、最近の北朝鮮のロシアへの労働者派遣の動きを注視していると述べた。クレムリンのドミトリー・ペスコフ広報官は、この北朝鮮・ロシア首脳会談の前後に、必要に応じてロシアが北朝鮮との国連制裁について議論する用意があると述べた。国連制裁にもかかわらず、北朝鮮労働者のロシアへの派遣が着実に増加し続けると予想される。

 北朝鮮は海外労働者の派遣を通じて外貨収入を獲得する一方、ロシアはウクライナの戦争および地方都市の欠員による労働力不足を補うために北朝鮮労働者を受け入れる必要がある。

 派遣された北朝鮮労働者は、公正な賃金、安全な労働条件、強制労働からの保護など、さまざまな人権侵害に直面している。まず第1に、2016年、ロシアの建設現場で働いていた北朝鮮の労働者は、年間7万ドルを国に支払わなければならず、年間2000ドルを超える収入を得るのが難しいと証言した。第2に、北朝鮮の労働者は安全な労働条件で働く権利を奪われている。彼らはロシアで伐採や建設などの過酷で危険な仕事を行っている。

 2014年までマガダン州で働いていた亡命者は、1日に16時間の勤務が義務付けられていたと証言した。2023年5月、ウラジオストクの建設現場で働く北朝鮮の労働者は、夕食休憩を取らずに午後10時まで働いており、適切な安全装置なしに高所で危険な鉄工事に従事していたと報告された。第3に、北朝鮮の労働者は強制労働を拒否する権利を否定されている。一方、北朝鮮当局は監督者と警備員を派遣し、労働者を監視している。さらに、契約終了後に北朝鮮に戻りたいと願っている労働者でさえ、しばしば海外に留まるよう強制される。

 外貨は主に核開発およびミサイル開発に使用されると考えられる。北朝鮮は外国で働く労働者を送り出し、2017年には中国(約5万人)およびロシア(約3万人)に送り出された約8万人の労働者に重い税金を課し、年間5億ドル以上(約671億ウォン)を得ていると推定されている。北朝鮮の労働者は、月給の70%を北朝鮮当局に、20%を地元の管理部門に送金し、約10%しか受け取れない。

 安保理の北朝鮮制裁委員会は、仮想通貨の盗難や海外労働者の派遣によって得られた資金が核開発に転用されていると語っている。専門家パネルの報告によると、2022年の北朝鮮の仮想通貨の盗難額は170億ドルを超えた。北朝鮮が仮想通貨ハッキングと海外労働者の派遣によって得た外貨を核兵器および大量破壊兵器の開発に資金提供していることが明らかにされている。

元米大使「トランプの予言」正しかった

 トランプ氏は予言者ではない。れっきとした米国の前大統領であり、次期大統領候補者に共和党から出馬を願っている政治家だ。ただ、同氏の言動を振り返ると、政治家というより予言者という表現のほうが当たっているように感じることがある。その発言は時には支離滅裂であり、突発的であり、論理性とは程遠いことが多いが、その発言内容は結構当たっているのだ。予言者のようだから、エスタブリッシュメントからは批判され、誤解されることは避けられない。

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▲駐独元米国大使のリチャード・グレネル氏(ウィキぺディアから)

 トランプ氏本人は自身を政治家と考えているから、予言者としての資質とは自身の中で時に衝突する。一方、熱狂的なトランプファンは論理性など彼には求めていない社会層出身者が多いから、トランプ氏が中傷され、批判されたとしても彼からは離れない。批判され、中傷されればされるほどファンはむしろ熱狂的になる。

 欧州の政治学者が米国のトランプ熱を理解できないのはある意味で当然かもしれない。トランプ氏は自身の願いとは異なり、21世紀の予言者として登場してきた人物かもしれない。例えとしては妥当ではないが、イエスに従った人物はペテロ、ヤコブといった漁師たち、取税人、売春婦たちが多かった。律法学者、パリサイ人といった学者、当時のエリート層ではなかった。彼らは最先頭に立ってイエスを批判、中傷した人物たちだった。トランプ氏にも同じことが言える気がするのだ。

 興味深いニュースが流れてきた。2020年までトランプ政権下で駐独米大使を務めたリチャード・グレネル氏(Richard Grenell)は独紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングとのインタビューで、「トランプの予言は全て正しかった。もしメルケル首相(当時)が彼の言うことを聞いていたら、ウクライナ戦争は存在しなかっただろう」と主張しているのだ。

 トランプ大統領時代の側近の1人、元駐独米大使のグレネル氏は、「ウクライナとガザ地区での戦争の責任はアンゲラ・メルケル元首相にある。トランプ氏は当時、ドイツに早急に満たさなければならない3つの要件を提示していた。.離襯鼻Ε好肇蝓璽爍欧僚焉、国防費の増加、イランに対する新たな制裁だ。最終的には歴史がそれらの要件が正しいものであったことを証明した」というのだ。

 具体的に見てみよう。.瓮襯吋觴鸛蠅慮綰ぅ轡腑襯勅鸛蠅魯蹈轡△肇疋ぅ調屬離蹈轡∋催形灰ス輸送パイプライン建設計画「ノルド・ストリーム2」の承認を停止した。パイプライン建設は既に完成し、関係国の承認待ちだった。同計画に対しては、トランプ氏は「ロシアのエネルギー依存は欧州の安全にとって危険だ」と受け取っていた。▲肇薀鵐彁瓩和臈領時代から北大西洋条約機構(NATO)加盟国は自国の国防費に対し国内総生産(GDP)比2%を実現すべきだと要求してきた。NATOのストルテンベルグ事務総長は14日、記者会見で、加盟国31カ国中、18カ国が目標の対GDP比2%を実現できる見通しだと表明している。イランは国際原子力機関(IAEA)の査察を拒否し、濃縮ウランを増産してきている。イランの核開発計画は危険な水域に入ってきた。

 トランプ氏が警告していた3要件はその後、実現されるか、その方向に向かっているわけだ。これがグレネル氏の「トランプの予言は正しかった」という証となるわけだ。ドイツ民間ニュース専門局ntvは25日、ヴェブサイトで「メルケル氏はウクライナ戦争で責任がある」という見出しで報じていた。グレネル氏は、 「メルケル首相が私たちに従っていれば、ウクライナやガザでの戦争は起こらなかっただろう」と語っているからだ。

 ちなみに、トランプ氏がNATOを弱体化させたかったというニュースに対し、グレネル氏は「トランプ大統領は、NATOが強くなりたいのであれば、強化に取り組むつもりだ。そのためには全員が公平に貢献しなければならない、という立場だった」と説明する。トランプ氏の「GDP比2%を実現しない国は守らない」という部分だけが拡大して報道されたため、欧州諸国は米国がNATOから離脱するのではないか、といった懸念が囁かれた。ミュンヘンの安全保障会議(MSC)でもトランプ氏の発言が関係者の話題を独占していたほどだ。

 メルケル政権(2005年11月〜2021年12月)は16年間続いた。その期間、メルケル首相は対ロシア、対中国政策で融和政策を実行してきた。ロシアがクリミア半島を併合した時もメルケル政権はプーチン政権に対して終始甘い対応だった。その結果、プーチン政権はその強権政治を拡大し、経済問題では、メルケル首相は中国の覇権主義を無視し、16年間の政権時代に12回訪中するなど中国経済依存体質を生み出していった。

 ウクライナ戦争の勃発後、メルケル氏の政治舞台での登場、発言が急減した。ドイツのメディアもメルケル氏に発言を求めなくなった。物理学学者らしい合理性、論理性を重視し、移民・難民殺到時には福音主義派の牧師の家庭に育ったメルケル首相は人道主義的な対応で多くの移民・難民を受け入れていった。

 メルケル氏の外交政策は、非合理性、非論理性、突発性がトレードマークの予言者トランプ氏のそれとは180度異なっていた。だから、両者が会合した時も歯車がかみ合わなかった。16年間のメルケル政権下で国民は経済の安定を享受できたが、ここにきて国民経済は中国経済の低迷もあってリセッション(景気後退)に陥り、外交政策ではそのツケを払わされている。

欧米の懸念「ロシアが敗北した場合」

 欧米諸国はウクライナに武器を供与してきたが、戦闘機やロシア領土まで届くミサイルの供与は拒否してきた。それは北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ戦争に介入し、NATOとロシアの戦争に発展することを恐れているからだといわれてきた。その説明には一理あるが、それ以上に欧米諸国が恐れていることがある。「ウクライナの敗北」以上に「ロシアの敗北」を恐れているのだ。

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▲ウクライナとNATOの旗(NATO公式サイトから)

 ロシア軍がウクライナに侵攻した直後、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアとの戦争は単に我が国とロシアの戦争ではない。民主主義世界をロシアの侵攻から守るための戦争だ。ウクライナ軍は欧米諸国の安全のためにロシア軍と戦っているのだ」と主張し、欧米諸国に武器を提供するようにかなり強い口調で要求してきた。ここにきてウクライナから米戦闘機やドイツの空中発射巡航ミサイル「タウルス」の供与を求める声が強まってきている。

 しかし、ロシア軍との戦闘が長期化し、消耗戦となってきた後、欧米諸国でウクライナ支援への結束が緩んできている。ゼレンスキー大統領は欧米諸国を可能な限り訪問し、国際会議に参加してウクライナ支援を訴えている。同大統領は欧米諸国の支援疲れが見られ出してきたことを感じてきたからだ。

 問題は、その支援疲れは決して戦争の年月の結果だけではないことだ。プーチン大統領のロシア軍がウクライナ軍に敗北した場合、その後どのような展開が予想されるかというシナリオが現実味を帯びて差し迫ってきたのだ。プーチン大統領は敗北を甘受できないから、核兵器を導入するかもしれない。ポーランドやバルト3国に攻撃を始めるかもしれない、等々の悪夢が再び浮上してきたのだ。

 ドイツ国営放送「ドイチェ・ヴェレ」の東欧専門家は25日、討論番組で、「欧米諸国はウクライナの敗北以上にロシアの敗北を懸念し出している」と述べていた。すなわち、米国を含むNATO諸国はロシアがウクライナ戦争に敗れた場合どうなるかという懸念が、ウクライナ軍がロシア軍に敗北を喫した場合より深刻なテーマとなってきているのだ。

 欧米諸国のウクライナへの武器供与がキーウが望むようにスムーズにいかないのは、第2次世界大戦後、西側諸国では軍需産業が武器の生産を縮小していることもあるが、それ以上にロシアがウクライナ軍との戦いで守勢に追い込まれ、敗北が回避できないという状況になった場合、モスクワが核兵器を導入する危険性が出てくるからだ。ウクライナ戦争敗北後のプーチン政権のその後の展開が読めないため、米国を含む西側諸国は恐れを感じ出してきたというわけだ。

 一方、ウクライナの敗北の場合、NATOは対ロシア国境への防衛強化に乗り出し、防備を強化することになる。すなわち、西側にとって選択の問題になる。NATO加盟国の国境警備を一層強化するか、ロシアとの全面衝突の危険を甘受するかだ。ドイチェ・ヴェレによると、欧米諸国は前者に傾いてきているというわけだ。

 ところで、ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに侵攻したが、その日を期して、欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」の総括を特集しているが、2年目は欧米諸国には当てはまるが、ウクライナ国民にとって今年は2014年から10年目にあたる年だ。欧米諸国にとって、ロシアの2022年2月24日のウクライナ侵攻はサプライズだったかもしれないが、プーチン大統領がクリミア半島の併合後はウクライナ東部・南部だけではなく、オデーサやキーウをも占領しようとしていることをウクライナ側は知っていた。戦いは2014年から続いてきているのだ。欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」ではなく、「ウクライナ戦争10年目」の特集を張るべきだったのだ。

 第2次世界大戦後、70年以上の戦争のない平和の時を享受してきた欧州諸国では、軍事産業は縮小し、最新兵器の開発には投資してきたが、戦車や装甲車、弾薬やミサイルといった通常兵器の生産は限定されてきた。だから、ウクライナに武器を提供するといっても即大量に戦車やミサイルを生産できる体制はない。ウクライナと武器の生産で合意して、武器の大量生産に乗り出しても戦争がいつまで続くか不明のため、軍需産業に投資する企業は出てこない。例外は、米国だけだ。

 ちなみに、ロシアは現在戦時経済体制を敷いている。国内総生産(GDP)比6%の国防費を支出している。一方、NATO加盟国は軍事費をGDP比2%を目標としている。

ロシアでは「女性」も「母親」も強し

 ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が16日、シベリア北極圏ヤマルの刑務所で死去した。明確な死因については不明だ。同氏の死の連絡を受けたナワリヌイ氏の母親リュドミラさんは22日になって息子の遺体に対面できたが、ロシア当局はナワリヌイ氏の密葬を要求した。それに応じない場合、ナワリヌイ氏が亡くなった刑務所内で埋葬すると警告したという。刑務所側は24日になってナワリヌイ氏の遺体をようやく母親に引き渡した。

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▲バイデン米大統領に面接したナワリヌイ氏の夫人、ユリアさん(ホワイトハウス公式サイドから、2024年2月22日)

 ナワリヌイ氏の報道官キラ・ジャーミッシュ氏は24日、X(旧ツイッター)で、「ナワリヌイ氏の遺体は母親に引き渡された。遺体引き渡しのために連帯してくれた全ての人々に感謝する。家族の希望通り、そしてアレクセイさんにふさわしい葬儀の催しが出来るが否かはまだ分からない」と述べている。

 刑務所側が遺体の引き渡しを亡くなってから1週間余り拒否したのは、ナワリヌイ氏の死因が判明するのを恐れていたからではないかと推測された。反体制派活動家の遺体引き渡しを拒否するロシア当局に対して、国際社会からも強い批判が起きていた。ナワリヌイ氏の遺体には多数の殴打された跡があったともいわれた。また、虐待で死去した場合、その痕跡が司法解剖などで判明する可能性があったために一定の時間が必要だった、といった憶測情報が流れていた。

 ナワリヌイ氏は昨年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極北の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられてきた。刑務所管理局FSINは16日、「ナワリヌイ氏は流刑地で散歩中、意識を失って倒れた。救急車が呼ばれ、緊急救命措置が取られたが無駄だった」と説明してきた。ナワリヌイ氏の関係者によると、死亡診断書には「自然死」と記載されていたという。

 ナワリヌイ氏の報道官は、「ナワリヌイ氏の母親は、家族だけでなく支持者の皆さんに別れを告げることができるよう、公の葬儀を行うよう求めている」と説明。ナワリヌイ氏の母親は、モスクワのホバンスコエ墓地への埋葬を望んでいるという。

 一方、ナワリヌイ氏の夫人ユリア夫人と娘は22日、バイデン米大統領と面接している。夫の遺志を継承して反プーチン運動をすると表明したユリア夫人はビデオメッセージで、「プーチンは自身を敬虔な正教徒と自称しているが、夫の遺体をもてあそぶ悪魔主義者だ。夫を拷問し、彼の遺体を傷つけている。彼はあらゆる人間の法則と神の法を破っている。プーチンはロシア正教の教会でろうそくを手にポーズをとり、聖像にキスをしているが、実際には憎しみと復讐心によって動かされている。真のキリスト教徒なら、亡くなったアレクセイに対して今やっているようなことはできないはずだ」と述べている。

 ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談した後、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。同氏の治療に当たったベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出した。何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。回復後、モスクワに戻った直後、当局に拘束され、最終的には19年の禁固刑の有罪判決を受け、シベリアの流刑地で収監されていた。

 モスクワからの報道によると、ロシアでは24日、警察当局の厳しい監視と暴力にもかかわらず、多くの国民はナワリヌイ氏とモスクワのウクライナに対する侵略戦争開始2周年を追悼した。治安当局は多数の追悼者を逮捕している。独立系ポータルサイト「OVD.info」には、24日夕方時点で49人の逮捕者が出たという。

 このコラム欄でも報道したが、ウクライナ戦争に動員されたロシア兵士の親族による「息子、夫を家に帰せ」という抗議活動(プーチ・ダモイ運動)が広がり、モスクワとエカテリンブルク市では警察当局が抗議デモに参加した女性たちを逮捕している。彼女たちは「動員されたが、500日が過ぎたが、夫や息子がまだ戻ってこない」と訴えている。ロシア当局は1980年代末から90年代初めにかけ起きた「息子、夫を返せ」という大規模な女性運動の再現を恐れている(「プーチン氏と『ブーチ・ダモィ運動』」2024年2月12日参考)。

 ナワリヌイ氏の遺体を取り戻したのは母親リュドミラさんだった。フランスの作家ヴィクトル・ユーゴは「女は弱し、されど母は強し」という有名な言葉を残したが、ロシアでは女性も母親も強い。

ウクライナ人記者たちの「2年間」

 ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて今月24日でまる2年が経過し、ロシアとウクライナ両国の戦争は3年目に入った。侵略者のプーチン大統領ばかりか、ウクライナ国民にとっても戦争が3年目に入るとは予想していなかったはずだ。

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▲ロシアアとの戦争2年目の24日、国民に向かって演説するゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府公式サイトから、2024年2月24日)

 「いかに必要であろうと、いかに正当化できようとも、戦争が犯罪だということを忘れてはいけない」と語った米小説家ヘミングウェイの言葉を思う出す。どれだけ多くの命が失われ、莫大な被害と犠牲が過去730日間の戦闘で払われてきたことであろうか。特に、ウクライナ国民にとってはその思いが強いはずだ。22年2月24日を期して、これまでの日常生活は急変し、家庭はバラバラになり、人生そのものが激変していった。ウィーンに避難してきたウクライナの女性や子供たちの困惑した表情を見るのにつけ、そのように痛感せざるを得ない。

 ウィーンに事務局を置く国際新聞編集者協会(IPI)から週刊ニュースレターが届いた。欧州連合(EU) 加盟国における報道とメディアの自由の侵害を追跡、監視し、対応するヨーロッパ全体のメカニズム「報道の自由迅速対応」(MFRR)は、「ウクライナのジャーナリストとの連帯を再確認し、彼らの安全と報道の完全な自由の保証と、ジャーナリストが活動を続けるために必要な財政的および技術的支援を提供する新たな取り組みを求める。ウクライナのジャーナリストたちは過去2年間、しばしば多大な個人的犠牲を払いながらも、地域社会と外の世界のためにこの戦争の恐怖を報道する中で、信じられないほどの勇気と回復力を示してきた。私たちは、ロシア軍による安全の脅威や戦争によってもたらされた経済危機に対処するために、ウクライナのメディアに対する国際支援の継続を求める。我々は、ロシアに対し、国際人道法を遵守し、ジャーナリストに対するあらゆる攻撃を自制するとともに、ロシア軍がそのような攻撃に関与している数多くの事件を調査するよう繰り返し要求する」と主張している。

 IPIによると、現在までに少なくとも11人のメディア関係者が殉職し、34人が取材中に負傷したという。「戦争を取材するジャーナリストに対する直接攻撃の数は昨年は減少したが、前線のジャーナリストは引き続き大きなリスクに直面している。 昨年は戦争取材中に少なくとも12人のジャーナリストが負傷した」という。

 IPIが管理する「ウクライナ戦争報道自由追跡調査」には、ウクライナでのメディアに対する攻撃件数は404件記録されており、その大部分はロシア軍またはロシア占領当局によって行われたものだ。ウクライナのメディアは頻繁にサイバー攻撃にさらされており、戦争に関する報道が妨げられている。また、占領下のウクライナ領土で働いていた少なくとも17人のジャーナリストがロシアに投獄されたままだ。

 ウクライナ人ジャーナリストが直面している安全上の脅威の大半はロシア当局に責任があるが、MFRRの監視は、ウクライナ人ジャーナリストが国内で活動を続ける中で、国内関係者による障害にも直面しているという。例えば、2023年、ウクライナ当局が情報提供を拒否したり、ジャーナリストの活動を妨害したりする事件が31件記録されており、そのほとんどが戦争を言い訳になっているという。

 ジャーナリストもまた、「愛国心の欠如」を理由に他の関係者から嫌がらせや脅迫を受けることが増えている。著名な調査記者ユーリ・ニコロフ氏は最近、自宅で見知らぬ人物から嫌がらせを受け、ニコロフ氏が兵役を逃れていると非難されたりしている。

 ウクライナ治安局(SBU)の関係者らは、調査機関Bihus.infoのジャーナリストに対して組織的な監視を行い、ジャーナリストの信用を傷つけようとしているというのだ。

 ウクライナのメディアは依然として悲惨な状況にある。ロシアの本格的な侵略が始まって以来、同国の広告市場は3分の2減少し、巨額の収入減につながっている。MFRRは、「国際社会と特に欧州の利害関係者に対し、ウクライナメディアへの長期財政支援への取り組みを新たに拡大すべきだ。継続的な支援がなければ、ウクライナのメディアは戦争の状況を世界に伝え続けることができなくなり、多くのジャーナリストが払った犠牲は無駄になってしまう」と警告を発している。

 以上、IPIのニュースレターからその概要を引用した。

 戦時下のウクライナでジャーナリストが直面する困難さは通常のジャーナルストでは想像できないものがあるだろう。 彼らが世界に向かって発信する情報がなければロシア軍の戦争犯罪の全容を掌握できない。戦場で命がけの取材活動する多数のウクライナ人ジャーナリストたちの健闘と安全を祈らざるを得ない。

ロシアはカラ=ムルザ氏を釈放すべきだ

 ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が収監先の刑務所で死去して23日で1週間が過ぎた。その間、ナワリヌイ氏の母親リュドミラさんは22日ようやく息子の遺体に対面できた。リュドミラさんの説明によると、ロシア当局はナワリヌイ氏の密葬を要求したという。遺体が家族の手に渡れば、多くの国民が告別式に参加することをクレムリンが恐れているからだ、といわれている。一方、夫の遺志を継承してロシアの民主化運動を推進していくと発表したナワリヌイ氏の妻、ユリア夫人は22日、訪問先の米サンフランシスコでバイデン米大統領と面会し、夫の遺志を改めて伝えている。以上、ナワリヌイ氏の死去後の1週間の主要な動きだ。

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▲ロシアのジャーナリスト、ウラジーミル・カラ=ムルザ氏(ウィキぺディアから)

 ロシアの政情は今、3月17日の大統領選にその焦点が集まっている。大統領選では通算5期目を狙うプーチン大統領の当選は既成事実だ。プーチン氏の勝利を脅かす対抗候補者はいないからだ。焦点は投票率だろう。

 ところで、欧米諸国は、ロシア反体制派ジャーナリストがナワリヌイ氏と同じようにシベリアの流刑地で25年の懲役刑で服役していることを忘れてはならない。このコラム欄でも一度紹介したロシア系英国人の反政府活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏(42)だ。同氏はナワリヌイ氏の死後、同胞たちを激励し、「アレクセイが言っていたように、諦めてはならない。私たちが憂鬱と絶望に屈するなら、それはクレムリンが望んでいることだ」と語り、ナワリヌイ氏の死後、ロシアの民主化運動を継続していく意向を表明している(「ロシアの『報道の自由』は消滅した」2023年4月20日参考)。

 プーチン大統領が2022年2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させた時、これは戦争ではなく「特別軍事行動」と称し、戦争と呼んだ人物は刑に処されると語ったが、カラ=ムルザ氏は、「わが国の軍が隣国を侵略し、戦争を行っている」と述べ、CNNとのインタビューでは「ロシアは殺人者の政権だ」と厳しく批判したため、逮捕された。そして2023年4月の非公開裁判で、「ロシア軍に関する誤った情報を広め、望ましくない組織と関係を持っている」として懲役25年の有罪判決を受けた。ロシアの裁判所では、判決と量刑を言い渡すまで長い時間がかかるが、この日はわずか数分で裁判官が判決を下している。

 カラ=ムルザ氏は、「犯罪者はその行為で罪を償わなければならないが、私は政治的見解のために刑務所にいる。モスクワの裁判は1930年代のスターリンの見世物裁判のようだ。自分が言ったり、書いたことはすべて事実であり、それを誇りに思っている」と述べている。

 なお、彼の弁護士によると、懲役25年は、プーチン大統領を批判した人物に対する、知られている限り最長の懲役刑だ。同氏はプーチン大統領の最も厳しい批評家の1人と考えられている。彼は長年、クレムリンに対する西側の制裁を求める運動を行っていた。同氏はナワリヌイ氏や、2015年2月に殺害された野党政治家のボリス・ネムツォフ氏(当時56)と親しかった。家族と弁護士によると、カラ=ムルザ氏は過去2度、2015年と17年に毒殺未遂により神経疾患の多発性神経障害を患っているという。

 カラ=ムルザ氏の妻、エフゲニヤさんはオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「彼も亡くなったナワリヌイ氏と同様、モスクワに戻れば生命の危険があることを知っていたが、ロシアに帰国した。彼はロシアは本来もっと良くなるべき国だ、と信じていたからだ」と証している。

 BBCは2023年4月18日、「カラ=ムルザ氏は、ソ連時代の有名な反体制派の家庭の出身。父親のウラジーミル・シニアもクレムリンを批判していた。10代で母親とイギリスに渡り、英国籍を取得。ケンブリッジ大学に進んだ。ジャーナリズム界で働いた後、ロシアの著名な反体制派指導者で政治家のボリス・ネムツォフ氏の顧問になった。ネムツォフ氏は2015年、モスクワで暗殺された。カラ=ムルザ氏自身も2度にわたって毒殺されかけ、回復のため家族とともにアメリカに移住した。その後、ロシアに戻り、同国のウクライナ侵攻後は身の危険が高まったが、ロシアにとどまり続けた」と報じている。

 なお、エフゲニヤ夫人はBBCの取材に対し、「私は彼の信じられないほどの誠実さを愛するとともに憎んでいる。彼は(戦争反対を訴えて)街頭に出て逮捕された人たちと一緒にいなければならなかった」と述べている。

ロシア経済はなぜ制裁に耐えられるか

 欧州連合(EU)は21日、ウクライナの主権を蹂躙して侵攻したロシアに対し、13回目のパッケージとなる追加制裁案で合意した。ブリュッセルからの情報によると、「これまでの制裁の中でも最も包括的なパッケージの一つ」という制裁案は今月24日、ロシアのウクライナ侵攻2年目の日に正式に承認される予定だ。制裁は新たに約200の個人、団体に対し渡航禁止などが科せられる。今回は初めて中国本土の企業も制裁対象に入った。また、無人機の製造メーカーに関わる企業がリストアップされた。

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▲航空宇宙軍の軍事部隊および師団への国家勲章の授与するプーチン大統領(2024年2月21日、クレムリン公式サイトから)

 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は21日、X(旧ツイッター)に、「新たな懲罰措置によりロシアのドローンへのアクセスはさらに制限される」と強調し、制裁の効果に期待を表明している。

 ところで、欧米・日本など先進経済国から厳しい制裁を受けているロシアの国民経済はどうだろうか。経済統計を見る限りではEUの盟主の経済大国ドイツよりはるかにいい。リセッション(景気後退)に悩むドイツ経済を尻目に、ロシア経済は2023年、前年のマイナス成長から約3・5%のプラス成長を達成しているのだ。

 欧州の経済学者は、「ロシア経済は戦時経済体制下にあるから一定の成長は実現するが、戦車を大量に製造しても国民経済の実質的成長には繋がらない」と説明する。ロシアは石油・天然ガスなど地下資源に恵まれている。この恩恵はやはりモスクワにとって大きいだろう。

 旧ソ連・東欧諸国の経済統計分析で有名な「ウィーン国際比較経済研究所」(WIIW)は、「2023年のロシアの経済成長率は推定3・5%で、昨年のマイナス1・2%からプラス成長を記録。強いマクロファンダメンタルズ(公的債務や外国債務の低さなど)と、中国や制裁に参加していない他の国々への貿易の流れの方向転換のおかげで、経済は西側の制裁に対して回復力があることが証明された」と指摘。そして「景気回復の主な原動力は戦争関連の鉱工業生産と政府投資であり、一部の試算によれば、これらは製造業の成長に60%、GDP成長に40%貢献した。マイナス面としては、財政拡大により連邦予算が赤字に陥り、昨年はGDPの1・9%に達した。戦前はほぼ財政黒字の実績があったロシアにとって、これは極めて目新しいことだ。さらに、景気回復により生産能力の制約がますます増大しており、ほとんどの企業が深刻な労働力不足に悩まされている。財政状況の逼迫と生産能力の制約の増大により、2024年の成長率は1・5%に抑制される可能性が高い一方、インフレ率は年末までに5%程度に落ち着くため、段階的な金融政策緩和が可能となるだろう」と予測している。

 プーチン大統領は欧米諸国の制裁の影響を聞かれる度に、「大した影響はない」と豪語してきた。経済統計を見る限り、プーチン氏の強がりもそれなりの理由はあるわけだ。

 問題は、欧米諸国の制裁にもかかわらず、ロシア経済はなぜ依然機能しているかだ。ミュンヘンのIfo経済研究所とEconpol(経済財政政策研究のための欧州ネットワーク)は新しい報告書の中で、「ロシアは旧ソ連諸国、中国、そして北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコ経由で西側の経済制裁を巧みに回避している」と説明している。

 同報告書によると、「ロシアのこれら近隣地域からの重要な経済物品や軍事的に重要な部品の輸入は近年急増している。例えば、アルメニア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルコは2022年にはロシア経済に不可欠な物品、または軍需産業にとって重要な物品を50倍もロシアに輸出した。ロシアは現在香港から大量の半導体を輸入している。中央アジアではカザフスタンが制裁回避において主要な役割を果たしている。カザフスタンからロシアへのデータ処理機器輸出は2022年以降、劇的に増加している」という。欧米諸国にとっての懸念は、トルコの企業が制裁回避に役割を果たしていることだ。トルコはNATOの加盟国だ。

 ちなみに、スイスは21日、「中立国のわが国を通じてロシア制裁を回避しようとする企業や個人に対して、より強力な措置を講じる」と発表している。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)が報じたところによると、スイスに拠点を置く商品取引会社2社が海外子会社を通じて対ロシア制裁を回避した疑いがあるとして、スイス当局が捜査に着手した。商品取引会社は、アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸諸国にある子会社を通じ、スイスの対ロシア制裁を回避してきたという。

 欧米諸国の制裁は現時点では資源大国のロシア経済を危機に陥れるほどの影響を与えていないが、全く効果がないかというとそうとは言えない。ボクサーがボディーブローを受け続けると、ラウンドを重ねるのにつれて効いてくるように、欧米諸国の対ロシア制裁は多分、ボクサーのボディーブローだろう。その効果が出るまで制裁を続ける以外にない。懸念は、ボディーブローを受け続けているボクサー(ロシア)が倒れる前に、制裁を科す側(欧米諸国)が叩き疲れたり、息切れしないかという点だ。

中露「海外亡命反体制派から目を離すな」

 「兄弟」の話をする。ここでは弟アベルを殺した兄カインの人類最初の殺人事件の話を繰り返すつもりはない。ロシアのプーチン政権と習近平国家主席の中国共産党政権が“兄弟のように似ている”という話だ。

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▲習近平国家主席とプーチン大統領(2023年3月21日、クレムリン公式サイトから)

 なぜ改めてそうのように感じたかを以下、説明したい。

 ロシアは旧ソ連共産党政権の後継国だから、程度の差こそあれ70年以上の共産国の歴史を引きづっている。一方、中国共産党政権は依然、共産党一党独裁の国家だ。その意味から、両国の国体は酷似している。ロシアで多くの国民が粛清され、弾圧されているように、中国でも人民は弾圧され、法輪功メンバーたちは生きたまま臓器を摘出されるといった非人道的な犯罪が国家の管理のもとで運営されている。

 ロシア軍からウクライナに亡命した28歳のパイロットが「ウクライナ戦争に関与したくない」と決意し、キーウに亡命。その後、スペインで亡命生活を送っていたが、19日、銃弾を受けて殺害されているところを発見された。冷戦時代は西側に政治亡命すれば、例外もあったが、何とか身の安全を確保されたが、プーチン政権と習近平政権の時代に入ると、亡命者は国外に逃げても安全とはいえなくなった。ロシアの青年パイロットのように執拗に追及され、最悪の場合、モスクワや北京から派遣された刺客に殺されてしまう。政治亡命者は今、冬の時代を迎えているのだ。

 グローバリゼーション時代の影響だという人もいるかもしれない。どの国に逃げても、世界は昔のように大きくはなく、亡命者の隠れ場所は発見され、毒薬、ドローン、銃殺などの手段で殺されてしまう危険が排除できなくなってきたのだ。

 例えば、スイスは昔、母国で迫害され、生きる場所を失った亡命者の隠れ地といわれ、世界から逃げてきた人々が住み着いた。ウラジーミル・レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、ジャン・カルヴァンはスイスに逃れて宗教改革を起こした。21世紀の現代、アルプスの小国スイスに亡命しても安全とはいえなくなった。ロシアの元石油王、ユコス社社長だったミハイル・ホドコフスキー氏は2012年末に釈放されると一時期、スイスに亡命したが、現在はロンドンに生活している。安全問題があったからだ。

 ロシアの亡命者殺人事件は過去、多数起きている。例えば、英国で2018年3月4日、亡命中の元GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のスクリバリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見され、調査の結果、毒性の強い神経剤が犯行に使用されたことが判明した。犯行は当時、GRUの関与が囁かれた。ちなみに、ロシアではGRUの他、ロシア連邦保安庁(FSB)とロシア対外情報庁(SWR)が海外で亡命者暗殺計画を実行する(「英国のスクリバリ事件の『核心』は?」2018年4月21日参考)。

 一方、中国共産党政権もプーチン政権に負けないほど海外亡命者狩りに専心している。中国共産党政権が海外に自国の警察署を設置、自国の反体制派活動家を監視しているというニュースが流れている。中国が海外に住む自国民を監視していること自体は新しいことではないが、その監視体制が強化されてきているのだ。

 スペインに拠点を置く「セーフガード・デファンダース」は「中国の国境外で警察活動は野放しになっている」として、「中国は世界21カ国、54カ所に 『海外警察サービスセンター』を設立している。それらのほとんどはヨーロッパにあって、スペイン9カ所、イタリア4カ所 、英国では、ロンドン2カ所、グラスゴー1カ所が発見されている」という。中国側は「海外に住む中国人へのサービスセンターだ」と説明しているが、「セーフガード・デファンダース」は、「中国共産党政権を批判する海外居住国民を監視し、必要ならば強制的に帰国させる機関だ」という。海外拠点の中国警察関係者から嫌がらせの電話や脅迫を受けた海外居住中国人が少なくないという。

 当方は2005年11月3日、シドニー中国総領事館の元領事で同年夏、オーストラリアに政治亡命した中国外交官の陳用林氏(当時37歳)とウィーンで会見した。同氏は江沢民国家主席(当時)が1999年に創設した「610公室」のメンバーだった。「610公室」は超法規的権限を有し、法輪功の根絶を最終目標としている。中国反体制派活動家たちは「610公室」を中国版ゲシュタポ(秘密国家警察)と呼んでいる。陳用林氏はオーストラリアにいる中国人社会を監視し、法輪功メンバーがいたらマークするのが任務だった。彼は自身の任務に疲れ、その職務に疑問を感じて亡命した。

 中国共産党政権は2014年、「社会信用システム構築の計画概要(2014〜2020年)」を発表した。それによれば、国民の個人情報をデータベース化し、国民の信用ランクを作成、中国共産党政権を批判した言動の有無、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化し、一定のスコアが溜まると「危険分子」「反体制分子」としてブラックリストに記載し、リストに掲載された国民は「社会信用スコア」の低い2等国民とみなされ、社会的優遇や保護を失うことになる。中国では顔認証システムが搭載された監視カメラが既に機能しているから、「社会信用スコア」の低い危険人物がどこにいてもその所在は直ぐに判明する。その監視システムの対象が海外に住む中国人にまで広げられてきているのだ(「中国、海外にも自国警察署を設置か」2022年10月28日参考)。

 参考までに、北朝鮮もロシアと中国両国と同様、海外に住む脱北者への監視を強めている。マレーシアのクアラルンプール国際空港での金正男氏殺害事件(2017年02月13日)を思い出す読者もいるだろう。いずれにしても、独裁国家と呼ばれるロシア、中国、北朝鮮は国外に亡命した国民からその監視の目を外さない、蛇のような執拗さがあるのだ。

韓国の「外交勝利」と北の「外交惨事」

 「外交」とは自国の国益を重視し、中・長期の視点から慎重に準備して実行していくものと思っていたが、北朝鮮の外交は一時の激怒や無鉄砲な衝動から、準備なく唐突に行われることがある、といった印象を受けた。

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▲軍事力強化に没頭する金正恩総書記(セゲイルボより)

 韓国情報筋は「北朝鮮政権の外交惨事」と表現していた。何のことかと聞くと、朝鮮中央通信(KCNA)によると、北朝鮮の金正恩総書記の実妹、金与正労働党副部長が15日、「個人的見解」と断りながら、「岸田文雄首相と金正恩総書記との首脳会談を開催することも可能だ」といった趣旨の談話を発表した。その突然の岸田首相への訪朝への招きは、その前日(14日)、韓国がキューバとの国交樹立を発表した直後だったからだ。

 もちろん、金与正氏の岸田首相の訪朝への招きにはそれなり根拠はある。岸田首相は9日、衆院予算委員会で停滞する対北朝鮮との外交を打破する意味もあってか金正恩総書記との首脳会談を開く意欲があることを示唆していたからだ。その発言への答礼として、金与正氏は「岸田首相の訪朝も」といった内容の談話を発表したと受け取ることもできるからだ。

 それに対し、韓国情報筋は「2月14日、わが国とキューバとの国交樹立というニュースに大慌てした北朝鮮側は韓国側への対抗という意味合いから、岸田首相の訪朝というカードを急遽切った」と述べ、北側が周到な準備の末、日本との国交回復という大きな外交的な課題に取り組んでいくといった真剣なものではないというのだ。

 北朝鮮にとってキューバは社会主義国の兄弟国だ。その国が北朝鮮の「最大の敵国」の韓国と外交関係を締結したのだ。金正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で、韓国との関係をもはや同族関係ではなく「敵対的な国家関係」と断言している。その韓国が兄弟国のキューバと国交を締結したから、北側の怒りは爆発したわけだ。

 金与正氏の談話を読んでも、その内容には全く新鮮味がない。日朝首脳会談の条件として「拉致問題は解決済み」を挙げているからだ。支持率が低下し、政権維持に苦しんでいる岸田首相とはいえ、そのような条件下で金正恩総書記と首脳会談に臨むわけにはいかないだろう。相手側が絶対に受け入れない条件を出して首脳会談を申し出た場合、その真剣度が疑われて当然だろう。

 韓国とキューバの国交回復について、韓国側は「ソウルの外交の勝利だ」という。韓国とキューバは14日、米ニューヨークで両国の国連代表部が文書を交わした。韓国は2016年、外交部長官が初めてキューバを公式訪問し、外交関係樹立の意向を伝えていた。両国は、北朝鮮の反発と妨害工作の可能性などを考慮し、水面下で交渉を進めてきたという。

 (韓国とキューバは1959年のキューバの革命以降、外交関係が切れていた。韓国にとってキューバは外交関係を持つ193番目の国で、国連加盟国で国交がないのは北朝鮮を除けばシリアのみだ)。

  北朝鮮の反応をみていると、冷戦終焉直後、韓国が旧ソ連・東欧共産国と次々に国交を締結していった時を思い出した。兄弟国とみていたハンガリーが韓国と国交を締結した時の平壌の激怒を思い出すと、韓国とキューバの国交樹立というニュースを北朝鮮指導部がどのように受け取ったかは容易に想像できる。

 北朝鮮を一層怒らせた理由はそれだけではない。韓国とキューバの国交樹立というニュースが2月16日の故金正日総書記の誕生日の2日前に発表されたことだ。金正恩氏と金与正氏の父親・金正日総書記の誕生日(光明星節)は北の最大の祝日の一つだ。その2日前に韓国がキューバと国交を発表したのだ。金正恩・与正兄妹が許しがたい冒涜と感じたとしても可笑しくはない。

 ちなみに、KCNAは15日、朝鮮労働党中央委員会が前日に平壌の万寿台議事堂で、北朝鮮駐在の外交団を招いて金正日の誕生日の祝宴を開いたと報じた(北側では公の祝賀会は通常前日開催される、祝日の当日は、関係者だけで開かれる)。

 これが北朝鮮の唐突な岸田首相へのエール発言となった背景だ。その意味で、岸田首相は平壌行の旅行鞄の準備などする必要はないだろう。ただ、金与正氏の談話について、韓国統一部のキム・イネ副報道官は16日、記者会見で「最近の日本と北の関係を綿密に見守っている。北の問題を巡っては韓米日が緊密に意思疎通している。北と日本の接触は北の非核化や朝鮮半島の平和と安定に寄与する方向で行われなければならない」(韓国・聯合ニュース日本語版)と述べ、金与正氏の談話の内容を一蹴せず、慎重に受け取っている。

 北朝鮮外務省は昨年末から在外公館の見直しを推進し、ウガンダ、アンゴラ、スペイン、在香港の総領事館、バングラデシュ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ネパールなどの大使館を次々と閉鎖している。これについて「外交的力量の効率的な再配置」と主張しているが、韓国側は、「国際社会による制裁の強化で外貨稼ぎが困難になり、公館の維持が難しくなっているため」との見方をしている。.北側の兄弟国は中国とロシアなど数カ国しか残っていない。

 北朝鮮の最大の外交課題は、米国との関係改善、対北制裁の解除だ。その意味で、金正恩氏は2019年、トランプ前大統領と首脳会談を通じて米朝関係の改善を図ったが、その外交は成果なく終わった。金正恩氏にとって米朝交渉の失敗は大きな痛みとなって残っているといわれる。

 韓国情報筋の「北の外交惨事」という指摘は、一概に韓国側の傲慢の現れとはいえない。韓国・キューバの国交樹立直後の“北の外交”はそれを端的に示した。

「ナワリヌイ氏の死」の衝撃が走る

 バルカン半島の盟主セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は親ロシア派指導者と見られているが、ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の急死の報にショックを隠せられない。

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▲EU外務・安全保障政策担当上級代表のジョゼップ・ボレル氏と会見するヴチッチ大統領(独ミュンヘンで開催されたMSCで、セルビア大統領府公式サイトから)

 ミュンヘンで開催された第60回安全保障会議(MSC)で16日、ロシアのプーチン大統領によって夫を殺害されたナワリヌイ氏のユリア夫人が演壇に立ってプーチン大統領の蛮行を厳しく批判した直後、会場にいた国家元首、政府首脳らは一斉に立ち上がって拍手を送った。その時、ヴチッチ大統領が同じように立ち上がったが、拍手しなかった。セルビア国営放送がそのシーンを放映した。「なぜヴチッチ大統領はユリア夫人のアピールに拍手を送らなかったか」といったメディアからの批判を受けた。

 ジャーナリストの質問に、ヴチッチ大統領は、「私は演壇で語っていた夫人がナワリヌイ氏の夫人とは知らなかった」と苦しい返答をしている。2メートル余りの長身のヴチッチ大統領が演壇のユリア夫人が見えなかったということはないだろう。

 ロシアの著名な反体制派活動家の獄死ニュースは親ロシア派政治家として知られているヴチッチ大統領にとってもやはりショックだったはずだ。ナワリヌイ氏の死の一報を聞いた直後、「愕然とした」と答えていることから見てもその動揺ぶりが分かる。

 セルビアは伝統的に親ロシア派。ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、世界の正教会ではロシア正教会離れが急速に進んでいる中、セルビア正教会は依然、モスクワ総主教キリル1世のロシア正教会と密接な関係を維持している数少ない正教会だ。ヴチッチ大統領は外交・政治的にはロシアとの関係を深めている。ヴチッチ大統領はモスクワを訪問し、プーチン大統領と会合し ウクライナ戦争では欧米諸国の対ロシア制裁に対して距離を置いてきた。

 その一方、ヴチッチ大統領は欧州連合(EU)加盟を模索し、ブリュッセルのバルカン半島の欧州統合政策に積極的に応じている。要するに、セルビアの国家オリエンテーションはロシアとEUの両方向に向いているわけだ。東か、西か、といったハムレット的な二者択一の悩みではなく、東も西もセルビアの国益に合致する限り、関係を深めていくという一種のプラグマティズム(実用主義)だ(「セルビア大統領『全方位外交』の行方」2022年5月3日参考)。

 そこにモスクワからナワリヌイ氏の獄死が伝わってきた。ヴチッチ大統領は18日、セルビアのテレビ局ブルヴァで「クレムリンとの関係が今後難しくなる」と正直に懸念を表明したという。47歳の若い反体制派活動家の獄死は53歳とまだ若い世代に入るヴチッチ大統領にとってもまったく他人事とは言えない。もちろん、ヴチッチ大統領の言動はセルビア大統領としてというより、一人の人間としての反応だろう。セルビアの親ロシア政策がナワリヌイ氏の死を契機に大きく変わるということは考えられないが、何の影響もないとは断言できない。

 ヴチッチ大統領のセルビアはロシアから安価な石油やガスを得る一方、中国との経済関係を深め、EUからは先進工業製品や消費財を得るという基本方針には変わらない。セルビアの近未来の路線は、ロシアとウクライナ間の戦争の行方と、米国の次期大統領選の動向に依存しているともいえる。その意味で、ヴチッチ大統領の二股外交はここしばらくは続くだろうが、年末までにはひょっとしたら選択を強いられるかもしれない。

 ヴチッチ大統領と共に親ロシア派のハンガリーのオルバン首相は先月24日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長との電話会談でスウェーデンの早急な加盟批准を国民議会に要請した旨を伝えている。

 オルバン首相の場合、プーチン大統領の唯一のEUパートナーであり、ウクライナ戦争ではEUの対ロシア制裁を拒否、EUのウクライナ支援にも拒否権を行使してきた生粋の親ロシア派政治家だ。そのEUの異端児として知られているオルバン首相がスウェーデンのNATO加盟ボイコットを中止するというのだ。

 冷戦時代、ソ連共産党政権は東欧諸国を衛星国家として支配し、西側に傾斜する政治的動きが見られるとワルシャワ条約機構軍を侵攻させ、東欧諸国の国民を圧政してきた歴史がある。その後継国ロシアのプーチン大統領は現在、ウクライナにNATO加盟、EU加盟の動きが出てくると軍をウクライナに侵攻させている。

 オルバン首相はロシアから安価な天然ガスなどの供与を受ける一方、ロシアの援助を受け原発の新設を進めるなど、モスクワとは深い経済的つながりがあるが、ナワリヌイ氏の獄死はオルバン首相にとっても一過性の出来事ではないはずだ。多分、これは当方の一方的な希望的観測に過ぎないだろうが、そうあってほしいものだ。
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