ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2023年09月

貧しい子供は昼食にハンバーガーを

 王妃マリー・アントワネット(1755年〜93年)が、「貧しくてパンが食べられないなら、ブリオシュ(お菓子)を食べればいい……」といったという。貧しい人々の生活をまったく知らず、贅沢な生活を送っていた王妃のこの発言はフランス革命の引き金ともなった、といわれている(同発言は実際は王妃の言葉ではなかった、という説が有力)。

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▲国民党の新しい政治プラカード「オーストリアを信じよう」(国民党公式サイトから)

 ところで、これからの話はマリー・アントワネットの出身地オーストリアの2023年7月末のことだ。カール・ネハンマー首相は、「貧しくて暖かい昼食が食べられない子供はマクドナルドでハンバーガーを食べられる。1個1ユーロ40セントだ。お腹がすいていたらフライドポテトをつければ、3ユーロ50セントで食べられる」と発言したのだ。

 同首相はハンバーガーが1ユーロ40セントで食べられると言ったが、どんなに安いハンバーガーでも現在2ユーロは超えるし、フライドポテトをつけて3ユーロ50セントは子供にとって安くはない。貧しい家庭の子供にとってはかなり贅沢だ。月給2万ユーロの給料を得ているネハンマー首相はファーストフードの値段を知らないのではないか、と疑いたくなる。

 ネハンマー首相の発言は今年7月末、ザルツブルク州のハラインで首相が党首を務める「国民党」関係者、支持者が集まった席で飛び出した。首相が同発言をするシーンを放映したビデオが9月27日、SNSで拡散し、大きな物議を醸し出したわけだ。問題は、貧しい子供とハンバーガーの話だけではなく、「介護の責任がないにもかかわらずパートタイムで働く女性」を名指しで批判的に語ったため、家庭と職場、そして子供の世話で多忙な女性層から強い反発が起き、ネハンマー首相の2カ月前の動画での発言は政治問題に発展してしまったのだ。

 首相のハンバーガーの話が報じられると、野党の社会民主党、自由党、ネオスが一斉に首相の発言を批判、カリタスなどの慈善団体代表まで首相の発言を非難する、といった大騒ぎとなった。

 ネンハマー首相の発言が大騒ぎとなった背景には、与野党が来年秋の議会選を控え、既に選挙戦モードとなっていることがある。同国では、欧州連合(EU)の平均より高いインフレ、エネルギー価格の高騰、住居費の急騰で多くの国民は生活苦に陥っている。「国民党」と「緑の党」のネハンマー連合政権への批判が高まっている一方、世論調査では極右政党「自由党」がトップを独走といった同国の政情は選挙前夜の様相を深めている。そんな時、ネハンマー首相の動画が飛び出したのだ。野党はネハンマー首相に「冷酷な首相」のイメージを植え付けるチャンスと受け取っている。

 動画での発言が大きな波紋を広げていることを受け、ネハンマー首相は28日、「オーストリアには温かい食事が食べられない子供がいるという人は、この国に悪い印象を与えていることになる。私は子供の昼食まで政府が管理する旧東独のような国であってほしくない。国民は一人一人、仕事や子供の養育に責任を持って対応すべきだと考えている」と主張し、発言内容を謝罪せず、「個々の努力とその成果を評価する国であってほしい」と説明した。「攻撃が最大の防御」というわけだ。

 与党「国民党」は首相を擁護する一方、「私的な集会での首相の発言がどうしてSNSに流れたのか」という点を問題視している。オーストリアの政治学者トーマス・ホファー氏は28日、オーストリア国営放送の夜のニュース番組で、「わが国の政治家は政治家である以上、プライベートというものはないことを理解すべきだ」と指摘し、「首相が如何なる私的な場所で発言しても21世紀の今日、ソーシャルネットワークで直ぐに報じられてしまうことを忘れてはならない」と警告を発していた。

 日本では、池田勇人首相(在任1960〜64年)が「貧乏人は麦を食え」と発言して、国民から叩かれたことがあった。オーストリアのヴォルフガング・シュッセル首相(在任2000〜2007年)は「貧しい国民への思いやりが乏しい」と指摘され、冷たい首相というイメージがあった。その結果、同首相は再選できなかった経緯がある。

 貧しい子供に温かい昼食としてハンバーガーを勧めたネハンマー首相がシュッセル氏と同じ運命となるかは不明だが、野党が今回の首相の動画を攻撃材料として選挙戦で利用することは間違いないだろう。

「日刊紙」の紙媒体は終りを迎える

 冷戦時代、毎朝、目を覚ますと自宅に届く日刊紙プレッセとクリアに先ず目を通し、朝食後はドイツのヴェルトを読み、余裕があればフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)とスイス紙の高級紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)にも必要な記事には目を通した。週刊誌ではシュピーゲルを予約し、そのほか、オーストリアの週刊誌プロフィールやドイツのフォークス、そしてカトリック系週刊誌などを愛読していた。

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▲世界最古の現存する日刊紙「ウィーン新聞」(「ウィーン新聞」公式サイトから、2023年4月27日)

 当方は新聞が好きだった、というわけではないが、毎朝届く新聞は貴重な情報源だった。30年前以上の話だ。それがインターネットが登場して、世界のメディアが激変した。それに呼応して、当方の情報源も紙媒体の新聞・雑誌から次第にネットへと変わっていった。現在はシュピーゲル以外は紙媒体は予約せず、もっぱら日刊紙の電子版を読んでいる。歳をとるにつれ、新聞の活字を追うのが億劫になったうえ、インターネットから入る情報のほうが早く、コンパクトだからだ。

 新聞などの紙メディアの終焉が近い、ということはここ10年前ごろから言われてきたことだ。ところで、秋の賃金交渉に先駆け、オーストリアで紙メディアを経営するメディア業界は27日、「ジャーナリストとは賃金や待遇など労働条件の労働協約を解約する」と決定した。その理由は紙コストの高騰など経営問題も含め、紙メディアを取り巻く状況がこれまで以上に厳しくなってきたからだという。もちろんジャーナリスト労組は強く反対している。

 アルプスの小国オーストリアでもインターネット・メディアの攻勢もあって紙媒体のメディア業界は存続の危機に直面している。その象徴的な出来事は、今年6月30日を期して世界最古の日刊紙ウィーン新聞(ヴィーナー・ツァイトゥング)が紙媒体からオンライン電子版に移行したことだ。

 同紙は1703年に始まって2023年まで320年の歴史を有する「現在まで発行している世界最古の日刊紙」と受け取られてきた。320年間といえば、神童モーツァルトも楽聖ベートーヴェンも同新聞に目を通していただろうし、ハプスブルク王朝の栄枯盛衰を目撃してきたことになる。第1次、第2次の世界大戦を目撃し、1938年以降はヒトラーのナチス政権をフォローしたはずだ。同国が誇ってきた世界最古の新聞の終焉を告げる出来事は「時計の針をもはや戻すことはできない」ことを改めて追認させたわけだ。

 紙媒体のメディアは2010年には74紙があったが、2022年には53紙に減少した。例えば、今年に入りウィーン新聞のオンライン化、来年にはオーバーエステライヒ州の国民党機関紙フォルクスブラット(Volksblatt)も紙からオンラインに移行する、といった具合だ。

 ドイツのメディア業界の専門家たちは、「10年後にはドイツでは紙の日刊紙はなくなるだろう」と予言しているが、オーストリアのメディア問題専門家カルテンブルンナー氏は27日、オーストリア国営放送(ORF)の夜のニュース番組の中で、「ドイツが10年とすれば、わが国は13年後には同じような状況になるだろう」と述べていた。

 例えば、新聞を毎日読む年齢層を調査したとたところ、60歳以上は依然、70〜80%が新聞に目をやるが、14歳から19歳の若者は30%と少ない、若い世代はもっぱらインターネットのオンライン情報に集中し、紙の日刊紙を金を払ってまで読む習慣はない。ということはその若い世代の10年後、新聞を読む人が更に少なくなることは一目瞭然だ。

 米紙ニューヨーク・タイムズは久しくオンライン購読者の獲得に力を入れ、現在は同紙の購読者の80%以上がオンライン購読者だ。ローカル紙だった英紙ガーディアンが世界の主要メディアにまで発展できたのもインターネットへの進出があったからだ。

 10年後、長くても15年後には、日刊紙の紙媒体は消滅するだろう。昔の紙媒体の新聞を読みたければ、国立図書館に行くしかない。情報を提供するメディア側は毎日の情報を電子版で報じ、週刊誌、月刊誌の紙媒体で詳細な情報を提供する、といった「日刊紙」と「週刊誌・月刊誌」の間で暫くの間、棲み分けが進むのではないか。

 人間は情報への願望を持っているが、カルテンブルンナー氏は、「新聞が報じる情報を信頼すると答えた人は全体の40%に過ぎず、60%が情報の信頼性を疑っている。特に、新型コロナウイルスが席巻した過去3年間で多くの人はメディアが報じる情報を疑い出してきた」と述べている。「情報とその信頼性」はメディア業界が抱えているもう一つの大きな問題だ。

メローニ伊首相の“華麗な変身”

 選挙戦では各政党は選挙プログラムを発表する。有権者はその公約をみて投票する。ドイツのショルツ政権は2021年12月8日、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党から成る連立政権を発足させたが、それに先立ち、3党は同年11月24日に合意した連立協定(178頁)を公表し、任期の4年間で優先して取り組む政治課題をまとめた。

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▲日伊首脳会談の臨むメローニ首相(2023年5月18日、G7広島サミットで、首相官邸公式サイトから)

 そのショルツ連立政権は発足から中間点に差し迫ってきた。ショルツ首相は8月末、「3党連立政権は政権発足以来、既に公約の半分以上を実施した」と豪語し、メディアの世論調査では支持率が低迷な連立政権だが、実際は「実行する政権だ」とアピールした。例えば、ショルツ政権は脱原発政策を今年4月に成就し、大麻の部分的解除を実施したばかりだ。

 イタリアではジョルジャ・メローニ首相の率いる極右政党「イタリアの同胞」を中心とした右派連立政権が発足して9月22日で1年目を迎えた。ところで、メローニ首相の与党「イタリアの同胞」は選挙戦では反欧州連合(EU)政策、難民殺到防止に海上封鎖を主張、外交ではロシア寄りの姿勢をみせ、多文化主義には反対し、左翼的文化価値観に対して厳しく批判してきたが、政権発足後、親EU政策を展開させる一方、難民対策でもEUと連携してチュニジアと難民対策で協調するなど、選挙前の強硬な政治路線は巧みに修正されてきている(「チュニジアは“第2のトルコ”に」2023年7月18日参考)。

 対EU政策でも、「わが国はこれまでドイツやフランスの利益を支持するだけで終わり、わが国のアイデンティティを擁護する姿勢が乏しかった。巨大な債務、低賃金、難民問題、これらの問題に対してわが国の指導者は欧州が悪いからだと説明してきた。しかしイタリアに必要なものは本当の愛国心だ。わが国を守る精神だ」と主張してきた。そのメローニ首相はここにきてEUとの協調政策を模索し出している。

 メローニ女史は2012年にネオファシズム政党と呼ばれる「同胞」(Fratelli d'Italia)を結成し、14年に党首に就任。10年前の選挙では得票率1・96%に過ぎなかったが、昨年9月の総選挙で26%を獲得した。

 メローニ首相は1996年、「イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニはいい指導者だった」と堂々と語るなど、ネオファシストと受け取られた。メローニ氏が首相になった時、バイデン米大統領は「イタリアの民主主義が後退する」と懸念を表明していたほどだ。そのバイデン大統領は7月末、ホワイトハウスでメローニ首相と会談し、「われわれは友達になった」と言っている。

 ロシア寄りだったメローニ首相はウクライナ戦争勃発後、ウクライナを支援するなど欧米諸国と歩調を合わせ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からも人気を呼んでいる。また、対中政策では、イタリアは2019年に中国の習近平国家主席が提唱した新シルクロード「一帯一路」にG7メンバーとして初めて参加したが、米国などから非難を受けてきた。しかし、クロセット国防相は7月30日、「同プロジェクトには失望した」と表明するなど、メローニ政権は「一帯一路」からの離脱を検討中といわれる。メディア情報によると、「12月までに決断する」という。

 政権発足後、メローニ首相の口からはムッソリーニといった名前が飛び出すことはないばかりか、自身が結党した政党メンバーに対して、過激な発言を慎むように要請、現在は「国民的保守運動を推進していきたい」と述べ出している。「メローニ女史にとって極右政治という衣服はもはや着心地が悪いのだ。世界の政治舞台で華やかに動き回りたくなったのではないか」と冷静に受け取る声も聞かれる。

 選挙公約を破棄すれば、有権者には激怒され、メディアからも言語不一致として叩かれるものだが、メローニ首相に対する国民の評価はむしろ改善し、「イタリア初の女性首相のメローニ氏は長期政権を目指している」など好意的な論調が聞かれ出している。

 イタリアでは、終戦後に誕生した共和国を第1共和国とすれば、1994年シルビオ・ベルルスコーニ氏が率いる中道右派「フォルツァ・イタリア(FI)」政権を第2共和国、そして第3共和国はメローニ首相の「同胞」主導のもとに始まる、といった予測すら聞こえるほどだ。

 メローニ首相は公約を無視してというより、捉われない新しい政治スタイルを目指しているのだ。独週刊誌シュピーゲル9月16日号は、5ページに渡ってメローニ政権発足1年目を特集していたが、その特集の見出しは「メローニ・モデル」(Das MeloniーModell)だ。シュピーゲル記者は、「メローニ首相は以前はハンガリーのオルバン首相を模範としてきたが、現在はオルバン主義から離れ、新しい欧州右派の独自のメローニ・モデルを目指している」と述べている。

オルバン氏はロシア情報工作の手先?

 先ず、ブタペスト発の2つの外電を紹介する。

 .魯鵐リーのオルバン首相は25日、ブタペストの国会演説でロシアと戦争中のウクライナを酷評し、「キーウ政府はウクライナ最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族約15万人の母国語の権利を制限している。その権利が回復されるまで、わが国はウクライナを国際政治の舞台では支援しない」と述べた。オルバン首相が批判しているのは、ウクライナ政府が2017年、学校での少数言語の使用を制限する法律を可決したことだ。

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▲ハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 ▲ルバン首相は25日、「スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟の批准を迅速には実施しない。スウェーデンのNATO加盟の批准を急ぐ事情はないからだ。スウェーデンの安全は決して脅かされていない」と主張する一方、「スウェーデンはこれまでわが国に対して法の支配が損なわれているという中傷を繰り返してきた。ストックホルムには先ずわが国への敬意を求めたい」と述べている。

 ,魯Εライナのハンガリー系住民(マジャール人)政策への批判だ。ところで、オルバン首相はなぜ突然、2017年の少数民族の言語の権利に関する法律を持ち出して、ロシアと戦争中のウクライナを批判し出したのだろうか。そして「ハンガリーは今後、ウクライナ側が政策を変えない限り、国際政治上、ウクライナを支援しない」と脅迫しているのだ。

 オルバン首相がハンガリー・ファーストを標榜する政治家であることは良く知られているが、米国、欧州連合(EU)加盟国が結束してウクライナへの支援を実施している最中に、2017年の法律を持ち出してウクライナを批判するだけではなく、支援しないと警告を発しているのだ。

 △両豺隋▲ルバン首相がスウェーデンのNATO加盟の批准を迅速に取り扱わないという声明だが、理由が希薄だ。トルコがスウェーデンのNATO加盟を急がないのは、クルド労働者党(PKK)活動家へのストックホルムの対応が甘いことへの反発があるが、ハンガリーの場合、理由が明確ではない。ただ、オルバン政権へのEU加盟国の批判を理由に挙げているが、スウェーデンを名指しで批判する特別の理由は見当たらない。

 以上、上記の2つの外電の背景を考える時、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロの手助けは無用だろう。上記の2つのニュースで最も喜ぶ国、人間はロシアのプーチン大統領だ、という結論が容易に生まれてくるからだ。

 EU加盟国のハンガリーがウクライナを批判することで、EUの結束を揺るがすことになる。また、北欧スウェーデンのNATO加盟が遅れることはプーチン氏にとって朗報だろう。要するに、オルバン氏の25日の発言はプーチン氏を喜ばすニュースであったことは疑いないのだ。オルバン首相が事前にプーチン大統領と連携して今回の発言をしたとは思わないが、プーチン氏の意向に沿った発言だといえる。

 それでは、オルバン氏にはプーチン氏を喜ばせたい事情があるのだろうか。ハンガリーはウクライナ戦争後も安価のロシア産ガスの輸入を続けている。同国はまた、昨年4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。要するに、ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているのだ。

 ハンガリー・ファーストのオルバン首相はウクライナ避難民の救助など人道的な支援は行うが、それ以外のEUの軍事支援、武器供給を拒否し、EUの対ロシア制裁を拒んでいるわけだ。換言すれば、プーチン氏を怒らせたくはないのだ。

 だから、オルバン首相は、「EUの対ロシア制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なうだけだ」として反対の立場を取ってきた。ちなみに、ゼレンスキー大統領は、「オルバン首相はEUの結束を崩すロシアの共犯者だ」と批判している。

 オルバン首相は、EUの本部ブリュッセルからは「民主主義と法の遵守」を求められ、「言論の自由に反する」として制裁を科せられているが、プーチン大統領とは友好関係を維持し、中国とは経済関係を深めている(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域に」2020年4月30日参考)。

 EUは現在、ハンガリー向けに割り当てられた約300億ユーロのEU資金をブロックしているが、これには新型コロナウイルス復興基金からの援助と優先融資の120億ユーロが含まれる。EUは「ハンガリーの司法機関と監督機関はEU資金を正しく運営することを保証する十分な独立性を持っていない」と受け取っているからだ。

 ハンガリーは2024年7月1日、EUの議長国に就任する。任期は半年間だ。欧州議会は6月1日、ハンガリーのEU議長国に反対する決議案(全619票)を賛成442票、反対144票、棄権33票の賛成多数で採択した。同決議案は法的拘束力はないが、「象徴的な意味合いがある」という。EU加盟国ではハンガリーに対して不信感が強いわけだ。口の悪い人は「ハンガリーがまだEU加盟国に留まっていること自体、不思議だ」という。

 いずれにしても、オルバン首相の25日の発言を聞けば、「ハンガリーがロシアの情報工作の手先となっている」といった憶測さえ生まれてくるのだ。

核兵器は「イスラムの教え」に反する

 国際原子力機関(IAEA)の第67回年次総会は25日、5日間の日程で本部のウィーンで開幕した。同総会(加盟国177カ国)では、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所の安全問題、日本の福島第一原発の処理水の放出問題などのトピックのほか、イランの核計画問題、北朝鮮の核問題などが協議される。

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▲第67回IAEA年次総会でオープニングスピーチをするグロッシ事務局長(2023年9月25日、IAEA公式サイトから)

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▲「イランは核兵器を製造しない」と答えるライシ大統領(IRNA通信9月25日から)

 ここではイランの核問題についてまとめておく。

 IAEAの9月理事会(35カ国理事国)に提出されたイラン核問題に関する最新報告書では、「監視カメラの再設置など未解決問題の解決は進展していない」と指摘された。IAEAのグロッシ事務局長は2月28日、イランの核関連施設で濃縮ウラン83.7%が発見されたことを確認している。兵器用濃縮ウラン90%までもはや手の届くところまできている。濃縮ウラン83.7%の痕跡は、今年1月、イラン中部フォルドーの地下ウラン濃縮施設の検査中に発見された。イラン当局はIAEAに対し、「非常に高いレベルの濃縮は意図しない変動で生じたもの」と弁明してきた(「イラン『濃縮ウラン83・7%』の波紋」2023年3月2日参考)。

 ちなみに、9月のIAEA報告書によると、イランは8月19日時点で60%に濃縮した六フッ化ウランを推定121・6キロ貯蔵している。5月の報告書から7・5キロ増えた。

 また、イラン当局はここにきて同国の核施設の査察を目的としたIAEAからの追加査察官の認定を取り消している。グロッシ事務局長は今月16日、「イランのウラン濃縮活動を監視するIAEAの監視能力が大幅に制限される」と発表し、「イランの決定は、間違った方向への新たな一歩だ」と述べ、懸念を表明した。

 イラン側は、「ドイツ、フランス、英国が今月14日、核開発計画を巡るイランに対する既存の制裁を解除しないと決定したことを受けた対応だ」と主張。イラン外務省のナセル・カナニ報道官は声明で、「西側諸国がイスラム共和国とIAEAの協力を妨害しようとしている」と非難し、「査察官の認定取り消しは合法である」と強調した。

 IAEA年次総会に先駆け、イランのライシ大統領は米CNNとのインタビューに応じている。同大統領は「イラン人は自国のウラン濃縮を純度60%レベルまで上げた、これは2015年の核合意を欧州諸国が遵守していないことへの対応だ」と述べる一方、兵器級レベル近くまでのウラン濃縮をきっぱり否定し、「われわれが取ろうとしている行動は、いかなる種類の核兵器やいかなる種類の軍事的側面に及ぶことを意図したものではないと公式に発表されている」と説明した。

 イラン最高指導者ハメネイ師は過去、「大量破壊兵器の核兵器はイランの教えとは一致しない」と強調し、イランが核兵器を保有する考えがないことを繰り返し主張してきた。

 イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画があくまでも核エネルギーの平和利用と主張してきた。イランの核合意の代わりに、制裁を解除することになっていた。しかし、トランプ米前政権は2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱。それ以来、イランは順次に核合意で締結した合意内容を破棄してきた。

 そして、21年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている。なお、イラン議会は20年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。そして今回、ウラン濃縮83.7%の製造だ。イランの核開発計画は核拡散防止条約(NPT)など国際条約の違反であり、国連安全保障理事会決議2231と包括的共同行動計画(JCPOA)への明らかな違反だ。

 一方、イランの核武装化を恐れるイスラエルは、「テヘランが核兵器を保有することは絶対に容認されない」と指摘、必要ならばイランの核関連施設を空爆すると警告してきた。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある。

 スンニ派の盟主サウジアラビアもイラン(シーア派)の核兵器開発をただ静観していることはないはずだ。サウジの実質的統治者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は20日、米FOXニュースとのインタビューの中で、「イランの核武装は悪い一歩。もしテヘランが核爆弾を手に入れたら、サウジも同じことをしなければならなくなり、地域全体での核軍拡競争をもたらすだろう」と警告を発している。

ところで、同総会では中国や韓国の代表が基調演説の中で、福島第一原発の処理水の海洋放出開始について言及するものと予想される。IAEAは独自の調査結果をまとめ、「福島第一原発の処理水放出では国際規約に一致し、問題はない」と公表済みだ。日本からは高市早苗経済安全保障担当相が出席し、処理水の放出に加盟国の理解を求める。

 なお、グロッシ事務局長の再任が今回の総会で承認される。任期は今年12月から4年間だ。

長距離地対地ミサイル供与の効果

 ウクライナのゼレンスキー大統領は訪米ではあることを肌で感じたのではないか。最大の支援国・米国でもウクライナ戦争への関心が減少していることをだ。バイデン米大統領はウクライナへの追加支援を発表したが、米議会でのゼレンスキー大統領への歓迎ぶりは昨年12月の最初の訪米時と比べれば、明らかに冷めていた。米議会での演説も出来ず、米国らしい熱狂的な歓迎といったシーンは少なかった。

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▲米陸軍の長距離地対地ミサイル「エイタクムス」(ウィキぺディアから)

 次期大統領選を来年11月に控えている米国では政治家も有権者も最大の関心事は次期大統領選に注がれている。大統領を含む政治家の全ての言動は選挙戦にプラスか否かが最大の判断基準となる。戦場から飛んできたゼレンスキー氏は一抹の不安と寂しさを感じたに違いない。その点、米国訪問後のカナダ訪問(22日)では大歓迎を受け、ゼレンスキー氏は鼓舞されたことだろう。カナダのトルドー首相は今後3年間で約715億円相当の追加支援を発表した。

 ゼレンスキー氏はカナダ訪問後、帰国の途上、ポーランドに寄ったが、ポーランドの政治家との会合はなく、負傷したウクライナの子供たちの支援活動に活躍したポーランド人に国家賞を授与したことが唯一のトピックだった。ウクライナ産穀物輸入問題でウクライナとポーランドの間で対立が生まれてきている。そのうえ、ポーランドは現在、議会選挙戦(10月15日実施)の最中だ。与野党は農民層の支持を得るためにウクライナ産穀物輸入には強く反対し、ウクライナとの関係は現在、険悪となってきた。ウクライナ戦争の勃発以来、隣国ポーランドはウクライナからの避難民の最大受け入れ国であり、武器も積極的に供与してきた支援国だった。何度もキーウまで足を運んで支援を表明してきたモラウィエツキ首相は現在、ウクライナ批判の最先頭に立っている、といった具合だ(「ウクライナ戦争と欧米の『選挙戦』」2023年9月23日参考)。

 ところで、ゼレンスキー氏の訪米での成果は、当初供与を渋っていた射程約300キロの長距離地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)の供与をバイデン大統領が土壇場で約束したことだ。それに先立ち、バイデン氏はウクライナに対する総額約3億2500万ドル(約480億円)の追加軍事支援も表明したが、長距離地対地ミサイルの供与は最後まで拒否していた。

 長距離大型地対地ミサイルの数や供与時期は未定だが、米国がエイタクムスをキーウに供与することを決めたことで、ドイツの長距離巡航「タウルス」(Taurus)のキーウ供与の道が大きく開かれる。ショルツ独首相は主力戦車「レオパルト2A6」のキーウ供与問題でも常に「わが国は単独ではできない。米国がその主力戦車『M1エイブラムス』を供与するなら、ドイツもそれに応じる用意がある」と表明。米国が今年1月25日、主力戦車の供与を決定した時、ドイツ側は同時に「レオパルト2A6」の供与を決定した経緯がある。

 それだけに、ドイツ製長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与問題でも同じことがいえるというわけだ。ちなみに、ドイツ製長距離巡航ミサイル「タウルス」の射程距離は米国のそれより長い約500キロだ。米国とは違い、ウクライナにとって欧州大陸のドイツから長距離巡航ミサイルを獲得できれば、運搬も補給作業も米国のそれより容易だ。英国とフランスは既に射程距離250キロのミサイルをウクライナ軍に供与しているが、ドイツの「タウルス」が加われば、モスクワにとって脅威となることはいうまでもない。

 ウクライナは現在、2014年にロシア側に併合されたクリミア半島の奪回を最大の目標としている。ウクライナ軍は22日、クリミア半島の軍港都市セバストポリにあるロシア海軍黒海艦隊司令部を攻撃し、大きなダメージを与えたという。ウクライナ軍が米国やドイツから長距離地対地ミサイルを獲得できれば、ロシア軍への攻撃力は数倍強化され、戦局を大きく左右することにもなる。例えば、ロシア本国とクリミア半島を結ぶ「クリミア橋」が完全に破壊されれば、ロシア軍のウクライナ南部への補給は完全に断たたれる。

 参考までに、ウクライナとの戦争が始まって以来、約3500人の兵役年齢のロシア人男性がドイツへの亡命を申請している。ドイツ連邦内務省が明らかにしたものだ(独週刊誌「ツァイト」オンライン9月24日)。

イスラエルとサウジ両国、関係改善へ

 当方は2017年11月26日、「サウジアラビアとイスラエルが急接近」という見出しの記事をこのコラム欄で書いた。あれからほぼ6年が経過したが、両国には本格的な関係改善の動きが始まっている、という外電が流れてきた。

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▲サウジのムハンマド皇太子(ウィキぺディアから)

 サウジの実質的統治者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は20日、米放送局FOXニュースとのインタビューの中で、「わが国とイスラエルは関係正常化への道を進んでいる。両国は日に日に近づいている」と述べた。そして、イスラエルとの合意が実現すれば、「冷戦終結以来、最大の歴史的合意だ」と表現している。

 2017年11月段階ではサウジのイスラエル接近の背後にはイランの脅威が大きかった。サウジといえば、イスラム教スンニ派の盟主を自認し、イランはイスラム教シーア派の代表格だ。両国間で「どちらが本当のイスラム教か」といった争いを1300年間、中東・アラブ諸国間で繰り広げてきたライバル関係だ。

 イランはシリア内戦では守勢だったアサド政権をロシアと共に支え、反体制派勢力やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)を駆逐し、奪われた領土の奪還に成功。イエメンではイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」を支援し、親サウジ政権の打倒を図る一方、モザイク国家と呼ばれ、キリスト教マロン派、スンニ派、シーア派3宗派が共存してきたレバノンでは、イランの軍事支援を受けたシーア派武装組織ヒズボラが躍進してきた。イラクではシーア派主導政府に大きな影響力を行使してきたことは周知の事実だ。

 一方、サウジはイランが中東の覇権を奪い、ペルシャ湾から紅海までその勢力圏に入れるのではないか、といった不安が強かった。サウジのムハンマド皇太子は米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューの中でイランへの融和政策の危険性を警告し、イランの精神的指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラー」と酷評した。そのサウジは当時、イスラエルに急接近していった。両国の“共通の敵”イランの存在があったからだ。イスラエル軍のガディ・エイゼンコット参謀総長は当時、サウジの通信社 Elaph とのインタビューに応じ、「イスラエルはサウジと機密情報を交換する用意がある。両国は多くの共通利益がある」と述べていたほどだ。

 しかし、サウジとイスラエル両国の関係改善が遅々として進まない中、サウジは中国の仲介を受けて宿敵イランとの関係正常化に乗り出してきた。両国は今年3月、両国関係の正常化で合意した。一方、中国がサウジとイラン両国の関係正常化の仲介役を演じるなど、中東地域で影響力を拡大してきたことに警戒する米国側はここにきてそのサウジとイスラエルの関係改善の仲介に力を入れ出してきた、というわけだ。

 米国はサウジとイスラエル両国の接近について協議が行われていることを認めている。米メディアによると、米国はサウジにイスラエルを承認し、その見返りに米国の安全保障を受け、民間核計画の立ち上げを支援する一方、イスラエルにはパレスチナ人問題の解決を強く要求しているという。

 イスラエルのネタニヤフ首相は20日、バイデン米大統領との会談で、「サウジとの歴史的平和は手の届くところにある」と語り、「そのような和平は、まず第一に、アラブ・イスラエル紛争の終結をもたらし、イスラエルとパレスチナ人の間の真の平和に大きく貢献すると信じている」と述べている。

 中東でアラブ・イスラム教国に取り囲まれているイスラエルは過去、エジプト(1979年)とヨルダン(1994年)との外交関係しかなかったが、トランプ政権に入って2020年9月15日、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレン、そして同年10月23日、スーダンとの外交関係を樹立。同年12月に入ると、モロッコと国交正常化に合意するなど、アラブ・イスラム諸国との関係を急速に深めていった。サウジとの関係正常化はイスラエルにとって残された最大の外交目標となった。

 イスラエルとサウジの間には多くの未解決の問題がある。最大のハードルはやはりパレスチナ問題だ。ムハンマド皇太子はテレビインタビューで、「合意はイスラエルとパレスチナ人の対応に大きく左右される」と強調することを忘れていない。サウジアはパレスチナに対する最大の援助国だ。

 ところで、サウジ側の要求であるパレスチナ問題の解決にはイスラエル側の譲歩が不可欠となる。しかし、「史上最も保守的なイスラエル政権」と呼ばれるネタニヤフ現政権にとってそれは容易ではない。ネタニヤフ首相はサウジとの合意を実現するために政権内の右派宗教政党に譲歩を強制できるか否かは不確かだ(「『オスロ合意』30年と関係者の証言」2023年9月13日参考)。

 ネタニヤフ首相がサウジとの関係正常化を願うならば、内閣改造を実施し、過激な宗教右派政党に代わって野党との新しい連合に乗り出す道も考えられる。ただし、司法改革法案で国内では大規模な抗議デモが行われている時だけに、ネタニヤフ首相にはそのような政治決断を下す余力があるかは疑わしい。

 サウジは現在、イランとも関係正常化を目指しているが、イランの核武装問題が控えている。スンニ派の盟主を自認するサウジはシーア派の代表イランの核武装化は絶対に容認できない。ムハンマド皇太子はインタビューの中で、「イランの核武装は悪い一歩。もしテヘランが核爆弾を手に入れたら、サウジも同じことをしなければならなくなり、地域全体での核軍拡競争をもたらすだろう」と警告を発している。

 サウジは現在、イランとの関係正常化だけではなく、イスラエルとの関係樹立を模索している。サウジの外交がここにきて活発化してきた背景には、ムハンマド皇太子を取り巻く政治環境が整ってきたことが挙げられる。同皇太子はこれまで反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害問題(2018年10月)で関与を疑われ、西側社会ではペルソナ・ノン・グラータ(招かれざる客)であり、国際外交の世界ではアウトサイダーだった(「『ハッジ』のボイコッを叫ぶ声」2019年8月9日参考)。

 しかし、バイデン米政権がトルコのイスタンブールのサウジ総領事部内で起きたカショギ氏殺害事件を重視、人権蹂躙事件として関係者の制裁を実施したが、ムハンマド皇太子をその制裁リストから外した。この結果、同皇太子は外交的孤立を脱出し、国際政治の舞台で積極的に打って出るチャンスが出てきたわけだ。

ウクライナ戦争と欧米の「選挙戦」

 「選挙」は民主主義の政治体制を支える大きな柱だが、同時に、政治家の言動を狂わす要因ともなるものだ。選挙で当選しなければ、その日からその政治家は“タダの人”となる欧米諸国の選挙では猶更だろう。そのため、政治家は選挙に勝利するためにあらゆる手段を駆使しようとするからだ。

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▲バイデン米大統領(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(2023年9月22日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 そんな感慨を改めて持ったのはポーランドのモラウィエツキ首相の「ウクライナへは今後武器を供与せず、自国の国力の近代化に投資していきたい」という20日の発言を聞いたからだ。ポーランドは、ロシアがウクライナに軍侵攻をして以来、これまで一貫してウクライナを支援してきた。ウクライナからの避難民を100万人以上受け入れる一方、重火器を積極的にキーウに提供してきた国だ。そのポーランドの首相が突然、「もはや武器をウクライナに供与しない」というのだ。ポーランド政府に何が生じたのか。

 理由は明らかだ。ポーランドは目下、選挙戦が展開中だからだ。ポーランドで10月15日、議会選挙(上・下院)が実施される。選挙の焦点は、2期8年間政権を運営してきた保守系与党「法と正義(PiS)」が政権を維持するか、それとも中道リベラル派の最大野党「市民プラットフォーム」(PO)主導の新政権が生まれるかだ。選挙では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。複数の世論調査では、両党は拮抗している。もはや政権交代の可能性も排除できない。

 与党「法と正義」(PiS)としては党の有力支持基盤の農民層を固める必要がある。具体的に説明する。ウクライナからの穀物が大量に国内に流入すれば、国内の農家たちが安価なウクライナ産穀物に対抗できないから苦しくなる。そこでポーランド政府はウクライナ産穀物の輸入を禁止する政策を取った。すると、キーウのゼレンスキー大統領は怒りを発し、「わが国の国家収入の60%を占める穀物輸出を禁止することは自由貿易の立場からいっても受け入れられない」と反発、ポーランド政府が政策を撤回しないので、世界貿易機関(WTO)にポーランドを提訴したばかりだ。

 そのような中、モラウィエツキ首相の「今後ウクライナに武器を供与せず、国内の戦力の近代化に努力したい」という発言が飛び出したわけだ。ただ、ポーランド首相の発言を余り深刻に受け止めるべきではないだろう。実際、ポーランドのドゥダ大統領は翌日の21日、モラウィエツキ首相の発言について、「自国のために購入している新しい兵器は送らないという趣旨だろう」と述べ、今後もウクライナへの支援を続けていく姿勢を改めて強調している。

 ポーランドではロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することでは与野党の間には大きな相違はない。問題が生じたのは、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、ウクライナ産の穀物がポーランドに輸送され、そこで取引される事態が生じたからだ。ポーランド政府は農民たちの苦情を無視できないので、同じ事情にあるスロバキア、ハンガリーと共にウクライナ産穀物の輸入禁止という処置を取ったわけだ。あれも、これも、全て「選挙」がなす業だ。

 ゼレンスキー大統領は目下、ニューヨークの国連総会に参加中にポーランド政府の突然の変心を聞いても余り驚いていない。来年大統領選挙を控えるゼレンスキー氏はポーランド政府の事情を理解しているからだろう。そのうえ、ポーランドは歴史的にみても反ロシァア傾向が強い国だ。国防上からもウクライナを捨てることは絶対にないことを知っているからだ。

 興味深いことは、ポーランド首相の発言は本来、ロシア側を喜ばすが、余り浮かれた反応はモスクワからは聞かれない。クレムリンの指導者も「選挙だからだ」と知っているからだ。ちなみに、ロシアでも来年大統領選挙が実施されるが、選挙戦はショーに過ぎず、プーチン大統領の勝利は既に決まっている。モスクワの指導者は「選挙」を控えているからといってその政策を大きく変えることはない。

 ウクライナ戦争は長期戦に入った。消耗戦でもあり、関係国にも戦争疲れが見え出してきた。それだけに、来年選挙を控えている欧米諸国の政治家たちは、国民のウクライナ戦争への支援疲れを見落としてはならないだろう。最大のウクライナ支援国・米国でも来年11月、大統領選が実施される。バイデン大統領は再選出馬を決定している。共和党候補者に勝利するためにはウクライナ戦争への対応でポイントを稼ごうとするだろう。同時に、ウクライナへの全面的支援に対して批判の声が出てきていることもあって、バイデン大統領はキーウ政府の武器要求に対してブレーキがかかってしまう。また、欧州連合(EU)加盟国では欧州議会選が実施される。その最大の争点は難民・移民の殺到問題と共にウクライナ戦争とその支援問題だ、といった具合だ。

 繰り返すが、選挙を控えている国では、政治家の中で想定外の政策や発言が飛び出してくる可能性は排除できない。ポーランド首相だけではない。ロシアのプーチン大統領は欧米諸国の選挙戦を良く知っているから、さまざまな情報戦を展開し、ウクライナ支援疲れの欧米諸国の国民に囁きかけてくるだろう。「選挙」はウクライナ戦争の今後の動向にも大きな影響を与える要因となっている。

「同性カップル」に神の祝福を与えるか

 独ローマ・カトリック教会ミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス大司教(枢機卿)はミュンヘナー・メルクーア紙(9月19日付)とのインタビューで、「同性カップルに神の祝福を与えるか」と質問され、「常に具体的な状況に依存するが、彼らが神の祝福を求めるならば、それに応じるだろう」と答えている。実際、多くのカトリック教会では既に同性カップルのための祝福の儀式が行われているが、教理上からみて問題がないわけではない。

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▲マルクス枢機卿(バチカンニュース2021年6月10日から)

 バチカンは2021年、「神の計画に従って明らかにされたものとしては客観的に認識されない」として、同性パートナーシップの祝福は「許可されていない」と明確にした。それでも、マルクス枢機卿のように、同性カップルに神の祝福を与えようとする聖職者が絶えないのだ。「教理」と現場での「実践」の間に次第に格差が広がってきている。

 最近、デュッセルドルフ近郊のメットマンの教区神父が同性カップルの祝福式を実施したが、保守派聖職者で知られるケルン大司教区のライナー・マリア・ウェルキ枢機卿から叱責を受ける、といった出来事が起きたばかりだ。神の祝福を与えるべきだと主張する聖職者たちは、「私たちは、教会的に結婚の秘跡を受けられないカップルがいることを知っている。しかし、彼らがそのために牧会から排除されることはあってはならない」と指摘している。

 ところで、マルクス枢機卿は2019年12月12日付の週刊誌シュテルンのインタビューの中で、「カトリック教会は同性愛者の人々を歓迎する。同性同士が長年互いに誠実にカップルの生活を送っているなら、教会は彼れらの生き方に一概に負や無の評価をくだしてはならない」と述べる一方、「カトリック教会は同性カップルにも“司牧的に寄り添う”(seelsorgliche Begleitung) ということであって、『結婚の秘跡』を授けるわけではない」と断っている。同枢機卿は4年前の時点で同性カップルに「司牧的に寄り添う」と表現する一方、「結婚の秘跡を授けるわけではない」と両者の違いをはっきりと強調していた。

 同枢機卿の発言は当時、教会内外で大きな波紋を投じ、「私は多方面から批判を受けている。ある人々は『彼は やりすぎだ』と言い、ほかの人々は『彼は 不十分だ』と言う」と述べている。忘れてならない点は、マルクス枢機卿はフランシスコ教皇を支える枢機卿顧問評議会メンバーの1人であり、教皇の信頼が厚い高位聖職者だ。同枢機卿の発言はフランシスコ教皇の意向が反映していると受け取って間違いないだろう。

 ドイツのカトリック教会は現在、教会刷新活動「シノドスの道」を推進している。「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。独司教会議が提示した主要な改革案は、.蹇璽沺Εトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。∪賛者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。だ賛者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。(「教皇の発言でキレた独司教会議議長」2023年2月1日参考)。

 同性カップルの祝福の認可は、ドイツの改革プロセスである「シノダーラー・ヴェク」の主要な要求だが、バチカン教皇庁は独教会の改革案が行き過ぎと判断し、再考を要求している。そのような中、フランシスコ教皇の最側近のマルクス枢機卿が独紙のインタビューの中で同性カップルへの祝福を認める趣旨の発言をしたわけだ。 

 ローマ・カトリック教会は2015年10月、3週間に渡って世界代表司教会議(シノドス)を開催したが、フランシスコ教皇は当時(15年10月4日)、シノドス開催記念ミサで、「神は男と女を創造し、彼らが家庭を築き、永久に愛して生きていくように願われた」と強調した。その教皇は同月25日の閉幕の演説の中では、「家庭、婚姻問題では非中央集権的な解決が必要だ。教会は人間に対し人道的、慈愛の心で接するべきだ。教会の教えの真の保護者は教えの文字に拘るのではなく、その精神を守る人だ。思考ではなく、人間を守る人だ」と指摘し、信者を取り巻く事情に配慮すべきだと述べたのだ。

 教皇のシノドスの開会式と閉幕式の発言では、同性愛問題で微妙なニュアンスの違いが浮かび上がってくる。教皇自身が教理主義の保守派聖職者と現場主義の改革派聖職者の間の真っ只中にいて揺れ動いている。このことは教皇の最側近のマルクス枢機卿にも言えることではないか。

独語圏2大「極右政党」の接触

 オーストリアの極右政党「自由党」(FPO)の招きを受け、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首が19日、ウィーン入りし、FPOのヘルベルト・キックル党首と会合すると、「2大極右党の接近か」といった憶測が流れるなど、欧州のメディアでは大きな話題を呼んだ。

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▲インタビュー番組に出演したキックル党首(左)とワイデル党首(右)、中央は司会者(2023年9月19日、FPO公式サイトから)

 AfdとFPO両党は現在、ドイツとオーストリアの政界を震撼させている。FPOは最新の世論調査では支持率30%を超え、与党の保守派政党「国民党」を抜いて第1位を独走している。一方、AfDはドイツ民間ニュース専門局ntvの最新世論調査によると、「キリスト教民主・社会同盟」CDU/CSU)の27%に次いで約22%で第2位に躍進し、ショルツ首相の社会民主党(SPD)の17%を大きく引き離している。すなわち、FPOもAfDも世論調査を見る限り、躍進中の政党だ。その両政党の代表がウィーンで会合したわけだから、メディアが騒ぎ出すわけだ(「極右『自由党』が支持率で独走」2023年9月3日参考)。

 AfDとFPOは極右政党と呼ばれる。両党は外国人排斥、難民移民の受け入れ反対、欧州連合(EU)に批判的であり、反米的といった政治信条は酷似しているが、相違点もある。AfDはドイツ連邦憲法擁護庁から2021年3月に「危険団体」として監視対象に指定されている。旧東独地域では30%を超える支持率を誇るが、連邦レベルでは政権に参画したことがない。一方、FPOはこれまで政権入り(例シュッセル政権、クルツ政権)を体験、現在は3州(ニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州)で連立政権に入っている。ドイツとオーストリアの国民の人口比では10対1だが、政治キャリアではFPOは2013年2月に創立されたAfDのそれを上回っているわけだ。

 参考までに、ドイツで起きた事はある一定の期間の後、隣国オーストリアでも起きる、といわれてきた。モードや文化的な流行だけではなく、社会的な出来事でもそうだ。ドイツとオーストリアは言語が同じということで、両国は兄弟国と受け取られている。

 ただ、歴史的にみると、政治的な動向は弟のオーストリアが先行し、その潮流がドイツに流れていくケースが多い。例えば、オーストリアで画家の道を塞がれたアドルフ・ヒトラーはドイツに入って国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を掲げて政権を掌握したように、現代ではオーストリアのFPOの政治運動が先行し、ドイツの極右政党AfDに影響を与えている、ということができるわけだ。

 AfDは旧東ドイツのテューリンゲン州のゾンネベルク郡で6月25日に行われた選挙で、AfDの候補がCDUの候補との決選投票を制し、首長に選出された。そしてザクセン=アンハルト州では市長に選出された。連邦レベルでは政権入りした経験がないが、党創設10年という短期間での実績としてはAfDの躍進は目を見張るものがあるといわざるを得ない。

 AfDとFPOの現在の悩みは、他の政党が悉く両党との連立を拒否していることだ。キックル党首は19日の記者会見で、「わが党もAfDも他の政党から非民主的政党との烙印を押され、国民から支持を得ながらも政権担当の道が閉ざされている」と指摘、「両党とも犠牲者だ」と述べている(「極右政党の“政権パートナー探し”」2023年6月14日参考)。

 独週刊誌シュピーゲルのAfD問題の専門記者アン・カトリ―ン・ミュラー氏は19日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応じ、「AfDは外国人・少数民族への排斥などその政治信条は極右的だ。同党を支持する国民の票は単に現政権への抗議票ではない」と指摘し、警戒している。南ドイツ新聞が「AfDを解体すべきだ」と提言していることに対して、ミュラー氏は、「民主的なプロセスで選出されている限り、その政治的活動を禁止することは難しい。国が政党助成金という形で支援することを先ず中止すべきだ」と述べ、「禁止」の前に「政党助成金のストップ」を提示していた。

 ちなみに。ドイツの評論家ミハエル・フリードマン氏はORFの別のニュース番組で、「少数派をスケープゴートにして有権者の支持を集めるAfD、FPOは人権を無視している。民主的プロセスで躍進してきたとしても、両党を民主的政党とはいえない」と指摘している。

 なお、AfDのワイデル党首は19日夜、FPOの党アカデミーで講演し、ショルツ3党連立政権の無策を厳しく批判し、観衆からスタンディング・オベーションを受けていた。

 最後に、そのワイデル党首について少し紹介したい話がある。彼女は同性愛者で知られている。パートナーはドイツ人ではなく、スリランカ出身の外国人女性だ。AfDはこれまで同性婚には反対し、外国人排斥だ。ワイデル党首の生き方は、AfDの政治プログラムからみれば180度異なっている。その彼女が昨年6月以後、AfDの共同党首を務めているのだ。この矛盾をAfDはどのように止揚しているのだろうか。
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