ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2023年08月

「不安」: 極右台頭と陰謀説の拡散

 欧州のテロ問題エキスパート、英国のキングス・カレッジ・ロンドン教授のドイツ人政治学者ペーター・ノイマン氏は29日、オーストリア国営放送の夜のニュース番組で欧州の政界でみられる極右派政党の台頭について、「彼らは一部のメディアがいうようなファシストではない。民主主義の政治枠組みを否定せず、それを利用しながら、司法・裁判所を弱体化し、メディアを統制することで権力を掌握しようとしている」と説明、実例としてオルバン首相のハンガリー、エルドアン大統領のトルコ、愛国主義派政党「法と正義」(PiS)が統制するポーランド、そしてイタリアのメローニ現政権などを挙げている。

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▲エドヴァルド・ムンク作「叫び」(ウィキぺディアから)

 同教授は最近、新著「不安の論理」を発表したばかりだ。同教授によると、現代は「不安」があらゆる分野で独占的な影響を与えている時代だ。コロナウイルスのパンデミック、不法移民・難民の殺到、地球温暖化と気候不順、ウクライナ戦争などがたて続きに生じ、多くの人々は未来に不安を感じている。そのような時代になると、人々はその不安の元凶を探し、犯人探しに乗りだす。極右派の政治家たちは、ー国に侵入する外国人(難民・移民)、そして▲螢戰薀襪淵ぅ鵐謄蝓▲┘蝓璽帆悗鬟好院璽廛粥璽箸箸垢襪海箸如不安に悩む人々の心を捉えていくというわけだ。

 「不安」は極右勢力を台頭させるだけではなく、新たなビジネスを生み出していくが、看過できないことは、「不安」の時代には無数の陰謀説も生まれてくることだ。既成の政党や政府への信頼感を失う一方、ドイツではポピュリズムと陰謀論が蔓延している。

 世論調査フォルサが7月、ホーエンハイム大学の依頼を受けて実施した調査結果(4024人をインタビュー)によると、ドイツ人の4人に1人は、政治は「秘密権力」によってコントロールされていると確信し、ドイツ国民の5分の1はマスメディアが「組織的に嘘を報じている」と信じているというのだ。(以上はドイツ民間放送nTVウェブサイト2023年8月29日の「Viele Deutsche glauben an "geheime Machte"」を参考にした)。

 コミュニケーション科学者のフランク・ブレットシュナイダー氏は、「ドイツ人の3分の1は広い意味で右翼ポピュリストの世界観を持っている」と調査結果を総括している。およそ6人に1人(16%)が、この国は現在「民主主義というよりも独裁国家に近い」状態であることに同意している。また、2022年から23年にかけて、民主主義の機能に対する満足度は10%減らし、連邦政府への信頼は、他のどの機関よりも大きく低下したというのだ。

 ブレットシュナイダー氏は、「人々はフラストレーション、不満が強まると、有罪者を捜し出し、人は自分の世界と真実を一緒くたにしてしまう」と説明している。

 「なぜ人は容易に陰謀説を信じるのか」をテーマにさまざまな研究が行われている。秘密のエリートが世界の運命を支配しており、コロナのパンデミックは存在しなかったし、2001年9月11日の米同時多発テロ事件は米政府自らが演出し、ニューヨークのツインタワーを破壊した、といった良く知られた陰謀論からそれに類似した無数の陰謀説が流れた(同上2023年6月26日の「Warum glauben Menschen an Verschworungstheorien?」)。

 問題は、なぜ一部の人はそれらを信じてしまうのかだ。学術雑誌「Psychological Bulletin」に掲載された新しい研究では、性格特性と動機の組み合わせが原因であるとされている。

 米アトランタにあるエモリー大学の筆頭著者ショーナ・ボウズ氏は、「陰謀論者は、ポップカルチャーがよく描くような単純な人や精神異常者ばかりではない。多くの人は、抑圧された動機を満たし、苦痛や障害を説明するために陰謀論に頼る」という。

 研究者らは調査のために、主に米国、英国、ポーランドからの15万8000人以上が参加した170件の研究のデータを分析した。主に、陰謀論信者の性格と動機を調べていった。その結果、特定の性格特性が人々を陰謀論に陥りやすくしていることを発見した。陰謀説を信じやすい人は、不安、偏執的、引きこもり、操作的、自己中心的な傾向があるという。逆に、オープンで良心的で自分の感情をコントロールできる人は、陰謀論的思考の傾向が低いという。

参考までに、フェイクニュースを信じやすいタイプとして、独ヴュルツブルク大学の心理学者ヤン・フィリップ・ルドロフ氏はダークパーソナリティトライアドを挙げ、ナルシシズム、マキャベリズム、精神病質の3つパーソナリティ特性を指摘している。ナルシストは優越感を感じ、注目の的になることを好み、マキャベリの人は権力と地位を求める。一方、サイコパシーの特性は、衝動的で恐れ知らずの行動が特徴だ。これらの特徴には共通の核があって、ダークファクターの性格が強い人は、他人のことを気にせず、自分の利益だけを考えている」と述べている(同上2022年11月19日のDunkle Personlichkeitstriade"から)

 「不安」はもちろん、ネガティブだけではない。「不安」を感じることでそれを解決するためにさまざな努力を繰り返すことで新たな可能性を見出すことが出来る場合もあるだろう。ただ、それを見出すまでは忍耐と時間がかかるから、どうしても現在の不安を取り除くためにインスタントな解決策、陰謀説に走る人々が出てくるわけだ。

ローマ教皇「モンゴル」を初訪問へ

 世界に13億人以上の信者を有するキリスト教最大の教派、ローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ教皇フランシスコは31日から9月4日までの日程でモンゴルを司牧訪問する。フランシスコ教皇を含み、ローマ教皇がユーラシア大陸に位置する内陸国モンゴルを訪問するのは今回が初めてだ。

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▲ウランバートルにある聖ペテロ・聖パウロ大聖堂で礼拝に参加するモンゴルの信者たち(2023年8月28日、バチカンニュース公式サイトから)

 モンゴルは1990年に民主化され、92年2月、新憲法で「信教の自由」が保障されて以来、15歳以上の国民の64・4%が宗教を信じているという。同国国家統計局の2011年のデータによれば、同国の主要宗教は仏教、特にチベット仏教が86%以上を占め、次いでイスラム教4・9%、シャーマニズム4・7%だ。キリスト教は3・5%と少数宗派に過ぎない。カトリック教会の信者人口が乏しい国をローマ教皇が司牧訪問すること自体、非常に異例と受け取られている。

 以下、バチカンニュースの報道に基づく。

 モンゴルのカトリック教会の最高指導者はモンゴルの首都ウランバートルの使徒府代理のジョルジョ・マレンゴ枢機卿だ。同枢機卿は2020年から、仏教のラマ教とシャーマニズムに影響を受けたモンゴルの小さなカトリック信者たちを導いている。彼は国内の使徒的庁(教区の前段階)の長として、約1500人の信者と9つの教会に責任を持っている。

 マレンゴ枢機卿は、バチカンメディアとのインタビューの中で、「ローマ教皇の訪問は私たちも教会の中心にいることを感じさせてくれる機会となるだろう。地理的には、私たちは伝統的な軸に比べて世界の端に位置しているが、教皇を私たちの間に迎えることで、私たちは遠くではなく、教会の中心に非常に近い位置にいることを実感できる。また、教皇の訪問は、聖座とモンゴルとの良好関係をさらに発展させる機会となるだろう」と強調している。

 同枢機卿はまた、「地方教会にとって、ペテロの後継者を迎えることは大きな名誉であり、特別な恩寵だ。私たち全員にとって本当に素晴らしい贈り物だ。この国にとって、800年前に当時の教皇インノケンティウス4世が、モンゴルの支配者との対話のためにモンゴルへの最初の平和使者を派遣して以来の出来事となる。私はこれが特別な意義を持つ歴史的な旅行であり、国際政治の舞台でも特に重要だと考えている」と述べている。ちなみに、ロシアと中国の間にある内陸国モンゴルの教会指導者はまだ49歳で世界最年少の枢機卿だ。

 バチカンとモンゴル間の外交関係は1992年から始まった。モンゴルが1990年代初頭に民主化するにつれて、キリスト教の宣教師たちも再びモンゴル入りできるようになった。現在、モンゴルで活動している宣教師は約70人だ。そのうち約25人は神父、約30人は修道女、そのほか、信者宣教師だ。聖職者の出身は27カ国に及ぶ。モンゴルからの神父も2人いる(バチカンニュースから)。

 キリスト教徒はモンゴルでは少数宗派だけに、他の宗教との対話が重要になる。特に仏教界、シャーマニズム界、その他の宗教界、たとえばイスラム教などとの関係は大切になるという。

 モンゴルで「宗教の自由」が憲法に明記されて以来、宗教による差別は禁止され、国と教会は政教分離が原則だ。伝道活動には厳格な規則が適用されるという。

 フランシスコ教皇は25日、ローマの使徒宮殿の窓から「アジアの中心地、モンゴルへの旅を楽しみにしている。待ち望んできた訪問だ。数的には少ないが信仰に生きる大きな愛の教会と、高貴で賢明な宗教的伝統を持つ偉大な民族に出会う機会を感謝している。特に、宗教間のイベントを通じてお互いを理解することができることを願っている」と述べている。宗教間対話イベントは来月3日、ウランバートルのフン劇場で開催される。信仰を分かち合い、異なる宗教間の交流を図る場となる予定だ。

 フランシスコ教皇は、「私はモンゴルの皆さん、兄弟姉妹に向けて、あなたたちの間の兄弟として、あなたたちのもとに行くことを楽しみにしています。温かい招待をしてくださった政府に感謝し、私の訪問を熱心に準備してくれる皆さんにも感謝します。皆さんにお願いです、この訪問を祈りとともに支えてください」と語っている。

 バチカンが発表した教皇のモンゴル訪問の日程によると、31日午後18時30分に、教皇はカトリック教会の最高指導者として初めてモンゴルへの旅に出発し、9月1日の朝、モンゴル時間で午前10時にウランバートル国際空港に到着する。その後の数日間、教皇は国内のカトリック信者との会合に加え、教会間および宗教間の対話相手、政府代表者、市民社会の代表者と会い、社会プロジェクトの開始式に出席する。

人々が殺到する「島」と「村」の悩み

 オーストリア国営放送(ORF)のプレミアタイムの夜のニュース番組(Zeit im Bild)を観ていた。カメラは世界遺産に登録されているオーストリア中部オーバーエースターライヒ州の小規模な基礎自治体、小村ハルシュタット(Hallstatt)の風景を映していた。さらに村の住民らがプラカードを持ってデモをしている様子をテレビカメラが追っていた。プラカードには「旅行者はもうごめんだ」、「我々に安息を与えてほしい」といった内容が記されている。そのプラカードを持つ住民の周辺を旅行者らしい人々が通り過ぎる。

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▲オーストリアのハルシュタット湖畔の風景(2015年11月5日、撮影)

 ORF記者が住民に聞いている。彼らは異口同音に「昔は村は静かだったが、今は観光客で溢れ、騒音が一日中うるさい」という。ハルシュタットの村長は、「州政治家に掛け合って何とか対策をしてほしいと要請しているが、これまで何も実行されていない。ハルシュタットは旅行者のために存在しても、もはや私たち住民のためにではない」と嘆く。その口調には深刻さが伝わってくる。旅行者の訪問を制限してほしいというわけだ。世界遺産に指定された歴史的な観光地で「旅行者よ、来ないでくれ」という叫びが飛び出すところなどはないだろう。

 住民たちもORF記者も口にこそしなかったが、中国旅行者の殺到以来、世界遺産のハルシュタット湖などの美観が損なわれ出したといわれて既に久しい。中国人はオーストリアの湖畔の風景に魅了され、中国の企業が2012年6月、ハルシュタット湖畔の家並み、ホテル、教会、広場ばかりではなく、街の色彩までそのまま完全コピーし、中国で高級分譲地を建設し、販売を始めたことで話題になったことがあるほどだ(「オリジナルとコピーの“文化闘争”」2015年11月7日参考)。

 中国旅行者がハルシュタット湖の美しさを発見する前は、湖とその周辺は静かだったが、中国旅行者が殺到して以来、約900人の住民が住むコミュニティはチャイナ・ヴィレッジ(中国村)となったわけだ。ハルシュタットの住民は観光バスで降りてくる旅行者の圧倒的な数の前に少数住民のような思いを感じているわけだ。

 当方もハルシュタットを訪問したことがあるが、40年前の当時はアジア系団体旅行者の姿はほとんど見られなかったことを思い出しながら、ハルシュタットの住民の苦悩に同情した。

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▲北アフリカから地中海を渡って欧州に向かう難民たち(「国境なき医師団」=MSF公式サイトから)

 ORFのニュース画面はイタリア最南端の島ランペドゥーザ沖に不法移民が乗っているゴムボートと救助の船に移った。アナウンサーは「連日、多数の難民たちが島に殺到し、島の難民収容所は既にどこもパンク状況です」という。シチリア島南方にある同島の住民数は約5500人だ。イタリア通信(ANSA)によると、27日だけで4267人の難民が新たに収容された。ちなみに、ローマの内務省によると、イタリアで登録された今年の難民総数は10万7530人で、昨年同期の5万2954人を大きく上回っている。

 欧州連合(EU)は先月16日、チュニジアの首都チュニスで、北アフリカから地中海を経由して欧州に殺到する不法難民、移民問題、密航業者対策で協力を強化する一方、経済不況下にあるチュニジアに対し、EU委員会は最大9億ユーロの財政支援を実施することなどが明記された覚書に署名したことで、北アフリカからの移民・難民が減少するものと期待しているが、現実は何も変わらないのだ。実際、イタリア・ランペドゥーザ島沖で今月に入っても移民を乗せた船2隻が転覆する事故が起きたばかりだ。

 ランペドゥーザ島沖といえば、2013年10月3日、難民545人がボートに乗り、波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸からスタートし、約140キロ先のランべドゥーザ島を目指したが、途中乗った船が火災を起こし沈没し、360人が犠牲となったでき事を思い出す。マルタのジョセフ・ムスカット首相(当時)は同月12日、イギリスのBBCとのインタビューの中で、「EUは空言を弄するだけだ。どれだけの難民がこれからも死ななければならないか。このままの状況では地中海は墓場になってしまう」と嘆いた(「地中海が墓場になる!」2013年10月17日参考)。

 偶然かもしれないが、27日夜のニュース番組では、ハルシュタットでは「観光客」、ランべドゥ―ザ島では「難民・移民」の殺到風景が映しだされていた。約900人のハルシュタットの住民も、約5500人のランべドゥーザ島民も外の世界から彼らの数を凌ぐ人々(観光客、移民・難民)を迎え、その対応で苦悩せざるを得ないのだ。

ドイツが再び「欧州の病人」となった?

 英国の週刊誌エコノミストはドイツの国民経済の現状を分析し、「ドイツは欧州の病人だ」と診断を下している。主治医や家庭医でもない外部の、それも診察を頼んでもいない医師が「あなたは病人だ」と診断したならば、驚く一方、気分を害する人が出てくるだろう。

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▲野心的なグリーンプロジェクトの現場を視察するショルツ首相(2023年8月22日、ドイツ連邦首相府公式サイトから)

 ただし、ドイツの大衆紙ビルトではなく、経済問題で定評のある経済専門エコノミストが「ドイツの国民経済は停滞し、欧州の病人だ」と診断を下したのだ。それなりの理由はある。

 ドイツ国民経済は今年第1四半期(1〜3月期)の成長率がマイナス0・1%だった。前年第4四半期の成長率マイナス0・4%についで、連続2期でマイナス成長を記録したことが明らかになったのだ。2期連続、四半期の成長率がマイナスを記録すれば、「リセッション(景気後退)に陥った」と判断されるのは通常だ。だから、経済統計上から少なくとも、「ドイツ経済はテクニカルリセッションにある」と言っても間違いない。ドイツ経済が本格的なリセッションに直面しているか否かは他の経済統計が必要だろう。ちなみに、今年第2四半期の成長率は前期比でマイナス0・2%だった。

 当方は経済記者ではないので、詳細なドイツ経済の分析や評価はできない。ただ、“欧州の盟主”ドイツが「欧州の病人」と呼ばれ出したことを無視するわけにはいかないので、各方面の情報を集めてみた。

 ドイツの週刊誌フォークスは今月25日付のオンライン版で、「ドイツは再びヨーロッパの病人か」という見出しで報じていた。同誌によると、多くの経済学者は現在、今年の経済成長率の減少を予測し、「欧州最大の経済大国ドイツの国民経済は停滞と景気後退の狭間にある」と指摘している。

 リセッションという場合、マイナス成長率の他、高いインフレ率とそれに伴う国民の消費・購買力の低下、失業率と労働市場の悪化、生産性の低下、投資の減少などが一般的にみられるものだ。日本と同様、輸出大国のドイツにとって、世界経済の低迷、特に、米国と中国の経済的低迷は影響が大きい。そのうえ、昨年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面している。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下を無視できない。

 外国からの需要は低迷し、商品とサービスの輸出は前四半期比で1・1%減少し、輸入も停滞している。VPバンクのチーフエコノミスト、トーマス・ギッツェル氏はフォークスに、「グローバルな経済環境が良くない時、インフレ率が比較的高い水準である場合、ドイツ経済は窮地に立たされるだろう」と述べている。

 その一方、ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッチャー会長は、「ドイツは経済的に黄金の2010年代を経験し、国際的に非常に競争力があるが、ドイツがその強みをうまく活用しない限り、再びヨーロッパの病人になる可能性がある」と警告を発している。

 同会長が「再び」と発言しているように、ドイツの国民経済がリセッションに陥ったのは今回が初めてではない。例えば、冷戦終了後、ドイツは旧東独の再統合のために巨額の投資を強いられる一方、労働市場の低迷、高失業率などで国民経済は苦境に瀕した。それを2000年代初頭、福祉制度と労働関係の抜本的な改革を通じて経済成長を促進し、失業率を削減する「アジェンダ2010」が実施され、ドイツは苦境を克服した体験がある。

 今回のリセッションの背景には、3年間のパンデミック、そしてウクライナ戦争の勃発といった世界的な出来事の影響が大きいことは間違いないだろう。政府は多額の支援を余儀なくされ、財政赤字は膨れ上がってきた。クリスティアン・リントナー財務相は来年度から支出の縮小など緊縮財政に移行することを発表済みだ。欧州経済の原動力だったドイツが病人となった、と言われても余り反論はできないかもしれない。

 ドイツの産業界は専門職の労働力不足で生産性にも影響が出てきている。公共部門のデジタル化の遅れは久しく叫ばれてきた。対外貿易では、中国市場依存を脱皮しなければならない。サプライチェーンと輸出市場の分散化が急がれる。

 ドイツ国民経済の試練は16年間のメルケル前政権時代に蓄積されてきた問題ともいえる。ドイツは現在、メルケル前首相のロシア依存のエネルギー政策、中国市場への傾斜のツケの返済に追われている、といえるかもしれない。ドイツの政界ばかりか、メディアでも16年間という長期政権に君臨したメルケル氏の名前がここにきてほとんど聞かれないのは、決して偶然ではないだろう。

デンマーク「コーラン焼却禁止法案」

 間違いを一つもせず、ゴールまで走り切った人はほとんどいないだろう。1人間の人生だけではない。民族、国家も同様だろう。間違いや誤りがあれば、それを是正して前進していくことで、人生は豊かになり、民族、国家も発展していくはずだ。

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▲イスラム教の聖典「コーラン」(バチカンニュース2023年7月4日、写真はANSA通信)

 少々大げさな書き出しとなったが、デンマーク政府は25日、公共の場でのイスラム教の聖典「コーラン」の焼却を刑法で禁止する法案を作成した。同法案はコーランだけではなく、キリスト教の聖書やユダヤ教のトーラ、またキリスト教のシンボルである十字架などに対する冒涜行為にも適用される。法律に違反すると、罰金と最大2年の禁錮刑という。

 デンマークのペーター・ホメルゴー法相は、「政府が提出した法案は、宗教共同体にとって重要な宗教的な対象の不適切な取り扱いを禁止するものだ」と説明している。デンマークではここ数カ月の間で宗教的な文書や関連施設への冒涜行為が頻繁に行われたことから、イスラム教世界で抗議が高まってきた。

 同法相は、「公共の場での聖典の焼却行為だけではなく、踏みにじる行為や他の冒涜行為も法律の対象に含まれる。コーランの焼却は、基本的に軽蔑すべき行為であり、わが国の国益に害を及ぼす。外国および国内でのデンマーク人の安全を脅かす冒涜行為だ」と述べている。同時に、「言論の自由」問題にも言及し、「この法案は何を考え、言うことができるかを記述したものではない」と強調することを忘れなかった。すなわち、政府が作成した法案は「言論の自由」を規制するものではないというわけだ。

 北欧のデンマークやスウェーデンで最近、コーランを焼かれたり、イスラム教の聖典が冒涜されたりする出来事が多発していることをこのコラム欄でも報じてきた。北欧の両国はこれまで「言論の自由」という理由でコーランを焼く実行者に対して法的な規制を行わなかった。

 例えば、スウェーデンの首都ストックホルムの警察はユダヤ教とキリスト教の聖典を燃やすデモ申請を許可せざるを得なかった。カリナ・スカーゲリンド警察広報官は当時、「許可は公にトーラと聖書を焼くためのデモ申請に関するものではない。言論の自由に基づいて意見が表現される集会として許可しただけだ。両者には重要な違いがある」と説明した。ただし、デモ関係者の説明によると、「デモの申請書にはトーラと聖書の写しを焼くと報告してある。コーランの焼却は言論の自由の表現だ」と述べてきた(「ハイネの“予言”は当たった」2023年7月06日参考)。

 スウェーデンでは今年1月21日、右翼過激派のリーダー、ラスムス・パルダン氏がトルコ公館前で市民の面前でコーランを焼却し、国際的なスキャンダルとなった。スウェーデン政府関係者は当時、この行為を非難し、事件の直後、コーラン焼却を禁止した。その理由は、イスラム世界での反スウェーデン抗議行動や過激派のウェブサイトからの攻撃の呼びかけがあった故の安全上の懸念からだ。

 それに対して、ストックホルムの裁判所は「根拠は不十分だ」として禁止を取り消した。曰く、「抗議とデモの自由は憲法で保護されている権利だ。一般的な脅威状況だけでは介入の根拠にはならない」と説明している。要するに、「言論の自由」は宗教団体の聖典を燃やす行為を容認しているという立場だ。デンマークでもこれまでは同じだった。

 北欧のコーラン焚書と、それを取り締まらず容認する国に対し、イスラム世界では怒りの声が高まってきていた。「イスラム協力機構(OIC)」(56カ国・1機構)は2日、サウジアラビア西部ジッダで臨時会合を開き、対応を協議した。また、欧州連合(EU)カトリック司教協議会委員会(COMECE)は4日、スウェーデンにおけるコーランの焚書を非難した。

 フランシスコ教皇はアラブ首長国連邦の日刊紙とのインタビューで、「こうした行為に憤り、嫌悪感を抱く」と語った。「神聖とみなされた本は、信者への敬意から尊重されなければならない。表現の自由は、他者を軽蔑する言い訳として決して利用されてはならない」と述べている(バチカンニュース独語版)。

 コーラン焚書は国内のデンマーク国民とイスラム系住民との間に緊張をもたらしている。ホメルゴー法相は、「法案を作成した最大の理由は国内の治安対策とイスラム教国との間の国家安全保障の強化だ」と述べている。

 同法相は、「暴力的な反応を引き起こすためにあらゆる手段を講じる一部の人々を黙って見過ごすことはもはやできない」と指摘。デンマークでは、コーラン焼却以来、国内のテロの脅威が高まってきている。実際、テロ組織のアルカーイダは、スウェーデンおよびデンマークでのコーラン焼却に関して、EU加盟国へのテロ攻撃を示唆する声明を発表している。なお、スウェ―デン政府はデンマークと同様、コーラン焚書などの行為に対する規制強化を検討している。

 デンマーク政府は、「言論の自由」という名目でこれまで黙認してきたコーラン焚書などの行為に対し、「宗教団体にとって重要な意味のある文書や関連物への不適切な行為を禁止する」と明記したわけだ。その目的は第一に国内の治安対策だが、「言論の自由」にも制限が伴うケースがあることを認めたことは大きな前進だろう。政府は同法案を9月1日、議会に提出する予定だ。

プーチン氏の「プリゴジン公開処刑」?

 ロシアのプーチン大統領は24日、同国の民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(62)が前日の23日、搭乗していた自家用ジェット機の墜落で死去したことを初めて間接的に認め、遺族に哀悼の意を表したことで、プリゴジン氏の死がほぼ確認された。次は墜落事故の原因解明だ。

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▲自家用ジェット機墜落で死去した「ワグネル」のプリゴジン氏(ロシアの独立系ニュースサイト「メドゥ―ザ」2023年8月25日から)

 欧米諸国の指導者や大手メディアは墜落事故の背後にはプーチン氏の関与がある、という点でほぼ一致している。その背景には、プーチン氏が政権を掌握して以来、体制の批判者、野党指導者、国家の裏切り者に対して、毒殺や橋からの墜落死などを演出して粛清してきた歴史があるからだ。その意味で6月の反乱を主導したプリゴジン氏らワグネル指導者は遅かれ早かれ同じ運命になるだろうと、多くの西側情報機関は予想していた。

 ドイツ語圏の代表紙、スイスの日刊紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)は24日電子版で「プーチン政権が公開処刑を行った」という見出して、プリゴジン氏らワグネル指導者たちの墜落死を報じている。プリゴジン氏の墜落死を単なる事故死ではなく、世界が目撃できる公開での処刑としたのだ。

 少し説明する。プリゴジン氏が率いるワグネルの傭兵部隊がプーチン体制の打倒を掲げてモスクワに進軍したが、突然、撤退した通称「24時間の反乱」はベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介を受け、プーチン大統領が反乱関係者への免責を約束し、ワグネルのベラルーシへの移動などで合意して、一件落着した。しかし、プリコジン氏はその後、自由に行動し、墜落事故直前はアフリカからビデオ・メッセージを配信していた。

 一方、国家転覆をはかったプリゴジン氏やワグネル指導者への処罰を下さなかったことで、クレムリンのエリートたちの間で「プーチン氏の指導力が弱くなった」という囁きが広がっていた。プーチン氏にとって非常に危険なシグナルだ。なぜならば、プーチン氏はプリゴジン氏の反乱直後、「国家の裏切り者は許されない」と叱責してきたにもかかわらず、反乱後、何も実行できない弱い指導者と受け取られ出したからだ(「プーチン『私は弱くない』と誇示」2023年8月25日参考)。

 そこでプーチン氏はプリゴジン氏らの動向を監視し、同氏を含むワグネル指導者が一同に搭乗したプリコジン氏の自家用ジェット機をターゲットにジェット機墜落事故を演出し、プリコジン氏らワグネル指導者を殺害した。ZNN紙は「プーチン氏は(プリゴジン氏の)公開処刑を演出した」と表現したわけだ。

 死去した10人の搭乗リストには、プリゴジン氏のほか、彼の右腕であり、総司令官ドミトリー・ウトキン氏の名前があった。ウトキン氏はワグネルの創設者であり、自身の戦闘名である「ワグネル」を軍団全体に与えた人物だ。また、グループの安全担当責任者ヴァレリー・チェカロフ氏や、プリゴジン氏のボディーガードらも搭乗していた。すなわち、ワグネルのほぼ全ての指導者が同じジェット機に搭乗していたことになる。彼らの暗殺を計画する者にとって、絶好のチャンスとなる一方、プリゴジン氏は身辺の安全対策の上で大きなミスをしたことになる。

 例えば、プリゴジン氏とウトキン氏が別のジェット機に搭乗していた場合を想定してみてほしい。2人のうち1人だけが暗殺された場合、生き残ったもう1人の指導者がプーチン大統領打倒に向かって2度目の武装蜂起を傭兵隊に呼び掛ける危険性が排除できなくなる。そこでワグネル指導者が一同に集まる時を待っていたのではないか、という憶測が湧いてくる。

 最後に、プリゴジン氏とウトキン氏亡き後のワグネルの行方だ。西側情報機関は、ワグネルがアフリカで政治的な不安定な国を軍事支援する一方、鉱物資源の開発権の確保など経済的利益を得てきたと見ている。主人なきワグネルがこれまで通り、アフリカで活動を継続できるか否かは不明だ。

 ちなみに、ロシアにはワグネルの他にも民間軍事会社が既に存在する。オーストリア国営放送(ORF)のウェブサイトによると、それらの私設軍隊はロシア国防省と直接関連があるとされており、ウクライナでの攻撃戦にも関与している。ワグネルと直接競合してきたレデュート・グループがその一つであり、別名「レデュート」とも呼ばれている。彼らは今年になって既に7000人以上のメンバーを抱えており、この部隊はオリガルヒのゲンナジー・ティムチェンコ氏とオレグ・デリパスカ氏によって資金提供されているという。

 その他に、ショイグ国防相が2018年に創設した私設軍「パトリオット」部隊や、エネルギー企業ガスプロムは「ファケル」「プラムヤ」「ポトク」の3つの私設軍隊を持っている。また、クリミア半島のロシア派遣知事セルゲイ・アクショーノフ氏が設立した部隊「コンヴォイ」などが存在するという。

 いずれにしても、プリゴジン氏が搭乗した自家用ジェット機がモスクワ北西のトベリ州で墜落し、燃え上がる映像は、クレムリンのエリートたちにプーチン氏の恐怖政治を肌で感じさせたことは間違いないだろう。プーチン氏の「公開処刑」の演出効果は大きかったはずだ。

プーチン「私は弱くない」と誇示

 ロシアの民間軍事組織「ワグネル」の創設者であり、6月23〜24日にかけた「24時間の反乱」を主導したエフゲニー・プリゴジン氏が搭乗していた同氏私有のジェット機が23日、モスクワのシェレメチェボ空港から同氏の会社の拠点があるサンクトペテルブルクに向かう途中、墜落し、機体は爆発した。同機の搭乗リストには同氏を含み10人の名前があったが、全員が死去した。

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▲新興5カ国BRICS首脳会談にビデオ参加したロシアのプーチン大統領(2023年8月23日、クレムリン公式サイトから)

 ロシア国営タス通信は墜落した飛行機にはプリゴジン氏が乗っていたとして、同氏の死去を報道。同時期、プリゴジン氏所有のメディア「テレグラム」はSNSで同氏と他のワグネル指導者たちの訃報を流し、事故を確認している。墜落の原因はこれまでのところ不明。ロシア当局は墜落の原因調査に乗り出している。メディア報道によると、同機はミサイルで撃墜されたという。ロシア当局からの公式確認は24日の現時点では無い。

 刑務所に拘留中のプリゴジン氏はプーチン大統領によって見出された人物で、ホテル、レストラン、ケータリング事業(「コンコード・グループ」)で経営の才能を発揮し、一時期“プーチン氏の料理人”と呼ばれた。その後も「パトリオット・メディア・グループ」を創設し、10ニュースウェブサイトを運営し、2016年の米大統領選挙キャンペーンに重大な影響を与えたトロール工場(フェイク情報を拡散して世論捜査をするグループ)を管理。そしてロシアで初の民間軍事組織「ワグネル」を創設した。ワグネルの傭兵軍は最大5万人規模と推定された。2014年以来、シリア、マリ、スーダン、中央アフリカ共和国など、ロシアにとって戦略的および経済的に関心のあるいくつかの国で活動した。彼らは重大な戦争犯罪を犯し、人権侵害で繰り返し告発されている(「反乱後の『プリゴジン帝国』の行方」2023年7月03日参考)。

 ウクライナ戦争でもプリゴジン氏の「ワグネル」は戦線に出動し、ロシア正規軍が停滞している中、東部戦線で一時成果を上げたが、プリゴジン氏はロシア軍指導者のやり方を激しく批判した。それが契機となって6月24日、プリゴジン氏はロストフナドヌーからモスクワに進軍し、クレムリン体制の打倒を掲げたが、突然、軍を撤退させ、反乱は24時間で終わった。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介でプーチン氏とプリゴジン氏の間で妥協が成立し、プリゴジン氏を含む反乱関係者は免責を受け、隣国ベラルーシに拠点を移すことで合意した、といわれた(「『プリゴジン反乱』後のロシア情勢」2023年6月27日参考)。

 ロシア問題専門家のインスブルク大学のゲルハルト・マンゴット教授は23日、オーストリア国営放送(ORF)の夜のニュース番組で、「反乱後、プーチン氏はプリゴジン氏を国家の裏切り者と最大級の批判をしたが、具体的には何もしなかった。プリゴジン氏が反乱後も自由に活動を継続している姿を目撃し、クレムリンのエリートたちの間で『プーチン氏は弱い』といった囁きが聞かれた。プーチン氏は弱さを見せるわけにはいかない。自身が弱くないことを誇示するためにもプリゴジン氏を処罰する必要があったはずだ」と説明。

 プーチン氏ではなく、別の人物がプリゴジン氏の殺害を命令したのではないか、という情報について、教授は、「確かに、クレムリンの中にはそのような強硬派の指導者もいるが、プリゴジン氏の殺害はプーチン氏抜きでは考えられない。プーチン氏は過去、国家に対して裏切った者を絶対に許さないし、忘れることもないと強調した。プリゴジン氏のジェット機墜落が24時間反乱からちょうど2カ月目だったこと、機内にはワグネルの指導者も乗っていたことなどを考えると、プリゴジン氏のジェット機墜落はプーチン氏の計算された工作と考えざるを得ない」と解説した。

 同教授はまた、「ロシア国民もプリゴジン氏の死を歓迎しているだろう。ロシア国営メディアは過去2カ月間、プリゴジン氏が犯罪者であり、オリガルヒ(ロシアの新興財閥)で腐敗した人間であると連日報じてきた。だから、プーチン大統領がそのような犯罪者を処罰したと受け取っているわけだ」という。

 プリゴジン氏を失った「ワグネル」が存続できるかは不明だが、プーチン氏はプリゴジン氏の死を通じて、クレムリンのエリートたちと国民に向かって、「自分は言行一致の強い指導者である」と誇示したことになる。

 なお、プリゴジン反乱後、元軍事情報官でドネツク人民共和国国防相に一時期就任したとがある超ナショナリストのイゴリ・ギルキン氏(52、別名ストレルコフ)が7月21日、「過激主義を扇動した」という理由で拘束された。ギルキン氏はクレムリンのウクライナ戦争が「生ぬるい」としてロシア軍、そして軍の最高司令官でもあるプーチン大統領を批判してきた人物だ。今月22日には、プリコジン氏の反乱を事前に知っていたといわれるスロビキン上級大将が航空宇宙軍総司令官を解任されている。スロビキン氏は連邦保安局(FSB)の取り調べを受けている。そして今回、反乱の本丸、プリゴジン氏自身がプーチン氏の報復の的となった、というわけだ。

サウジ国境警備隊の「大量難民殺害」

 サウジアラビア国境警備隊が2022年3月から2023年6月の間にイエメンーサウジアラビア国境を越えようとしたエチオピア人の移民と亡命希望者を少なくとも数百人殺害したという。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights Watch)」が21日報告書で明らかにした。

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▲安息の地を探す難民たち(国連難民高等弁務官=UNHCR日本事務所の公式サイトから)

 ヒューマン・ライツ・ウオッチの報告書は73頁からなり、“‘They Fired on Us Like Rain’「彼らは雨のように我々に発砲した。イエメンーサウジアラビア国境でのエチオピア人移民への大量殺人事件」と題されている。報告書によれば、「サウジ国境警備隊は重火器を使用して多くの移民を殺害し、また移民たちを近距離から射殺している。この攻撃は広範かつ組織的に実行されている。多くの女性や子供を含む移民が狙われている。サウジ国境警備隊は、イエメンへ逃げようとする移民に向けても発砲した」というのだ。

 ヒューマン・ライツ・ウオッチの難民・移民の権利問題のエキスパート、ナディア・ハードマン氏は、「サウジ政府は、世界の注目を浴びることなく、この遠隔地域で数百人の移民や亡命希望者を殺害している」と指摘し、サウジの「人道上の犯罪」と強調している。

 同報告書の内容に対し、グテーレス国連事務総長のスポークスマン、ステファン・デュジャリック氏は、「報告の内容は非常に憂慮すべきものだ。銃口を向けて移民を止めることは受け入れられない」とサウジ側の対応に強い憤りを表明、「世界はこれまでに移民や保護を求める人々に対する暴力事件を多く目撃してきた。彼らは尊厳をもって扱われるべきであり、国際的な規定に基づく権利が尊重されるべきだ」と強調した。

 例えば、ギリシャで22日、山火事で逃げ遅れた18人の不法難民らしき遺体が見つかっている。彼らはトルコからギリシャへ入国し、欧州に移民する途上だったものと見られている。北アフリカから多数の移民・難民がイタリアに向かう途中、地中海で溺死している。世界各地で良き生活を夢見て多くの難民・移民希望者が“カナンの地”を目指しているが、国境警備隊が彼らを追い払うために殺害したという例はこれまで報告されたことがない。それだけに、サウジ国境警備隊の蛮行に対し、国際的批判の声が上がっている。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年3月から2023年6月までの期間に国境を越えようとしたエチオピアの移民38人に加え、国境を越えようとした人々の友人や親族4人にインタビューを行い、今回の報告書をまとめている。証言者たちは、傷ついたり死亡したりした人々が山岳地帯に散乱している恐ろしい光景を目撃したと語っている。

 約75万人のエチオピア人がサウジアラビアに住んで働いている。多くの人々は経済的な理由で移住しているが、一部はエチオピアでの深刻な人権侵害、特に北部での過酷な武力紛争から逃れるために移住している。移民と亡命希望者は、アデン湾を横断し、その後イエメンの密輸業者が彼らをフーシ武装勢力が支配するサアダ県に連れて行く。サアダ県はサウジ国境に位置している。フーシ軍は密輸業者と共に働き、彼らから金をむしり取るか、「出国料」を支払うまで「収容施設」で虐待を繰り返している。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、国境警備隊だけでなく、国境地域には装甲車両なども目撃されたという。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、サウジ政府に対して国境警備隊の対応を調査し、責任者を追求すべきだと要求する一方、国連に独立した調査を求めている。

 ところで、サウジの実質的指導者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は2018年10月、自身の改革路線を批判する反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(59)をイスタンブールのサウジアラビア総領事館内でリヤドから派遣した特別キラー部隊によって殺害させ、遺体をバラバラにして、化学液で溶かし、残りを下水に流して処分させるという野蛮な殺人事件を犯し、国際的な評価を落としたことがある。しかし、同皇太子はここにきて国のイメージをアップするためにスポーツの国際イベントを開催する一方、今月初めにウクライナ戦争の和平協議の国際会議を40カ国以上の参加国を招き開催するなど、腐心してきた。そのような時期だけに、ヒューマン・ライツ・ウオッチの報告書にサウジ側は神経をとがらせている。

 なお、オーストリア国営放送(ORF)の中東特派員、カリム・エル・ゴハリ氏は21日、「サウジは国際人権団体のエチオピア難民大量殺害に関する報道を検閲し、拡散しないように抑えている」と報じていた。

 ハードマン氏は、「サウジはプロのゴルフ、サッカークラブ、主要なエンターテインメントイベントを買収して国のイメージを改善するために数十億ドルを投資してるが、人道上の犯罪から注意をそらすことはできない」と強調している(「『カショギ氏殺人事件』1カ月の総括」2018年11月01日参考)。

F16戦闘機でロシアの制空優位を相殺

 デンマークとオランダ両国がウクライナに米国製F16戦闘機を供与することを決めたというニュースを聞いた。米国の主力戦車「M1エイブラムス」とドイツ製の主力戦車「レオパルト2A6」のウクライナ供与が同時決定した時(1月25日)、「レオパルト2はウクライナ戦争でゲームチェンジャーとなるだろう」といった期待の声がウクライナだけではなく、欧米諸国の一部で聞かれたことを思い出す。

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▲米戦闘機F16(米国のジェネラル・ダイナミクス社(現ロッキード・マーティン社)が開発した多用途戦闘機、ロッキード・マーティン社公式サイトから)

 旧ソ連製戦車でロシア軍と戦ってきたウクライナ軍はドイツ製主力戦車「レオパルト2」をどうしても獲得したかっただけに、キーウ側はドイツ側の決定を喜んだ。ドイツ製戦車を含み欧米諸国からの戦車や対空防衛ミサイルなどを得て、ウクライナ側は今春以降、ロシア軍が占領した東部・南部に攻撃をかけ、占領地奪還に乗り出したが、ゼレンスキー大統領が期待したほどの成果はまだ挙げられていない。

 西側軍事専門家の意見によると、ロシア軍が占領したウクライナ東部地域は地雷原であり、ウクライナ軍も容易には侵攻できないこと、そしてロシア側に制空権を握られていることの2点がウクライナ軍の反転攻勢の苦戦の主因という。

 ゼレンスキー大統領は欧米から主力戦車を獲得した直後、「ロシアとの戦いに勝利するためには戦闘機が必要だ」と機会ある度に要求してきた。それに対し、戦争のエスカレートを恐れる欧米諸国からはあまり色よい返答がこれまで聞かれなかった。そこにデンマークとオランダ両国が米国から18日、米国製F16戦闘機のウクライナ供与に許可を得たのを受け、オランダのルッテ首相は20日、キーウからゼレンスキー大統領を迎えてF16戦闘機の供与を発表したわけだ。キーウ側は両国から合計61機(オランダから42機、デンマークから19機)のF16戦闘機を期待している。

 ゼレンスキー大統領はX(旧ツイッター)で両国の決定を「歴史的だ」と高く評価し、「F16戦闘機は兵士たちや一般市民に新たな信頼とモチベーションをもたらすだろう。これらの戦闘機は、ウクライナの都市をロシアの攻撃から守るのに役立つ」と述べている。

 それでは、デンマークとオランダが供与するF16戦闘機はウクライナ軍のゲームチェンジャーとなるだろうか。F16戦闘機がロシア空軍のミグ29より数段優れた戦闘機である点では西側軍事専門家の意見は一致しているが、実際にウクライナ空軍パイロットが戦闘機を操縦して出動できるまでには半年ぐらいの訓練期間が必要となるだろうから、F16戦闘機の効果は直ぐには期待できない。デンマークのフレデリクセン首相によると、現在70人のウクライナのパイロットがデンマークでF16戦闘機の訓練を受けている(デンマークからは年内に6機、24年に8機、25年に5機のF16戦闘機がウクライナ側に手渡される予定)。

 興味深い点は、米独主力戦車のウクライナ供与の時に囁かれたゲームチェンジャーといった威勢のいい声はF16戦闘機供与のニュースでは聞かれないことだ。それなりの理由はあるだろう。ウクライナのパイロットが操縦するF16戦闘機がウクライナ東部・南部を超え、ロシア領の空域に入った場合、ロシア側の反発は大きい。戦争のエスカレートはもはや避けられなくなるなどの不安材料が少なくないからだ。

 西側軍事専門家によると、F16戦闘機は核兵器を搭載する能力を有していることだ。ウクライナは独自の核兵器を有していないが、F16戦闘機が核兵器を搭載できる能力を持つため、ロシア側はF16戦闘機のプレゼンスにこれまで以上に大きな脅威を感じることになる。そのことが戦争の拡大抑止力として働くか、それともロシア側の大量破壊兵器の使用といったカードが現実的になるかは分からない。実際、ロシアのラブロフ外相はF16戦闘機のウクライナ供与はロシア側にとって、「核の脅威だ」と警戒心を露わにしている。

 繰り返すが、欧米諸国に、米独の主力戦車のウクライナ供与決定の時のように無条件な歓迎が聞かれないのは、F16戦闘機の供与で、ウクライナ戦争が第3次世界大戦に突入する恐れが排除できなくなるからだ。バイデン米政権はウクライナ側に、「絶対にロシア領土には侵攻しないように」と何度か釘を刺してきた。ウクライナ側も米国の要請を受け、これまでその約束を守ってきている。

 なお、ウクライナの元戦闘パイロットで軍事専門家のオレクシイ・メリニク氏はドイツのメディアとのインタビューで、「F16戦闘機はウクライナ軍の攻勢を支援し、防空を改善する手段となることは期待できるが、ウクライナがF16戦闘機で制空権を獲得することはないだろう。ロシアの制空優位性を相殺できるだけだ」と主張した。その理由として、ロシアの防空システムの優秀性や高性能のスホーイSu―35戦闘機の脅威などを指摘している。ただし、「欧州戦闘機ユーロファイターはF16よりも一世代進んでいるが、その数は約600機しかない。一方、F16は世界で最も多く利用可能な戦闘機であり、部品の供給にも問題はない」と説明し、米国製F16のウクライナ供与は合理的な選択肢だと説明している。

バービーがイスラム国で嫌われる理由

 アルジェリアで米国の映画「バービー」の上演が禁止された。イスラム教国の中には同じように、自由で活発で美しい若い女性のシンボル、バービー人形にその国の体制が揺れるのを恐れる国がある。イスラム教国だけではなく、キリスト教社会の欧米社会でもバービー人形に対して批判的な保守系の人々もいる。

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▲イランの最高指導者ハメネイ師(イランIRNA通信8月20日から)

 そこでまず、なぜバービー人形は一部のイスラム教国では批判的に受け取られるのかを人工知能(AI)のチャットGPTに質問してみた。

【質問】
 映画バービーが現在、世界で公開されていますが、アラブ諸国の一部で上演禁止されています。なぜイスラム教国ではバービーは批判的に受け取られるのでしょうか。

【回答】
 バービー人形やその関連する商品が一部のイスラム教国で批判的に受け取られる理由は、宗教的な観点や文化的な背景に基づくものと言われています。以下にいくつかの理由を挙げてみますが、これは一般的な傾向であり、すべてのイスラム教国や個々のイスラム教徒に当てはまるわけではありません。

(顕修両彳諭Д弌璽咫漆遊舛論祥里諒顕重象徴の一つであり、その外見やファッションが一部のイスラム教国で伝統的な価値観や規範と衝突する可能性があります。これにより、イスラム教の服装や行動規範に合わないと感じられ、批判や拒否の対象となることがあります。

▲皀薀襪篶冤:一部のイスラム教徒や宗教指導者は、バービー人形が露出度の高いファッションや化粧を推奨していることから、モラルや倫理に反すると考えることがあります。特に、伝統的なイスラム教徒にとって、このような性的な視覚的刺激は問題視されることがあります。

イメージの歪曲:バービー人形は外見に重点を置いたものであり、一部のイスラム教徒や文化にとって、これが女性の役割や価値を単に外見に結びつけているように見える可能性があります。これは女性に対する適切な尊重や平等を欠いているとの批判を引き起こすことがあります。

だ祥諒顕修箸梁侘:一部の地域や国々では、西洋文化に対する抵抗感や反感が存在し、それに属する商品や要素に対しても批判的な姿勢を取ることがあります。バービー人形がこのような文化的摩擦の象徴となることがあるかもしれません。

 注意すべきことは、これらの理由が一般的な傾向であるとしても、イスラム教の教義や実践は多様であり、個々の信者や地域によって異なる解釈がされることです。また、現代の社会では、バービー人形を楽しむ人々もおり、その受け入れ方は文化的な多様性に影響されることがあります。

【質問】
 イスラム教で女性蔑視の教義がありましたら教えて下さい。

【回答】
 イスラム教は多様な宗教的・文化的背景を持つ広大な宗教であり、その教義や実践は異なる宗派や地域によって異なる解釈がされています。したがって、女性に対する態度も異なる場合があります。一般的には、イスラム教では男女平等が強調されており、女性に対する尊重や権利が認められていますが、歴史的には女性の権利が制約されることもありました。

 女性蔑視と捉えられる教義や実践も一部存在していました。以下にいくつかの例を挙げてみますが、これらは特定の解釈に基づくものであり、すべてのイスラム教徒やイスラム教全体に当てはまるわけではありません。

 ―性の証言価値の制限:一部の解釈では、女性の証言が男性の証言よりも半分の価値しか持たないと解釈されることがありました。これは、法廷での証言に関する教義であり、女性が証言する際には男性との比較で不利な扱いを受けることがあったとされています。

 監護権の制約:一部の宗派や地域では、女性の婚姻や離婚において男性の家族が決定権を持つとされ、女性の意思や選択に制約が加えられることがありました。

 0疉規定:一部の地域では、女性に対して厳格な衣服規定が課されることがあり、体の一部を隠すことが強制される場合がありました。これは女性の服装や外見に対する制約として捉えられることもあります。

 以上の例は、一部の解釈や文化的要因に基づくものであり、イスラム教の全ての宗派や信者がこれらの教義や実践を支持しているわけではありません。イスラム教の宗教的な教義や実践は多様であり、女性蔑視の解釈や実践は歴史的な背景や文化的な影響によるものと言えます。現代の多くのイスラム教徒や学者は、女性の権利と尊厳を尊重する立場を取っており、平等な社会の構築に努めています。

 【質問】
 女性にスカーフの着用を義務付けるイラン、女性の高等教育を禁止するアフガニスタンのタリバン政権をどのように受け取っていますか。

 【回答】
 私は中立な立場から情報を提供していますが、一般的な見解を共有いたします。

 イランでは、女性に対してヒジャブ(スカーフ)の着用を義務付ける政策が実施されています。これはイスラム教の宗教的な解釈に基づいて行われており、一部の人々には宗教的な信念として受け入れられている一方で、一部の人々には女性の個人的な選択を制限しているとの批判があります。

 アフガニスタンのタリバン政権は、過去に女性の権利や教育を制約する政策を採用していたことで知られています。彼らの政権下では、女性の教育と職業の機会が制約されることがあり、社会的な自由が制限されることがありました。このような政策は国際的に広く批判され、女性の権利と平等を尊重する必要性が訴えられています。

 これらの政策や実践についての受け取り方は個々の文化的・宗教的背景や価値観によって異なります。一部の人々にとっては、これらの政策が宗教的信念や文化的な伝統を尊重していると受け止められるかもしれませんが、一方で、これらの政策が女性の権利と自由を制限するものとして批判されることもあります。

 現代の社会では、女性の権利や平等が国際的な関心事となっており、国際社会はこれらの問題に関して議論し、改善を促す努力を行っています。

【質問】
 最後に、キリスト教会では昔、女性蔑視の教えの神学がありましたが、近世に入り、女性の人権尊重が叫ばれ、女性解放運動も起きました。ただし、過度の女性解放運動が別の問題を生み出している面もあると思います。男性と女性が対等で平等な関係を構築するのにはどうすればいいと思いますか。

【回答】
 男性と女性が対等で平等な関係を構築するためには、多くの異なる側面やアプローチが存在します。以下にいくつかの重要なポイントを挙げてみましょう。

 ゞ軌蕕鳩屡:男性と女性の教育機会を均等に提供し、ジェンダーに基づく偏見やステレオタイプを排除するための教育と啓発が重要です。偏見やステレオタイプに対する意識を高め、自己価値を認識することで、個々の人々がより平等な関係を築く手助けができます。

 ∨‥な枠組みの整備:女性の権利を保護し、差別を防ぐために適切な法的な枠組みを整備することが重要です。ジェンダー平等を実現するために、差別的な法律を改正し、平等な権利を確保するための努力が必要です。

 0媼渦革とカルチャーの変革:社会のカルチャーや価値観に影響を及ぼすことが重要です。ジェンダー平等を強調し、男性と女性が異なる役割や責任を果たすことに対する先入観を変える努力が求められます。メディアやエンターテインメント業界の役割も大きいです。

 し从囘な自立の促進:女性が経済的に自立し、職業的な機会を享受できるような環境を整備することが重要です。経済的な自立は、女性の権利や地位を向上させる一つの鍵となります。

 ザζ碓藥と家庭内の平等:家庭内での男女平等も重要です。共同育児を奨励し、家事や育児の負担を男女で均等に分担することで、職業と家庭の両立が可能となります。

 β佻辰閥力:男女の違いを尊重しつつ、対話や協力を通じて共通の理解を深めることが重要です。互いの立場やニーズを尊重し、協力して問題解決に取り組むことで、より健全な関係が築かれます。

 ジェンダー平等は持続的な努力と文化的な変革を要する複雑な課題ですが、教育、法律、意識改革、経済的な自立、家庭内平等などの多角的なアプローチを総合的に取り入れることで、男性と女性の対等で平等な関係を築くことが可能です。

 以上、チャットGPTの回答を紹介した。参考にしてほしい。
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