ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2024年01月

欧州で「農民一揆」が広がってきた

 農民一揆といえば、封建社会で農民が領主や地主に生活の改善を訴えて騒動を起こすことを意味した。日本史で学んだ代表的な農民一揆といえば、1684年の「貞享の一揆」が思い出されるだろう。年貢の軽減を訴えて農民が立ち上がった大規模な騒動だった。ところが、21世紀のいま、欧州各地で農家たちが政府の農業政策の改善などを訴えて抗議デモを行っている。

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▲ショルツ連立政権の農業政策に抗議するドイツの農業関係者たち 

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▲トラクターの抗議行進(いずれも2024年01月15日、ドイツ公共放送ARDの中継からスクリーンショット)

 ドイツではここ数週間、農業関係者たちがトラクターに乗って路上で抗議行進をし、ショルツ連立政権の農業政策の改善、ディーゼル燃料に対する政府の補助金削減やCO2税など増税の撤回などを訴えてきた。首都ベルリンでは18日、農業関係者数千人が市中心部をトラクターで占拠した。興味深い点は、農民たちの路上抗議デモに対して、一般国民は反対より支持が多いという世論調査が出ていることだ。一般国民はエネルギー価格の高騰、物価高、住居費の急騰などで苦しんでいることもあって、農民たちの苦情に対しても理解しているわけだ。それとは対照的に、過激な環境保護グループ「最後の世代」による路上封鎖などの行動に対しては、国民からは圧倒的に反対の声が強い。

 財政危機にあるショルツ政権は2024年の予算案をまとめたが、農業関係者への政府補助金は削減されていることが明らかになり、抗議デモ参加者は強く反発し、ショルツ政権の退陣を訴えている。

 隣国オーストリアでも極右政党自由党(FPO)が主導して農民たちの抗議デモがウィーンで19日、首相府官邸前で行われたばかりだ。オーストリアの場合、農業政策は与党の保守政党国民党がこれまで主導してきた経緯がある。すなわち、国民党にとって農業関係者は貴重な支持基盤なのだ。FPOが突然、ドイツに倣って農家たちを動員した背景には次期総選挙を計算にした政治的な狙いがあるわけだ。

 一方、欧州の農業国でもあるフランスでも農業関係者たちが政府の農業政策に抗議してきた。フランス南部で農業関係者が複数の高速道路や幹線道路を封鎖して政府の農業政策に抗議している。仏紙西フランスとTV局フランス・ブルーの報道によると、19日から始まったトゥールーズ広域圏の高速道路A20、A62、A64の封鎖は続いている。また、トラクターやわら俵でいくつかの国道の通行が封鎖されている。

 農業関係者たちはまた、牛に発生した動物間出血性疾患(EHD)への政府の援助を主張し、ガブリエル・アタル新首相が彼らの意見に耳を傾けるまで抗議活動を継続するという強硬姿勢を見せている。干ばつが続く地域では農業用ディーゼルの価格、一般的なエネルギーコスト、農家の収入減などがテーマとなっている。

 オーストリア国営放送は19日、「抗議活動の現場には簡易トイレ、発電機、食糧が供給され、封鎖がしばらく続く可能性があることが示唆された。農業関係者たちは高速道路の封鎖地点で夜を過ごした」と、フランスの農民一揆の状況をルポしている。

 欧州で農業関係者たちの抗議デモが広がってきたことに対し、オーストリア日刊紙スタンダードは19日、「農牧業者は政府からの補助金で潤い、動物たちを虐待しているという風に見られることに関係者は強い不満を感じると共に、若い世代には親代々から継承した農業を継続することを拒否する傾向が出てきている」と記し、問題は単に政府補助金の削減といった経済的な理由だけではないという。

 ウクライナは世界の穀倉地だ。そこで生産される小麦などの穀物は世界中で多くの人々の主食となってきた。それがロシア軍のウクライナ侵攻以来、ロシア側がウクライナの穀倉地帯を攻撃し、湾岸都市を封鎖して食糧の輸出を制止してきた。ロシアのプーチン大統領がウクライナ産食糧を武器にしてウクライナ政府に圧力を行使した時、アフリカやアジアなどウクライナ産穀物に依存している国はロシアの政策を批判したのは当然だった(「『食糧』を武器に利用するロシアのテロ」2022年6月3日参考)。

 その一方、ロシアとの戦争勃発後、一貫してウクライナを支持してきたポーランドで農民たちがウクライナ産の安価な穀物が市場に出回ることに不満を爆発させたため、ポーランド政府はウクライナ側に苦情を伝達したことはまだ記憶に新しい。

 安全保障問題と言えば、多くは軍事的な危機管理の観点から理解するが、国民が日々摂る食糧の確保も安全保障問題だ。世界的に人口増加による食糧需要の増大、気候変動による生産減少など、国内外の様々な要因によって食糧供給は影響を受けるから、国は常に食糧の安定供給に心を配らなくてはならない。国民の貴重な食糧を生産する農業関係者たちの抗議デモの拡大は、国の安全を脅かす深刻な問題と言わざるを得ない。それゆえに、政府と農業関係者の間で建設的な話し合いが行われることを願う。

イランとパキスタンの“不名誉な”衝突

 当コラム欄で「イスラム教の古傷が再び疼き出した」(2024年1月11日)というタイトルで記事を書き、イスラム教のスンニ派とシーア派の歴史的対立が再び激化する兆候が見えてきたと指摘したが、その後のイランとパキスタン両国国境での武力攻撃は残念ながらその予測を裏付けている。

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▲パキスタン軍、無人機3機でイランの国境地帯を攻撃(2024年1月18日、IRNA通信から)

 シーア派はイスラム教では少数派だが、イランはそのシーア派の盟主だ。同国はイラン革命後、45年間、聖職者支配体制を確立する一方、パレスチナ自治区ガザのイスラム教スンニ派過激テロ組織ハマスを支援、イエメンではスンニ派の盟主サウジアラビアと対立する親イランのシーア派武装組織フーシ派、レバノンでは同じシーア派武装勢力ヒズボラを軍事的、経済的に支援してきた。イスラエル・ガザ紛争で拡散してきた中東危機の背後には、イスラエルを宿敵とするイランが深く関与してることは明らかだ。

 ガザ紛争ではイスラエル軍が非武装のパレスチナ人を虐殺しているとして批判、国際世論を動かし、南アフリカが国際刑事裁判所(ICC)にイスラエルを「ジェノサイド」として訴えるなど、イランの反イスラエル包囲網は着実に構築されてきたが、その戦略的歯車がここにきて狂い出してきたのだ。

 その直接のきかっけは前回のコラムでも指摘したが、イラン革命後最大のテロ事件となったイラン南東部ケルマン市でのテロ事件(1月3日発生)だ。同事件で100人余りが死亡、数百人以上が負傷するという最悪のテロ惨事となった。

 イラン当局は事件直後、「明らかにテロ事件」として、事件に関与した組織、個人に対して報復を宣言した。その直後、イスラム教スンニ派テロ組織イスラム国(IS)は犯行声明を発表した。具体的には、隣国のアフガニスタンで活動しており、パキスタン近くのホラサンに拠点を置いている、通称「イスラム国ホラサン州」(ISKP)の仕業だ。イラン当局はテロ事件後、対アフガニスタン、対パキスタン両国国境の警備を強化し、スンニ派武装組織の侵入防止に乗り出した。

 イランは16日、隣国イラクやシリアのISの拠点を攻撃する一方、パキスタン領内のスンニ派武装テロ組織の2カ所の拠点を空爆した。ケルマン爆発テロ事件に対する報復攻撃だ。翌17日にはイラン革命防衛隊(IRG)のアリ・ジャワダン・ファー大佐がパキスタン国境付近で射殺されている。

 イラン側はパキスタン領土内の攻撃について、「パキスタン領土におけるスンニ派聖戦戦士集団ジャイシュ・アル・アドルを狙った攻撃」と説明している。「ジャイシュ・アル・アドル」(DschaI Sch al-Adl )は、過激なスンニ派運動の元メンバーによって2012年に設立された。近年、このグループはイランで数回のテロ攻撃を行っており、イランではテロ組織と受け取られている。

 一方、イランからのパキスタン領土内への空爆に激怒したパキスタン側は18日、隣国イラン南東部シスタンバルチェスタン州を攻撃し、複数人を殺害したと発表した。イランの地元治安当局者は「パキスタンによるイラン南東部の国境地点への攻撃は無人機3機で行われた」と述べた。イランの精鋭部隊、革命防衛隊が16日にパキスタンを越境攻撃したことへの報復攻撃だ、といった具合だ。イラン外務省報道官は同日、イラン南東部の国境地点に対するパキスタンの攻撃を非難した。

 パキスタン外務省は、「差し迫った大規模テロ活動に関する信頼できる諜報情報を考慮して攻撃を決定した」と述べる一方、「パキスタンはイラン・イスラム共和国の主権と領土保全を全面的に尊重する」と付け加えた。パキスタン情報当局者は、「攻撃はイラン内の『反パキスタン武装勢力』を狙ったものだ」と述べている。

 ちなみに、パキスタンは国民の約97%がイスラム教徒で、その80%はスンニ派、20%はシーア派だ。イランに次いでシーア派が多い国だ。ちなみに、アフガンもほとんどイスラム教徒だが、スンニ派とシーア派の割合はパキスタンとほぼ同じだ。

 スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)に出席したイランのアミールアブドッラーヒヤーン外相は18日、「イランはパキスタンとの良好な関係を有している。今回の軍事活動はあくまでも過激派テロ組織をやっつけることが狙いであり、パキスタンの領土を侵害する意図はまったくない」と説明、同じイスラム教国のパキスタンとの兄弟紛争といった印象の払拭に努めている。なお、イランとパキスタンの武力衝突の拡大を危惧する中国とトルコ両国は双方に冷静を呼びかけるなどの仲介外交を展開させている。

 スンニ派過激テロ組織ハマスの指導部の中には、「シーア派のイランに武器や経済支援を依存しすぎることは危険だ」という声が聞かれ出したという。「イスラエルを地図上から消し去る」と宣言したイラン大統領がいたが、イスラム教内の兄弟紛争が飛び出し、イランはその鎮圧のために精力を注がなければならなくなってきたのだ。2024年は龍の年だ。眠っていた龍が目覚め、イスラム教の歴史的兄弟紛争に油を注いでいる。

人類に残された未開発の「97%の世界」

 いつ、どこで、誰から聞いたのかは思い出せないが、通常の人間は自身に備わっている能力の3%しか使用できず生涯を終えるという。すなわち、脳細胞に含まれた生来の能力の97%は再び土に返るというのだ。それを聞いた時、当方は「ほー、まだ97%の脳細胞は未使用というわけか」と考え、「(学校で成績不振に悩まされていた劣等生の)僕にもまだチャンスはある」と、漠然とだが希望を感じて嬉しくなったことを思い出す。当方の人生は自身の中に埋没するといわれる97%の脳細胞の発掘に汗を流してきたわけだ。まさに、金塊探しの採掘業者のような人生だ。

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▲宇宙を覆う暗黒物質(NASA公式サイトから)

 英国の推理作家アガサ・クリスティ(1890〜1976年)の探偵小説の主人公の元ベルギー警察署長のエルキュール・ポワロは「小さな灰色の脳細胞」を駆使して難解な事件を次々と解決していく。ポワロは20世紀初期時代の主人公だったから多分、「灰色の脳細胞」を3%だけ駆使している自分という認識はなかっただろう。ポワロが当時、自身の中には97%の灰色の脳細胞がまだ未使用のままになっていることを理解していたならどのように感じただろうか。

 ところで、慣例となっている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が15日から開幕した。世界から政治家、経済学者、実業家、ジャーナリストなどが一同に集まって世界的な諸問題について意見の交換をする国際会議だ。今年のダボス会議のテーマの一つには人工知能(AI)の未来がある。マイクロソフトのトップ経営者やAI開発専門家たちがその最新の開発現場からの情報を披露していた。「人類とAI」の問題は最新テーマだ。

 オーストリアの日刊紙スタンダードは17日、AIが人間の脳神経網を完全にマスターしたならば、何が生じるかといった非常に刺激的な問題を提示していた。人間の精神生活、創造性が脳神経細胞から起因するとすれば、そのネットワークを完全に解析し、再現できれば、AIは第2の人類ということになるかもしれない。

 そのAIの近未来像について、大きく分ければ、AIの進歩を制御しなければ危険だという説と、AIを規制しながら共存できるという説が考えられる。欧州連合(EU)は昨年12月9日、世界で初めてAI規制の枠組みで合意した。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、「AI規制法(AIAct)は世界初のもので、信頼できるAI開発のための独自の法的枠組み」と、その意義を説明している。AI規制法は欧州市場に投入され、使用されるAIシステムの安全性、基本的権利と民主主義の尊重を遵守しつつ、欧州のAI企業の成長を促進していくことが狙いだ。

 世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者、イスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリ氏(Yuval Noah Harari)は独週刊誌シュピーゲルとのインタビューの中で、「人類(ホモ・サピエンス)は現在も進化中で将来、科学技術の飛躍的な発展によって“神のような”存在『ホモ・デウス』(Homo Deus)に進化していく」と考えている。同氏の未来像は明るいか、というとそうとも言えないのだ。時代の潮流に乗れる一部の人間(少数派)とそれに乗り切れない落ちこぼれの無用の人類(多数派)が出てくると考えているからだ。

 参考までに、ローマ教皇フランシスコは昨年12月14日、AIについて「人工知能の利用を悪魔化すべきではない、技術の進歩について議論するときは、人工知能が人間の尊厳にどのような影響を与えるか、また平和構築にどのように貢献できるのかという観点から論議する必要がある」と述べている。

 2024年が始まった。ロシアとウクライナ戦争は長期化し、イスラエル・ガザ紛争も依然、停戦の見通しがない。イエメンの親イラン武装組織フーシ派の紅海での船舶攻撃は世界経済に影響を与え、イランとパキスタンの間で険悪な動きが見え出した。北朝鮮の独裁者金正恩総書記は核戦争も辞さない強硬姿勢を見せ、韓国を「主敵」として軍事的に威嚇してきた。台湾総統選挙で与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が当選したことを受け、中国共産党政権の台湾の武力統一への動きが一層懸念されてきた。世界の最大軍事国・米国は今年11月、大統領選挙を控え、世界で新たな戦争や台湾海峡での有事の際、それに対応できる余裕があるかは不確かだ、等々、世界各地から発信される戦争・紛争情報が日々、氾濫している。このような情報環境圏に生きている私たちはおのずと憂鬱になってしまう。ベネディクト16世が警告していたように、最悪のケースは人類はニヒリストで溢れてしまうのではないか。

 しかし、現在の世界情勢は人類の脳細胞が3%しか使用されていない結果とすれば、人類にはまだ希望がある。人類には依然97%の“金鉱”が埋蔵しているからだ。ただし、人類は楽観的になるにはまだ早すぎるだろう。その埋蔵した97%の脳細胞を如何に覚醒させ、実際の人類の発展に役立たせるか、という課題があるからだ。

 シンプルに表現すれば、人間は程度の差こそあれ良い思い(善)と悪い思い(悪)という矛盾した性向を抱えている。その人間が作る創造物はそれを反映して、同じようにデュアル・ユース的存在となる。AIの未来も同様だろう。「善いAI」と「悪いAI」の登場だ。人間の矛盾する性向がどこから起因するか、その原因について解明しない限り、人類の発展はあり得ないし、戦争・紛争も解決できない。残された97%の可能性を駆使して、未解決問題の解明に全力を投入しなければならない。

 ちなみに、宇宙物理学者は「宇宙は暗黒物質で覆われている。宇宙の起源についてわれわれはこれまで数%しか分かっていない」と語っている。

プーチン氏の知られざる“家族構成”

 北朝鮮では金正恩総書記の家族の話はタブーだ。労働党幹部も金ファミリーについては緘口令が敷かれている。それを破って外部に漏らすと厳しい刑罰が待っている。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)で査察官として勤務していた北朝鮮出身査察官と20年前ごろ、久しく会って話す機会があったが、当方が査察関連問題外で金ファミリーについて質問しようとした時、「知らないし、そのような質問をするならば、君とは話はできないよ」と厳しい表情で語ったことを思い出す(「『金ファミリー情報』は最大タブー」2017年2月26日参考)。

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▲プーチン大統領、北朝鮮の崔善姫外相を歓迎(2024年1月16日、クレムリン公式サイトから)

 その慣習は今も続いている。金正恩総書記の実妹の金与正労働党副部長や家族構成については外部の米韓情報機関も完全には掌握できないでいる。だから、北朝鮮が2022年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行った時、金総書記が娘の金主愛(キム・ジュエ)さんを連れて現地視察している写真が公に報じられると、ジュエさんの立場、役割についてなどさまざまな憶測が生まれてきたわけだ。

 ちなみに、金総書記は新婚時代、李雪主夫人を連れて頻繁に現地視察をした。金王朝3代目に入って北朝鮮でもファーストレディーの存在が注目されてきた、と西側メディアでは好意的に受け止められたが、暫くした後(長男の誕生後)、ジュエさんが登場するまで、金総書記は家族関連の情報を外部に流すことは少なくなっていった。

 そんなことを考えていた時、ロシアのプーチン大統領の元夫人、リュドミラ・アレクサンドロヴナ・オチェレトナヤさん(離婚)との間の娘さんの1人がインタビューに応じたと聞いたので、早速、その記事を探して読んだ。プーチン氏は最初の夫人との間に2人の娘さんがいる。長女はマリア・ボロンツォワさん、次女はカテリーナ・チホノワさんだ。

 インタビューに応じたのは長女のマリアさんだ。ニュースサイトAgentstvoreが報じた。38歳のマリアさんはモスクワ市長室傘下の非営利団体メドテック・モチソウとのインタビューで、「ロシアは人間中心の社会です。私にとって、人命の価値は最高の価値です。私は、人々が自分自身を知る機会を得て、お互いをよりよく理解し、より良いコミュニケーションができるようになることを夢見ている」と語っている。父親プーチン大統領が始めたウクライナ戦争によってウクライナ、ロシアの双方で50万人以上が死亡または負傷しているという情報はマリアさんの耳には届いていないのだろうか。

 インタビューでは、ウクライナ戦争に関連する質問はない。内分泌学者であるマリアさんは、世界的な医学の進歩と、文学、音楽、スポーツへの興味について語るが、父親プーチン大統領についても何も言及していない。

 ちなみに、プーチン大統領は、マリア・ボロンツォワ氏と妹のカテリーナ・チホノワ氏を自分の娘であると公に認めたことはない。ロシアのメディアでも報じられることはほとんどなかった。しかし、2人の娘さんの名前は欧州連合(EU)、英国、米国の制裁リストに載っている。資産は凍結され、入国禁止が実施されている。

 マリアさんについては「2019年から遺伝子工学のための国家科学プログラムの連邦評議会のメンバーであり、サンクトペテルブルクの研究クリニックで病原性の脆弱性と治療法の選択肢についてロシアのゲノムを研究する会社Nomekoの共同所有者」という事だけが明らかになっている。プーチン大統領は遺伝子工学を未来の科学だと説明していた(ドイツ民間ニュース専門局ntvの2024年01月12日のウェブサイトから)

 次女カテリーナ・チホノワさん(37)は元著名なバレエダンサーのイーゴリ・ゼレンスキー氏とパートナー関係だ。偶然にもその名前はウクライナのゼレンスキー大統領と同名だ。独週刊誌シュピーゲルによれば、カテリーナさんは2019年までドイツのミュンヘンに20回以上訪問していた。目的はミュンヘンに住むゼレンスキー氏と会うためだ。両者の間には1人の子供がいる(カテリーナさんは2013年、ロシアの億万長者キリル・シャマロフ氏と結婚したが、2018年に離婚した)。プーチン氏が2月24日、ウクライナに軍を侵攻させて以来、カテリーナさんはミュンヘンに飛ぶことができなくなった。欧米側の対ロ制裁の結果だ(「プーチン大統領の娘さんの『話』」2022年9月9日参考)。

 ところで、独裁者には珍しいことではないが、プーチン氏にも複数の愛人がいるという。西側メディアでもよく知られている愛人としては、元体操選手のアリーナ・カバエワさんだ。プーチン氏との間に双子を含む4人の子供がいる。英紙デイリー・スターによると、プーチン大統領の恋人とされる人物は4人の子供たちとともにスイスの私有山荘に滞在し、毎年850万ユーロを自由に使えるという。そのほか、プーチン大統領は家政婦のスヴェトラーナ・クリボノギフさんとの間に秘密の娘がいる。彼女がモナコに高級アパートと7300万ポンド相当の豪華ヨットを所有していることが明らかになった。投獄されている反体制派活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏は「この国には2000万人の物乞いがいるが、プーチン大統領は恋人のためにヨットを買っている」と批判している。

 なお、金正恩総書記はロシアとの関係を強化する狙いもあって、プーチン大統領を平壌に招く計画を進めている。訪問が実現すれば。両者は案外、年齢の差を超えて話が弾むかもしれない。金総書記は年配者のプーチン氏から独裁者としての在り方だけではなく、「愛の外交」についても興味深い話が聞けるかもしれない。

ロシア反体制派詩人の「交通事故死」

 ロシアで3月17日、大統領選挙が実施されるが、現職のプーチン大統領の通算5選は確実視され、国民には欧米諸国のような選挙戦の高揚感はない。全てはクレムリン指導者の計算通りに進行している。与党「統一ロシア」は昨年12月17日、第21回党大会でプーチン大統領を全会一致で支持することを決定したばかりだ。

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▲プーチン大統領、セルゲイ・クラフツォフ教育相と会談(2024年01年15日、クレムリン公式サイトから)

 その一方、ロシアでは欧米諸国では見られない、というか特異な現象が頻繁に起こっている。プーチン大統領批判者で知られ、ロシア軍のウクライナ侵攻を「戦争犯罪」と指摘してきた同国の著名な詩人レフ・ルビンシテイン氏(Lew Rubinstein=76)が1月8日、モスクワで車に跳ねられ重傷を負って病院に運ばれた後、14日、76歳で亡くなったのだ。娘のマリアさんがウェブサイト「ライブ・ジャーナル」のプログで明らかにした。

 モスクワ交通局の説明によると、運転者は過去、何度も交通違反を犯してきた人物で、詩人が横断中、横断歩道の前でも速度を落とさなかったという。要するに、ルビンシテイン氏は暗殺でも何でもなく、普通の交通事故で死去したというわけだ。

 AFPによると、「ルビンシテイン氏は1947年にモスクワで生まれで、1970年代と80年代のソビエト地下文学界の著名人の一人。彼は社会主義リアリズムを否定し、嘲笑した「モスクワ概念主義」の共同創設者だ。演劇と詩を組み合わせた独自のジャンルを生み出した。ソ連崩壊後、ルビンシテイン氏はロシアで有名になり、彼の作品は有名な出版社から出版され、いくつかの言語に翻訳されている。ルビンシテイン氏はジャーナリストとしても活動していた」という。

 ルビンシテイン氏はプーチン大統領に対して公然と批判し、反体制派デモにも参加、国内の人権蹂躙を激しく糾弾してきた。ルビンシテイン氏は2022年3月、他のロシアの作家たちとともに、ロシア軍のウクライナ攻撃を「犯罪戦争」と呼ぶ公開書簡に署名した。ルビンシテイン氏はこれまで逮捕されたり、拷問を受けたり、毒殺の危険にも遭っていない。しかし、彼の悲劇的な死は今年1月にやってきたわけだ。ロシアには自由な市民や独立した詩人の居場所はないことを改めて示したことになる。

 残念なことだが、ルビンシテイン氏の悲劇的な事故死はロシアでは決して珍しくはない。過去20年にわたり、ロシアではクレムリンに批判的な政治家、ジャーナリスト、実業家、文化人の“奇妙な死”が頻繁に起きているのだ。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、例えば、ロシアのエネルギー分野の幹部たちの一連の原因不明の死が続いている。ロシアの石油会社ルクオイル・グループのラウイル・マガノフ会長(67)は2022年夏、モスクワの病院敷地内で死亡しているのが発見された。ロシアのメディアによると、同氏はロシアの政治・経済エリートが治療を受けるロシアの首都中心部の病院に入院していたが、6階の窓から転落したという。なぜ転落したのかは不明という。

 病院はマガノフさんの死亡を確認したが、状況についてはコメントしなかった。国営通信によると、当局は自殺とみている。ロシアのメディア報道によると、2022年5月に元ルクオイル取締役アレクサンダー・スボティン氏が奇怪な死を遂げた。

 また、ガス大手ガスプロムを中心とするロシアのエネルギー部門に関与してきた人物が相次いで事故死している。ユーリ・ヴォロノフ氏(61)はサンクトペテルブルク郊外の別荘のプールで頭部に銃撃を受けて死亡しているのが発見された。この大富豪は、北極でガスプロムと有利な契約を結んでいた物流会社を所有していた。ロシアの捜査当局はヴォロノフ氏の死を「ビジネスパートナーとの紛争」が原因だとしている。

 2022年1月には、ガスプロム元マネージャーのレオニード・シュルマン氏が、ヴォロノフ氏と同じサンクトペテルブルク郊外にある自宅の浴室で死亡しているのが発見された。同年2月には、ガスプロム副総局長アレクサンダー・チュリャコフ氏が同じ地域の別荘で首を吊っているのが発見された。同年4月には、ガスプロム銀行の元副頭取ヴァルディスラフ・アヴァエフ氏と、ロシア最大の民間ガス生産会社ノヴァテク社の元経営者セルゲイ・プロトセンヤ氏が死去した。2人とも最初に妻と子供を殺し、次に自分自身を殺したと言われている。アヴァエフさんの遺体と妻と娘の遺体は家族のモスクワのアパートで発見された。プロトセンヤさんは妻と娘を殺害した2日後にスペインの別荘で首を吊って自殺したという。5月にはアンドレイ・クルコウスキー氏が事故に遭った。同氏はガスプロムが運営するロシアのスキーリゾート「クラスナヤ・ポリャナ」のマネージャーを務めていた。捜査関係者によると、同氏は崖からハイキング中に転落死した、といった具合だ。

 ロシアでは昨年8月23日、「24時間反乱」を主導した同国の民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(62)が搭乗していた自家用ジェット機の墜落で死去したが、欧米諸国の指導者や大手メディアは墜落事故の背後にはプーチン氏の関与がある、という点でほぼ一致している。また、投獄中の著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)は「プーチンのいないロシア」キャンペーンを開始し、「3月の大統領選ではプーチン氏以外の対抗候補者に投票して、抗議の意思を表示しようと」と呼び掛けたが、その直後から彼は一時期、行方不明となった(昨年12月25日、北極圏にあるヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に収容されていることが判明した)。

 ロシアではプーチン氏を支持しない政治家、実業家、著名人は即反体制派というレッテルを貼られ、その言動を封鎖するために最悪の場合、殺害される。大統領選が近づけば反体制派の口は様々な手段で閉ざされていく。プーチン大統領下のロシアは普通の国ではないのだ。そしてそのロシアを支援する中国、北朝鮮、イランといった国々も同様、もはや普通の国家とは言えなくなってきている。プーチン氏が発するウイルスは感染力が強い。欧米諸国でもそれに伝染した政治家、実業家が出てきている。

デンマーク王室の王位継承式から

 中欧全土を治めたハプスブルク王朝時代への名残もあってか、オーストリア国民は欧州の王室の動きに強い関心がある。デンマークで14日、52年在位したマルグレーテ女王が退位し、フレデリック皇太子が新国王に即位する式典が挙行された。オーストリア国営放送は午後1時20分(現地時間)から3時間余り、コペンハーゲンとウィーンとを繋いでライブ中継した。

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▲デンマーク王室の王位継承式(2024年01月14日、デンマーク国営放送からスクリーンショット)

 当方は自宅でTVの前に座って式典をフォローした。家人が「デンマークの式典は明るくて気持ちがいいわね」という。聞くと、昨年5月の英国のチャールズ新国王の戴冠式は70年間在位していたエリザベス女王の死が大きく影響していたこともあって「少々重かった」というのだ。 

 ロンドンの載冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりだったこともあって、全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ。そのうえ、エリザベス女王が2022年9月、96歳で亡くなったこともあって、新国王の戴冠式は喜ばしい式典というより、亡き女王への追悼という思いが強く、少々寂しい雰囲気があった。

 マルグレーテ女王は自身の即位式の日(1972年1月14日)について、「私の人生でも最も悲しい日だった」と述べている。父王フレデリック9世死去の直後の即位式であったこともあって、女王は当時、華やかさはまったくなく、悲しさが強かったという。マルグレーテ女王が昨年末、突然、退位の意向を表明した背景には、息子フレデリック皇太子に自身が味わったような悲しみを体験させたくないために、存命中に王位の継承を決意したのではないだろうか。女王自身は自身の退位の理由について、健康状況を挙げていた。

 王位の継承式は簡単だった。クリスチャンボー城で政府代表者の立ち合いの中、マルグレーテ女王が退位意思を表明した文書に署名、それを受け、新しい国王に即位するフレデリック皇太子がその文書に署名すれば、王位継承式は完了する。正味20分余りの式典だ。バルコニーから国民の前で国王即位を発表、それを受け国民が3度フラー(万歳)と唱和する、といった具合だ。

 国王や女王に即位することは決して容易ではないだろう。だから、国王に就任したくないという王室関係者も出てくる。逆に、なぜ自分は国王に即位できないのかと不満を吐露する王室関係者も出てくる。

 マルグレーテ女王はフランス人のヘンリック殿下と結婚したが、同殿下は生前、何度も「どうして夫の自分が国王に即位できないのか」と不満を漏らしていたという。一方、長男として生まれたフレデリック皇太子は「自分は国王にはなりたくない」と考えていたし、弟(ヨアキム)は「自分のほうが国王に相応しい」と述べていたという。ちなみに、フレデリック皇太子は新国王に即位した直後、「自分は生まれてからこの瞬間を迎えるために準備してきた」と述べ、国王としての任務を全うする決意を表明している。

 前日のコラム欄でも書いたが、マルグレーテ女王が退位したことで、欧州の11カ国の王室では女性君主はいなくなった。オランダのベアトリックス女王は33年間在位した後、長男の現国王に王位を譲った。英国のエリザべス女王が96歳の高齢で死去した後、息子のチャールズ皇太子が新国王に即位した。エリザベス女王は70年間在位していた。そしてマルグレーテ女王が52年間の在位後、女王の座から自ら去ったわけだ。

 欧州の王室関係者の高齢化は進み、退位する時期を見つけ出すことが難しくなってきた。ローマ教皇の終身制はドイツ人教皇ベネディクト16世の生前退位表明で崩れた。そしてオランダやデンマークの王室のように、存命中に後継者に王位を継承する傾向が今後、欧州の王室で定着していくのではないか。

欧州の王室から「女王」が消えた

 デンマークで14日、マルグレーテ2世女王(83)が退位し、息子のフレデリック皇太子(55)に王位を譲る式典がコペンハーゲンで挙行された。デンマーク国民はフレデリック新国王・メアリー王妃(51)の国王夫妻の即位を祝った。マルグレーテ女王は健康を理由に退位を表明していた。

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▲フレデリック新国王夫妻(2024年01月14日、オーストリア国営放送の中継からスクリーンショット)

 欧州の王室では近年、女王が退位、ないしは死去して新しい国王が誕生するケースが増えてきた。マルグレーテ女王が退位したことで、欧州の11カ国の王室から女王はいなくなり、全て男性国王となる。

 例えば、オランダで33年間王室のトップを担ってきたベアトリックス女王(85)が2013年4月、長男のアレクサンダー皇太子(56)に王位を譲った。オランダ王室では123年ぶりの男性国王が誕生した。そして、在位70年間という王室歴代最長在位記録を残した英国のエリザベス女王は2022年9月に死去し、長男のチャールズ皇太子(75)が昨年5月、新国王に戴冠した。そして今回のマルグレーテ女王は在位52年後、王冠をフレデリック皇太子に譲ったことで、オランダ、英国、デンマークの3カ国の王室で「女王」から新しい「国王」が誕生したわけだ。

 欧州最古の歴史を誇るデンマークの王室でも過去、いろいろ噂や批判の声も聞かれた。フレデリック皇太子はシドニー五輪大会で知り合ったオーストラリア出身のメアリー妃と婚姻した。同妃の“モード狂”が国民の間で一時期批判されたが、今は国民の人気は高い。また、女王マルグレーテ2世のご主人、ヘンリック殿下(フランス出身)はデンマーク語が流暢に話せなかったことから、国民の間では人気がもうひとつだといわれてきた。一方、気さくな性格のマルグレーテ女王の場合、「デンマークの母」と呼ばれるほど国民的人気があった。デンマークでは男性国王が通常だったが、1953年、国民投票を通じて女王の道が開かれた。なお、マルグレーテ女王はヘビースモーカーとして知られてきた。同国のメディアによると、デンマーク国民の約80%が王室を支持している。

 日本の皇室と関係が深いオランダのベアトリックス女王は2013年1月、退位を表明し、同年4月に長男のアレキサンダー皇太子に王冠を譲ったばかりだ。オランダ王室の場合、1980年から33年間、オランダ王国に君臨してきたべアトリックス女王は息子(次男)王子をスキー事故で失うなど、心労が重なっていた。その意味で、ベアトリックス女王の退位表明は賢明な判断だったといわれた。

 新しい記憶としては昨年5月、チャールズ新国王の戴冠式だろう。母王エリザベス女王は2022年9月8日、96歳で亡くなった。バッキンガム宮殿から戴冠式が行われたロンドン中心部のウェストミンスター寺院までの道路沿いには多くの国民が旗をもち、戴冠式の様子を共有しようと前日から待っていた様子が映されていた。戴冠式の日は快晴ではなく朝から小雨が降っていたが大雨にもならず、世界から数千人のゲストが集まった。

 戴冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりだった。そのため王室問題専門家は、「戴冠式では全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ」と評していたのが印象的だった。BBCは80歳を過ぎた女性にインタビューしていた。彼女は、「10歳の時、エリザベス女王の戴冠式が行われたことは聞いていたが、何も憶えていない。チャールズ国王の戴冠式が自分にとって初体験だ」と答えていたから国民の大半にとって戴冠式の様子を見るのは初めてだったわけだ(「チャールズ国王は“聖霊”を受けたか」2023年5月8日参考)。

 参考までに、欧州の王室では世代交代が進んでいる。スペインの国王フアン・カルロス1世(86)は2014年6月2日、退位を表明し、フェリペ皇太子(55)に国王を譲位した。スウェーデンでは2010年6月に平民出身のダニエル・ウェストリング氏(50)と結婚したヴィクトリア王女(46)の国民的人気が高い一方、女性問題でスキャンダルが発覚し、人気を落としたカール16世グスタフ国王(77)の退位を要求する声が高まっている。「ヴィクトリア王女が女王に就任すべきだ」という世論調査結果が公表されるなど、王室は揺れている(「欧州王室」で世代交代の風が吹く」2014年6月8日参考)。

 欧州王室では世代交代が進む一方、王室のあり方にも変化がみられる。オランダのアレクサンダー国王は3代続いた女王時代とは違った王室の在り方をみせてきている。

 デンマークのフレデリック新国王は皇太子時代、マラソン大会に自ら参加するなどスポーツ好きで知られている。欧州の伝統的な王室のデンマークでどのような新しい王室を生み出すか注目される。

 ちなみに、英国では昔から女王時代のほうが国は栄えた、といわれてきた。それだけに、男性国王の奮闘が願われる。女王がいなくなった欧州の王室は寂しくなった。近い将来、新しい女王の誕生が期待できる王室はスウェ―デンだろう。

EUの新たな頭痛の種スロバキア

 欧州連合(EU)は現在、27カ国から構成されているが、ポーランドとハンガリーの2国はこれまでEUの共通価値観である民主主義と法治国家の原則に違反しているとしてブリュッセルから批判されてきた。ただし、ポーランドで昨年12月11日、元欧州理事会議長のドナルド・トゥスクを首相とした新政権が誕生したことで、そのEU政策もブリュッセル寄りに変わってくることが予想される一方、昨年10月に発足したスロバキア新政権はEUのウクライナ支援に消極的な姿勢を示すなど、スロバキア・ファーストを歩み出してきた。ハンガリーと共に、スロバキア新政権は、EUの結束に大きな影を投げかけている。

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▲スロバキアのフィツォ首相(スロバキア政府公式サイトから)

 昨年9月30日に実施されたスロバキア議会の繰り上げ選挙で、ロバート・フィツォ元首相が率いる野党「社会民主党(スメル)」が第1党にカムバックした。その結果、中道左派「方向党−社会民主主義(Smer−SD)」を中心とする、中道左派「声−社会民主主義(Hlas−SD)」および中道右派「自由と連帯(SaS)」から成るフィツォ連立政権が発足した。

 フィツォ氏は2006年から2010年、そして2012年から2018年まで首相を務めた。2018年にジャーナリストのヤン・クシアク氏とその婚約者が殺害された事件を受けて、イタリアのマフィアとフィツォ首相の与党の関係が疑われ、ブラチスラバの中央政界を直撃、国民は事件の全容解明を要求、各地でデモ集会を行った。フィツォ首相(当時)は2018年3月15日、辞任を余儀なくされた(「スロバキア政界とマフィアの癒着」2018年3月17日参考)。
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 その後のスロバキアの政情は腐敗とカオス状況が続いた。フィツォ首相の後継者に同じ社会民主党系スメルからペレグリニ副首相が政権を担当、スメル主導の連立政権を継続した。ただし、2020年2月に総選挙が行われ、マトヴィチ党首率いる「普通の人々」、「我々は家族」、「自由と連帯」、「人々のために」の4党から成るマトヴィチ首相率いる新政権が発足したが、連立内の対立でマトヴィチ首相は辞任。ヘゲル新政権が発足したものの、少数派政権となって2022年12月、内閣不信任案が可決され、総辞職に追い込まれ、昨年9月の繰り上げ総選挙実施となったわけだ。そしてフィツォ氏が再びスロバキア政治の表舞台に登場してきたわけだ。

 5年前のジャーナリスト射殺事件で引責辞任に追い込まれたフィツォ氏が政治にカムバックできた背景には、前政権の行政能力のなさがあることは明らかだ。また、新型コロナウイルスの席巻、ウクライナ戦争の長期化で、国民経済が停滞し、国民の生活は厳しいという事情がある。

 そのスロバキアで11日夜、フィツォ新政権に反対して数千人の国民が抗議デモを行った。野党3党が主催した抗議デモは経済犯罪や汚職との戦いを担当してきた特別検察庁(USP)の廃止に抗議することが大きな目的だ。野党は法の支配に対する脅威と警告し、「フィツォ政権は過去の汚職事件を隠蔽しようとしている」と非難している。現地からの情報では、ブラチスラバの抗議デモには約2万人が参加し、「フィツォは辞めろ!」「フィツォを刑務所へ!」などのスローガンを掲げた横断幕が掲げられた。

 ところで、EUのウクライナ支援が揺れ出した。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、ハンガリーのオルバン首相はウクライナへの武器供与を拒否、ハンガリー・ファーストを推進する一方、ロシアのプーチン大統領とも友好関係を築いている。フィツォ首相は施政方針でオルバン政権と同じように、スロバキア第一主義を前面に打ち出し、国益重視の外交を主張している。

 欧州委員会は、フィツォ新政権が特別検察庁の廃止を実施した場合、スロバキアの法治体制が大幅に制限される、と懸念している。同時に、スロバキアがEU内で「第2のハンガリー」にならないように注意深く監視しているところだ。

 なお、スロバキアの政情を予測するうえで、3月に予定されている大統領選挙は重要となる。スロバキアの大統領は法律に拒否権を発動したり、憲法裁判所で異議を申し立てたりすることができるからだ。ただし、ズザナ・チャプトヴァー現大統領は昨年6月、「殺害の予告を受けている」として、3月の大統領選には出馬しない意向を表明している。

 フィツォ首相は国民の抗議デモに屈して辞任に追い込まれた2018年の再現を避けるため、国民経済の停滞や社会の閉塞感はブリュッセルの政策に起因するとEUを悪役にし、ハンガリーと連携をとって政治的・外交的延命を図る可能性が考えられる。

もう一つの「ポツダム会議」の波紋

 「ポツダム会議」といわれれば、世界史を学んできた読者ならば、第2次世界大戦中の1945年7月、米国、英国、ソビエト連邦3カ国の首脳が、ナチス・ドイツと日本両国の戦後処理について話し合った歴史的なポツダム会議(当時ソ連占領地)を直ぐに思い出すだろう。  

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▲ワイデルAfD共同党首(AfD公式サイトから)

 ところで、2023年11月、ドイツ連邦州のブランデンブルク州の都市となったポツダム市(人口約18万人)でドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)や欧州の極右活動家や実業家たちが結集して今後の活動目標などについて話し合っていたことがこのほど明らかになり、ドイツ政界に大きな衝撃を与えた。研究プラットフォーム「コレクティブ」が報じた。そこでもう一つの「ポツダム会議」について緊急報告する。

  ポツダム近くのレーニッツゼーのホテルで開催された会議にはAfDのアリス・ワイデル党首の側近も参加し、「外国人、移民の背景を持つドイツ人、そして難民を支援する全ての人たちを強制移住するためのマスター計画」(Masterplan" zur "Remigration" von Auslandern, Deutschen mit Migrationshintergrund und generell allen, die sich fur Gefluchtete einsetzten)などについて議論していたというのだ。

 ポツダムのレーニッツゼーでの会議の参加者の中には、ザクセン・アンハルト州議会のAfD会派リーダー、ウルリッヒ・ジークムント氏、バイエルン州のAfD連邦議会議員ゲリット・ホイ氏、元AfD連邦議会議員のローランド・ハートヴィッヒ氏(ワイデル党首の個人顧問)らも含まれていた。

 同会議にはそのほか、オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)のリーダー、マーテイン・セルナー氏の姿もあった。同氏はニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで2019年3月15日、2カ所のイスラム寺院を襲撃し、50人を殺害したブレントン・タラント容疑者(28)から寄付金を受け取っていたことが判明し、物議をかもしたことがあった(「欧州の極右は『三島由紀夫』ファン」2019年8月30日参考)。

 ちなみに、ドイツのメディアによると、セルナー氏は会合で、北アフリカに最大200万人を収容する「モデル国家」を構築し、難民を収容するという考えを提示したという。第2次世界大戦の初めに、ナチスはヨーロッパのユダヤ人400万人をアフリカ東海岸の島に移送するという「マダガスカル計画」を検討したことがあったが、セルナー氏の「モデル国家」はそれを想起させる。

 ドイツの高級週刊紙のオンラインは「オラフ・ショルツ首相や他の多くの政治家は、右翼過激派とAfD政治家らの会合を厳しく批判し、連邦憲法擁護局(BfV)は民主主義が危機に瀕していると警告を発した」と報じている。またドイツ民間放送ニュース専門局ntvは「AfDの政党禁止」をテーマに「ポツダム会議後、AfDの禁止は可能か」、「政党禁止は賢明か」という観点から報じていた。

 ポツダム会談の開催が明らかになると、「AfD内に反憲法的な取り組みがあり、したがって禁止の理由がある」というAfD禁止支持者の意見がある一方、CDU(キリスト教民主同盟)のリンネマン書記長のように、「AfDを禁止するか否かの議論はAfDをさらに強くするだけだ」という慎重派の声がある。ドイツでは1950年以来、政党が禁止されたケースはない。それだけに、政党の禁止については、関係者も慎重にならざるを得ない事情がある。

 参考までに、ドイツでは2017年、連邦憲法裁判所は極右政党NDP(国民民主党)の禁止要請について、「NDPが違憲性のある政党である点は疑いないが、国や社会に影響を与えるほどの勢力ではない」として却下したことがある。それ以後、ドイツでは政党の禁止請求は受け入れられない、という考えが政党関係者にはある。

 元連邦議会議長ヴォルフガング・ティエルゼ氏は「ターゲスシュピーゲル」の中で「もし3つの連邦州の憲法擁護庁がAfDを明らかに右翼過激派と分類すれば、国はAfDの禁止を検討する義務がある」と語っている。

 AfDの支持率は全国的に上昇していることもあって、ことは緊急を要する。全国的に見て、AfDの支持率はほとんどの調査機関で20%を超えており、今年選挙が行われるチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の3つの連邦州では30%を超えているのだ(「独極右党の躍進をストップできるか」2023年8月8日参考)。

 禁止の根拠は基本法第21条の「自らの目標や支持者の行動に基づいて、自由民主主義の基本秩序を損なったり排除したり、ドイツ連邦共和国の存在を危険にさらしたりすることを目的とする政党は憲法に違反する」だ。連邦憲法裁判所はそれに基づいて政党が違憲であるかどうかを判断することになる

 人権研究所による分析では、AfDのプログラムは国家的および民族的な人民概念に基づいており、「価値観の観点から人種差別的なカテゴリーに従って人々を区別しており、したがって人民という概念から逸脱している」という結論に達している。AfDで最も影響力のある人物の1人であるチューリンゲン州議長のビョルン・ヘッケ氏について、同研究所は「国家社会主義の言葉を彷彿とさせるレトリックを常用しており、国家社会主義に基づく専制政治を公然と狙っている」と指摘している。基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそのようには考えていない。

 禁止申請は連邦議会、連邦参議院、または連邦政府によって提出される必要がある。ポツダム会談の内容が報じられると、与党の社会民主党(SPD)のサスキア・エスケン党首はAfDの禁止をもはや排除すべきでないと強調している。

 エスケン党首はntvの番組で「AfDは大きな危険をもたらしている。その政党に国が政党援助金を出して支援することは、民主主義にとって自ら墓穴を掘る恐れがある」と述べている。

 一方、野党第1党CDUのフリードリヒ・メルツ党首は、ミュンヘナー・メルクール紙の中で、「SPD関係者は30%近くの支持を得ている政党を簡単に禁止できると本気で信じているのだろうか。現実から必死に目を逸らそうとしているだけだ」と指摘している。

 AfD禁止に躊躇する側には、「国民の支持を得ている政党を禁止させることができるか」という問いかけと、「AfDがプロパガンダの目的で禁止令を悪用し、自らを被害者であるかのように振舞うだろう」という懸念があるわけだ。
 
 ドイツでは、AfDの禁止問題は、「もしNSDAP(国民社会主義ドイツ労働者党=ナチス)が禁止されていたらヒトラーの台頭は防ぐことができたのではないか」といった歴史的懺悔とリンクされる傾向が強い。それに対し、元憲法判事リュッベ=ヴォルフ氏は「NSDAPは1923年のヒトラー一揆後に一時的に禁止されたが、ヒトラーの台頭を防ぐことが出来なかった。法的力が不足していたのではなく、この党を阻止するという政治的意志が欠けていたからだ」と指摘している。AfDの禁止論は、民主主義の根本原則にも接触する問題を含んでいるだけに、政治家だけではなく、国民も意見が分かれているのが現状だ。

金正恩氏は娘を“人間の盾”に利用か

 北朝鮮は2022年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行い、ICBMは北海道渡島大島西方沖約200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。ところで、北朝鮮メディアは金正恩総書記と同行する家族を写真で報じたが、金正恩氏の娘さん金ジュエ(主愛)の写真が初めて公に報じられたことから、さまざまな憶測が流れ出した。

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▲大陸間弾道ミサイル発射場を視察する金正恩総書記と長女ジュエさん(2022年11月18日、時事通信のKCNAの写真から)

 なぜなら、金正恩氏はその後も公式の行事に頻繁にジュエさんを随行させていることが明らかになったからだ。日韓メディアでは「なぜ金正恩氏は娘を同行させたのか、ジュエさんはどんな娘なのか」などと大きな話題を呼んできた。

 このコラム欄でも考えられるシナリオを紹介したが、韓国情報機関はここにきて「金ジュエさんは金総書記の後継者ではないか」と考え出している。金正恩氏は後継者の娘を公にすることで金王朝が3代で終わらず、4代以降も続くことを国内外にデモンストレーションしている、というわけだ。

 当方はこのコラム欄で「金正恩氏は多分、英国のエリザベス女王の葬儀の場面を観たはずだ。その葬儀では、ウィリアム皇太子の2人の子供ジョージ王子とシャーロット王女が同行していた。英国内では『葬儀の場に子供連れは良くない』といったコメントが見られたが、欧州王室専門家は、そうではない。英国民から愛されたエリザベス女王の死後、チャールズ新国王、ウィリアム皇太子と英王室が続く。そしてジョージ王子とシャーロット王女を葬儀の場に同行させることで、英王室は永遠に続くことを公の場で見せる。世界の目が注がれるエリザベス女王の葬儀の場は、その意味で絶好の機会となるからだ」と書いた。

 ウィリアム皇太子が2人の子供を同行させたように、金正恩氏は、祖父金日成主席、金正日総書記、そして金正恩総書記の3代後も金ファミリーから金王朝を継承する人物が出てくることを国民と世界に向かって見せる機会を探っていた。そこで「火星17」の発射実験の場に子供を同行させる考えが浮かんできたのだろう。その意味で、「金正恩氏はエリザベス女王の葬儀から王室継承のノウハウを学んだといえる」と解説した。

 「火星17」が天に向かってその堂々とした雄姿を見せている。一方、その数十メートル離れたところで金正恩氏と娘が手をつないで歩きながら話している。そのシーンは映画の最高潮の場面を見ているような気分にさせる。「火星17」は金王朝を軍事的に支えるシンボルである一方、父親と娘は金王朝が永遠に続くことを示す。計算された演出とでもいえる(「金正恩氏が『英王室』から学んだ事」2022年11月21日参考)。

 ところで、ここにきて欧州居住の脱北者から新しい情報が流れてきた。金正恩総書記は米韓の暗殺計画から自身の身を守るために娘を“人間の盾”に利用している、という少々ショッキングな内容だ。

 説明する。イスラエル軍と戦闘を繰り返しているパレスチナ自治区ガザ区を実効支配しているイスラム過激派テロ組織ハマスの戦略を思い出してほしい。イスラエル軍の砲撃から守るために、その拠点を病院や難民収容所の地下に構え、パレスチナ住民、女性や子供たちを“人間の盾”として利用している、といわれてきた。国連や人権擁護グループはイスラエル軍のガザ攻撃を批判、ブリンケン米国務長官はイスラエル側にガザ区の戦闘の抑制を要求している。

 一方、金正恩氏は米韓両軍は有事の際に北朝鮮指導部の排除を目的とする「斬首作戦」を用意していることを知っている。実際、訪朝したボンぺオ前米国務長官に「私を殺そうとしていることを知っている」と語ったという。ポンペオ前長官は2023年1月24日に出版した回顧録でこの話を明らかにしている。

 北朝鮮は昨年11月、ロシアの技術支援を受けて初の軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げに成功し、米国のホワイトハウスやペンタゴン(国防総省)を撮影したと発表、金正恩総書記は「大きな満足」を示したというが、米国の軍事偵察衛星(通称キーホール)は久しく朝鮮半島を偵察し、その画像の解像度は15センチともいわれている。キーホールは金正恩氏の官邸執務室はいうまでもなく、金氏の国内の移動を完全にフォローしている。金正恩氏は米偵察衛星キーホールの目から逃れることはできないのだ。

 そこで金正恩氏は米軍の暗殺から逃れるために、ハマスと同様、自分の娘を盾にすることを考え出したのではないか。米国は金総書記に随伴する娘のジュエさんの方向にトマホークミサイルを撃ち込むことは躊躇せざるを得ないだろう。だから金正恩氏は外出する時には可能な限り娘を連れていくわけだ。人間の盾というわけだ。

 子煩悩の父親の金総書記が暗殺されるかもしれない危険な場所に娘さんを連れることはないだろう、という声もあるが、金正恩氏が暗殺された場合、娘さんを含む金ファミリーの運命には過酷な運命が待っている。すなわち、金総書記にとって金ファミリーは運命共同体だ。だから、米軍の暗殺を阻止するために娘さんを動員することに大きな抵抗はないのではないか。

 参考までに、金正恩氏には3人の子供がいるが、長男は先天的な障害をもっているといわれる。だから、父親を守る人間の盾役は長女のジュエさんに回ってきたというのだ。いずれにしても、米韓軍の特殊部隊の斬首作戦は金ジュエさんが父親と随伴していない時にしか実行できないのだ。いずれにしても、金ジュエさんの後継者説は依然、不確かというべきだろう。
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